ずぶり

其の十四 乳よ貴方は強かった


 「あわわわ……」

 「びくつくなぁ!考えるな!しゃべるなぁ!」

 一太が血走った目で、弟分たちを叱り飛ばした。 一行は十太を残して先へ進む。

 (畜生……化け物女どもにいいようにされてたまるけぇ)

 ビタ、ビタ、ビタ……
 
鉛の草鞋を履いているかのように足が重い。

 「兄ぃ……えらく女くさいだよぉ……」

 「女の事なんか考えるな! あの化け物どもは、俺らの心を覗き見れるぞぉ!」

 「んなこと言っても……」

 一太が山賊の一人を張り飛ばした。

 「行くぞ!」

 山賊達は重い足を引きずり、女のことを考えないようにしながら歩き出す。


 「女のことを考えちゃなんねぇ……考えちゃなんねぇ……そだ、ほかの事を考えればええだ。 えーと……食い物の事でも……白いまんま……

湯気の立ったほかほかの握り飯……」

 九蔵がそう言うと横手の壁から、微かに湯気のような靄が湧き上がり。 ついそちらを見る。

 「ほかほか……ああ、饅頭もええなぁ」

 壁に丸いふくらみがあらわれる。 白く豊かなそれから連想されることは唯一つ。

 「おっぱい……」

 薄桃色の乳首が、膨らみの上に現れた。 そして九蔵を誘うかのようにふるふると震える。

 「ああ……おっぱいが揺れてる……」

 その声に山賊達が反応し、一斉に壁を見た。

 壁に生えたおっぱいを見てぎょっとする者、わずかに引く者、そして……思わずそれに見入ってしまう者。

 「おっぱい……」「おっぱいだ……」「女……」

 呟きに応じるかのように、壁が膨らんんで、大小の乳房が並んでいき、その中に埋もれるように『ずぶり』が豊かな女体をくねらせる。

 ”ぁぁ……はぁぁ……”

 甘いあえぎを漏らして、胸をまさぐり、山賊達に手をさし述べた。 九蔵と何人かが、魂を抜かれたようにふらふらと前に進み出る。


 「ばか!あれほど言ったのに」 

 一太が一人の腕を掴んで引き倒した。 しかし、九蔵達は歩みを止めることなく、『おっぱいの壁』に倒れこむように体を預ける。

 「ふぁぁ……」

 九蔵の全身に、壁から生えたおっぱいの乳首が蛭の様に吸い付き、そのまま壁に貼り付けにする。

 彼らの周りのおっぱいが、揺れながら次第にふくらみ、その隙間に男達を迎え入れる。

 「あぅ……あぅ……」

 鈴なりの乳房は、もちの様にねっとりとした感触で男たちの体を咥え込んで離さない。 山賊達は、食虫花に捕らえられた虫の様に、大小の

乳房の間で無様にもだえる。

 「くすぐってぇ……」

 「そ、そこは……」

 乳首がむちむち音を立てて、体に吸い付く。 涎の様に乳首から乳を流しながた乳房が、固くなった男根をちゅうちゅうと音を立てて吸う。

 その感触は始めこそこそばゆいものの、次第に気持ちよくなって行き、やがてえもいわれぬ心地よさで彼らを酔わせて行く。

 「ふわぁ……」 「えへぇ……」 だらしなく頬を緩め、不気味で妖しい快楽に浸る山賊達。 彼らに『ずぶり』が囁く。

 ”よき心地であろう……蕩けそうであろう……”

 「ヘぇ……蕩けそうです……」 ぼんやりと応じる九蔵。

 ”蕩かしてやろうぞ……”

 一際大きな乳房が、彼らの顔に擦り寄ってきた。 親指ほどもある乳首が唇を這い回り、口蓋を犯す。 甘い蜜のようなとろりとした乳が、舌に

絡みつく。

 「あめぇ……」

 ”さあその乳を飲むが良いぞ。 そなたらはとろとろに溶けて、白い迸りに変るの……たまらぬ心地よさだぞ……”

 山賊達は、『ずぶり』に促されるまま、魔性の乳をこくこくと飲む。 乳は体の中に染み渡り、そのまま甘いえずきへ変っていく。

 「ひゃっく……ひゃっく……」「こ……こんなの初めてで……えへへ……」

 ”くふふ……気持ち良いだろう……骨の髄まで蕩けてしまうのは……さあおいで……さぁ……”

 無数の乳房が、山賊達を優しくもみしだき、乳首が体を這いずって、甘い感触を残しつつ吸い上げる。

 人の形をした男根と化した山賊達は、悦楽の極みに達し、溶けた己を男根の先端から放ち始めた。 すると、ひくひく蠢く男根に一際大きな乳首

が吸い付き、溶けた山賊の体を呑み込んで行く。
 「ひぐっ……」

 『ずぶり』と交わった瞬間、男の魂が震え上がった。 この世のものでない魔性の快楽、それが男の魂を絡めとった。 溶けた体と共に、魂が

『ずぶり』に引きずり込まれる。

 「あっ……あっあっあっ……」

 その体と同じなのだろうか。 山賊は体が柔らかく、この上ない優しいもので包まれるのを感じた、そして自分が自分でなくなっていくのを。 

優しい何かが彼をじわじわ溶かしていく。 穏やかな心地よさに心が奪われていく。

 (極楽……だぁ……)

 ”逃さない……地獄へなんか行かせない……貴方の魂は私のもの……”

 (俺は……『ずぶり』……の……も……)


 ずっちゅずっちゅ……

 無数の乳房の間で、白い粘る乳と共に山賊達が消えていく。 その様は、乳の塊に咀嚼されている様にも見えた。

 「ぁぁ……」 さらに何人かが、魂を抜かれたように歩き出すのを、正気な山賊が羽交い絞めにし、耳元で怒鳴る。

 「馬鹿が!あれは女ですらねぇ、乳の物の怪だぁ!!」

 「乳……乳の化け物……化け物の乳……」 誰かが呟いた。 その頭の中で何が連想されたのだろう。 次の瞬間、山賊達を咥え込んだまま
、乳同士がくっついて大きな塊となっていく。

 「なんだ!」 「わわわっ!」

 くっついた乳がのっぺりとした塊になっていき、わずかの間に巨大な白い乳房に変っていく。

 「に、逃げろ」

 誰かが叫び、正気なものは這いずるようにして逃げ出し、そうでないものは呆然として乳の『雪崩』を見つめていた。

 圧倒的な『巨大おっぱい』は何人かの山賊を押し倒し、乳の下敷きにしてしまう。

 「ぅぁぁ」「ひぃ……」

 滑らかな皮膚と、しっとりとした重みに包まれた山賊達の呻きが、『巨大おっぱい』の下から聞こえてきた。 そしてそれは、やがてひそやかな

喘ぎ声に変っていった。

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