星から来たオッパイ

PartB (1)


 −−日本 マジステール大学 大教室 −−

 エミは床に腰を下ろし、大胆に足を開いた。 白衣を羽織り、その下に上着は着ているが、下は下着をつけていない。 エロビデオか18禁のコミックの

ような格好である。 そして彼女の視線の先には、困惑気味の男子学生が立っている。

 「さぁ、いらっしゃい」

 「あ、あの……」

 「遠慮することはないわ、お姉さんがいろいろと教えてあげるから」

 「それはありがとうございます……いえ、そうじゃなくて」

 「男でしょう? それを証明して見せて」

 「……こんな状況で、できませんよぉ!」

 彼は左の方を示して絶叫する。 ここは、マジステール大学大教室。 定員200人の教室の教壇の端で、そこにエミが腰を下ろし、学生に向けて足を

開いて見せているのだ。 教室に二人だけならば、秘密の情事という場面だが、教室はほぼ定員いっぱいに人が入っていた。 つまり、衆人環視の中で

エミが学生を誘っていることになり、どうみても痴女が公然わいせつに及ぼうとしている図式だった。

 「情けないわねぇ……講演の内容は承知できたんでしょう?」

 「そうですけどぉ!」

 情けない声を上げた学生は、教室を埋め尽くしたギャラリーとエミを交互に見やる。 ギャラリの大半は学生で、一部に鼻の下を伸ばしているものもいるが、

大半はさらし者になっている学生と同じく、困惑の表情を浮かべている。 また、教室の後ろの方に陣取っている教授連も、困惑気味の様子だった。

 エミはそんな彼らを一瞥し、心の中で舌を出した。

 (ちょっとは反省しなさい)

 
 少し前に、マジステール大学で研究中の『人工知能・セイレーン』が暴走し、濁世の大半が異常行動に及ぶという事件があった。 大騒ぎの挙句、実験

棟の地下に廃炉状態の原子炉が危険な状態になり、『セイレーン』が危険を知らせようとし、結果として騒動を起こしてしまった、という事で事件は解決を見た。

その騒動の解決に際し、エミとその知り合いの人外の者たち、通称『人外部隊』の尽力があった。 大学は、彼女たちの行動に感謝の意を示し、大学への

出入りの自由を保障することにした。 しかし、ここで問題が起きた。 『人外部隊』の構成メンバは、それぞれ特殊な生態を持っていて。 迂闊にかかわる

と、危険な状況になる場合があった。 大学としては、学生の安全を守る必要があり、エミに仲介役を依頼することにした。 そして、まずはエミが大学の

関係者たちに、『人外部隊』との付き合い方について、講演の形で説明会を開くことになったのだったが……

 (まぁ、学習意欲より性欲が有り余っている年ごろだものねぇ)

 講演の準備でエミが何度か大学を訪れているうちに、彼女の夜の職業を知った学生が、彼女に向かって口笛を吹いたり、露骨な言葉をかけてくるように

なった。 男の情緒反応には寛容なエミだが、学び舎で学生が不真面目な態度を取ることについては我慢がならなかった。 そこで講演の内容を『人間の

男女の交尾と実践』に変更してしまったのだった。

 (さすがに、学長は抗議してきたっけね)

 当然ながら、学長がエミにそのような講義を頼んだ覚えはないと言ってきたが、エミ曰く『医学部でお産の講義がないのですか? 美術学校ではヌード

デッサンをするでしょう。 人間の男女の自然な行為についての講演のどこが問題ですか』 と屁理屈にすらなっていない論拠でエミは無理やり押し通した。 

そして、講演の内容が伝わると、聴講の申し込みが殺到し、押すな押すなの大盛況になったのだった。

 (しかし、こうなるとは思ってなかったでしょうね)

 講演当日。 教室に現れたエミは、好奇と非難の視線を物ともせず、最前列に座っていた学生を教壇に挙げると、『今から人間の交尾を実践して見せる

から、相手を務めなさい』と言ったのだ。 そして、今の状況になったのだった。

 
 「エミ先生。 さすがにこれは人としてちょっと……」

 「何を言います。 人として当然の行為ではないですか。 本来なら、義務教育で性行為の実践について教えるべきところでしょうが」

 教室の一同が、エミの言葉に目をむいた。

 「それは……」 「ちょっと……」

 「でなければ、いったいどこで教わるの? 親? 先輩? それとも親切なお姉さんが、筆おろしをしてくれるとでも?」

 「……」

 「大体、講演の内容は承知の上でここに来たのでしょう? さ、度胸を出していらっしゃい」

 「わかりましたよ!」

 半分やけくそで、男子学生はズボンに手をかけた。

 「貴方たちの知識は、アダルト雑誌やビデオから得たものがほとんどでしょう? 男女の営みは、二人の共同作業だという事を肝に銘じなさいよ」

 「そんなことは判っていますよ」

 「そぉ? じゃぁ私をその気にさせてみて」

 「え」

 いきなり事に及ぼうとしていた学生は硬直した。 どうやら、エミにリードしてもらうつもりだったようだ。

 「ほーら判ってない。 そんな調子じゃ、彼女と初めての時うまくいかないわよ?」

 冷やかすような感じだった教室の空気が張り詰め、ギャラリーの態度が真剣なものに変わって来た……


 ……一時間後、講演は盛況のうちに幕を閉じた。

 エミが大教室をでると、学長が彼女を呼び止めた。

 「いや、想像したのと全然違いましたな。 正直どうなる事かと思っていましたが……」

 「すみません。 ただ、『人外部隊』の事を説明することを考えると、まず男女の在り方を教えるべきと考えたもので……」

 「いえ、全てはお任せします。 協力は惜しみませんから、思う様にやってください」

 色モノ大学もお祭り大学と呼ばれるマジステール大学ではあるが、形式や権威にとらわれないことでは高い評価を受けていた。 少々自由すぎるきらい

はあるが。

 「……ときに、ランデルハウス教授という名前を聞いたことはありますか?」

 「……いいえ」

 エミは、動揺を表情に出さない様にするのに苦労した。 彼女が人としてヨーロッパに留学した時、師事してのがほかならぬ『ランデルハウス教授』だった

のだ。

 「マジステール大学の方ですか?」

 「ヨーロッパ校の名物教授です。 彼は、人間以外で人と会話できる生き物を探して世界中を飛び回っていたのですが、最近になって……その『人外の

者』たちを発見……いや、この言い方は彼が嫌う言い方ですな。 『人外の者』と接触できたらしいのです」

 「そうなんですか?」

 気の無いふりをして見せたが、エミの目が輝きを増していた。 彼女は、知的好奇心が豊かで、そう言う話には目がないのだ。

 「ええ。 実はヨーロッパ校からの留学生という形で、その『人外の者』が3人、当校にきていまして。 教授自身も近々、来校する予定です」

 「それはそれは」

 「それで、教授がぜひあなたにお会いしたい言っていまして」

 「え?」

 エミは内心冷や汗をかいた。 教授に師事していたころと、今のエミでは別の顔になっている。 しかし、直に会って話をすると、彼女が昔彼の者にいた

留学生と気が付くかもしれない。

 「『人外部隊』の方々と仲介役、大変でしょうがお引き受けいただけませんか? 我々も協力は惜しみません」

 「はは……そ、そうですね。 今聞いたばかりですので即答は出来かねますが……できる限りの事はいたしますわ」

 「よろしくお願いします」

 学長は、にこやかに笑ってお辞儀をした。 エミも笑い返したが、背中を冷たい汗が流れ落ちるのを感じた。

 (やっぱり、『セイレーン』騒動の時、前に出すぎたかしらね……あまり目立つところに出たくないんだけど)

 先行きに不安を感じつつ、エミはその場を後にした。
  
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