ずぶり

其の六 誘惑


 げぼっげぼっ…… 

 九太は次第に形を失い、肉色のもちの様に変わりながら、それでも喜びの呻きを上げて女中の秘所に自分から呑みこまれていく。

 惚けた様に、その恐ろしい九太の痴態に見入る山賊たち。 その一人が我に返った。

 「き、九太ぁ!?」

 恐怖の声に、他の山賊たちも次々に我に返る。

 「九太が食われる!?」

 「こ、このおんなどもは、も、もののけだぁぁ」


 「食しているのではありませぬ」 頭の短刀を突きつけられたまま、白い襦袢の女が静かに言った。 「交わっているのです」

 女の声に、山賊たちは静まり、頭と襦袢の女に視線を集める。

 「……どういう意味だ」 頭は恐れを隠して聞いた。

 「お聞きなさい、あの方は苦しんでおられますか?」


 げぼっ……だ……だまんねぇ……こ……ごくらく……

 聞き取りにくい声だが、確かに九太は喜びの声を上げている。


 「交わる……」

 「はい」 女は艶然と笑う。 「私たちは『ずぶり』と申します。 私たちの望みは唯一つ……殿方に喜んでいただくこと」

 「なに?」 頭は目をむいた 「あれがか!?」

 「はい、ここに触って御覧なさいませ」

 女は頭の左手に自分の手を重ね、己が女陰にそっと導く。

 ひっ!?……

 熱く塗れぼそった肉襞が、別の生き物のように頭の手に擦り寄ってきた。 彼の手を舐め、奥に誘っている。

 ず……

 指先が少し沈む…… 熱い滑りが指先に絡みつき、気が遠くなるような心地よさがじんわりと染み込んで来る。

 (入り口がこれで……奥はいったい……)

 いらっしゃいまし……奥に……もっと奥に……

 女の囁き声が、蜜よりも甘く耳に絡みつく。

 (奥に……) 頭の中で欲望がもぞりと膨れ上がった。


 ずぶり!……

 「か、頭ぁ!?」

 誰かが叫んだ。 女の背中から、白く光る刃が顔を除かせている。

 「……だ、誰がお前たちなんぞに……」

 襦袢の女の胸を短刀で一突きにした頭は、、血走った目で女をにらみ付けた、しかし。

 「胸からがお望みでしょうか?」 女は平然と応えた。

 「なんだと……うっ……」

 ずぶり…… 手が、短刀ごと『ずぶり』の胸に突きこまれた。 白い胸から、血は一滴も流れ出さない。 そして。

 「うっく……」

 『ずぶり』の中は暖かく、もちの様に柔らかかった。 そして、それは確かに『女』だった。

 彼の手に、毛穴の一つ一つから『ずぶり』が入ってくる。

 優しく、ゆっくりと……そして彼の肉に語りかける。

 ……交わりましょう……

 ……約束いたします……極上の快楽を……

 ……貴方が欲しゅうございます……愛しい方……

 「あが……あぐぁ……」 頭は必死に戦った。

 (……『ずぶり』の暖かい胎内でとろとろに蕩かされて……『ずぶり』と交わる……そうなりたい…… )

 狂気の様な欲望に、頭の体が硬直した。 其の間にも、『ずぶり』の誘惑は彼の体を犯して行く……


 「あわわわ……」 頭が『ずぶり』に捕まったのを見て、あちこちで山賊たちが腰を抜かし、這いずって逃げ出した。

 その彼らに、『ずぶり』の本性を現した女中たちの誘惑の魔の手がせまる。


 七平は、意識せずに後ずさり、頭と『ずぶり』から離れようとしていた。 その背中が、柔らかいものにぶつかる。

 「ひゃぁ!」

 半回転すれば、全裸の『ずぶり』の豊かな体がそこにあった。

 「あわあわ……」 腰を抜かし、手でけで這いずって『ずぶり』から離れようとする。

 「悲しゅうございます……」 泣きそうな声に、七平は振り向いた。 「私がお嫌いですか」

 「よ、よるなぁ!」 七平は叫びつつも、『ずぶり』の体と憂いを帯びた顔に引き付けられるものを感じていた。

 「この体も……顔も……貴方様の望みのままに……変りますものを……」

 『ずぶり』は畳に這いつくばり、七平と同様に手だけを使って這いずってくる。

 「望みのまま……」 言われてみれば、その顔は七平が昔惚れた女によく似ている。 思わず七平の手の動きが止まった。

 ずるり…… コオロギでも飼えそうなほど毛が密集したすねに、『ずぶり』が胸を摺り寄せた。

 「ああ……愛しいお方……」 

 うっとりした口調で、七平の太ももにほお擦りをし、柔らかい胸をすねに擦り付ける。

 「……」

 七平が躊躇している間に、『ずぶり』さすられている足に、芯から痺れて行くような心地よさが生まれてきた。 この調子で、男根を嬲られたら

一たまりもないだろう。 しかし、ずぶりは何故か太ももから先に手を出そうとはしない。

 (畜生……じらしているつもりかや……)

 七平は唇を噛んだ。

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