星から来たオッパイ

PartB (2)


−− 北極 −−
 
 北極の氷の下、三人の男女が迷い込んだ謎の物体の奥。 大小の乳房上の物体が蠢いていた。 中でも特に大きな2つが、ビクリビクリと震え、乳首の

ような突起から透明な液体を迸らせている。

 ビチャリ、ビチャリ

 濡れた足音を立て、全裸の若い娘が『乳房』に歩み寄った。 彼女は半透明の『乳房』に顔を近づけ、中の様子を伺う。

 ”そろそろかしら?……”

 彼女は『乳房』から少し距離を取った。 同時に、『乳房』は『乳首』から盛大に水の様な液体を吹き出し始めた。

 バシャバシャバシャ……

 液体が吹き出す『乳房』は、張りを失ってみるみる縮んでいき、元の半分ほどになった。

 パン!

 風船がはじける様に『乳房』が破裂し、中身が現れる。 それは人の形のように見えた。

 ”……”

 娘はじっと『乳房』から出てきた人を見つめる。

 
 (ううっ……なんだ……なにがどうなったんだ)

 男はぼんやりする頭で考えた。

 (俺は……そうだ姐さんとパイロットと一緒に変なところに入って……

 だんだん頭がはっきりしてくる。

 (そうだ、妙な娘に体の中身を吸い取られて……『クラゲ』に喰われ……なかで別の女に襲われたんだ……)

 若い男は立ち上がろうと手を動かし、違和感を覚えた。 手を目の前にかざし、驚いた。

 (なんだ! これは!?)

 そこにあったのは半透明のクラゲの様な質感の手で、骨が透けて見えている。 それにほっそりしていて、男の手には見えない。

 (あの『クラゲ』の中の女の体? おおっ?)

 かざした手の中が、白く濁っていく。 続いて表面の質感が変化し、人の肌の色へと変化していく。

 (これはいったい……)

 バシャリ……

 すぐそばで盛大な水音がし、大量の水が押し寄せて彼の体を濡らした。 驚いてそちらを見ると、『乳房』状の物体が弾け、中から半透明の体の人間の

女が転がりてできた。 その女は床に蹲っていたが、すぐにその半透明の体が色づき、人の肌の色へと変わっていった。

 (まてよ……あの『乳房』にはパイロットが……まさか?)

 男は、もう一度自分の体を改めた。 すっかり色がついた体は、裸の人間の体にしか見えなくなっている。 但し……

 (女の体だ?)

 ふっくらとした胸にほっそりとした腕は、どう見ても女にしか見えない。 眼で見えない部分は確認できないが、感覚的には完全な女の体のようだ。

 「う……どうなったんだ?……お、お前は誰だ?」

 声を発したのは元『パイロット』らしい女だった。 怪訝そうな表情を浮かべ、こちらを見ている。

 「あ、あんた、パイロットか?」

 尋ねた若い男は、自分の声が女になっているのに気が付いた。

 「何? そう言うお前は……まさか」

 顔を見合わせる二人。 その時、彼らは第三者の存在に気が付いた。


 ”成功したようね。 二人とも立ちなさい”

 娘が命令口調で言うと、若い男とパイロットだった二人の女は、素直に立ち上がり、娘の方を向いた。

 ”以後も私を『プリンセス』と呼びなさい”

 「仰せのままに、プリンセス」

 二人の女は、プリンセスに頭を下げた。 そして、片方の女が口を開く。

 「プリンセス、伺ってよろしいですか?」

 ”許す”

 「はい。 我々はどうなったのでしょうか?」

 ”お前たちは、『マザー』のドローンとなったのです”

 「ドローン?」

 ”そう。 あの……”

 プリンセスは、二人が入っていた『乳房』を示した。

 ”カプセルの中で、お前たちはドローンの中に取り込まれたのです”

 「あのゼラチン女の事ですか?」

 ”そうです。 普通のドローンは、お前たちが見た様にゼラチン状のボディをベースにし、用途に応じた形に変わり、単純な作業に従事します。 しかし、

お前たちは……”

 『プリンセス』が二人に向き直った。

 ”この星の住人の脳を取り込み、その知識と意識を持ったドローンとなったのです。 お前たちには、人であった時の意識も、知識もそのまま残っています。 

脳がそのままなのですから。 しかし、体の大半はドローンのボディに置き換わっています”

 女達は顔を見合わせた。 どうやら、プリンセスの言葉が理解できていないようだ。

 ”理解する必要はありません。 お前たちは、私やマザーに従っていれば良いのです”

 「はい、承りました」

 女達は、再びプリンセスに頭を下げた。

 「プリンセス。 もう一名……『姐さん』はどうなりましたか?」

 ”あの個体は、『クイーン』となるために、特別な処置を行っています”

 「了解しました」

 ”よいか? では命じる。 お前たちの様な人間ベースのドローンがまだ必要だ。 新たな人間を捕獲する方法を示せ”

 「はい……」

 
 (新たな人間……)

 パイロットと若い男だったドローン女は、プリンセスの命令に応えるべく、自分たちの知識を提供する。 二人は、『乳房』から出てすぐの時はまだ自分の

意思らしきものがあった。 しかしプリンセスの言葉を聞くと、逆らえなくなった。 いや、逆らうどころかその命令に従わずにはおれなくなった。

 「我々がいた、密輸組織のアジトを襲うのがよろしいと思います」

 「同意します。 反国家組織ですから、襲撃してもしばらくは他の人間組織に気がつかれないでしょう」

 ”よろしい、お前の意見を採用しましょう。 この『船』を動かします”

 「『船』?」

 「ひょっとしてこここは……宇宙船の中ですか?」

 ”もともとはそうです。 しかし、この星の重力に逆らって飛行するほどの力はありません”

 「ではどうやって移動します?」

 ”『船』として使うのです”

 プリンセスが告げると、辺りが揺れ出した。

 「何が起こっているのですか?」

 ”氷を溶かして海の中に『船』を下ろします。 その後は海中を移動します。”

 「そのようなことが……」

 ”では二人とも、しばしの間。その体を楽しむがよい”

 プリンセスがそう告げると、二人は自分の体に熱い刺激が走るのを感じた。

 「ああ……」

 「ううっ……」

 ”ふふ……お前たちを包むドローン体が、お前たちの神経に直接快感を送り込んでくれる。 お前たちが私に従順になるのも、ドローン体の刺激と、分泌

するホルモン、快楽物質が直に脳に送り込まれるため……”

 二人のドローン女は、とろんとした目つきで床に蹲った。

 ”先に失敗し、干物になった者たちに感謝するが良かろう。 あの者たち実験結果が、お前たちの体にいかされているのだから”

 プリンセスの言葉を聞いたドローン女は、自分たちここに来た時に目撃した、ミイラ化した死体の事を思い出していた。

 (そうか……あいつらも同じ目にあって……ああ……)

 プリンセスの言葉に嘘はなかった。 濃厚な蜜の様な甘い快感が体を満たし、ドローン女は恍惚に浸る。

 「ねぇ」

 「ふぁ」

 二人のドローン女は、軟体動物のような動きで体を絡め、たがいを求めあう。

 ”ふふ……では私も……”

 プリンセスは淫靡な笑みを浮かべ、二人のドローン女の間に体を滑り込ませた。

 ピチャビチャ……

 三つの乱れる女体を乗せた船は、ゆっくりと氷の下へと沈んでいった。
   
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