星から来たオッパイ
Part F (2)
某国との会議は2時間以上にわたり、教授は某国から『カプセル』、地球外生命体の発見の経緯、死骸の情報が提供され、今後は定期的に情報提供を
受ける約束を取り付けた。 その見返りとして、教授が独自に解析したキキ達の『カプセル』の内部記録を提供することになった。
”それだけでは不足だ。 教授が中東で発見した『カプセル』についての情報も渡してもらおう”
「それについては、レポートを公開した。 本も出版している。 100冊ほど送ろうか?」
”世間向けに公開した情報の事ではない。 教授は中東で『異星の知性体』と接触しているはずだ。 その体験は公表していない。 それを我々に開示
して欲しい”
責任者の言葉に、教授の表情が曇る。
「……体験をしたのは事実だ。 しかし、報告書は発表したものの『物証が無い』『私の主観と記憶が全て』という事で、黙殺された……」
”そう仕向けたのではないか? 我々の分析では、教授の報告書は肝心な箇所をあいまいにして、何かを隠している節があるようだ”
「……隠しているわけではない。 不正確な情報を開示することは、研究者の矜持が許さなかっただけだ」
”ではその『不正確な情報』も開示して欲しい。 情報の信頼性は我々の方で分析する”
教授は大きく息を吐いた。
「判った。 当時の日記と自身の体験についての見解を提示しよう」
”ご協力に感謝する”
某国の責任者の口元が微かな笑みを浮かべたように見えた。
「ランデルハウス教授。 あまり勝手に話を勧められては困りますな」
日本校の学長と理学部の学部長が苦虫の噛みつぶし比べをしていたが、教授は通り一遍の謝罪を述べただけで、会議室を後にし、エミと太鼓腹が後に
続く。
「なんだか大変なことになったようですけど、どういう事なんですか?」
太鼓腹は事態がのみこめない様子で尋ねた。
「うむ」
教授は頷くと、空いていた小会議室に二人を招き入れた。
「考えをまとめよう。 まず、さっきの会議の相手についてだが」
「某国の……調査機関と警察ですか」
「あの『責任者』には面識があった。 向こうが覚えているかは判らんが……以前、かの国にUMAを探索に行った時、軍にスパイ容疑で逮捕された。
その時の取調官があの男だった。 あの男は諜報関係の人間だな」
太鼓腹は面食らったような顔をしている
「へぇ。 参考までに聞きますが、容疑は晴れたんですよね?」
「UMAマニアの学者馬鹿で押し通した。 最後は呆れて解放してくれたが……全て見透かされているような気がして、背筋が寒くなったのを覚えている」
その時の事を思い出し固い表情になる教授。
「もし容疑が晴れなかったら?」
「私は行方不明になっていたろうな」
太鼓腹が目を丸くし、次にそんな馬鹿な言う顔になった。
「信じられんか? まぁ、実際無事でここにいるわけだが」
「それで、かの『責任者』、いえ某国は何をしようとしているのですか?」エミが尋ねる。
「多分、地球外生命体の『カプセル』を捕獲し、その技術を手に入れるつもりだ」
「捕獲ですか? その根拠は?」
「秘密にするはずの『『カプセル』と地球外生命体の死骸を発見した』と言う情報を開示してまで、私に協力を求めた。 もし、『カプセル』を確保していれば、
情報を秘匿して自分たちだけで調査研究するはずだ」
「彼らが言った通り、一度は発見したけど見失ったと?」
「そうだ。 彼らも馬鹿ではない。 発見場所の辺りは徹底的に捜索したはずだ。 それでも見つからず、藁にすがる思いで私に協力を求めてきたのだろう」
「それで、『カプセル』はどうなったのでしょうか?」 エミが尋ねた。
「うーん……探して見つからないという事は……やはり『カプセル』が自力で移動したのかも……」
「別の誰かが持ち去ったのかも」 太鼓腹が指摘する。
「キキ達の『カプセル』は100m以上あった。 今度見つかった『カプセル』がそれより小さいとしても、簡単に持ち運べるものではなかろう」
エミは手を顎に当て、考え込む。
「整理すると、某国が『カプセル』を見つけ、それを確保しようとした。 しかし、『カプセル』は行方不明となり、それを探すために、教授の協力を求めてきた」
「そんなところだろう」
頷く教授の横でエミは首をかしげた。
「あれ? じゃあ教授は何故協力することにしたんですか? 研究者の立場としては、情報公開を求めてしかるべきでしょう」
「そう言えば、教授は某国に協力する理由はないですよね」 太鼓腹もエミに同意する。
「それは……」
教授は厳しい顔つきになり押し黙る。 太鼓腹とエミはじっと教授の顔を見つめる。
数分間の沈黙の後、教授は顔を上げ、二人に向かって口を開いた。
「私は『カプセル』が脅威になる可能性を危惧している」
「脅威ですか? 『カプセル』が地球侵略の尖兵とでも?」
エミが呆れたような口調で言う。
「そこまでのことは考えていない。 どう説明すれば……そうさっきの会議で話題になった中東の『カプセル』の事だが」
「教授が見つけたもう一つの『カプセル』ですね」
「そうだ。 私はその時に『カプセル』の、いや『タァ』の知性体と情報交換を行った」
「さっきの話の通りですね。 平手く言うと『宇宙人と会話をした』と?」 エミが務めて冷静に言った。
「いや、そうではないのだ。 『タァ』の知性体は、私の体を乗っ取ろうとした。 その際、互いの記憶を共有、つまり私は『タァ人の記憶』見てしまったのだ」
エミと太鼓腹が目を剥き、何か言おうと口を開きかけ、言葉が道からずに口を閉じる。
「私はその体験の中で『タァ人』の考え方を知った。 彼らは……誤解を招きそうだが……生物を利用すべき『資源』として捉えている」
「資源ですか? 石油や石炭みたいに?」
「そうだ。 そしてその中には『人類』も含まれる」
「ち、ちょっと待ってくださいよ」 太鼓腹が両手を上げた。
「じゃ何ですか。 彼らは地球人を『燃料』に? いや、『食料』にするつもりなんですか!?」
「そうではないのだ……やはり『資源』ではなく……『乗り物』が近いかな」
「『乗り物』? 自動車や船のような?」 今度はエミが尋ねた。
「うむ。 さっき私は体を乗っ取られそうになった、と言ったな。 『タァ人』は自分の知性を体外に取り出し、他の体に移植する技術を有しているのだ」
教授の言葉に、エミと太鼓腹が絶句した。
「中東の『カプセル』を発見したとき、私にタァ人の知性が移植されかけた。 それは失敗に終わったが、それが成功していれば、ここにいるのは地球人
ランデルハウスではなく、地球人の肉体を持ったタァ人だったろう」
「……信じ難い話ですが」
「だろうな。 体験した私自身、いまだに疑っているぐらいだ」
「待ってくださいよ。 じゃぁ、あのキキ達のような鳥人は!?」
「彼女たちは、一種の実験だったようだが、その目的は判然としていない。 ただ地球生まれのキキ達にタァ人としての自覚はない」
「昔のSF映画……いや、今でも定番ネタにあるわね」
「エミさん。 そう言うのはSFでも何でもないですよ。 ……待ってください。 じゃあ教授が危惧しているのは……消えた『カプセル』にタァ人の知性体が
乗っていて、地球侵略を考えていると!?」
教授が苦笑する。
「そこまでは考えていないよ。 ただ、中東の『カプセル』でタァ人の考え方に触れて判ったが、彼らは地球人を『異星の友人』とは考えず、『大脳の発達
した土着生物』程度にしか見ないという事だ。 消えた『カプセル』が、どの様な目的をもって送り込まれたか判らないが……」
「『目的』次第では危険な存在となる だから、『『カプセル』が脅威になる可能性がある』という事ですか」
エミが教授の言葉を繰り返した。
「そうだ。 消えた『カプセル』に接触した某国の調査隊が全滅したという事から考えても、危険な代物である事は間違いあるまい」
「そうですね……参考までに、どの程度の脅威だと考えていますか?」
「危険性を判断するには、あまりに情報不足だ。 ただ『カプセル』がそれほど危険なものでなかったとしてもだ、『カプセル』が無関係な人々に危害を及ぼ
したりすれば、大変まずいことになる」
「それは何故ですか?」
「消えた『カプセル』による被害が発生したとしよう。 その起源が、キキ達の起源と同一という事が広まればどうなる? キキ達に対する一般大衆の感情
まで一気に悪化するだろう。 それは絶対に避けたい」
「なるほど。 それを心配していたのですか」
「でも教授。 『カプセル』によって被害が発生したとしても、僕らが黙っていれば判らないのでは?」
太鼓腹の言葉に、教授は首を横に振った。
「事実を知りながら黙っているのは無責任な行為だ。 責任をもって真実を語る、それに勝る策はない」
力を込めて語る教授に、エミが質問をぶつける。
「教授の思いは判りました。 それで、私たちはどうするのですか?」
「巻き込んですまないが、消えた『カプセル』の分析にエミ君、太鼓腹君の協力が欲しいのだ」
教授は声のトーンを下げた。
「私的な見解だが、タァ人の知性移植と『セイレーン』分身の頭脳侵入は、共通点がある様だ。 また『人外部隊』のメンバにもタァ人の持つ技術、いや
『技』と同じものを持っているように思える。 それを『カプセル』の技術解明」の手がかりにしたい」
そう言って教授は頭を下げた。
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