星から来たオッパイ

Part H (6)


 「どう?」

 「交渉は失敗みたいね」

 エミ、ミスティ、麻美、太鼓腹は新実験棟の屋上に移動して天文部の観測班と合流し、教授の交渉、囮作戦を見守っていた。 グラウンドを占拠している

『アップルシード』が、触手を伸ばし教授を捕まえようとしているのが見えた。

 「キキがクーが飛んだ……あ、上手く逃げた」

 「追いかけて……いかないか」

 教授達は新実験棟と反対方向に逃げたが、『アップルシード』は触手を戻して動かなくなった。

 「なんで追いかけないのかな?」

 エミと麻美が首をひねる。 隣の観測班がエミを手招きし、彼女はそちらに行った。

 「これを見てください。 『アップルシード』の表面温度です」

 「80°C? 随分熱いのね」

 「『パチ子』に勝った直後は100°C 近くありました。 でもグラウンドに突っ込んだ直後は、気温と大差なかったんです」

 エミは、観測班担当の天文部男子学生に視線を向ける。

 「『パチ子』と戦っている間に、表面温度が急上昇したんです」

 「暴れたから発熱したと?」

 「かもしれません。 今動かないのは、表面が冷えるのを待っているのでは?」

 エミは指を口に当てて考え込んだ。 その時、ペントハウスの扉が開き、教授とキキーとクーが屋上に出てきた。

 「囮は失敗した。 動かなかったよ」

 苦い顔の教授に、エミは『アップルシード』の表面温度の話をする。

 「ふむ……すると冷えるまでは動かないかな?」

 「では、今のうちに反撃に出ては?」 太鼓腹が言った。

 「反撃手段があるの? 『アップルシード』の武器が磁力と判ったからには、『パチ子』をもう一度戦わせることはできない。 それに、電子機器も狂わ

されるわ」

 「大砲か爆弾なら?」

 「自衛隊が使用して、効果が薄かったでしょう?」

 太鼓腹は腕組みして考え込む横で、教授は天文部の望遠鏡で『アップルシード』を観察している。

 「ふむ、強靭な防御があるということは、内部を守る必要があるということだな」

 教授の呟きに、太鼓腹が目を輝かせた。

 「それだ、開口部から爆発物を投げ込めば」

 「開口部が見当たらん」

 意気消沈する太鼓腹の横でエミが何か考えている。 顔を上げ、ミスティを呼んだ。

 「ミスティ、この間見せてもらった貴女のチョー能力。 物をテレポートさせいてたでしょう? あれで『アップルシード』の中に爆弾を送り込める?」

 「んー、やってみないと、わっかんなーい」

 「なんとも心強い事……」

 
 取りあえず試してみようと、エミ達はグラウンドのベンチ裏に移動した。 辺りには学内からかき集めた爆発物や可燃物など危険物がずらりと並んでいる。 

それを見たエミが、問題点に気がついた。

 「失敗してここで爆発したら一大事だわ。 まず、失敗しても危険のない物を送りましょう。 何かいいものある?」

 「これなんかどうです。 サバゲーで使う手りゅう弾です。 BB弾を辺りにばらまくだけだから、危険はありません」

 迷彩服を着てエアガンを持ったサバゲー同好会員の差し出した手りゅう弾をミスティが受け取り、ピンを抜く。

 「でわ! チョー!」

 掛け声とともに、手りゅう弾がミスティの手の中から消えた。 すると、『アップルシード』の方からポンと言う音がした。

 「やったか?」 「待って!上!」

 エミが指さす方、放物線を描いて手りゅう弾がこっちに飛んで来た。 ベンチに飛び込んだ手りゅう弾から、BB弾が辺りにぶちまけられる。

 バチバチバチ!

 「いてて」

 「なによ、失敗じゃない」 エミがミスティを睨む。

 「ちゃんと中に送れたよぉ」 ミスティが反論する。

 「うーむ、内部に異物が入ると、それを外に排出するようにできているのかも知れん」

 教授の言葉に、エミが首をかしげた。

 「投げ返してきたと言うことですか? もう一回試してみます?」

 「そうだな……投げ返されても危険のない物はないかね?」

 「あ、ではこれを」

 生化学研究室の学生が、ペンキで『G』と書かれたドラム缶を示した。 ミスティが大きすぎて送れないると文句を言い、中身だけを送ればいいとエミが

上蓋を外す。

 『……』

 ドラム缶の中では、大量の『G』−−ゴキブリがモゾモゾと蠢いていた。 硬直したミスティの手を学生が掴み、中へと突っ込んだ。

 「%$##***!!」

 金切り声を上げたミスティの手の先で、ゴキブリの群れが凄い勢いで数を減らしていく。

 ”’Д’!!!!!!!”

 『アップルシード』が大きく揺れ、そのあちこちからゴキブリの群れが吹き出した。

 「おお、やはり異物を排除するようだ。 それにしても、たいしたテレポート能力だ」

 「いや、あれじゃミスティじゃなくてもテレポートできるかも」「同感」

 エミと麻美は身震いして呟いた。

 
 一同は、ベンチ裏からグラウンドの外に移動し、結果を検証することにした。

 「中に爆発物や送り込んでも、すぐ外に排出されることが確認されたわ。 残念だけどこの作戦は見送りね」

 「点火タイミングを速めて、排出される前に爆発させればどうでしょう?」

 エミが首を横に振る。

 「成功することだけを考えないで。 タイミングがずれて、送る前か戻って来て爆発したら? こっちが吹っ飛ばされるわ」

 「では毒物とか毒ガスでは?」

 「同じことよ。 タイミングかタイトすぎる。 『アップルシード』の中で確実に爆発する爆弾を用意できない以上、実行できないでしょう?」

 「うーん……では投げ返せないものを送り込めば?」

 「というと?」

 「真っ赤に焼けた鉄の玉とか」

 太鼓腹がそう言うと、不意に現れたボンバーが、焼けた鉄の玉を太鼓腹の手の上に落とした。

 
 「無理ですね……」 両手に包帯を巻いた太鼓腹が言った。

 「そうね……ミスティ、聞きたいことがあるんだけど」

 「なーにー?」

 「あんたのテレポート、どのくらいの距離まで可能なの?」

 「宇宙のどこにでも。 ただしミスティが触らないと送れないよー」

 「あなた自身がテレポートする場合は?」

 「同じく。 ただ、ミレーヌちゃんが『あんまり遠くまでいっちゃいけませんて』いうけど」

 「当然ね」

 「どういうこと?」

 麻美の質問には答えず、エミは最後の質問をした。

 「遠くからモノを送る場合、照準……いや、どのくらい正確に送れるの? 例えば……ここから月にモノを送ったら?」

 「ずいぶん遠いねー……んーとね……見える場所なら送れる。 だから、こっち側には正確に送れるけど、裏側へはいい加減になるかな」

 「見えない所には無理なの……」

 「あ、でも受け取る人がいれば、わりと正確に送れるよ」

 「受け取る人? すると受け取と人の手の中に?」

 「あーでも、置き配指定で、近くに送ることもできるよー。 エミちゃんの目の前とか」

 「宅配便かい、あんたのテレポート能力は」

 そう言ったエミは、ミスティの近くで手持ち物沙汰の様子のスーチャンからタブレットを借り受け、何か始めた。

 「今思いつくのはこの手しかないか。 命がけになるけど」
  
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