ずぶり

其の十六 地獄絵図


 ああ……あああ……

 『砂のすり鉢』の中央で、巨大な女が小山のような乳を揉み、喘ぐ。

 波打つ白い巨乳の迫力にに、岩だなの上の頭たちは、ついつばを飲み込む。

 「こ……これは凄ぇ」

 「うかつに気をやるな。 『ずぶり』を呼び込む事になるぞ」 地蔵が重々しい口調で告げた。 


 一方、一太達は砂の斜面を這い上がろうと必死だった。 しかし、細かな砂はさらさらと崩れ、手がかりにはならない。

 あああ……

 背後から、『ずぶり』が呼ぶ声が響き、誰かが思わず耳を押さえた。 が、それは自殺行為、体勢を崩した山賊は、砂の斜面を転がり落ちる。

 ぽふ

 壁の様にそそりたつ『ずぶり』の乳、その谷間に彼は受け止められた。

 「ひっ」

 体を起こそうとするが、『ずぶリ』の乳の谷間に体の半ばが潜り込み、自由が利かない。 じたばとともがいていると、頭の上からねっとりとした

液体が流れてきた。

 「うわっ!?」

 かすかに甘い匂いの液体が、彼を乳に粘りつけ、その自由を奪う。 そして、巨大な乳がふわふわと揺れ動く中で、山賊はそのままじわじわと

谷間に飲み込まれていく。

 うわ……ああ……ああああ……

 悲鳴とも、喘ぎも聞こえる口調声を残しながら、山賊の乳の谷間に消えた。


 ああ……中で暴れては……さぁ……感じてくださいまし……

 『ずぶり』は喘ぎながら、そそり立つ乳首にてを宛がい、別の山賊に向ける。

 びゅっ!

 乳首から噴出した粘る乳が、山賊の一人を直撃した。 彼は斜面を転がり落ちる、彼の仲間を飲み込んだ乳の谷間へと。

 びちゃ……

 ひぃぃぃ!

 下半身を谷間に咥え込まれた山賊の声が響き、その声はすぐに喘ぎ声へと転じる。

 びっちゃびっちびっちゃ……

 乳で真っ白になった体を震わせながら、この山賊も乳の谷間に呑み込まれてしまう。

 「うわうわうわぁぁぁ!」

 いつの間にか一人になった一太。 彼ははひっくり返り、背中でいざりつつ、また斜面を転がり落ちてを繰り返していた。

 その彼を見つめながら、『ずぶり』はわずかに谷間を開いて見せる。 乳の壁の間で糸を引く、白い乳の糸。 そこには先に呑まれた山賊達の

影も形もない。 『ずぶり』の乳に蕩かされてしまったのか。

 目を見開き、首を横に振る一太。 しかし、なぜか彼の股間は痛いほどに屹立していた。


 さあ……

 『ずぶり』の乳首から噴出した乳が、一太を白く染め。 かれはころころと砂の斜面を転がり落ち、乳の谷間にすべり込んだ。

 ふわり……

 想像したよりはるかに優しく、芳しい匂いと共に妖しい白い肌が彼を隙間なく包み、ぬらぬらと体を嘗め回す。

 深く甘い快感が、皮膚にすり込まれ体の中まで染みとおっていく様だ。

 「くっ……!?」

 一太は驚愕した。 股にぶら下がっている男の看板に、熱いものがこみ上げてくるあの感覚、あれが体の芯から全身にこみ上げてくるではな

いか。

 (お、俺も!?)

 全身が内から溶けてしまう恐怖、背筋を冷たいものが走り抜ける。 だが、すぐに生暖かい快楽の波が其れを打ち消し、彼を支配する。

 うっく……ぐぅっ……ぐぅっ……ぐぅっ……

 くぐもった喘ぎをもらしつつ、一太は白い魔性の快楽の中でもがき、其れに酔いしれていく。

 手足から力が抜け、ふわふわの乳が彼の体をやさしくほぐし続けてくれる。 筆舌に尽くしがたい心地よさに、彼の体も周りと同様に柔らかくな

っていく様だ。


 ふわりふわり…… ずぼり。

 唐突に視界が開けた。 目の前に奇妙な赤いものがある。 それが巨大な『ずぶり』の唇だと気がついたのはだいぶ経ってからだった。

 ぬるり……

 渡し舟より大きな舌がすべり出てきて、乳の谷間に挟まった一太をすくい上げ、彼を乗せたまま『ずぶり』の口に消えた。


 はぁ……はぁ……

 一太は舌の上で喘いでいた。 びっしりと繊毛の生えた下が、快楽に蕩けきった肢体を、快楽のさざなみとうねりに沈め、最後の絶頂に押し上

げていく。

 と……蕩けてしまいそうだ……ああ……だめ……あああああ

 一太は絶頂の極みに達した。 硬直した体がびくんと大きく振るえ、続いて小刻みにびくびくと蠢く。

 蕩ける……蕩ける……蕩け……

 震えながら一太は快楽に溶けていく。 赤い舌を白く染める粘り気のあるある液体に変っていく。

 そして一太であったものは、『ずぶり』の赤い舌に染み込んで消えた。


 ああ……ああぁぁぁ……

 「ふむ、どうやら全員『ずぶり』に取り込まれたようじゃな」

 「わっ!こっち見た」  頭が叫んだ。

 彼の言うとおり、砂に胸から下を埋めた巨大『ずぶり』が、首から上だけを回し、彼らのいる岩棚を見ている。

 ずずずず……

 『泡』の岩肌が震える。 巨大『ずぶり』が両手を地につけて体を抜き出そうとしている。

 「出てくるぞ!? おい、地蔵様よ、なんとかしてくれぇ」

 「他力本願なやつじゃ。 最近の『とれんど』は『自己責任』じゃぞ」

 「あんた約定の守護者で、解説者じゃないだろうが!」

 「うーむ、この状態で出口を教えても……『ずぶり』の誘惑に勝てんじゃろうし……約定の範囲での手助けするのも……ちとめんどくさい……

まてよ、要はこいつらが六道輪廻から外れなればいいわけじゃから……」

 地蔵が手をごつんと打った。 (手も石なので重い音がする)

 「うむ、いい手がある。 こらお前、目をつぶってわしを拝め」

 「へ?」 頭が狐につままれたような顔をした。

 「いいから拝め」

 「へ、へぇ」

 頭は言われるままに、目をつぶり、手を合わせて地蔵を拝む。

 「では参るぞ、 往生せぇやぁぁぁぁ!!」

 すさまじい殺気とともに、頭の頭(あたま)めがけて唸りを上げて錫丈が振り下ろされる。 

 「うわぁ!? なにをする!?」

 頭は間一髪の所で錫丈を避け、空を切った錫丈が岩棚を穿って破片を飛ばす。

 「こりゃ、何故避ける」

 「馬鹿野郎! 避けなきゃ地獄へ直行……あ!まさか」

 「うむ、お主らのことじゃ。 ここを逃げ出せても、どうせ罪を重ねて地獄行きは間違いあるまい。 ならばここでわしが引導を渡しても同じことじ

ゃろうが」

 「おい、仏様が人を殺めていいのか!」

 「馬鹿者! 御仏の慈悲で引導を渡してやろうというのじゃ。 こういう機会は一生のうちで何度もあるものではないぞ」

 「一度あればそこで一生が終わっちまうだろうが!?」

 「えーい、つべこべ抜かすな、おとなしくわが錫丈の錆となるがよいぞ!」

 ひぇー! 助けてぇぇ!

 岩だなの上は阿鼻叫喚の地獄絵図となった。


 ああ……なんて可哀想……

 巨大『ずぶり』がその様子を見て、山賊達を哀れんでいた。

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