星から来たオッパイ

Part H (7)


 エミはタブレットをミスティに渡した。

 「あなた自分のみか、自分以外のものか、1つずつしかテレポートできないって言ってたわね?」

 「うん、そだよ」

 「このタブレットを送って、次にあなたがそこにテレポートできる?」

 「できると思う」

 エミはタブレットに地図を映し、ミスティに細かい指示を出す。

 「この点通りにタブレット転送、テレポートを繰り返して、最終地点はここ」

 「えー!?」

 ミスティが頓狂な声を上げた。 後ろから覗き込んだ麻美も目を丸くする。

 「ここどこ?」

 「南米のパラグアイ。 大体だけど、地球の反対側。 テレポート回数は500回程度でたどり着くはずよ」

 とんでもない指示に文句を言うミスティを強引に説得し、エミはタブレットを押し付けた。

 「タブレットの通信機能で私のスマホと連絡取れるから」

 有無を言わせず、エミはミスティを送りだした。 タブレット、ミスティの順にテレポートし、後には『えんがちょ』状態のミスティの衣服が残った。 エミは

それを拾い集め、近くのコインランドリに洗濯に行った。


 「それで? 私達は何を」

 戻ってきたエミに、麻美が尋ねる。

 「『アップルシード』の間近に移動するの、西側から」

 「西から?」

 麻美は首をひねったが、エミはそれ以上は何も言わず、グラウンドに鎮座している『アップルシード』に近づいて行く。

 「ちょっとちょっと! こんなに近くに」

 近いどころではない。 目の前に『アップルシード』の外壁があり、砂鉄で覆われた表面から熱気が感じられるほどだ。

 「危険じゃない!」

 「ここまで近づかないと危険なのよ」

 そう言った時、エミのスマホが鳴動した。 エミはスマホでミスティからの連絡を受ける。

 「今どこ?」

 ”シロクマー!!”


 「どこ?」

 ”ピューマ!!”

 
 「どこ?」

 ”オオアリクイ!!”

 
 「どこ?」

 ”ペンギン!!”

 「行きすぎよ、戻って」

 
 1時間後、ミスティが地球の反対側についたとの連絡があった。

 ”大きな石がゴロゴロしてるけど、ここでいいの?”

 「そこでいいわ。 出来るだけ大きな石を、私達から20mぐらいの場所にテレポートして」

 ”ほーい”

 エミは土建屋のようなヘルメットを取り出し、麻美にそれを被らせると、地面に伏せる様に言った。

 「泥だらけになるじゃない」

 文句を言いつつ、麻美が地面に伏せた。 その時。

 ドドーン!!

 すさまじい音を立てて、三塁側ベンチが吹っ飛んだ。 一拍遅れて、麻美が絶叫する。

 「何! 今のなんなの!」

 「ミスティ、送る場所が違うわ。 距離そのまま、角度180°修正して」

 ”180°? えーと……ここかな”

 ズズーン!!

 今度は『アップルシード』が揺れた。 一拍遅れと、今度は『アップルシード』から凄まじい叫び声が上がる。

 「%$##***!!」

 「よし、効いてる。 今の場所に続けて送って」

 ”ほーい”

 ズズーン!! ズズーン!! ズズーン!!

 立て続けに『アップルシード』が揺れる。 あっけにとられていた麻美は、何が起きているのかエミに尋ねた。

 「ミスティが『アップルシード』の中に石をテレポートさせているの、地球の反対側から」

 「石を? でもどうして、こんな『アップルシード』が揺れているのよ!」

 「地球が自転しているからよ」

 「は?」

 「地球は24時間で1回転する球体よ。 その表面は赤道付近では秒速460m以上、音速を超える速度で動いているのよ」

 「そんな感じはしないけど……」

 「それは私たちが地表と同じ速度で動いているからよ。 今ミスティは地球の反対側いて、私達と逆の方向に動いている。 彼女が送る石は、その

運動エネルギーを持ったまま『アップルシード』の中に現れる。 中で大砲を打つようなものよ。 さすがにこれには対処できないでしょう」

 ドドーン!!

 スタジアムの壁が吹っ飛んだ。

 「狙いが外れたわよ、90°修正」

 ”ほーい”

 「あの……もしそれがこっちに飛んで来たら」

 「当然、私達も木っ端みじん」

 逃げ出そうとする麻美をエミが捕まえて伏せさせる。

 「離して!」

 「ここが一番安全なの。 ミスティの送ってくる石は、太陽と同じ方向に動くの。 私達から見て真東の方向に現れると、命中するのよ」

 「だ、だから『アップルシード』の西に!?」

 「そうよ。 『アップルシード』の西側ですぐそばに居れば、命中する危険のある石は『アップルシード』が受け止める……はず」

 エミは平然と言ったが、『外れた』石がグラウンドに穴を開け、土煙が上がる状況はとても『安全』とは思えない。 麻美は地面に伏せたまま、ブツブツと

何かつぶやき始めた

 「ここは大丈夫、ここは大丈夫、ここは大丈夫……」

 ズズズーン!!!

 ひときわ大きな音がして、『アップルシード』が大きく揺れ、表面を覆っていた砂鉄が滝のように流れ落ちる。

 「ああっ!?」

 「何か重要な部分に命中した……かな? ミスティ、石を止めて」

 ”ほーい”

 間断なく続いていた『砲撃』がやみ、辺りが静かになる。 エミと麻美は立ち上がって『アップルシード』を見上げた。 すると、『アップルシード』が震え始めた。

 「何!?」

 突然『アップルシード』は水平方向に180°回転した。 薙ぎ払われそうになったエミは、麻美を抱えて空に逃れる。

 「見て! 水を吹いてる!」

 『アップルシード』の後ろ側に丸い穴があり、そこから激しい勢いで水が吹き出した。 その水の反動で『アップルシード』は滑る様に動きだした。

 「海に向かっているようね」

 「逃げたのかな」

 『アップルシード』は、やって来た方にかなりの勢いで滑っていき、あっという間に二人の視界から消えてしまった。

 
 ”観測班より。 『アップルシード』は侵攻ルートを逆にたどり逃走した模様”

 「了解。 やっぱり逃げたようね。 取りあえず撃退は成功したわね」

 ”終わったの?”

 ミスティからの連絡にエミは笑顔で応える。

 「終わったわ。 ご苦労様、帰って来て」

 電話を切ったエミに麻美が聞いた。

 「細かくテレポートさせたのは、さっきの『砲弾』みたいにならないためなのね」

 「そうよ。 細かくテレポートして、ベクトルが急に変わらないようにすれば、多少よろける程度ですむはずだから」

 「帰ってくるときも?」

 「当然……あ」

 エミは凍り付いた。

 「一気に帰ってくるなと注意するのを忘れた……」

 次の瞬間、超音速で飛んで来たミスティが二人を吹っ飛ばした。 ミスティは無傷、エミと麻美は全身打撲で済んだのは奇跡以外の何物でもなかった。
  
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