星から来たオッパイ
PartB (6)
ランデル教授はお茶を飲んで一息いれると、湯のみをテーブルに戻しながら話をつづける。
「ところで、麻美君はキキ達との出会いで、私の望みがかなえられたと言ったね」
「はい」 麻美が頷く。
「厳密に言うと、望みは達成できていない、と私は考えている」
教授の発言に、エミが反応する。
「それは、どの様な意味でしょうか?」
「うむ。 キキ達は地球で卵から孵化し、同族だけで小さなコロニーを作って生活していた。 しかし、彼女たちのコロニーは、外界と隔絶していたわけ
ではない。 地球人の集落と接触し、少なからず地球の文化の影響を受けていた」
「そういうことですか」
エミは教授の言わんとすることを理解したが、麻美はよく判っていない様子だ。
「また、彼女達を送り出した者は、彼女たちに故郷の文化を伝えるため、卵と一緒に教育用のシステムを宇宙船に搭載していた。 しかし、キキ達がそれを
利用した形跡はなかった。 つまり、彼女たちは生物学的には『人外』だが、その知性……思考形式の方が近いかな……それが、地球人の影響を強く
うけた、いや、実質彼女たちは地球人と言うべき存在なのだよ」
「えーと……『考え方が、人間と変わらない』という事ですか?」
麻美が言うと、教授が頷いた。
「そういう事だよ」
「残念でしたね」
麻美が言うと、教授は首を横に振った。
「彼女たちが地球人の間で暮らすうえでは、その方がいい。 研究の対象にはできないがね」
さして断念そうでもない教授に、エミが考えこむ風で尋ねる。
「すると、ここの『電子妖精セイレーン』も研究対象にはならないのですね? あの子は、人の手で作られた人工の知性体で椅子から」
「そうだね。 ただ彼女の場合、人間の体を持っていない訳だから、その方面からは研究の余地がある。 彼女が協力してくれればだが」
教授の言葉に、エミが微かに表情を緩めた。
(学者馬鹿だけど、相手の気持ちを最優先するのよね、この先生。 だから好感が持てるんだけど……)
ドタドタドタ……
措置が騒がしくなった、と思ったら扉が勢い良く開いて、変な女が飛び込んできた。 びっしょり濡れた白い着物をきたザンバラ髪の女が、四つん這いで
部屋の中に飛び込んできたのだ。 その後から、古いテレビとビデオを乗せた電動車いすがついてくる。 先の女の腰に縄が巻き付き、その先が車いすの
上のテレビ画面へと消えている。
「やぁ♪ 『パチモン子』ちゃんだ」 ミスティが言った。
「誰だね? 彼女は」 教授が尋ねた。
「お探しの『人外部隊』の一人ですよ。 ある映画に出てくる……悪霊にそっくりなので、悪霊の『パチモン』と言う意味で、『パチモン子』とか『パチ子』とか
呼ばれています」 とエミ説明した。
教授は『パチモン』の意味が判らず、細かい説明をエミに求めた。 エミが教授に『パチ子』について説明している間に、ミスティと麻美が『パチ子』に、
部屋へ飛び込んできた理由を尋ねた。
「え? 理工学部と医学部の教授に追われている? なんで?」
『パチ子』が答え前に、その理工学部と医学部の教授たちと学生たちが部屋に飛び込んできた。
「いた!! 君、ぜひわが天文学研究室に協力を!!」
「いやいや! 物性物理研究室に」
「医学部に来てくれたまえ。 君の力があれば……ああ、また逃げた!」
『パチ子』はテーブルを回り込んで教授達の背後にでると、そのまま部屋から逃げ出した。 教授連が白衣をひるがえしてその後を追う。 エミは学生の
中に顔見知りを見つけ、首根っこを?まえる。
「待ちなさい。 確か、太鼓腹君だっけ? 何があったのよ。 説明して」
振り返った太鼓腹は、間近に見たエミの顔に顔を赤らめつつ、状況説明を始めた。
「この間の事件で、『人外部隊』に参加した人……じゃないな、人外のお姉さんたちが、大学に出入り自由になったでしょう? それで、あの『パチ子』さん
が、琴先生の講義を聞きに来てたんですが……」
「悪霊が、コンピュータの専門家の講義を聞きに来たの?」
「はい、興味があるらしくて。 ま、それはおいといて。 『パチ子』さんが、この間監視カメラのケーブルを辿って、警備室に侵入したでしょう? あれに
理工学部の天文学の先生と、医学部長の先生が興味を示したんです」
「天文学と医学部? なんで?」 エミが困惑した様子で聞き返す。
「はい。 天文学の教授は『今度打ち上げる月探査機の着陸船にTVを取り付け、そこから月面にでて、月面探査を行って欲しい!!』と言ってまして」
太鼓腹の説明に、エミが目を輝かす。
「その手があったか! それがうまくいけば『パチ子』は初の月面探査悪霊に! いや、月だけじゃない! 火星にだって!!」
興奮するエミに、太鼓腹がたじろいだ。
「火星のことは、天文学の教授も言ってましたよ。 医学部の方も似たような話で、内視鏡の先から『パチ子』が出られないか実験したいと。 うまくいけば、
内視鏡だけで細かい手術も可能になると期待しているようでした」
興奮して「凄い」を連発しているエミに、ランデルハウス教授が声をかけた。
「その『パチ子』君がどんな存在か、私には知識がないが、真空の中に出ても大丈夫なのかね? それに、月は地球のバンアレン帯の外にあって、強い
放射線や高速の粒子が降り注いでいる。 それも大丈夫なのかね?」
ランデル教授の疑問に、太鼓腹は両手を広げて見せた。
「悪霊が、真空中で行動できるか。 放射線への耐性があるかなんて、知っている人はいないでしょうし、データもありませんよ」
「そりゃそうでしょうね」とエミが相槌を打つ。
「もう死んでるんだし、大丈夫じゃないの〜♪」 とミスティが混ぜ返す。
「いや『パチ子』君が悪霊だとしても、死んでいるとは言えないんじゃないのかね? それに、真空や高い放射線の中に出て大事腰部か、事前に確認
する必要が……いやいや、それ以前に『パチ子』君本人が、月探査や内視鏡手術に協力してくれるよう同意を取り付けるのが先だろう」
しごくもっともなランデルハウス教授の言葉に、太鼓腹が頷いた。
「僕もそう思います。 それで、先生方は彼女に同意させようと、朝から追いかけまわしているんですが……」
「逃げ回っている、ということは嫌がっているんじゃな」
太鼓腹はもひとつ頷くと、大きなため息を吐いた。
−−某国 北極海に面した集落−−
海に面した小さな集落があった。 集落に入ってから、5分も歩けば抜けてしまうような小さな集落で、海と反対側には地面をならしただけの滑走路があり、
軽飛行機が数機、露天駐機してあった。 海の方に出ると、岩場を切り崩して作られた港があり、小さな漁船が数隻、もやわれていた。 その傍の砂浜では、
陸揚げされた小型船の周りで、男たちが網の修理らしき作業を行っている。
「今日はなんか取れたか?」
「晩飯のおかずぐらいはな。 まぁ、本物の獲物は……飛行機で運んでからな」
「そういや、探しに行った連中から連絡は? 三人で行ったはずだろう」
「2日前から連絡が取れねぇ」
器用とは言えない手つきで網を繕っている男たちの会話から察するに、この集落の漁船や網は見せかけで、彼らも漁師ではなく、本当の仕事は別にある
らしかった。 話が途切れ、男たちは黙々と作業を続ける。 その一人が何気なく海に目をやった。
「お?……なんだあれ」
他の男たちは、その声につられて海の方を見、驚いて目を凝らす。 海の中から、人の様なものが次々に立ち上がり、こちらに向かって歩いてくる。
「沿岸警備隊のフロッグメンか!?」
「んなはずがあるか! 沿岸警備隊ら船か、ヘリで来るだろう」
「じゃああれは……女?」
「裸の女? い、いや。 なんか変だぞ」
海からこちらに向かってくる何かは、目を凝らすと裸の女に見える。 しかし、海の上に姿を現したばかりの時は、クラゲの様に半透明な体をしている
のだが、こちらに歩いてくる間に色が付き、海岸近くに来る頃には、人間の女にしか見えなくなってた。
「おい、集落の連中に知らせてこい!」
「お、おう」
一人が立ち上がり、集落に向かった。 残りの男たちは、陸揚げされた船の小物入れを開け、拳銃やライフルを取り出す。
「船を起こして盾にしろ!」
一人が指示を出すと、残りの男たちが指示通り、船の片方の舷側を下にして、船底を海の方に向ける様に立て、その影に隠れた。
「近づいて来るぞ! どうする?」
「かまわねぇ! 海の中にいるうちに、狙い撃て!」
「えー、裸の女だぜ」
「馬鹿野郎! 海の上に出てきたばかりのところをよく見ろ! ありゃ、人じゃねぇぞ!」
男たちが騒いでいる間にも、裸の女達は海岸に近づいてくる。 20人ほどだろうか。
「いいか……撃て!」
海岸に銃声が響いた。
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