星から来たオッパイ

PartE (4)


 −−日本 マジステール大学 グラウンド脇−−

 ランデルハウス教授は大学の管理棟から、新実験棟に向かっていた。 エミが隣を歩き、教授と話をしている。

 「教授、何故『某国』は教授に問い合わせをしてきたのですか? 『地球人でない』人間の死体が漂着したなんて。 本当だったら、関係者全員の口を

塞ぎかねないでしょう、あの国は」

 「うむまぁな……」

 教授はちょっと遠い目をした。

 「もし……そう『宇宙船』が漂着したとでもいうのなら、そう言うことになったろう」

 エミは乳首を傾げた

 「というと?」

 「漂着したのは、裸の女性だったらしい。 扱いは小さいが、全国のニュースにも流れたそうだ。 ところがだ、検死の為に司法解剖してみると、おかしな

点が幾つも見つかったそうだ」

 「おかしな点ですか? 宇宙人の死体なら、目がアーモンド形だとか、異様にやせ細っているとか?」

 「いや、外見上は特に変わった点はなかったらしい。 異様に乳が大きい以外は」

 「はぁ……」

 「ところがだ、解剖を進めていくと、胸の辺りから人間の組織に見られない構造が発見された。 検死にあたった医者は、最初は腫瘍か何かを疑ったが、

それにしては構造が整いすぎている。 思い悩むうちに。私の事を思い出した」

 「というと? お知り合いだったんですか」

 「北極にUMA探査に行った時に意気投合してな、バーで一晩語り合ったのだ。 それはともかく、私に意見を求めてきたのだ。 『胸部の構造が奇妙な

死体が漂着した。 まさかとは思うが、宇宙人ではなかろうか』とな」

 「冗談にしか聞こえませんが」

 「それを狙ったらしい」

 「え?」

 「かの国ては、外国への電話は間違いなく当局に盗聴されている。 しかし、その内容が『宇宙人の死体が流れ着いた』だったら、どう思う?」

 「……本気にはしないでしょうね」

 エミは肩をすくめた。

 「もっとも、教授は『宇宙からの来訪者』を発見したと発表していますから。 当局も本気にするので?」

 「いずれはそうなるだろう。 お役所と言うのは頭がコチコチに固まった連中ばかりだ。 盗聴の担当者が検死官と私の会話を真に受けてだ、『検死官が

宇宙人の死体について、外国の教授に情報をリークしました』なんて報告をあげられるかね?」

 「そうですねぇ」

 「検死官は、自由に動けるうちに情報を集め、外部と情報共有をしておきたかったらしい」

 エミが足を止めた。

 「何故です? 外部と情報を共有したかったと言うのは?」

 ランデルハウス教授はすぐには答えなかった。 1分ほどの沈黙の後、口を開いた。

 「死体の死亡時期が問題だったのだ。 検死官の見立てでは、死後三日と言うところだった。 しかし……脳がひどく損傷していて、それから判断すると

一週間以上前に、死んでいたはずだというのだ」

 「……まさか……ゾンビ?」

 「リビング・デッドと言うべきだろう。 念のため、体の数か所から検体を採取し、遺伝子解析を試みたところ、驚くべき結果が出た」

 「それは?」

 「胸部、いや乳房とそれ以外の部分の遺伝子は、全く違うものだった。 つまり、人間の死体に乳房、いや『おっぱい』上の生物がが張り付き、それを

動かしていた、そう考えているらしい」

 エミは教授の顔を見た。 老年に差し掛かった男の顔には、暗い影が落ちているようだった。

 「教授は? 彼に何と答えたんですか」

 「私の知る限りでは、そのような生物……いや寄生生物はいない、少なくともこの地球上には、と答えた」

 「地球以外では? あの……」

 「『タァ』か……判らんが……彼らの技術なら、そう言う寄生生物を作ることも可能だろう」

 「では?」

 「結論を急いではいかん。 私はその『おっぱい』の現物を見ておらん。 今の話は、仮定に仮定を重ねたもので、証拠も根拠もなきに等しい」

 「そうですけど……」

 「できればこの目で確認したい……そう思って大学を通じて調査を申し入れようと思ったのだが……」

 「断られた」

 ランデルハウス教授は残念そうに頷いた。

 「何も起こらなければ良いのだがな」

 
 「さぁ、さぁさぁ!!」

 「よいせぇ!!」

 教授とエミがグラウンド入り口の辺りまで来ると、臨時学祭の準備のため大勢の学生が働いていた。 鉄パイプで足場を組む者、看板を作る者、電飾の

調整を行う者、皆一生懸命だ。

 「にぎやかだのぅ……どれ、テーマは……『明日へ備えよう!』」

 「未来のことを考えるのは有意義ですね」

 二人が立て看板や催し物の案内を眺めながら歩いていた。

 
 「どいたどいたぁ」

 電線やモータを積んだ軽トラが二人を置追い抜き、グラウンド入り口に停車する。 台車を持ってきた学生来て、荷物を積みかえてグラウンドに運び入れる。

 「何が始まるの?」 興味深げにエミが尋ねる。

 「スコアボードの電光掲示板ですよ。 あれを修理して、TV画面を映しだすんです」

 「あら、壊れての?」

 「そうじゃないんですけど、最近は放送もビデナもデジタルでしょ? あれ古くて、アナログ回路の制御装置しかないんです。 デジタル画像を出すには、

アダプタが必要なんですけど、特注になるんで凄く高くつくんです。 それで電気科と電子科の有志で、アダプタを作って使える様にしようかと」

 「ほう、それは面白そうだ」

 「ほんと」

 学生は照れて頭をかく。

 「たいしたことじゃないですけど、ほんと。 ぶつ切りのデジタルデータから画像と音を拾って、アナログ回線にのっけるだけですから」

 「いやいや、なかなかたいしたもんだ」

 感心するランデルハウス教授の横で、エミがはっと目を見開いた。

 「ぶつ切り……デジタルはぶつ切り……」

 エミは学生の処に行き、にっこり笑った。

 「え、なんです」

 エミはかなりの美人だ。 それも、可愛い系ではなく、色っぽお姉さん系、そんなエミに近寄られると、大抵の学生は前を隠す羽目になる。

 「デジタルの画像信号っどうなってるのかしら。 そう、アナログ信号との違いなんだけど」

 学生はちょっと考えて答える。

 「ずいぶん違いますけど……そうですね、TVのアナログ信号は連続した信号を送って来て、画面にこう……」

 学生は素早くてを左右に振る。

 「電子ビームを当て、画面を発光させて絵を出します。 デジタルの場合は、画像と音声を、表示タイミングのタイムタイミングデータとセットにして送り、

それを受信機側で取り出して絵を作ります」

 「画像がパーツに分けられているの?」

 「そうとも言えます……ジクゾーパズルってありますよね? あのピースの形を横長の短冊にして、並べていると思えば近いかな?」

 「そう。ありがとう」

 エミは学生に礼を言った。 ランデルハウス教授が尋ねる。

 「今の質問の意図は何かね?」

 「ええ、ちょっと思いついたことが……確かめてから話します」

 「そうか……では後で聞かせてもらうことにしよう」

 二人はその場を離れ、新実験棟に向かった。

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