星から来たオッパイ

PartB (5)


 −−日本 マジステール大学 予備研究室 −−

 ケーキにつられてミスティが現れた後、エミは付属高校の生徒会に連絡を取り、会長の同席を依頼した。 『人外部隊』絡みの話となれば、生徒会にも話を

通しておくべきと考えたからだ。 しかし会長は別件で忙しいとのことで、代理人がやって来た。

 「で、貴女が生徒会代表で来たと」 エミが言った。

 「不本意ながら」 如月麻美が応えた。

 エミはランデル教授に、麻美を付属高校の生徒会の代表者として紹介した。

 「付属高校の生徒会? なぜ高校の生徒会代表が同席するのかね?」

 「それはですね……ええと、教授がお話を聞きたがっている『人外部隊』が関わった『電子妖精セイレーン』事件では、高校の生徒も多数巻き込まれて

まして。 その後始末で、生徒会も随分面倒な仕事を引き受けたんです。 それ以来、この手の問題については、神経をとがらしていまして、はい」

 「ふむ? それは大学と高校の管理者の仕事の様な気がするが……まぁ生徒が巻き込まれたのでは、生徒会も神経質にならざるをえん」

 ランデル教授は首を傾げつつも、麻美の説明を受け入れることにした。 その後、改めて麻美と教授、キキが自己紹介しあった。

 「キキさんは『鳥人』で『宇宙人』なんですか? 凄いですね」

 目を丸くする麻美に、教授が補足説明をする。

 「『宇宙人』と言っても、彼女たちは地球に来てから卵から孵化したらしく、自分たちの母星のことは何も知らないのだよ」

 「そうなんですか。あ、でもその卵を乗せてきた宇宙船はあるんでしょう? 凄い発見じゃないですか!」

 興奮気味の麻美に、教授は苦笑する。

 「凄いと言えばその通りだ。 しかしキキ達の卵を乗せてきた『船』は、君が想像している宇宙船とはかけ離れたものだろう」

 「と言いますと? どのようなものだったのですか?」

 エミの質問に教授が答える。

 「材質は木か、生物由来の複合材の様なものでできていた」

 「え? 木造船なんですか?」

 「うむ、木製のカプセルのようなモノだった。 そうじゃな……果物の種を大きくしたような物、と言うのが近いかな」

 「木製のカプセル?」

 教授の言う『船』が想像できず、困惑する麻美。 その一方でエミが目を輝かせている。

 「それは凄い! ひょっとしてその『船』は生きているのですか!? だとすると、自己修復機能もあるのですか!?」

 前のめりになるエミに、教授が引いてしまう。

 「う、うむ。 わしは専門でないから判らなかったが、大学が調査班を送って調べているから、何れ発表があるじゃろう」

 そこにミスティが割り込む。

 「ねーねー。 果物の種みたいだったなら、地面に埋めて水をかけたら、芽を出して育って、宇宙船が生るのかな〜」

 ミスティの言葉に、教授がはっとして立ち上がる。

 「その可能性は考えなかった……うむ、ひょっとしてそう言うこともあるやもしれぬ。 後で大学の調査班に連絡せねば」

 教授はスマホを取り出し、ボイスメモに今の話を吹き込む。 それが終わると、改めてミスティとエミ、麻美に向き直った。

 「さて、ミスティ君と言ったかね。 君にいろいろと聞きたいことがあるのだ」

 
 ケーキを5つ平らげてご満悦のミスティに、教授が質問を続けている。

 「すると、君は『電脳小悪魔』なのだね?」

 「そだよ〜。 後、『忍者』も覚えたよ〜」

 「覚えるなら『忍術』でしょう」

 三人は、教授が質問し、ミスティがボケた回答を返し、エミが突っ込む、または訂正するという事を繰り返していた。 会話から外れている麻美は退屈

そうで、キキはソファで居眠りをしている。

 「『悪魔』とはどのような種族なのかな?」

 「わっかんなーい」

 ミスティはそう返し、ケラケラと笑っている。 教授は起こる様子もなく、淡々とミスティの答えをボイスメモに記録している。

 「君は、何かの目的をもって行動しているのかね?」

 「目的〜? んーとね、魂を集めること」

 ミスティの答えに、エミが顔を上げ、教授の様子を伺った。 教授は気にする風もなく、質問を続ける。

 「魂か……魂を集めて、どうするのかね」

 ミスティが瞬きした。

 「ん? んーとね……集めた魂の中から、欲望の強い魂を選び出すの〜」

 「欲望の強い魂……それは何故かね」

 「……答える必要があるのかしら」

 ミスティが冷たい声で答えた。 麻美が、エミが驚愕の眼差しでミスティを見る。 いつものお気楽な表情が消え、仮面の様に無表情なミスティがそこにいた。

 「嫌ならば答えなくていいよ。 ただ理由を知りたかっただけじゃよ」

 平静を装って教授が応える。 が、スマホを操作する指が微かに震えている。

 「理由?……ふ……つまらない理由よ……他の人にとってはね……」

 ミスティの顔に表情が戻った。 いつものお気楽な調子で、教授に逆の質問をする。

 「教授は〜なんでそんなことを知りたがるの〜」

 「知りたがる理由……そうじゃな……」

 教授は、居眠りしているキキを見て、次にミスティを見た。

 「人間以外の知性が、何を考えて生きているのか、それを知りたいから……いや、お話したい……からかな」

 「んー?」

 教授はスマホを手に取り、指を滑らせる。

 「この星には、多数の生物が生きていて、人以外にも知性を持った生物も多数存在している」

 「へぇ……教授の見つけた鳥人以外にも、宇宙人が住んでいるのですか?」

 麻美の問に、教授は苦笑で答えた。

 「いや、わしが言っている知性とは、ほ乳類、爬虫類、鳥、魚、昆虫などもろもろの生物の事じゃよ」

 「ええっ? そうなんですか? でも犬や猫に知性があるんですか?」

 「ある」 教授は断言した。

 「犬は仲間を見分け、群れを作る。 猫は集まって集会を開く。 昆虫、例えば蜂は、蜜のある場所を仲間に伝える。 これ等はすべて、情報のやり取りが

できることを示している。 ある個体が別個体に情報を伝える、つまり会話ができる生き物には知性があると言えるだろう」

 教授の言葉に、エミが反論する。

 「犬猫はともかく、蜂はどうでしょうか? 情報伝達の手段は遺伝子に組み込まれているのでは?」

 「知性が遺伝子に組み込まれていても、問題あるまい。 人間の脳だって、遺伝子に基づいて組み立てられているだろう?」

 麻美がなんとか話に入ろうとする。

 「他の動物が考えていることなんて決まっているのでは? その……食べてねて……繁殖する」

 「それは、本能から来る欲望だな。 彼らの『考え』とは言えまい」

 エミが考え込みながら、教授に質問する。

 「何か、具体的な例があるのですか? 他の動物……生物が、本能以外の思考を行っているという」

 「カバがワニから子牛を助けた例、鳥が人に蜂の巣のありかを教える例、動物園の熊が角材を回して遊ぶようになった例」

 教授は立て続けに実例を挙げた。

 「これらは、本能だけでは説明はつかない。 いや、言いたいことは判るよ。 それらは母性本能、食欲、狩をしていという欲求から来ていると説明できる

というのだろう」

 教授は息を吐き、窓から外を見た。

 「しかしな、そうであれば同様に人間の行動も全て本能、欲望で説明できてしまうのではないか?」

 「そうかもしれませんが……」

 「他の生き物と話をしてみたい……語り合ってみたい……それが私の望みなのだよ」

 「はぁ……」

 麻美がやや間抜けな声を出した。 教授の希望は理解したものの、なぜそこまで熱心になれるのかが理解できないようだった。

 「でも、その望みはキキさんたちを発見したことで叶えられたのではないですか?」

 麻美の問に、教授は振り返った。

 「一つみつかれば、それでおしまいというものではなかろう。 人と語り合える存在がいるならば、私はそこにいって語り合い、互いを理解したい」

 「なんだか……すごいですね」

 ちょっと感心した様子の麻美だったが、ミスティが容赦のない突っ込みを入れた。

 「女好きの男が女をあさる言い訳みたい〜。 『女がそこにいるならば、おれは世界の果てまで行ってくどくまくるぜ』って」

 エミは思った。

 (確かにこいつは悪魔だわ)
   
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