ライム物語

エピローグ そして金曜日


ふうっ…

心地よい目覚め…

ズキン! 鋭い痛みが意識を一瞬で覚醒させた。

「ぐうっ!?」 跳ね起きる金雄。 そして辺りを見回す…寮の自分の部屋だ 

「…そうだ!ライムは!?」

昨夜の事がぼんやりと思い出された。 あわてて布団をめくると…いた。


ミ…ミー…

裸の自分の胸にしがみつくようにして寝ていた、子猫ほどの緑色のスライム娘。

(え?…じゃあ夕べのあれは…夢?)目をパチクリさせてライムを見る。

そのライムは寝ぼけ眼で金雄を見ていたが、突然。

ミー!!(金雄!!)

金雄の顔に飛びついてきた。

「わっ! よせ、よせよライム」

ミーミーミー!!(よかった、死んじゃったかと思った!!)

ライムは何度も何度も金雄に頬ずりをしていた。


一時間後、近くの喫茶店『マジステール』(隣はバー「ブルーオイスター」)。

「じゃあ、アルテミスさん達はマダムとアパートに帰ったんだ」と金雄。

「ああ、マダムとアクエリアさんが教授と助手の人を散々…まぁあれしてからだけど」と十文字。

ミー… ライムはカウンターの上でフルーツパフェと、文字通り『格闘』している。

「そうか…」ライムをちらりと見る金雄。 意味ありげな視線にライムがきょとんとして首を傾げる。

(夕べのあれは夢?それとも現実?) ひどく気になるのだが、ライムに聞くのは憚られた。

金雄はコーヒーにクリームを入れてかき回す。

「教授は?怒っていたか?」

「いんや…取りあえず騒ぎを起こすような事はするなと言っていたけど…」

「教授が騒ぎの中心だったような気がするけどなぁ…」そう言ってコーヒーを口にする金雄。

「…それでな、アクエリアさんが学祭の一般参加の手続きを聞いてきたぞ」

ブッ… コーヒーを吹く金雄。「な、なんだって…」

マジステール大学は地域との密着を謳い文句にしており、学祭の時には一般参加を認めている。

「そうだ、手続きの期限はとっくに過ぎてたな」安堵する金雄に十文字が無情な言葉をかける。

「それがな…体育館の大浴場。あそこにテキ屋が入って『大金魚すくい』をする予定だったのが…誰かが穴を開けちまったろう」

「ああああ…」

「テキ屋は普通の金魚すくいを校外でやるらしいが…あそこがまるまる開いちまったんだ、困ってたところに問い合わせたたもんだから、

二つ返事でOKが出ちまって」

「十文字!行くぞ!」

大慌てで店を飛び出す二人とライム。


全速力で体育館を回りこみ、裏に回る三人。

「な、何だこの人だかりは!」

明日が学祭初日だというのに、どういう訳か暇な学生が大挙してやって来ている。

群集を掻き分けて、何とか大浴場の入り口までたどり着いた二人が目にしたものは…

「『悪の秘密結社による魅惑の洗脳ショー』…」

「『美しい悪の女幹部が貴方を虜にします』…」

ミー…


頭を抱え唸る十文字と金雄。 そこにライムの声を聞きつけたのか、マダム一家が中から出てきた。

「おお、婿殿ではないですか」

「婿!?」 

ミー… (やだ、お母様ったら )

恐ろしいセリフに硬直する金雄、照れるライム。

「こら、金雄・硬直している場合ではない…ええい、マダム!なんですかこれは」

「いや、何かと言われても…コスプレは受けるという事が判ったので、ここは一つコスプレ洗脳ショーで一儲けを…」

「学校内でふ…(小声になって)風俗営業はいけません!!」

「何を言います」十文字にアクエリアが反論する「法律を調べましたが、『洗脳行為』は風俗営業にはあたりません」

「いや、その洗脳行為でなくて…その過程が問題で…じゃなくて堂々と洗脳しますなんて…ああっ、どう言えばいいんだ」

硬直したままの金雄、照れっぱなしのライム、混乱する十文字、それを眺めて野次馬学生達はなにやら勝手なことを話している。


キキーッ タイヤを軋ませて一台のバンが止まり、緑川教授が飛び出してきた。

「こらーっ昨日の今日でこれか!おい須他君…は駄目か、十文字君!これを何とかせんか!!」

「何とかって…どうしましょう…」

「えい仕方ない!多目的型メイドロン、『メイドロン・フォー』出撃!」

メードローン! 教授ま掛け声と同時に、バンの中から一台の女性型ロボットが飛び出してきた。

「あれー…教授ー…右手がありませんよー…」 かったるそうな声で、野次馬学生の一人が指摘した

「うむ!良くぞ気が付いた!この『メイドロン・フォー』は右手を換装する事で様々な家事に対応できるのじゃ!それ、メイドロン、カセット・

アームを取り付けよ!」

メードローン… メイドロン・フォーはバンの中から、なにやら妙な機械を取り出して右腕のあるべき場所に装着する。

そして、振り返ると誇らしげに右手を掲げた。

テープ・アーム! ヤー!

「見よ!あれぞ宅急便の梱包から引越し荷物の箱詰めにまで使える、その名も『テープ・アーム』じゃ!この宅急便伝票を貼ったモノを梱

包して…こりゃ何をする!」

教授が宅急便伝票を掲げた途端、メイドロン・フォーはテープ・アームからガムテープを繰り出して教授をぐるぐる巻きにしてしまった。

ガム・テープでミイラのように巻かれた教授は、哀れにもその場にばったりと倒れる。

テープ・アーム! ヤー!

戦果を誇るメイドロン・フォーの背後で教授が怒鳴る。

「こりゃ、爺君。バグだバグ」

「教授、これは仕様です…じゃなかった、こらメイドロン・フォー、伝票に宛先を書いてないじゃないか」

メードローン… あんたのプログラムが悪いと言わんばかりにふんぞり返るメイドロン・フォー。

仕方なくハンディ・ターミナルで実行条件を変更する爺七郎。


テープ・アーム! ヤー!

プログラムが変更され、向きを変えてテープ・アームを構えマダム一家に迫るメイドロン・フォー。

「お母様…」

「むむむ…そうです、皆さーん。あのロボットを撃退して頂ければ明日の『洗脳料』は半額にしまーす」

「おおおっ!」どよめく一同。

「金とって洗脳するんかい」つっこむ十文字。


「おのれ、卑怯な…ならば、こっちも…おーい手を貸してくれたら、極秘開発中のビースト・メイドロン『夜のお相手機能付き』のモニターを

させてやるぞ」

「おおおっ!」再びどよめく一同。

「それは最早メイドロボでもなんでもないのでは?」つっこむ十文字。


野次馬学生達は1/3がマダム達に加勢し、1/3が教授についた。 そして残り1/3は…

ミー… (金雄…)

「え?」 我に返った金雄が辺りを見回すと、残った1/3の学生が周りを取り巻いて、なにやら期待の篭った眼差しを金雄とライムに投げ

かけている。

ミー

「やるの?」

一斉に拍手する一同。

ミー!

ぴょんと金雄の頭に着地し、変身ポーズを取るライム。

「見なさい!ついにライムが人の上に立つ存在になりました!」ボケるマダム


ライム・スター!!

一同が割れんばかりの歓声で応える。

今日もライムと金雄は『ライム・スター』している。

<ライム物語 終>

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