ずぶり

其の二十 回帰


 はぁ……はぁ……

 『ずぶり』の中は、想像を絶する心地良さだった。

 肉襞が男根に、余すことなく粘りつき、揉み解しながら摩りあげ、それを弄ぶ。

 どんな男でもたちまち果て、『ずふり』の虜としてきた妖しの技。 そして頭に『ずぶり』を拒む心の壁は残っていない

……はずだった。

 しかし、頭の男根はがちがちにかたくなって震えながらも、果てようとしない。

 「いきたい……うっ……うううっ……いやだ……女の言うがままになるのは……」

 頭の喘ぎ声は、心なしか苦しそうだ。

 ざわり…… 『ずぶり』が……背後の巨大『ずぶり』、砂の中に隠れている『ずぶり』の全てがざわめいた。

 ”どうして?……”

 ”なぜ?……”

 理解できなかった、何故拒むのか。


 頭と交わっていた『ずぶり』は動きを止め、頭に尋ねる。

 ”何故?……”

 「わからん……」 頭が空ろな声で答える 「わからんが……俺は怖い、女が怖い……」

 『ずぶり』は首をかしげ、宙を見つめている頭に、覆いかぶさり、その瞳を覗き込む。

 ”愛しい方……心の奥底を見せてくださいまし……”

 びくりと頭が震える。 全ての欲望を見通すことのできる『ずぶり』の瞳、その黒々とした深遠が頭の心の奥底を探る。

 「おい……なにを……ああ」 頭の瞳が黒くにごり、表情が無くなっていく。

 『ずぶり』は、頭の心の奥にあるものを吐露させていく。


 ’お前……俺達を役人に売ったのか……’ まだ若い頭が、手下の女をなじっている。

 ’許して小頭。 役人がそうしないと妹を……’

 ’ほう、そうかい’

 頭、いや小頭が女の髪を掴んで引き倒すと、数枚の小判が懐から零れ落ち、女は慌ててそれを拾い上げる。

 ’やっぱり女は信用できねぇな’

 頭が刀を振り上げた。


 ”……もっと昔に……”


 ’おっかぁ……おらを売らないでけろ!’ 少年が叫ぶ。

 ’ふん、ごくつぶしが! 恨むんなら能無しの自分を恨みな’

 髭面の荒くれ男が、泣き叫ぶ少年を引きずっていく。

 ’こら、ごくつぶし!これからは、しっかり働きやがれ!’

 ’おっかぁ!おらが大事だって……’

 ’大事さ、しっかり働いてあたしを楽にしてくれりゃね。 次に生まれてくる子は、お前より孝行してくれるよ’

 少年は絶句し、その日以来、彼は笑わなくなった……


 辺りに沈黙が訪れ、次に『ずぶり』達の哀れみの声が響いてきた。

 ”なんと可愛そうな……”

 ”哀れな……”

 ”こんな惨めな過去があったとは、これほど不幸な人間はそうそういないであろう。 誇ってよいぞ!” これはお約

束地蔵。 

 頭の両眼から涙が溢れだした。 無理も無い。 自分が惨めな人生を送ってきたと、地蔵尊のお墨付きをもらったの

だから。


 頭に覆いかぶさっていた『ずぶり』は、胸元を開き、豊かな乳房を露にした。 そして、涙を流している頭を、ふくよか

な胸の間に収める。

 ”可愛そうに……さぁ……”

 乳首が、頭の口に滑り込み、乳を流し込む。

 頭は微かに甘い乳を口に含み、こくりこくりと飲んでいく。

 「あ……」

 ふわりとした優しいものが頭の全身を包んだ、意識が白いものに包まれ、全てがあいまいになって行く不思議な感

触。

 「これはなんだ……ああ……ああ……」

 ”そのまま……身を委ねなさい……ぼうやは……よいこだ……ねんねしな……”

 『ずぶり』の子守唄を聞きながら、頭は目を見開いたまま、その不思議な感触の中で変っていく。

 
 ”坊や”

 「坊や?ええっ?」

 頭は我に返って驚いた。 手足が小さく細くなっている。 慌てて顔に手をやると髭が生えておらず、肌がすべすべし

ている。

 「わ、若返った!?」

 ”ふふ……昔に戻っただけですよ……体が……そして……”

 『ずぶり』の目が妖しく揺らめき、頭の視線を釘付けにする。

 ”心も……”

 少年に戻った頭の目に『ずぶり』の瞳から重く暗い波が流れ込んでいく。

 「なに……を……」

 ”忘れなさい……不幸な事は……全て……”


 「……おっかぁ!」 突然少年が叫んだ。 「おっかぁ?……どこいっただ」

 ”坊や……どうしたの?……” 『ずぶり』が艶然と微笑む。

 「え?……お前様は誰だぁ?……わっ、裸じゃねぇか!」 自分が裸の女に抱きすくめられている事に気がつき、真

っ赤になる少年。

 ”うふふふ……何を赤くなっているの?”

 「は、裸だからだろが!」

 ”だからどうして?……どうして裸だと駄目なの?”

 「え……えーと……」

 ”ふふふ……” 『ずぶり』がねっとりと笑う。 ”知らないのね……”

 「し、知ってるよ」

 口を尖らす少年、その手を『ずぶり』は手にとり、口に付けして指に舌を絡めた。

 「な、なにすんだ!」 少年は、慌てて手を引っ込める。

 ”うふふ……まだ子供なのね……”

 「お、おら大人だ!」

 ”大人はね、知らないことは知らないと言えるものよ。 そして自分に素直になれるものよ”

 少年は返答に窮し、尋ねる。

 「ど、どういう意味だぁ」

 ”指を舐められるのは嫌だった?”

 「そ、そりゃあ……」

 ”本当に?”

 「……」

 ”ふふ、まいいわ。 大人はね、相手の嫌がることはしないのよ”

 少年の顔こそ見ものだった。 戸惑いと恥じらいと怒りと期待、そんなものがないまぜになっている。

 ”私は貴方の嫌がることはしないわ”

 そう言って『ずぶり』は少年から離れようとし、少年は思わず『ずぶり』の手を掴んでいた。

 ”なあに?”

 「っ……」

 ”聞こえない”

 「し……」

 ”聞こえないわ”

 「もちっと……えと……触って」

 そう言って、少年は恥ずかしさに真っ赤になった。

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