ずぶり

其の二十一 底なしの


 ああああ……
 

 五太が『乳首』に呑まれる様は、頭たちにもはっきり見えた。

 「か、頭!」

 「ちっ……騒ぐな」

 頭は動揺する手下達をねめつける。

 「下を刺激させなけりゃ、でえじょうぶだ」 

 「そ、そんなこと判るけ!」

 一人が叫び、きびすを返して『ずぶり』の脇に向けて走り出した。

 「こらっ!どこさ行きやがる」

 「あいつ……下の砂地に降りる気だ」


 ひょぅ!!

 彼は掛け声と共に下に飛び降り、砂地に転がった。 すぐに手を突いて立ち上がり、転がるように走り出した。


 「おお、無事だぞ」

 「なんだ大丈夫じゃねぇか、地蔵の野郎脅かしやがって……あっ!!」


 ずぶり!

 走っていた山賊の背が縮んだ。 いや、足が地面にもぐりこんだのだ、床を踏み抜いたかのように。 

 「穴!?……うわぁ!!なんかいる!」

 彼は大声を上げ、手を振り回して助けを求める。 しかし、彼の体は足からずぶずぶと砂に沈んでいく。

 「た、助けてく……うっ!?」

 腰までが砂に沈んだ途端声がぴたりと止み、彼は動きを止めた。

 ずぶずぶずぶ……

 凍りついた様に固まってしまった山賊は、見る見るうちに砂の下に沈んでしまう。 そして砂の下からうめき声ともあえぎ声ともつかぬ声が響

いてくる。

 うう……うぁぁぁ……

 
 「……か、頭」

 「下は駄目だな……」

 「なんか……足の裏がむずむずしやせんか……」

 「なに?」

 誰かが口にした言葉にぎょとして、山賊達は慌てて足を持ち上げる。

 「わっ!?し、下が粘ついて……」

 「そうか!足の下には地蔵の光が届かんのだ!止まっていると足から食われちまうぞ」

 頭がそう言うと、山賊達は飛び上がった。 何人かは慌てて走り出し、『ずぶり』のみぞおちから、へそに向かう。

 「ばか!走れば『ずぶり』を刺激する!そっと歩け!」


 先頭を走るニ太にも頭の声が聞こえていた。 しかし、彼の足が踏んでいるのは恐ろしい『ずぶり』なのだ。 一度心に恐怖が芽生えれば、足

を止めることなどできはしない。 

 へっはっへっはっ……

 弾む『ずぶり』の腹の上を、転がるように走っていく。 と、その足がつるりと滑った。

 「うわった!」

 ニ太は『ずぶり』の腹の上でニ三度弾み、無様に這い蹲る格好になった。

 「ちっくしょ!足がすべって……濡れてる?」

 手で『ずぶり』の腹を撫でてみると、ぬるぬると滑る透明な液が、手に絡みつく。

 「……ひぇ!?」

 二太の下で『腹』が波打ち、彼を再びひっくり返した。 そして、ニ太は『へそ』に向けてころころと転がっていく。

 わっ……

 一声残して、ニ太は『へそ』に落ちてしまった。


 「う……」

 二太は頭を振って起き上がる。 『へそ』の底は泥が積もっているかの様に柔らかく、その上にあの滑る液がたまっていた。

 「くそう……」

 『へそ』の深さは人の背丈ほどで、上れないことはなさそうだ。 上から滑る液が流れてこなければだが。

 「はやく出ねぇと……ひっ!?」

 ニ太の背中にに何かが張り付いた、このどろりと粘る感触は…… 

 ニ太はゆっくりと振り向く。

 半ば溶けた女の形をした『ずぶり』が、そこだけ整った女の顔で艶然と笑いながらニ太の唇を奪う。


 ニ太の後を追うようにして、残りの山賊達が『腹』の上をおっかなびっくり歩いてきた。

 「なんだ?『腹』が濡れて……気をつけろ、滑るぞ」

 「ニ太のやつが『腹』を刺激したせいだ。 汗みたいなものか」

 滑る足元に気をつけながら、一同は慎重に『へそ』に近づいていく。

 「腹ばいになって進め」

 頭の指示に従い、全員腹ばいになって『へそ』に近づき、縁から下を覗きこんだ。


 ニ太は半ば溶けた『ずぶり』に下半身を咥え込まれ、立て続けの絶頂に悶えていた。

 ひきぐひぐひぐっ……

 ねっとりとした『ずぶり』の感触がイチモツに絡みつき、中に入り込んで内側から絶頂感を与えているのだ。

 ニ太は精を放つ事無く、短い間に何度も何度もいかされていた。

 (な、なんで……『ずぶり』が……こんなに……)

 べちゃりと音を立て、『ずぶり』の手がニ太の背中を撫でる。 撫でながら『ずぶり』が体の中に染み込んで来る。

 ひぃぃ……

 背筋を駆け上る容赦ない快感、そして『ずぶり』の心が無遠慮にニ太の中に入ってくる。

 (……なるほど……『へそ』の中で地蔵の光が弱いせいで……かえって歯止めが利かなくなって……)

 ずちゃ……ずちゃ……

 『ずぶり』は自分の体を塗りつけるようにしてニ太と交わり、その体の中にニ太を包み込んでいく。

 (ああ……)

 『ずぶり』に包まれるにつれ、熱い快感に体が動かなくなっていく。 ニ太は頭の中が立て続けの絶頂に沸騰し、ついにはとろとろと溶け出して

いく様な感覚を覚えた。

 (……)

 くたりとニ太の手が倒れ、その手も『ずぶり』に包み込まれて行った。


 「……」

 そして頭たちが覗き込んだ時、『へそ』の底にはもはや何もいなかった。

 山賊達は無言でその場を後にした。

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