星から来たオッパイ

PartD (1)


 −−日本 マジステール大学 −−

 エミはマジステール大学の門をくぐり、『新実験棟』に向かっていた。 昨日に続いて、インタビューしたいというランデルハウス教授からの連絡があったのだ。

 グラウンドの脇を抜ける時、スコアボードの電光掲掲示板にTVのニュース画面が映っているのに気がつく。 周りに足場が組まれ、学生が数人作業して

いる。

 「臨時の学祭で、何かやるつもりかしら?」

 エミは、横目でスコアボードを見ながら歩を進め、『新実験棟』に入った。 教授は『セイレーン』の所にいるという話だった。

 
 「やぁ、悪かったね。 呼び出して」

 教授は手を広げてエミを迎えた。

 「いえ、特に用事もありませんでしたから。 それで? ご用件は、昨日の続きと言うことですか?」

 エミの質問に、教授は頷いて見せる。

 「君たちへのインタビューをまとめているうちに、幾つか判らないことが出てきた。 それで質問したいと思ったのだ。 こちらから出向いた方が良いかと

思ったのだが……」

 「それはちょっと困ります。 如月さんはこちらの付属高校に在籍しているので連絡先はご存じでしょう。 でも私やミスティは住所を開示するつもりはあり

ません」

 「うむ、そうだろうと思った」

 教授とエミは、実験室の隅にある机に、向かい合わせに腰を下ろす。 広い実験室には『セイレーン』の端末や、昨日実験に使っていたTVが置かれ、

そこで学生が実験の準備をしていた。 何人かはエミが気になるようで、ちらちらとこちらを見ている。

 「さっきまで、『セイレーン』にインタビューさせてもらっていたのだ」

 「『セイレーン』にですか?」

 エミは聞き返した。

 「コンピュータへのインタビューですか? 興味深い話ですけど、収穫はありましたか?」

 「うむ。 あれは凄いな。 独自アーキテクチャのコンピュータだという話だが、自我があるようだ。 あれも、私が捜している『会話ができる人間以外の

知性』だな」

 口調は落ち着いているが、『セイレーン』に対して並々ならぬ関心が感じられた。 エミは教授の態度に感心しながらも、話を戻そうとした。

 「それで教授、私たちへの質問とは何ですか?」

 「おお、すまん。 質問したかったのは、君達が『どこから』来たのか、という事だ」

 「『どこから』、ですか?」

 エミが聞き返したのは、教授の質問の意味が判らなかったからだ。

 「うむ。 昨日話したが、キキ達の卵は地球外からきたらしい。 しかし、キキ達がどこから来たのかと問えば、地球上の……そう、『鳥人の集落』から来た、

というのが正確だろう。 同様に、君やミスティ君が生まれ育ったのは、どの様な土地、環境だったのか。 それが知りたいと思ってね」

 「教授……」

 エミは困り果てた、という表情を見せた。

 「それこそ、今の住所以上に、教えるわけにはいかない事ですわ」

 「やはりそうか……いや、ダメだろうと思ったのだが」

 教授は謝罪した。

 「教授、何故私たちの出身地に興味があるのですか?」

 「理由はいろいろあるが……まぁ、君達を知る上での手掛かりの一つとして、かな」

 「はぁ……」

 どう反応すべきかエミが考えていると、ドアが開いてミスティと麻美が入って来た。

 「あれ、エミちゃんも来てたんだ」

 「こんにちわ」

 あいさつを交わしたところで、教授はエミに聞いたのと同じ質問をミスティにした。

 「答えることが出来ないなら、それでもかまわない」

 教授は付け加えた。 ミスティは、いつになく考える風になる。

 「んー……どこで生まれ育ったか……どこなんだろう」

 エミがミスティをちょっとにらむ。

 「自分の育った場所も知んのか」

 「知らない」

 ミスティが答えた。 いつものお気楽な調子が消えた声で。

 「私は、自分が何者なのか、いつ、どこで生まれたのか知らない」

 エミと麻美、教授が思わずミスティを見返した。 能面のような顔には、一切の感情が消えていた。

 「……なーんて♪」

 一気にいつもの調子に戻るミスティ。

 「……多分、海の向こうだと思う♪」

 その答えに、教授が首をかしげた。

 「この国の生まれじゃないのかね? では、どうやってこの国に来たのかね? 差し支えなければ、教えてもらえるか」

 「船か飛行機なんじゃないですか?」 麻美が聞き返した。

 「国外から交通機関を使うには、パスポートが必要だろう。 密入国でなければだが」

 「そんなもの使わなくっても、ミスティには超能力がある♪」

 ふんっと胸を張って見せるミスティ。

 「何、超能力とな」

 教授がずいっと身を乗り出した。

 「それは凄い! どんな超能力があるのかね?」

 「ちょと待ってください教授。 ミスティ、あなたも適当な事を言わないで」

 教授を止めつつ、ミスティに目くばせするエミ。 意味は『迂闊に何でもしゃべるな』であるが、あいにくミスティには伝わらない。

 「なんでもできるよぉ♪」

 「なんでも? ヘーえ?」 皮肉っぽくエミが割り込んだ。

 「じゃあ日本へは……そう、テレポーテーションでも使ったの?」

 「そうじゃないけどぉ……あ、でも、そのテレホって使えるよ」

 エミが目を剥き、教授が身を乗り出す。

 「瞬間移動ができる!? よ、よければ一つやって見せてもらえるか?」

 「うん……あ、駄目だ。 使うなって言われてたんだ、おば様に」

 「駄目? 何故かね?」

 「危ないからって」

 「危ないのか?」

 ミスティは首を縦に振った。 教授とエミは、どう危ないのかを聞いたが、ミスティ自身にも判っていないようだった。

 「そうか、無理強いはできないな」

 残念そうに教授は言い、エミと麻美も同じ思いの様だった。 それを見たミスティは、考え込む様子になり、ポンと手を打った。

 「ミスティじゃなくて、何かほかの物を移動させる。 それでもいい〜?」

 「それなら危なくないのかね? 差し支えなければ、是非見せて欲しい」

 教授がそう言うと、ミスティは机の上にあった雑誌を手に持取った。

 「これを……あの辺に送るね♪」

 ミスティは、『セイレーン』の端末の辺りを指さした。 教授が頷いて肯定の意を示す。

 「ほい」

 ミスティの手から雑誌が消え、『セイレーン』の端末のある当たりの空中に出現した。 雑誌は、一瞬宙に浮いた状態になり、それから床に落ちてバサリ

と音を立てる。

 「おい! なにするんだよ」

 傍にいた学生が文句を言った。 彼はミスティたちを見ていなかったので、彼女が雑誌を投げたと思ったようだ。

 「……」

 絶句する教授とエミ、麻美。

 「す、凄い……これは本物だ」

 「確かに……あ、でも今雑誌が床に落ちましたよね……」

 エミの言葉に、麻美は『それがなに?』と言う顔をした。 が、教授はエミの指摘の意味に気がついた。

 「仮に、彼女が『飛んだ』で、空中に出てしまったら……そのまま地面に落下してしまうわけか」

 うむうむと頷く教授とエミ。 エミはミスティに尋ねる。

 「ミスティ、貴女は空飛べる?」

 「飛べない。 だから、前にエミちゃんに抱えてもらったじゃない」

 「昔の事よね……」

 その後、教授はミスティにいろいろと尋ねたが、ミスティの答えがいまいち要領を得ず、有益な情報は得られないまま、インタビューはお開きになって

しまった。
 
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