星から来たオッパイ

Part H (1)


 −−日本 マジステール大学 管理棟 会議室−−

 潜水艦 B-346と『マザー』の戦闘が行われた翌日、ランデルハウス教授は某国とのTV会議でその経緯を聞かされた。

 「潜水艦が攻撃された?」

 ”そうだ。 正体不明の物体は我が国の潜水艦に対し、敵対行動を取ってきた。 わが方は自衛行動を行い、これを撃退した”

 「潜水艦は無事なのかね? 乗員は?」

 ”そちらには関係ないが……一応知らせておこう。 潜水艦は損傷を受けた。 軽微な損傷だが、大事を取って帰港させた。 乗員の安否は確認中だ”

 「そうか……」

 ランデルハウス教授は言葉を切り、顔をしかめた。

 ”潜水艦が追跡を中断したため、正体不明の物体はロストした。 他の艦船が捜索しているが、再発見には至っていない”

 「ロストした場所と、その時の進行方向を教えてもらえるかね?」

 ランデルハウス教授の問いに、某国責任者は経度、緯度と進行方向を伝えた。

 ”ロストしたのは、緯度○○、経度○○。 物体は東に向かっていた”

 ランデルハウス教授は他にも幾つか質問したが、責任者の回答はあいまいなものだった。 その後、責任者はランデルハウス教授の調査資料について

細かい問い合わせをし、教授はその回答を作成することを約束し、会議は終わった。

 
 会議室をでた教授に、エミが話しかける。

 「あれ以上の情報は出てこないでしょうね」

 「うむ……」

 「『白い人魚』達からは? 何も言ってきていないんですか」

 「いや……昨晩、シーラを通じて『白い人魚』の長から連絡があったのだが……今一つ要領を得なくてな」

 二人は足早に管理棟を出て、新実験棟に戻った。

 
 「やっほー♪」

 能天気な桃色小悪魔の出迎えに、エミが額を押さえる。

 「何しに来たのよ。 今日はインタビューの予定はなかったでしょう」

 「いやー、そろそろクライマックスが近いんで、ミスティちゃんの出番かなって」

 ミスティの言葉にエミが顔色を変える。

 「聞き捨てならないわね。 この先何が起こるの! 知ってることを言いなさい!」

 ミスティは、小首をかしげた。

 「知らなーい♪」

 エミがミスティを締め上げている間に、教授は端末を操作している太鼓腹の所に行った。

 「ちと頼まれてくれるか?」

 「はい? なんでしょう」

 「ネットに……掲示板かSNSで情報を流して欲しいんじゃ」

 「何の情報です?」

 首をかしげる太鼓腹の隣に座り、教授は説明を始めた。

 「『北極の氷の中から見つかった宇宙人のカプセルが、海中を移動している。 放置していると危険だ、至急探して欲しい』と匿名で流して欲しい」

 太鼓腹が目を丸くした。

 「例のカプセルですか? 某国が追跡中で、口止めされていたのでは?」

 「彼らは『カプセル』をロストしてしまった。 再発見できる保証はない。 匿名で情報を流し、問い詰められたらしらばっくれる」

 「まぁ、いいですけど……いっそ軍か警察に正式に依頼をするのが良いのでは? それともマスコミにリークするとか」

 教授は首を横に振った。

 「公的機関に流すには情があやふやすぎる。 裏が取れない情報では動いてくれない」

 太鼓腹は、手を顎に当ててた。

 「そうですね……」

 「待って」

 エミがミスティを放り出し、二人の話に割り込む。

 「『未確認物体がどこかをうろついているから探してくれ』なんて流しても、どれも信用しないでしょう」

 「ではどうしろと?」太鼓腹が問い返す。

 「それが脅威であると言う具体的な情報を絡めて流すのよ。 『人体に寄生する宇宙生物』であるとか。 それと漠然と『宇宙人』とせずに、どの星から

来たとか」

 「なるほど」 太鼓腹が頷いた。

 「そうすると、タァからやって来たわけだから『寄生侵略生物、その名はタァ星人』みたいな?」

 「それでは映画のタイトルじゃない」

 「それと『タァ』は星の名ではないぞ。 意味的にはもっと広く『世界』とか『宇宙』と言う意味だ」

 「それに英語にしないと伝わらないわよ」

 後ろから好き勝手言われながら、太鼓腹は投稿する文章を作っていく。

 「え−と…『寄生侵略者』は『Parasitic invader』っと」。

 「『タァ宇宙』で作られた生命体じゃ」

 「『タァ宇宙の』?……『of Tar Universe』っと……それが乗ったUFO……」

 「いやUFOは『unidentified flying object』の略で『未確認飛行物体』の事でしょう? 『カプセル』は飛んでいないわ」

 「じゃなんです?」

 「この場合『未確認潜水物体』だから『Unidentified Submerged Object』でUSOになるわ」

 「そんな言葉……あ、あるのか」

 しばらくガチャガチャやった太鼓腹は、匿名でSNSに次のような記事を貼り付けた。


 『北極海にてUSOが発見され沿岸集落を襲撃し、近隣国の海軍が追跡するもロストした。 このUSOは"Parasitic invader of Tar Universe"の物と

確認され、現在、各国海軍、沿岸警備隊が捜索中。 また、国際機関が賞金をかけたとの情報もある』
 

 「よしっと。 こんなもんでどうです」

 「助言しといてなんだけど……信ぴょう性のかけらもないわね」

 「そ〜よね。 ”USO(ウソ)”に乗った”PioTU(バイオツ)”じゃダジャレのFake記事にしか見えないし〜」

 「気がついていたなら、止めんかい!」

 「まぁまぁ……あれコメントが付いた」

 太鼓腹がコメントを開く。

 ”これって東京湾に入って来た奴のこと?W”

 エミと太鼓腹は顔を見合わせた。 急いでブラウザを立ち上げ、動画ニュースを閲覧する。 東京湾をバックにした男性リポーターが映し出された。

 ”埋立地に乗り上げている黒い物体が見えますでしょうか! 一見すると鯨のように見えますが、全長は150mもあり鯨にしては大きすぎます。 埋立地に

乗り上げ……上陸するようです!?”

 リポーターの言っている通り、黒い物体−−『カプセル』はズリズリと埋立地に『這い上がろう』とていた。

 「何よ……あれ」 エミが唖然としている。

 「例の『カプセル』なのか? あれが」 教授が顎を撫でる。

 「地面に接しているところが、何か動いているように見えますが……どうなっているんだ」

 三人が茫然としている中、ミスティは何か考えているように見えた。 やがて指を鳴らして一言。

 「命名! 『アップル・シード』!!」

 「え? まぁ細長いリンゴの種みたいだけど……あ、いやそうじゃなくて……」

 エミが事態を理解できないでいる間に『カプセル』−−ミスティの言うところの『アップル・シード』は埋立地に上陸し、ゆっくりと前進し始めた。

 「陸の上を進めるの!? どうやって?」

 「太鼓腹君の言うとおり、下側の方が動いているようだ。 足でも生えているのか?」

 太鼓腹が、セイレーン用の大画面ディスプレイにブラウザを映した。 拡大しても画像が荒く、細かな部分は良く判らない。

 「下が波打つように動いている。 足ではなさそうだが……」

 「上も微妙に動いているようですよ。 ほら、光り方が変わってる」

 『アップル・シード』の画像を見る二人の背後で、太鼓腹は『アップルシード』の進行方向を地図に落としてみた。

 「教授……」

 「どうしたね、太鼓腹君」

 「『アップル・シード』はこちらに向かっているようです」

 『なに!?』

 大画面ディスプレイに地図が表示される。 確かに『アップル・シード』はマジステール大学に向かっているように見えた。

 「大変だ。 教員と学生を避難させないと」 教授が慌てる。

 「ええ、そうですね……」 エミは呟いて、じっとディスプレイを見る。

 「でもどうして? 偶然?」

 「んなわけがないでしょ♪」

 ミスティがお気楽な調子で言い、三人がそちらを見た。

 「『アップル・シード』の目標はランデルハウス教授だよ〜♪」

 「わし!?」 教授が自分を指さし叫ぶ。

 「知ってたなら、もっと前に知らせんかい!」 エミがミスティをどついた。

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