ライム物語

第七話 木曜日に少女は戦う(5)


ふうっ…

心地よいとは言えぬ眠りの底から、意識が水面に浮かび上がる。

鈍い苦痛があいまいさを減らし、両腕の苦痛とわかる頃、金雄の意識は現実側に戻ってきた。


だるそうに目だけを動かし、ベッドの頭側にあるはずの目覚まし時計を見た。

『00:11』

逆さに見えるデジタル時計の表示を、頭の中でひっくり返す。(11時…暗い…夜か…) 

13号棟に向かったのは午前0時を回ってから…という事は、少なくとも丸一日立っているはずだ。

明かりをつけようと、右手をぐるりと回す。二の腕の痛みが認識できただけで、照明は点かなかった。

(…夢?…また故障?…)

どうでもいい気分になり、そのまま目を閉じる。

疲れがさざなみのように金雄の意識を揺らし、再び眠の海沈んでいく金雄。


ヒタ…

ひやりとした物が額に触れる。

そっと目を開けると、ツヤのある何かが視界に入った。

(誰…)

手を伸ばして触れる 僅かに冷たく、しっとりと手に吸い付く感触濡れた肌。

(アクエリアさん?『ジャーマネン』さん?…)

”金雄…”

(ライムか…)

目で緑色の腕を追う ベッドの脇にしゃがみこむ見慣れた少女の顔が目に入った。

「ライム…大きくなったな…」 小さかったライムは、金雄と同じぐらいの大きさに見えた。

ライムは何も言わずに立ち上がり、水色のワンピースをするりと脱ぎ落とす。

ベッドの脇に佇む、緑色の半透明の少女。 濡れた光を湛えた裸身が金雄の視線を誘う。


ライムの手が布団をそっとめくり、裸で寝ていた金雄の体を部屋の空気にさらす。

微かに震える少年の体に、ゆっくりと少女の肢体が重ねられる。

柔らかく、少し冷たいそれは、触れ合う端から金雄の肌に吸い付いてくる。

(密着…) 脈絡なくそんな単語が浮かぶ。 


両頬を挟む手の感触に目を開ければ、緑の少女のが真摯な表情でこちらを見下ろしている。

金雄は片手を上げてライムの頬に触れ、ライムの手がそれに重なった。

”…”

ライムの唇が、金雄の唇に重なる。(初めて…かな)

フルンとゼリーのような感触のライムの舌が口の中に滑り込み、それが金雄の中をそっと探る。

金雄は舌でそれを受け止めた。 ライムはかに躊躇い、そして大胆に金雄の舌を探る。

柔らかく、滑らかに、それでいて力強いゼリーが金雄の口の中で不思議なステップを踏む。

つるんと逃げ出すライムの舌、それを追う金雄の舌。

今度は、ゼリーの舞台に引き出された金雄の舌が、下手くそなワルツを踊らされた。

拍手の代わりに、粘っこい音が静かな部屋に響く。


(あ…)

金雄の男自身がライムと金雄の間で身じろぎした。 ライムにも判ったはずだ。

”…”ライムが笑った…様な気がした。

唐突に違和感、そして理解。

(ああそうか…ライムは小さいから表情がよく見えなかった…彼女もそれに気が付いていた…だからあんなに一生懸命体を使って感情

を表現していたんだ…)

ライムが腰を擦り付けてくる感触。

お腹をすべるゼリーの感触のライム自身。 形を保ったまま、普通の交わりをする気らしい。

何度もすべる内に、ライムの息が荒くなってくる。

ズルン…

(ほぅ…)

とてつもなく柔らかいライムの女が、ついに金雄の先端を捕まえた。

フルフルヒクヒクとうねるライム。 感じるままに、欲するままに金雄を求める『女』。

それに耐えるように、仰け反るライムは淫らでもあり、可愛くもあった。

その間も金雄のモノは、ライムの女に舐められ、まとわりつかれ、なぶられる。

物足りない部分があれば、ヌラヌラした襞がそこを這いずり。 暴発しかければ、動きが緩慢になるライムのソコ。

僅かな恐怖が生まれる程に、そこは激しく、淫らに乱れ、そして金雄の『男』を操ろうとする。

(そうだ…)

始めてのライムとの時見た夢が蘇った。

自分を支配しようとする、女の形をした魔性の生き物。

金雄は反射的にライムを止めようとし…やめた。

(…ライムを…ライム達を信じる)

されるままに、全身の力を抜く。


仰け反っていたライムの顔が、激しく前に振られた。 上気した顔と目に、欲望の炎が燃え盛っている。

金雄は微笑んで、ライムの顔に手を当てる。

”はっ…” ライムは一つ息を吐き…そして優しく笑い返した。


グチャグチャ動くゼリーの音が次第にリズミカルになるにつれ、金雄の中にもリズムが生まれてきた。

甘い快感の波…スライム娘達と交わったときにいつも感じる、魂まで奪われそうなあの快感。

(いつもは無理やりだった…だから抵抗した…でも今日は…)

金雄はその波に心を委ねる。

強く、弱く、また強く…甘く切ない波が体の中を…上に…そして下に…

こみ上げてくる何か…全てを吐き出したい、全部委ねてしまいたい衝動が体を支配する。

(ラ…イム…)

金雄は全てを吐き出す…

快感の奔流が、金雄にしか聞こえない音をともなって駆け抜ける。

ライムの中はこの世で最高の場所と化し、その一瞬、金雄はライムのものとなる。

緑色の帳の中、金雄の意識はライムの中に溶けていく…


そして、デジタル時計の日付が変わる。

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