乳の方程式

蛇足 恐怖の宇宙スライム


お断り:この話に出てくる登場人物は「ライム物語」の登場人物とは、同姓同名の別人です。

     予め、お断りもうしあげます。


大宇宙を行く貨物船『P』。 くたびれたその船は長き航海を終え、一路地球に向かっていた…

「ふむ…おい乗組員A!」

「へい組長…じゃなかった鶴船長なんでげしょ」

「今どの辺りだ?」

「そろそろ木星を過ぎる辺りかと…ここらでちょいと右にハンドルを切って、ちぃーとばかりアクセルを吹かして…」


ガッツン!!

鈍い音がして、全員が席に叩きつけられた。


「あいててて…どうした!」

「へぇ…カマを掘られたみたいで」

「なにぃ!上等じゃねぇか、どこの阿呆だ、わしらの船にぶつけやがったのは!」


『乗』組員Bが船外カメラで船尾を確認する。

「見なれない船が船尾に食い込んでますぜ…あーあ、バンパーが歪んで塗装が剥げちまってる」


ムィーッ!ムィーッ!ムィーッ!


「今度は何だ!」

”船長、船倉の乗組員Fです、エイリアンが攻め込んできましたぁ!うわぁぁぁ…”

「F?どうしたF!?おい、スクリーンに画像を出してみろ」

乗組員Bが慌ててコンソールを操作すると、メインスクリーンに船倉内部が映し出された。

「…なんだあれは…」

「ブロブか巨大アメーバか…」

画面の中では、真っ黒い塊と、乗組員C、D、Eが格闘していた。

一瞬、赤と緑の何かが画面を横切った。 

次の瞬間には、三人が気を失って宙に浮いている。

”聞こえますね地球人、私は宇宙スライム海賊、マダム・ブラック。ここにいるのは私の娘達”

黒い塊の前に、大小の塊が並ぶ。 端から銀、赤、透明、緑、肌色をしており、それが順番に喋りだした。

”この船は我々が占拠します、抵抗は無意味です”

”やる気なら相手になるぞ”

”抵抗は損ですよ”

”ミー!!”

”せんきょなのー”


「なんでいあれは…」

「宇宙スライム海賊と言っていましたが…」

Aが呟くと同時に、スクリーンの中の不定形の塊は次々と形を変え、人間の女性の姿になると、一斉に叫んだ。

”おとなしく船を明け渡せ!” ”ミー!” ”なのー”


「おおおっ、みろ裸の女だ!」

「何を喜んでいるんですか船長!このままだと船を乗っ取られてしまいますぜ」

「む…うむ!わしに任せろ。A、あれを出せ!」

「え…船長…あれですか…」

引きつった顔のAに頷きながら、鶴船長は上着を脱ぐ。


「お母様、ここが内部へ通じているようです」

「プロティーナ、そのハッチを開けなさい」

「あけるのー…あれ?」

ハッチを開けようとしたのはピンク色の少女の姿をしたプロティーナ。 その前で、ハッチがゆっくりと開き、薄暗い船倉に光が溢れる。

「まぶしいのー…あれ?誰か来るの」

プロティーナの言うとおり、光の中から一つのシルエットがやって来た。


「ぐっふっふっ…」 不気味な笑い声を響かせ、シルエットはちと不恰好な男の姿となった。

見事に禿げ上がった頭、がっしりした小太りの体、ちとたるんだ腹、短い足。 間違いなく鶴船長その人だったが…彼はふんどし一丁だった。

予想外の事態に困惑するマダム・ブラックと娘達


「小娘ども。このわしがじきじきに相手をしてくれるわ」

そう言うと、彼は手に持ったビンの中身を体にぶちまけて、塗り始める。 

ビンの中身はベビーオイルだった(何故そんなものが宇宙船に?)

たちまち、てかり始める鶴船長の体。

あまりの生理的嫌悪感に、硬直して総毛立つマダム・ブラックと娘達。

「受けてみよ。必殺、スペース油親父ぃ!」

そう言って床を蹴ると、平泳ぎで無重力の船倉を進み始めた、マダム・ブラック達目指して…


「い」

「い」

「いやぁー!!!」

悲鳴をあげて逃げ出すマダム・ブラック達。

「ララララ、ライム!『守りのライム』の実力でー!あれ止めてー!」

ミー!ミミミミミミッ!!(お姉ちゃんこそ!『秘剣!スライムソード』はぁ!)

「アクエリア!あれを何とかしておくれー!」

「お母様、私は水、あれは油です」

「あー、アルテミスお姉ちゃんだけ先にずるいのー!」

どたばたと逃げるスライム達を、クラゲか風船の様に漂いながら、追い詰めていく鶴船長。

「まてぇー…ゲヘヘヘヘヘ…」

壁に追い詰められたマダム・ブラック達が振り返る。

そこには、好色親父丸出しのスケベ顔を油で光らせながら、手をわきわきと握ったり開いたりしながら迫ってくる鶴船長


げへっ  げへっ  げへへへへへっ!

キャー! キャー! キャーーーー!!!


数時間後、宇宙妖怪「油親父」の魔の手をからくも逃れたマダム・ブラック達は、精魂使い果たした様子で自分達の船でぐったりしていた。

マダム・ブラックは、娘達をベッド代わりの壷や風呂桶に寝かしつける。

「来るの…油親父か来るの…」

「おぞましいものを映してしまいました…ああ…穢れてしまった…」

うなされる娘達に、布団代わりに自分の体の一部をかけ、マダムブラックは体を伸ばして操縦室に向かった。


ひとりコンソールに向き合い、今日の出来事をまとめる。

「航海日誌:…」

しばし考え込み、カーソルを先頭に戻して訂正する。

「後悔日誌:地球人の船なんか襲うのではなかった…宇宙には恐ろしい…いやおぞましいものが…」


コツコツコツ… フロント・ウインドゥを誰かが外から叩く。

ギクリとして顔を上げるマダムブラック。

彼女が見たものは…金魚鉢のようなヘルメットの内側に油の汚れをつけながら、こちらを覗き込んで笑っている鶴船長の顔だった…


ゲヘッ、ゲヘッ、ゲヘッ…

…キャァァァァァァァ!!!!!…


この後、宇宙スライム族は地球人の船にだけは近づかなくなったと言う…

<恐怖の宇宙スライム 終>

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