ライム物語

蛇足 1 ライム飛ぶ


大騒ぎのマジステール大学祭も終了し、皆は祭りの後の寂しさに浸っていた。

ライムは窓際に座り、雲を見上げている。

ミー… (いいなぁ…)

「何だって?」

ミーミー… (あんな風に空が飛べたらいいなあって…)

雲を指差すライム。


「携コンはどうだ?ライムちゃんなら乗れるだろう」と十文字。 (携コン:帯電話で操作できるラジコン飛行機機)

「墜落したら危ないよ。パラセールかスカイダイブならどうだろう」

「人間用だから、金雄が一緒でないと駄目だろう…まてよ…確か学祭に使った残りが結構あった…」

十文字は携帯で大学の友人に電話する。


「どうだ!」十文字がボンベを差し出して胸を張る。

「ヘリウム…そうか、ライムはエアバッグ防御が出来るから…」

「うん、さあライムちゃん」

ミー…ミミミー… (えー…かっこよくないなぁ…)

文句を言いながら、ヘリウムボンベのホースを咥えるライム。

十文字は細心の注意を払ってヘリウムガスを出す。

プクー… ライムの体がまん丸に膨らんで、緑色の風船みたいになった。

と、ふわりとその体が宙に浮く。

パパパ、パパパパパッ… (ワッワッ、スゴーイ…)

「あれ?ライムの声が変だぞ」

「ドナルド・ボイスだ、心配ない。さあ、これを持って」

十文字が釣り糸の端に輪を作ったものをライムに持たせ、窓を開けてライム・バルーンを窓からするすると上げる。。

パッ…パパパパパパパパパッ!! (わっ…スゴーイカンドー!!)

寮の屋根より高く上がったライムが、空中で大喜びしている。

「おお、喜んでる喜んでる」と金雄

「うん、これなら安全だ」


ビュー… そこに一陣の風が吹いてきた。 スルッ… ライムは釣り糸を離してしまう。

パパパパパッ!!… (タスケテー!!…)

金雄と十文字は一瞬顔を見合わせた。

「た、大変だぁ!」「マダムに電話!鶴さん達に車を出してもらうんだ!」


大騒動になり、夕方になってやっとライムを助ける事ができた。

それから金雄達とライムはマダムに呼び出され、正座をさせられて説教される羽目になった。

「なんですか、危ない真似をして!プロティーナが真似をしたらどうなると思います…皆さんに迷惑をかけて…」

背後で鶴元組長が和やかな顔でそれを見ている。

「親分?なんか嬉しそうですが?」

「いや、こうやって子供を叱る母親て言うのも、なんかいいなぁ…てな」


「…まったく。十文字さん、その危ない物は私が預かります」

「へ…いえこれは学校の有志のもので…」

「お黙りなさい!」

十文字はヘリウムを取り上げられてしまう。

「あーあ…まだ半分は残っていたのに」「仕方ない、どうせ使い道は無いんだし」

わいわい言いながら金雄達は帰って行った。


「全く…皆に心配かけて」

マダムはがらりと窓を開け、物思いにふけり、上を見上げれば夕焼け空にはぐれ雲。

「…」 じっと雲を見つめ、十文字の置いていったヘリウムを見る。


翌日…

タスケテー… ハスキーな女の声を上げ助けを求める黒いアドバルーンが、山のほうに飛んで行った。

それを追いかける一台の軽トラ。

「全うもう。マダムー待ってくだせぇー」

「母上ー」「待ってなのー」

金雄達の周りは、まだしばらくは静かになりそうも無かった。

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