ずぶり

其の十七 活路?


 ぜいぜい……

 地蔵の猛攻を何とか退けた山賊一同は、その場にへたり込んで息を整えていた。

 「では、どうあっても引導を渡されるのは……」

 『お断りだ!』 見事に息の合った返答が帰ってきた。

 「贅沢な奴らじゃ……む」

 地蔵が上を見上げた。 つられて山賊達もそちらを見る。

 「どぅわぁぁ!!」

 頃はよしと見たのか、巨大『ずぶり』が岩だなにのしかかる様にせまって来ていた。 とてつもない大きさの乳が、なだれの様に彼らを呑み込

もうとしている。

 「じじじ、地蔵様ぁ!!」

 「面倒な奴らじゃの……」

 ぶつぶつ言いながら、地蔵は錫丈を垂直に構える。

 「約定に従いて、助けを求めんが者達の為に活路を開かん。 地蔵光線!」

 錫丈が金色の光を放ち、『ずぶり』の体を照らし出す。

 あーれぇぇ……

 大きな体に似つかわしくない可愛い悲鳴を上げ、『ずぶり』がよろめいた。

 ずーん…… ずずーん……

 千鳥足の巨大『ずぶり』が、『泡』を大きく振動させながら、右に左に巨体を揺らし、其れにつれて、丘のような巨乳が山賊達の頭の上を右か

ら左、また左と、凄い勢いで通り抜ける。

 泡を食った山賊達は、岩棚に這いつくばって、乳の猛攻を避ける羽目になった。


 あっ……

  あっ……

   あっ……

    あれぇぇぇぇぇ……

 ずずずーん…… 盛大な音と共に『ずぶり』の姿が消えた。

 岩棚の端から恐る恐る下を覗くと、『ずぶり』が黒髪を振り乱し、頭をこちらに向けて大の字に倒れていた。

 「おおっ!『ずぶり』が死んだぞ」 喜びの声を誰かが上げた。

 「馬鹿者! 地蔵光線の作用で身動きできなくなっただけじゃ」

 地蔵の声に頭が振り返と、地蔵の錫丈が金色の光を放ち続けているのが見えた。

 「この輝きが失せれば、『ずぶり』は再び動き出す」

 「そ、それは大変だ」「今のうちに逃げないと」

 慌てる山賊達を、地蔵がねめつけた。

 「ほれ、あそこに出口が開いておる」

 「ええっ! どこです」

 地蔵が指し示した方を皆が一斉に見た。 『泡』のちょうど反対側の壁、砂地のところにぽっかりと洞窟のような穴が口をあけているのが見え

た。

 「おお、あんな所に」

 「よし、『ずぶり』が動き出す前にあそこから逃げ出すぞ……むっ」

 下を観察していた頭がうなる。

 「『ずぶり』め……俺達を逃がさない気か?」

 
 彼らのいる『泡』は丸い球のような形をしており、下のほうは砂がたまっているらしく、丸い砂地になっていた。 そこに広がるような形で巨大『

ずぶりが倒れているのだ。 

 「うぬぬぬ……」

 『ずぶり』の両手、両足はまっすぐ伸ばされ、壁に接しており、出口は『ずぶり』の両足の間、つまり『ずぶり』の秘所と向かい合う位置に口をあ

けている。

 「下に降りたとして……どっちをまわっても『ずぶり』の手、足を一度ずつ乗り越えねばならんな」

 巨大『ずぶり』は、手足の太さも尋常ではない。 特に足は、足首の細くなったところでも彼らの背丈を越えている。

 「むむむむ……」 頭は再び唸った。

 「それに、砂地に下りるのは危険じゃぞ」 地蔵が錫丈を構えたまま語る 「砂の中に『ずぶり』が潜んでいるかも知れん。 砂の中には地蔵光

線は届かんからな」

 「うーむ」 頭は腕組みをして唸る。

 「多少の危険はあるが、あそこを行くしかあるまい」

 地蔵の言葉に皆が振り返った。

 「あそこ?」

 「うむ」 地蔵が頷いた 「『ずぶり』の上を行くのじゃ」

 一同がぽかんと口を開けた。


 「何だと!気は確かか!」 頭は怒鳴った。

 「無論じゃ。 あそこに倒れている『ずぶり』は地蔵光線で動きを止められておる。 体の上を行って、足か股の辺りから下りればほぼ一直線じ

ゃ」

 「う……しかし」

 「砂地で下から襲われれば其れまでじゃし、第一早い。 地蔵光線がいつまでも続くと思うなよ」

 頭は黙った。

 「では説明するぞ、わしの錫丈を伸ばせば下までは届く。 お主等はのどぼとけの辺りに下りることになる」

 何人かが下をうかがい、女の細い首を見つめた。

 「鎖骨の間を上れば、最初の難関『乳が丘』に到達する。 谷間を通るか、乳を乗り越えるかは好きにすればよかろう。 どちらを通っても『ず

ぶり』の体が反応すれば危険じゃ」

 「地蔵光線とやらで照らしているんじゃないんですか?」

 「刺激を与え続ければ、『ずぶり』の体とて目覚めだすわ。 さて、『乳が丘』の先は『女御が腹』じゃ。 ふかふかして柔らかく、足を取られやす

い難所じゃ。 しかも真ん中に『へそが沼』が口をあけておる」

 「へそ?」

 「うむ、『ずぶり』のへその下には、『ずぶり』の本質とでも言うものが眠っている……下手に目覚めさせれば、底なし沼の様におぬし等を呑み

込むであろう。 そして『若草の茂み』を前にしてどの道を選ぶかが難しくなる」

 「足の上を行くんじゃ駄目ですかい?」

 「足の上は道が狭い。 足をくすぐらせて振り落とされ、出口と反対側に落ちてしまえば、もう戻ることはできんぞ」

 「じゃあ……」

 「うむ、ずぶりの秘所……そう『神秘の洞窟』の縁を降りていくのが正解じゃろう。 手がかりもあるしな」

 「しかし、そこを刺激したら……」 

 「飛び降りて、足でもくじいたらそれまでじゃぞ」

 「うぬぬぬぬぬ……」

 一同は唸り、無い知恵を絞ったが、結局地蔵の意見に従うこととした。


 「では行くが良い、短い付き合いであったな」

 「へ? 地蔵様は出口まで着いて来てくだされないので?」

 「甘えたこととを言うな。 第一石の地蔵が歩くか。 非常識な奴らじゃ」

 「石の地蔵がしゃべったり、人を撲殺するのは非常識じゃないいと……はっ!」

 頭は脳天に振り下ろされた錫丈を、はっしと受け止めた。

 「やるではないか」

 「いえいえ……」

 殺気をぶつけ会う地蔵と頭を見ながら、山賊達は自分達の行く末を案じるのであった。

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