星から来たオッパイ

Part F (1)


 −−日本 マジステール大学 新実験棟−−

 エミとランデルハウス教授は、『パチ子』の取りついているVTRデッキを回収し、太鼓腹と電気科の留学生、ワジ・ハムに預けた。

 「ええと、アナログ接続で直結した場合で、出力はブラウン管式のTV、アナログ放送時代の液晶TV……あったかな」

 「倉庫をあさってみよう」

 「そうだな……でもこんなことを調べて、なんになるんですか?」

 ワジの質問に、ランデルハウス教授が答える。

 「まずは調べてみることだ、霊魂の伝送条件の研究など例がないはずだ」

 「『パチ子』は霊なんですか?」

 太鼓腹が突っ込みを入れながら、PCに条件を記録していく。

 「他に注意事項はあります?」

 「実験は『パチ子』が了解したときに限って。 嫌がる時はやめてあげてね」

 「それはもう。 霊の恨みを買うようなまねはしません……そういえば、『パチ子』さんを怒らせるとどうなるんですか?」

 「さぁ? 追っかけられたことはあったけど、捕まったらどうなるのかは聞いていないわね」

 ワジは実験器具を探しに部屋を出た。

 「さて、私はちょっと管理棟に行ってくる。 昨日連絡のあった地球外生命体の死骸について、連絡があることになっているんだ」

 教授が腰を上げると、エミが首をかしげた。

 「あれ? 調査は断られたんじゃなかったんでしたか?」

 「うむ。 その後から連絡があってな。 他にも何か見つかって、意見を聞きたいとのことだった」

 部屋を出て行く教授の後を、エミと太鼓腹が追いかける。

 「教授、お供します。 ちよっと気になることがあるので」「僕も」

 三人は話しながら新実験棟を出た。

 「気になる事とは?」

 「その前に、新しく見つかったものとは何です?」

 「発見した生命体が乗っていたとおぼしき『カプセル』が見つかったという話だ」

 「『カプセル』? 宇宙船が見つかったと?」

 「うむ。 その『カプセル』の形状と材質が、キキ達の『カプセル』に似ているようなので、私の意見を聞きたいとのことだ。 今回は電話でなく、ビデオ会議

システムを使うとのことだ」

 教授の話に、太鼓腹が突っ込みをいれる。

 「それなら、新実験棟の端末でいいんじゃないですか? 管理棟まで行かなくても……」

 「あちらから、専用のアプリケーションを送ってきた。 盗視聴防止機能がある奴をな。 ところがこいつが、ウイルスチェッカーに引っかかってな。 管理棟の

隔離ネットワークにPCを繋いで使う事にしたという事だ」

 「それ……やばい代物では?」 太鼓腹が目を剥いた。

 「そうだ。 真っ黒だよ」 ランデルハウス教授が答えた。

 「多分、私が『カプセル』について隠している情報があると踏んで、それを入手しようしているんだろう」

 三人は、管理棟に入った。

 「さて、エミ君が気になる事とは何かね?」

 「はい。 『地球外生命体の死骸が見つかった』という話でしたけど、いささか乱暴な判断のように思えて」

 「見つかった死骸が、『奇妙な寄生生物に取りつかれていた』と話をしたと思うが」

 「それだけでは、地球外から来た証拠にならないでしょう? でも今回『カプセル』が見つかったという事で、判ったような気がします」

 「む? なにが判ったと?」 教授は器用に片方の眉を上げて見せた。

 「はい、発見されたのは、多分『カプセル』が先だったのではないかと」

 整理しながらエミは自分の考えを教授に話す。

 「その北の某国では『カプセル』が最初に発見されたんだと思います。 そして、その中で死骸を発見した。 だから『地球外生命体の死骸』だと判断し、

その様に伝えてきた」

 「なるほど。 『カプセル』の事は秘密にして、死骸の事だけを伝えてきた。 だから飛躍した結論に聞こえた訳か」

 「ええ。 彼らは『カプセル』の事は秘密にしておきたかった。 何しろ異星人の宇宙船ですからね。 凄い宝物です」

 エミの推測に、太鼓腹は首をかしげた。

 「でも、それなら『死骸』の事も秘密にするのでは? 自分たちだけで調べればよいわけで、教授に意見を求める必要はないでしょう」

 太鼓腹の意見に、教授が頷く。

 「君の言う通りだな。 だとすると……何かのトラブルが発生したのではないかな?」

 「トラブルですか?」

 「そうだ。 自分たちで解決できるめどが立たない問題に、外部の専門家の意見を求めるのは当たり前の行動だろう」

 「そうですね……でもどんなトラブルでしょうか?」

 「それとなく聞いてみよう」

 三人は会議室に入った。

 
 会議室には、日本校の学長と理学部の学部長が来ていた。 彼らは、部外者のエミと、学生の太鼓腹に退室するように『命じた』が、ランデルハウス

教授が同席を強く主張した。

 「エミ君は、『セイレーン』騒動を収めるのに多大の功績があり、『人外の存在』の関係者です。 また、太鼓腹君は、言うまでもなく当校の誇る(?)電子妖精

『セイレーン』のオペレータです。 この二人をオブザーバとして同席させる必要がある、と私は判断しました」

 「……判った。 あちらが了解すれば同席を認めよう」

 苦い口調で学長は言い、TV会議のマイクをONにした。 すでに会議室の大画面に某国の会議室が映しだされ、教授の知り合いの検死官とその上司、

さらに調査機関の責任者という三人が映し出されている。

 ”部外者の同席は認められない”

 調査機関の責任者が言った。 表情が全く読めない。

 「部外者ではない。 この二人はUMAに遭遇した経験者だ。 よって未知の生命体の死骸に対して、知識を有している。 この二人の同席が認められ

ないなら、私も失礼させてもらう」

 いつの間にやらUMAの目撃者にされたエミと太鼓腹だったが、表面上は落ち着き払っている。

 ”やむを得ない。 この会議の議事内容については、外部に漏らさないことを約束するならば、同席を認めよう”

 「会議の内容については了承しよう」

 ランデルハウス教授が言い、会議が始まった。

 
 ”……以上が発見された死骸を解剖した結果だ。 その後、我々はその死骸の近辺を捜索し、氷原のクレバスの中に未知の物質でできた『カプセル』を

発見した。 その『カプセル』は、ランデルハウス教授が発見した『鳥人のカプセル』に酷似していた”

 責任者が報告書に淡々と読み上げるのを、ランデルハウス教授が制した。

 「その『カプセル』の画像を見せて欲しい」

 ”画像記録はない”

 「なに?」

 大学の出席者全員が驚いた。

 「そんなばかなことがあるか。 今時、画像の一枚もないなんて」

 「『カプセル』のライブ映像でいいから見せて欲しい」

 ”ない。 というのも、発見された『カプセル』自体が、行方不明になっているのだ”

 「はぁ?」 教授が呆れかえったと言わんばかりの表情になった。

 ”『カプセル』だけではない。 発見した調査隊、追加で派遣した調査班の全員が消息を絶った。 残されたのは、報告の音声録音だけなのだ。 その後、

再捜索を行い、氷塊の上で調査隊の装備の残骸を発見したが、『カプセル』と調査隊は未発見のままだ”

 会議室が静まり返った。

 「どういうことだ?」

 ”それを伺いたい。 状況から判断して、我々は『カプセル』が移動したと考えている”

 「移動した? 動いたというのか?」

 ”それを伺いたい。 『カプセル』は移動できるのか?”

 責任者が身を乗り出してきた。 ランデルハウス教授は、腕組みして考え込んだ。

 「キキ達の『カプセル』は岩にめり込んていたが……そうでなかったら移動……うーむ」

 ”つい先日、教授は『鳥人のカプセル』の研究班に重力制御の可能性を示唆したと聞いている。 重力制御で空を飛ぶことが出来るのではないか?”

 「耳ざといな、君らは。 いや、空を飛ぶとは思えないが……氷が割れて沈んだ……ひょっとして、海中を移動した?」

 ”海中を移動した? そんな機能があったのか?”

 「キキ達の『カプセル』と、君らが発見した『カプセル』が同一かは判らないが……気密構造の『カプセル』だ、推進力さえあれば水中を移動できるかも

知れない」

 ”ふむ……辺りの潜水艦に探させるべきか”

 『潜水艦』という言葉にランデルハウス教授が反応する。

 「一つお願いしたい」

 ”なにかね”

 「『カプセル』を……いや、海中を移動する未確認物体があれば、その情報を我々にも教えて欲しい」

 ”なに!?”

 責任者が驚いた表情を見せた。

 ”なんのためだ? それに、自国の潜水艦の報告を、他国の大学に知らせろ? そんなことができると思っているのか?”

 「あくまで希望だ。 別に知らせてくれなくてもいい。 まぁ、潜水艦が移動している『カプセル』を見つけたとして、方向と速度を調べることしかできない

だろうし」

 ”む……”

 太鼓腹がエミに小声で聞く。

 「なんか、あちらさん困っているようですけど?」

 「あちらは『カプセル』を手に入れたいのよ。 ところが『潜水艦がカプセルを見つけても捕獲手段がない』という事に気がついたの。 ここでランデル

ハウス教授の『希望』を断ってへそを曲げられると、後々、教授の助けがもらえなくなるし」

 「でも教授になんとかできるんですか?」

 「さぁ? たぶん教授にも対処手段はないでしょうけど」

 ”やむを得ん。 潜水艦が『カプセル』を発見したら、出来る範囲で情報を送る”

 「よろしくお願いする」
 
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