星から来たオッパイ

PartC (3)


 −−某国 北極海に面した集落−−

 謎の女達の襲撃を受けてから一日が経過した。 集落の抵抗が予想外だったのか、女達は浜辺から海の中に引き返した。 防衛に成功した集落側だったが

リーダーと一名が行方不明となってしまった。 残った集落のメンバは、中央の集会所に集まって善後策を話し合っていた。

 「ここから離れよう! 奴らはまたやった来る!」

 「離れるってどこへ?」

 「どこでもいい! 近くの村でも町でも、そこに行って警察か軍隊に話をして……」

 「取っつかまって、刑務所にほうりこまれるのか? おれたちゃ、お尋ね者ばかりだぞ」

 逃亡を主張していた男が言葉に詰まる。 ここにいる者の大半は、警察に顔をだせばその場で逮捕、へたをすれば問答無用で射殺されかねない凶状持ち

ばかりだ。

 「ガキどもだけでも逃がすか?」

 集落には、年を取った幹部達とその下で実務をこなす若者たちがいたが、他に身寄りのない子供たちが十数名居住していた。 子供らは、炊事洗濯など

雑務のために働かされていた。

 「お優しいこったな。 下働きがいなくなれば、自分でメシ作る羽目になるぞ。 大体、ガキどもは身寄りがないか、親から買いと知った奴らばかりだろうがよ」

 逃げるかここに留まるか、二つに分かれて相談というか、言い争いをしていた。 そこに突然扉が開き、若い男たちが飛び込んできた。 中にしたメンバが

驚いて飛び上がる。

 「お、おどかすな! 見回りに行ってたんじゃねえのかよ」

 息を切らせて中に入って来たのは3人。 集落の中を見回りに行ってきた下っ端だったが、ひどく興奮していて話す言葉が意味をなしていない。 水を

飲ませてやると、ようやく落ち着いて話せるようになった。

 「やられた! クルマの飛行機も動かせねぇ!」

 「なに? どういうことだ!」

 「ガソリンのポンプが壊されてる! クルマと飛行機はガソリンを抜かれてた!」

 聞いていた男たちの顔が蒼白になった。 一番近い村までは、優に百キロはある。 乗り物なしで行くのは難しい距離だ。

 「おい、だれか詳しい奴が見てこい! 一人で行くなよ!」年長の男が言った。

 「まてよ、いつからあんたが仕切るようになったんだ?」下っ端の一人が不満げに言った。

 「なにぃ……」

 にらみ合う二人の間に、中年の男が割って入る。

 「よせ。 こんな時に仲間割れしてどうなる。 そんなことをしてる場合じゃないのは判るだろう?」

 諭すような言い方で双方を納める。

 「誰が指揮を執るかは、全員が揃ってから納得できる方法で決めればいい」

 「しかしよぉ……」

 「海から来た女ども、クルマや飛行機を動かせないようにして、俺達を足止めにした。 化け物か何かわからんが、知恵が回るってことだ。 仲間割れしてると

全員奴らの餌食になるぞ」

 この一言が効いた。 男たちは、普段はそれぞれ自分の受け持ちの仕事がある。 自分たちの仕事場が無事か、確認して戻ってくることにした。 残った

のは幹部級のメンバだ。

 「その後はどうする?」

 「逃げるか、助けを呼ぶか、俺たちだけであの女達を撃退するかのどれかだろう。 他に手があるか?」

 幹部たちはお互いの顔を見合わせる。

 「クルマと飛行機が駄目なら、逃げ出せねぇぞ」

 「船があるだろう」

 「馬鹿! 女どもは海から上がって来たんだぞ!」

 「船を出して全力で突っ切れば、逃げ切れるんじゃねぇか?」

 言われて全員がなるほどと言う顔になった。

 「海から上がって来たんで、反対方向に逃げることばかり考えていたな」

 「ああ、悪くねぇ」

 ちょうどそこに、乗り物の整備担当者が戻って来た。

 「悪い知らせだ。 船もやられている。 部品が抜かれていた」

 「なんだって!?」

 驚く一同のなかで、先ほどの中年の男が口を開いた。

 「これではっきりしたな。 あの女どもは人間並みの知恵を持っているぞ」

 「宇宙人なのか?」

 「そんなこと知るか。 しかし、乗り物がガソリンで動くことを知っていて、そこを壊せるんだ。 知恵が回ることは間違いねぇ」

 「冗談じゃねぇ! 逃げよう!」青くなった一人が叫ぶ。

 「どうやってだ、クルマも飛行機も船も駄目なんだぞ!」

 「カヤックがある! それと漁船には、帆が付いている奴がある」

 おおっとどよめく一同。 しかしすぐに問題点が指摘される。

 「エンジン付きの船なら突っ切れるが、カヤックだと無理じゃないか? 帆付き漁船も、沖まで出て風を捕まえないと」

 「気づかれない様に、そっと出ればいい!」

 「それなら隣村まで歩く方がいいと思うぜ。 2、3日もあれば徒歩でも行けるだろう。 それにあの女達は、海からあまり離れないんじゃないか」

 「なんでそんなことが判る!」

 「判らねぇよ。 ただ、海から出てきた連中だから、なんとなく陸に逃げた方がいいような気がするだけだ」

 この『陸路の方が安全』説は、感覚的には納得できるものがあった。 そこに、新たな情報がもたらされる。

 「通信ができないだと? 通販期まで壊されていたのか」

 「いや、そうじゃないんですけど」

 通信機の担当者が首をひねる。 この男は大学を出ており、集落の中では電気系の管理を任されている。

 「長距離通信の電波が不通なんです。 携帯電話の局間通信も、衛星電話も駄目です」

 「アンテナを壊されたんじゃねぇのか?」

 「見た目は無事ですし、集落内の携帯は使えますから、その可能性は低いでしょう。 磁気嵐が起こった時の障害と似ていますが、あれよりもっとひどい

状況です」

 血相を変えて、通信担当に詰め寄る幹部を中年の男が宥める。

 「こいつのせいじゃないだろうが…… それで、なおる見込みはあるのか?」

 通信担当は、青い顔で首を横に振った。

 「原因が通信機でないとすると、女達が妨害している可能性が高いでしょう。 ならば、回復する見込みはありません」

 重い空気が室内に流れた。

 「助けを呼べねぇとなると……」

 「逃げるしかあるめぇ」

 そこから先は話が早かった。 逃げるとなれば、誰が仕切るとかは関係ない。 隣村まで歩いて行けるだけの水と食料、野営の道具をそろえるだけなの

だから。 幹部達の指示で、大部分の者は逃亡の準備に取り掛かった。 一方で、武器を集め、集会所の防備を固める作業も行われた。

 「逃げだすんなら、ここを守る必要はねぇでしょう?」

 首をかしげる下っ端たちに、中年の男が厳しい顔で告げた。

 「女どもは乗り物を使えない様にして、通信を妨害している。 俺達が外と連絡を取ることを阻止する気だ」

 「はぁ」

 「それに頭も回る。 俺たちが明日にもここを引き払うことは予想しているだろう。 となればだ、今夜にもここを襲撃してくるぞ。 そして今度こそ、俺達を

皆殺しにするに違いない」

 「げっ! じゃぁすぐに逃げ出さないと!」

 「水も食料も無しで逃げられるか。 それに夜は、少なくともこの辺りでは移動も野営も危険だ」

 「う……ですが」

 「明日の朝、夜明けと同時に出発する。 そして、今夜は襲撃がある前提で、ここで守りを固める」

 否も応もなかった。 幹部たちの指示に従い、下っ端と下働きの子供たちは、集会所の防備を固めた。

 「順番に不寝番に着け。 今夜だけ持ちこたえれば、明日には逃げ出せる」

 そしてその晩、予想通り襲撃があった。
   
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