星から来たオッパイ

Part H (2)


 ”臨時ニュース 東京湾に浮上した国籍不明の潜水艦は、埋立地に上陸。 その後、人の歩行よりやや遅い速度で陸上を移動しています。 どのように

して陸上を移動しているのかは判っておりません。 現在、潜水艦は××区の環状線を北北西に移動中です。 では現場からのドローンの映像に切り

替えます……”

 大型スクリーン映し出されたニュース映像が、アナウンサーから道路を占拠する黒く細長い物体の空撮映像に切り替わった。 しかし映像はすぐに途切れ、

再びアナウンサーに切り替わる。

 ”失礼しました。 ドローンの信号が途切れました。 目下のところ、潜水艦に接近したドローンは全て制御不能になって墜落しています。 当局は潜水艦が

妨害電波を出していると見て、対応を……お待ちください。”

 アナウンサーは、画面外から渡されたメモを読み上げた。

 ”潜水艦から、音声らしきものが聞こえてくるとの情報が入りました。 某国語で『ランデルハウス教授の引き渡しを要求する』と言っている……誰だ

これは……え?マジステール大学の教授で日本に来ている?……潜水艦の進路上に、マジステール大学が?……どうやら潜水艦はマジステール大学を

目指している模様です。 予想進路上にいる方は、直ちに避難を……”

 「どーいうことですか、あれは」

 新実験棟まで押しかけてきたマジステール大学の日本校学長が、ランデルハウス教授に詰め寄る。

 「ニュースでは『潜水艦』と言っとりましたが、あれは宇宙人のカプセルではないのですか!? それがなんで東京湾から上陸し、こちらに向かって、

しかも教授の身柄を要求すると言ってきてるのですか!」

 「私に聞かれても……」

 ランデルハウス教授も困惑しているようだった。 もっとも、ミスティからカプセル−−『アップル・シード』の目的が自分であることを聞かされていたので、

ある程度状況の分析はしていた。

 「まぁ、当て推量でよければ」

 「ほう? 聞かせてもらいましょうか」

 「我々はあれを『アップル・シード』と呼んでいますが、あれは某国の潜水艦と交戦した『カプセル』と同一のものでしょう。 使用している言語が某国語

ですから、ほぼ間違いないかと」

 「ほう、それで?」

 「某国の潜水艦が『カプセル』を追跡、交戦していた時、実は第二の監視者がいましてな。 その監視者が『カプセル』内の音声を盗聴していた時、私の

名前が聞こえたそうです」

 学長は顔をしかめ、声のトーンを落とす。

 「別の監視者? 教授の母国の潜水艦でもいたんですか? いや、そうだとしても、いつ、どうやって連絡を……」

 「すみませんが、第二の監視者の正体と連絡方法は明かせません。 それより『カプセル』の中の会話で私の名前が出た、という事の方が重要です」

 「何をおっしゃりたいのですか?」

 「『カプセル』が宇宙人のモノだすると、彼らが私の名前を知る術は限られています。 TVかラジオか新聞、そんなところでしょう」

 「それで?」

 「つい先日のニュースで、私が『鳥人のカプセル』を発見、研究していることと、マジステール大学日本校を訪問していることが報じられました。 『カプセル』

と『鳥人のカプセル』が同一の星からきた宇宙人だったとしましょう。 『カプセル』の宇宙人が活動を開始するに辺り、この世界の情報を収集した。 そして

知った、同胞の『カプセル』が発見され、調べられていることを」

 「……それを脅威と考え、教授を狙っていると?」

 「とは限りませんが……『身柄を引き渡せ』と言っていますから、好意的とは思えませんが」

 「……」

 学長はこぶしを握り締めてランデルハウス教授を睨みつけた。 脇でだまって聞いていたエミが教授を弁護する。

 「学長。 教授が『鳥人のカプセル』を発見し、研究を行っていることは、研究者として当然の行動です。 教授を責めるのは筋が違いませんか? むしろ、

大学としては教授の身を守る行動を取るべきでは?」

 教授がエミを見て一礼し、感謝の意を示した。

 「君の言うことは正論だな。 私は警察と文部省に連絡を取って対処を依頼しよう」

 「警察と文部省ですか? 軍隊、いえ自衛隊に出動要請は?」

 「大学の学長が自衛隊の出動を要請できるのかね? 私も良くは知らないからが、監督官庁に報告を入れて対処を依頼する方がスムースに事が運ぶだろう

 「そうですね」

 エミが相槌を打っている間に、学長は慌ただしく出て行った。

 
 「それで? 我々はどうしますか」

 セイレーンの端末の前に座っていた太鼓腹がこっちを見る。 目を輝かせ、何かを期待しているようだ。

 「どうしますかって……避難するのよ、もちろん」

 「そうすると、『アップル・シード』はここに突っ込んできますよ、明日の朝には」

 太鼓腹が『アップル・シード』の予想進路を示した。

 「その前に自衛隊が撃退するでしょう」

 「どうでしょうか」

 太鼓腹は、ディスプレイに自衛隊の装備を映し出す。

 「武器は、想定外の対象に対しては有効に作用しません。 例えば空対空ミサイルは、航空機に有効ですが、艦船や戦車には効果がありません。 

某国潜水艦は『アップル・シード』と交戦し、ダメージを与えられなかったんですよね」

 「対『アップル・シード』用の武器が自衛隊にないと言いたいの?」

 「あるかもしれないけど、何が有効なのか判らないという事です」

 「戦車砲か大砲ならどう?」

 「準備に時間がかかりますよ。 今すぐ準備を始めても、明日までに間に合うかどうか……」

 「じゃあ、やっぱり避難するしか……」

 「『セイレーン』は避難できませんよ」

 エミと教授は顔を上げ、セイレーン・システムを見た。 複数のサーバ、中心となる『電気頭脳』、人型感覚装置……『セイレーン』システムを移動させる

には、複雑に組み合わされた装置を順に止め、分解する必要がある。 一日や二日では動かすことはできない。

 エミは太鼓腹を見返した。 小太りの学生は、こちらを真剣な目で見返している。

 「避難できないとなると……教授を囮にして進路を変えさせるのか」

 「わ、わしを囮に?」

 流石に教授が嫌そうな顔になる。

 「『アップル・シード』の速度は人が歩くより遅いわ。 大丈夫逃げきれます」

 太鼓腹が言うと、教授が眼鏡を直しながら反論する。

 「わかるものか、実は飛べるかもしれんじゃないか。 それに進路が変わって被害が出れば、責任を問われるだろう」

 教授の反論に、エミは考え込む

 「うーん……囮で進路を変えさせるのはいい手だと思うんですけど……当局と相談しないと」

 「まだ対策本部もできていないのに?」

 「となると……大学の責任範囲で……敷地内で対処?」

 「迎え撃つんですか?」

 声を弾ませる太鼓腹。

 「あのねぇ……何を期待してるのよ」

 「いやまぁ……『アップル・シード』の中身が見れるかと」

 「巨人の巨乳だから?」

 「ぬわにーっ!!」

 ソファーで寝ていたミスティが起き上がり、つかつかと歩いてきた。

 「エミちゃん! 巨乳が攻めて来るって!?」

 「いや……そうらしいけど」

 「交戦した潜水艦からの報告だと、推定身長50m、バストは30mはあったらしい。 仮に身長180cmまで縮めると、バスト108cmか? いやはや」

 その数字に、ミスティの眼がつり上がる。

 「うぬぬぬぬぬ……許せん! 天地人!たとえ魔王が許そうとも、このミスティが許さん! エミちゃん!」

 「は、はい」

 「呼んで! 人外部隊!!」

 「来てくれるかな……時間も無いし……それに50mの巨人女と戦えるのってだれかいたっけ……」

 「『いそぎんちゃく』! それか『ずぶり』!」

 「貴女のお仲間のボンバーは? 彼女なら張り合えるんじゃ……」

 「乳牛女コンテストじゃない!!!」

 ブチきれたミスティの迫力に押され、エミは『セイレーン』騒動で協力してくれた人外女達に連絡を取り始めた。

 「僕も学内の有志を募って、セイレーン防衛隊を組織します」

 「おいおいおい」

 呆れた様子のランデルハウス教授を尻目に、エミと太鼓腹は対『アップル・シード』の準備のため、学内、学外に連絡を取り始めた。

 
 学長が警察に電話をかけたとき、すでに警察と自衛隊が『アップル・シード』の進行を阻止するために動き出していた。 もっとも、太鼓腹が指摘したよう

に有効な武器が判然としないため、歩兵様携帯火器と車載型の誘導弾で対処することになった。 大学まで30kmの地点に防衛線を構築し、無反動砲と

ロケットランチャーを構えた歩兵、対戦車有線ミサイルを搭載した先頭車両を横一線に並べ、指揮官の命令で『アップル・シード』に集中攻撃がくわえられた。 

エミ達は新実験棟の屋上に上がり、天文での天体望遠鏡に地上用の接写レンズを取りつけて、攻撃の様子を見ていた。

 「ミサイルが外れた?」

 「ホントだ……あ、ロケット弾が命中! 表面が飛び散ってます!」

 「穴が開いたかしら……あら? 穴がふさがっていく?」

 自衛隊の攻撃が命中すると、黒っぽい表面が飛び散って穴があき、その下から茶色いモノが覗くのが見える。 しかし、すぐに穴がふさがって穴は見え

なくなる。 十数分もすると弾がなくなったのか、自衛隊の攻撃がやんだ。

 「止まらないようですね」

 「そのようね……あの黒い物、なんなのかしら」

 エミは望遠鏡から目を離し、グラウンドの野球スタジアムを見た。 このまま『アップル・シード』が突っ込んでくると、スタジアムに衝突する。

 「さて……計算通りに行けばいいけど」
 
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