星から来たオッパイ

PartD (2)


 −−日本 妖品店ミレーヌ −−

 エミと麻美は、教授のインタビューが終わった後、ここに来ていた。 ちなみにミスティは、スーちゃんを伴ってどこかに消えてしまった。

 「……何か、聞きたいことがあるとか?……」

 「ええ。 今日、ミスティが瞬間移動を使って見せたんだけど……」

 エミが言い終わる前にミレーヌがいきなり立ち上がり、二人を驚かせる。

 「使ったんですか!?……なんてことを……」

 「え、えーと……」

 「まずかったの? 雑誌を数mほど移動させたけど……」

 エミの言葉に、ミレーヌはほっとした様子を見せ、椅子に座りなおした。

 「……当人が移動したのではないのですね……ならば、問題はないでしょう……後始末が大変ですから……」

 「後始末? たしか『危ないから止められている』とか言ってけど……」

 「……それは本当です……離れた場所に移動するほど……危険が増します……もっとも、別の問題があるのですが……」

 「別の問題?」

 聞き返すエミに、ミレーヌが答える。

 「……貴女の言う『瞬間移動』でミスティ自身が移動すると、『ミスティ』だけが移動します……」

 「それで?」

 「……その場合、『ミスティ』以外は移動しません……」

 麻美はミレーヌの言葉の意味が判らず、首をひねった。 流石にエミは、ミレーヌの言わんとしたことを悟る。

 「という事は、『ミスティ』以外は移動しない。 つまり、着ている服がその場に残るの? 確かにそれは問題ね」

 「……それだけではありません……『ミスティ』の体の中の物、具体的には消化途中の飲食物、そして排泄物も……」

 一瞬、間があいた。

 「あの、それじゃ……」

 「……『ミスティ』が瞬間移動すると……その場に、汚物にまみれた衣服が残されるのです……」

 しばしの沈黙。 そして

 「それは確かに問題だわ」

 エミと麻美は、ミスティに瞬間移動を使わせないことを固く誓った。


 −−某国 北極海に面した集落−−

 集落が海から来た女達の襲撃を受け、一日が過ぎた。 下働きをしていた子供ら5人は、宿泊所に集まって息をひそめて隠れていた。

 「なあ、これからどうする」

 「……」

 女達はここにもやってきたが、子供らは食料保管用の冷蔵庫に隠れて難を逃れた。 しかし保管庫からでると、集落の中は静まり返り、誰も残っていない。

 「アニキたちだけで逃げ出したんだ」

 「逃げるなら、ここに食料を取りに来るはずだろう」

 「じゃあどこに行ったんだ!」

 「知るかよ!」

 「なあ、今のうちに逃げた方がよくないか?」

 「歩きでか?」

 集落の乗り物は、全て女達に壊されていた。 逃げるなら徒歩しかないが、近くの村まで大人の足でも二日はかかるし、途中の草原や森には、狼や熊が

出る。

 「また奴らが来たらどうするんだよ……」

 「もう来ないかもしれないぜ」

 彼らは大人にこき使われているだけだったので、自分たちで考えて行動する習慣がなかった。 言い争いをしているうちに、日が沈んでしまう。

 「日が暮れちまった。 もう、今日は動けないぜ」

 「仕方ない、ここで夜明かしして、明日どうするか決めよう」

 子供らは、結局その場に留まることを選択した。 生き残るためには、ある意味正しい選択だったかもしれない。

 
 「交代で見張りをしないと」

 「外に出るのかよ。 凍え死ぬぜ」

 「じゃあ窓から覗いてろよ」

 年かさの少年に言われ、一人が窓から外を見る。 そして、声を上げた。

 「き、来たぁ!」

 全員が窓に殺到する。 海の方から燐光を放つ人影が数人、こちらに歩いてくる。

 「ど、どうしよう」

 「また食糧庫に隠れよう」

 5人は、泡を喰って宿泊所の寝室から飛び出す、しかし。

 ガタン!!

 宿泊所の入り口の方から大きな音がした。

 「もう来た!」

 「駄目だ、食糧庫は入り口からすぐ。 今からじゃ間に合わない」

 「ひっ!」

 1人が廊下の端を指さした。 角の向こうから青白い光がさしてきていた。 5人は、たった今出てきた寝室に飛び込み、ドアを閉めて鍵をかける。

 「窓を塞げ!」

 1人が窓を開け、風よけの鎧戸を閉めて閂をおろす。 冬の嵐を防ぐものなので、閉じてしまえば、まず外からは開けられない。

 「よ、よし入り口を固めよう」

 力を合わせて寝台を動かし、ドアの前に置く。 内開きのドアなのでは、まず開かないはずだった。

 「後は……どうしよう」

 「ぶ、武器を探せ」

 クローゼットを開け、引き出しをひっくり返して武器を探す。 寝室に武器は置いていないはずだったが、何かしていないと怖くて叫び出しそうだった。

 トン……

 ドアがノックされた。 その音に全員が凍り付いたように動きを止める。

 ……そこにいるの?……

 女の声が、ドアの向こうから聞こえた。

 ……ねぇ……入れて頂戴……

 子供らは顔を見合わせた。

 「来た……」

 「どうしよう……」

 1人が別の寝台を立てて、バリケードにして、その陰に隠れる。 他の4人は慌ててそれに倣う。

 ……あけてくれないんだ……

 ガタガタとドアを揺する音がする。

 ……どうしたの……

 ……この中にいるみたい……

 ドアの向こうに、女達が集まって来たようだ。 ドアの下の隙間から、青白い光が漏れてくる。

 「ひ、光ってるな」

 「昨日の晩、ちらっと見たときは光ってなかったけど……別のやつかな」

 ……どいて……

 ……どうするの?……

 ……こうするの……

 女達が何か始めたようだ。 と、ドアに黒い点が現れた。 黒い点はみるみる広がっていく。

 「ド、ドアが」

 黒く変わった所から白い煙が上がりはじめ、続いてぼろぼろと崩れ落ち、穴が開いていく。 そして……

 「やっぱりここにいたんだ……」

 青白い光を放つ女達が、ドアに空いた穴から中に入って来た。
 
 【<<】【>>】


【星から来たオッパイ:目次】

【小説の部屋:トップ】