星から来たオッパイ
Part F (6)
−−日本 マジステール大学 会議室−−
某国とのTV会議は、前回と同じの出席者ではじめられた。 (ミスティとスーチャンは雲隠れしてしまった)
「私の体験談について、まとめて送らせてもらったが確認してもらえたかね」 ランデルハウス教授が某国の某国の『責任者』に尋ねる。
”内容は専門家が精査中だ。 有益な情報は記載されていないようだが”
『責任者』は全く表情を変えない
”教授の体験した異星人の記憶とやらは証拠がない。 『カプセル』の調査も行われていない。 貴方は学者ではないのか?”
皮肉と侮蔑の眼差しで教授を見る『責任者』に、教授は臆した様子もなく応じる。
「君の言う通り、私の報告は体験談に過ぎない。 『カプセル』の方は、現地の情勢が不安定なため、調査団を派遣することができない。 しかし中東の
『カプセル』の体験で、私は彼らの言葉が理解できるようになった。 だから鳥人の『カプセル』に積まれていた文書を解読することが出来た。 これは私の
体験が真実であったという証拠にならないかね?」
教授の反論に『責任者』は口元をゆがめた。
「私が体験を発表しなかったのは、君が指摘した通り、証拠を示すことが出来ないからだ。 それでも、その情報を欲したのはそちら側だったと思うが?」
”そのとおりだが……”
「こちらからは、約束の情報を提供したのだから、そちらも情報を提供してもらいたい。 『カプセル』は発見できたのか?」
”捜索中だが、まだ発見できていない”
『責任者』の回答に、教授は首をかしげて見せた。
「そうかね。 私の処には潜水艦が『カプセル』を発見し、見張っているとの情報が入っているのだが」
『責任者』は表情を全く変えずに、手元の資料に目を落とし、顔を上げた。
”そのよううな報告は来ていない。 どこから得た情報か知らないが、いい加減な情報に惑わされないで欲しいものだ”
「そうか? その情報によると、緯度OO、経度XX付近で、潜水艦と『カプセル』が海底に着底しているというものだったが……ああ、貴国の潜水艦では
なかったのか」
『責任者』は、教授のあてこすりにもそ知らぬふりをしていたが、書類を持つ手が微かに震えている。 そんなやり取りを横目に、教授の隣でエミと太鼓腹が
ひそひそ話をしている。
「動揺しているわね。 今の緯度と経度ってどこから出たの?」
「教授が人魚からの話を元に計算してました」
『責任者』は、一つ咳払いをして、書類から顔を上げた。
”ああ、失礼した。 潜水艦の一隻から正体不明の物体らしきものを見つけ、確認中という報告が来ていた。 未確認情報なので、見落としていたようだ”
「そうか。 三日前から張り付いているようだが、随分と念の入ったことだ。 まぁ、重要性を考えれば無理はないな」
教授の当てこすりに、『責任者』が険しい表情になる。
「怒ったかな?」 エミが呟いた。
「それだけじゃないでしょう」 太鼓腹が応じた。 「潜水艦の行動は極秘のはず。 それが遠く離れた場所の民間人に筒抜けになっているなんて、下手を
すれば軍のトップの首が飛びかねません。 『カプセル』より、そっちの方が問題かも」
”どこから情報を得ているか知らんが、当方の潜水艦が『カプセル』を、いやそれらしきものを発見したのは昨日だ”
「何か情報はありのかね」
”……声が聞こえるとの報告が来ている”
「声? 人の声か?」
”そのようだ。 内容は……意味不明らしい”
「その記録はもらえるのかね?」
”……後で送ろう”
−−某国 某所−−
会議を終えた『責任者』は自分のオフィスに戻ると、部下を呼びつけた。
「どういうことだ! こちらの潜水艦の行動が、あの教授に筒抜けだぞ!!」
呼びつけられた部下こそいい災難である。
「例の『カプセル』の監視にあたっている潜水艦ですか?」
「他にあるか!」
「例の教授ですか。 自国の軍から情報を得ているのでしょうか?」
「近くに他国の潜水艦がいるとでもいうのか? ばかな」
否定してみせたものの、他の可能性は思いつかない。
「だとすると、悠長に構えているわけにはいかん……至急、海軍に『カプセル』の拿捕を依頼せねば」
「急ぎすぎでは?」
「他国に『カプセル』を渡すよりはましだ」
『責任者』は電話を取り上げ、交換台を呼び出した。
−−北極海 謎の『カプセル』−−
『カプセル』の中央部で、『クイーン』が新聞を広げていた。 この新聞は、ドローン女が集落を襲撃したとき、情報源として持ち帰ったものである。
「……大統領の支持率……株価……」
『クイーン』が新聞を読み、その内容を『マザー』に伝えている。 『マザー』は『クイーン』の読み上げる情報をじっと聞いているようだった。
「『カプセル』の発見者、ランデルハウス教授が日本を訪問……」
”『クイーン』……その情報を詳しく読み上げなさい……”
「はい『マザー』」
『クイーン』はランデルハウス教授についての記事を読み、さらに自分の知っている教授と『カプセル』についての情報を伝える。
「彼の発見した『カプセル』は宇宙から飛来したもので、鳥人の卵と教育装置が積まれていたそうです。 現在、彼はこの『カプセル』の権威であり、各国が
彼を自国に招こうとやっきなっているとの事です」
”彼は今どこに?”
「この記事では、日本のマジステール大学に滞在中とのことです。 帰国していなければ、ですが」
”……『クイーン』……使えるドローン女は何体います?……”
「幼生、いえ子供から完全変異中のものが5名、他は寄生体による強制変異体が10数名。 一部は寿命を迎えつつあります」
『クイーン』が答えると『マザー』はしばらく沈黙していた。
”『クイーン』……近くに鉄のカプセルが停泊し、こちらを監視しているようです。 これを排除、ドローン女を補充し、その後、日本のマジステール大学へ
向かい、ランデルハウス教授を拉致、または排除します”
「了解しました」
『クイーン』は『マザー』に了解の意思を伝えると、ドローン女達を呼び集めた。
「ビィ、お前たち5人は乳液に身を浸し、成長を加速なさい」
ビィ以下5人の元子供達は『クイーン』の指示に頷いた。
「他のドロ−ン達は、これより潜水艦に侵入、制圧します。 その後、日本に向かいます。 目的はマジステール大学のランデルハウス教授です」
「はい……」
「了解です……」
ドローン女は知性を感じさせないのろのろした口調で『クイーン』の指示に応えた。 程なく『カプセル』は海底を離れて浮上し始め、それを追って潜水艦
B-346が浮上を開始する。
「キコエタ?」
「キコエタ……『らんでるはうす』ト……」
『カプセル』の中でかわされた会話は、『カプセル』を見張っていた人魚達には筒抜けだった。 人魚達は聞き取った会話の内容を、彼女たちの
『オカアサマ』に伝え、それはシーラを経由して、ランデルハウス教授に伝えられる。
”お父様、『カプセル』がお父様を狙って動きだした……との事ですけど……”
「……はぁ!?」
教授は困惑し、聞き返したがシーラからそれ以上の情報は得られなかった。
「教授、どうしました?」
『セイレーン』相手に実験を行っていた太鼓腹が、背を向けたまま尋ねた。
「例の『カプセル』が動き出したらしいのだが……」
「へぇ、どこに向かってるんですかね」
「私を狙って、ここに攻めて来るらしい……」
半ば独り言のようにランデルハウス教授は呟き、太鼓腹が仰天して振り返った。
「ええっ!? どういうことです!?」
「わからん……」
「わからないって……」
事態は、想像すらしていなかった方向に動き出していた。
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