乳の方程式

Part16 レッド・ジャム


”オーナンスキー、ディック、ケビン、セバスチャン。船尾側バイオセル3のハッチ前に到達しました”

「了解、宇宙服を着用して待機」 チャンはコンソールの前で振り返った。 「船長」 

「ああ、行くぞ」

船長の言葉を合図に、チャンを先頭にブリッジ内の乗組員がハッチから出て行く。

彼らは船首側のバイオセル3のハッチから突入し、宇宙人と女達を挟み撃ちにするつもりだ。

「オットー」

船長は最後に出て行こうとしたオットーを呼び止めた。

チャン達が振り返ると、船長は先に行けと目線で促した。

「あの…何か?」船長と二人きりになると、不安げな声でオットーが聞いた。

船長は何も言わずにオットーの襟首を掴み、ずいと引き寄せ、険しい表情でオットーを睨みつけた。

「おい、この計画の目的は本当にヘリウム3と重水素だったのか?」

「…」オットーは黙っている。

「応えろ」

「…計画の発案者は確かに『アップルシード』の事を知っていた」 オットーは一度言葉を切る。

「…火星殖民計画、小惑星帯探査計画、そしてこれ…全て私とマドゥーラが参加していた…」搾り出すように口を開いた。

「マドゥーラも?…」

「…ああ…しかし、船長。それだけでこれほどの計画が動くか?」

「…」

「このばかげた計画の目的は、最後のエネルギー確保だ。そうでなければ…」

「…」

船長は無言でオットーの襟から手を離し、肩を叩いた。

「そうだな…」

船長とオットーはブリッジを出た。


「船長?」

バイオセル3のハッチ前にはチャンを含め、9人が待機していた。 何人かは溶接機を改造したスタンガンを持っている。

「チャンと機関員はここに残れ、オーナンスキー?」

”こちらはケビンを残します”

「よし、行くぞ」

開いたハッチを宇宙服姿の船長、オットーがくぐり、さらに5人が続く。


”ほんとに真っ白だ…”

”こんなところで何をしてるんだ?あいつら”

軽口の端に不安がにじむ。

”…む” 霧の向こうに人影を認めた船長が手を上げて停止の合図を送り、それぞれ手近の物に掴まって行き足を止めた。

弾みで空気が乱されて霧が流れ、カーテンが開くように視界が開ける。

”マドゥーラ!?…”

人影は医務長だった。 いや、マドゥーラだけではない、リタもティンダも、いなくなった女性乗組員全員がそこに居た、一糸まとわぬ姿で。

”…な…” 息を呑む一同の前で、女達は絡み合い、互いを慰めあう。

性器をすり合わせ、巨大な乳を重ね…重力のない世界で非現実的な交わりを続けている。


ククッ…ククククククッ…

含み笑いのような声に、船長達が我に返る。

”宇宙人か!どこだ!”

”船長、あれだ!” オットーが女達の一人を指差す。 リタと足を絡ませている女がこちらを見ている。

クククッ… 宇宙人が一際高い声を上げる。 すると女達は動きを止め、気だるげに船長達の方を向いた。

濡れたような赤い瞳に見つめられ、船長の背筋を冷たいものが走る。

(…不意打ちの機会を逃したな) 

「うふ…」 ぞっとするような淫靡な笑みを浮かべ、マドゥーラが僅かに前に出る。「船長…」

”マドゥーラ!”オットーが悲痛に声で叫ぶ ”頼む、正気に戻ってくれ”

「え?…なにを言っているの?…くく…ククククク…」マドゥーラが笑う。 おかしくてたまらないといった様子だ。

船長はオットーを制し、マドゥーラ達に話しかける。

”マドゥーラ、オットーから『アップルシード』の事は全部聞いた。『ティッツ・マッシュルーム』の事もな。お前達はそれに取り付かれておか

しくなっているんだ”

「まぁ…そうだったの?…うふふふふふ…」

”しっかりしろ、その宇宙人達はお前達に『ティッツ・マッシュルーム』を植えつけて、何か良からぬことを企んでいるんだ!そのままだとお

前達は何か人間以外の何かに変わってしまうぞ!”

「ふふ…うふふふふ…あははは…アハハハハハハハハ…」

マドゥーラは狂ったように笑い…そして突然笑い止む。

「くく…そうね、今の話は概ね正しいわ…でもね船長、オットー、一つ大きな間違いがあるのよ」

”なに?” ”え?”

「企んでいるのが誰なのかという点がね」

船長はマドゥーラの物言いに不穏なものを感じ、背後にそっと合図を送り、真後ろに居たジョンがスタンガンをそっと構える。


「ふふふ…」 マドゥーラ達は笑いながら姿勢を正した。

『ティッツ・マッシュルーム』は完全に胸に同化し、皆見事な巨乳ぶりだ。

モゾリ…

彼女達の胸が一斉に動き、乳首が立つ…そして。

ビュ…ビュビュビュ…

”おい!?”

女達の乳首から一斉に赤いものが噴出した。

(血!?) 船長達は一瞬そう思ったが違った。

血の様に見えたそれは、女達の乳を赤く濡らしながら意思あるものの様に動き、形を変えていく。

”…”

マドゥーラの両胸から噴出した赤い乳は太い流れにまとまり、乳房を流れ上って両肩の上で赤い塊となり、そして…最後に小さな人の形

になった。

”な…に…”

マドゥーラだけではない、女達全て、いや、宇宙人たち3人にも同じ事が起こっていた。

ある者では肩の上に赤い人形を乗せている様に見え、あるものは乳房に赤い仮面をつけて居るような姿になった


「うふ…」 マドゥーラが妙に無邪気な表情で笑った。

『ふふふ…船長。始めましてというべきかしら』 マドゥーラの右肩の『赤い人形』が喋った。

”お…お前は…お前達は…なんだ?”

「ボク達はジャム」 赤い人形はマドゥーラの耳を撫でながら答えた。

”ジャム…だと?”

「ルウがそう呼んだ、ストロベリージャムみたいだと。語呂が気に入ったのでそう名乗ることにしたんだ」

”ルウ! ルウをどうした!”

「とってもいい子だったから『トモダチ』になった」

”『トモダチ』…だと?”

「そう『トモダチ』。こうやって…」

そう言いながら『ジャム』はマドゥーラの耳たぶを愛撫した。 マドゥーラが甘い声を上げる。

「いい事をしてあげたの…みーんな喜んで『トモダチ』になってくれたよ」

そう言って『ジャム』はニタリと笑う。

船長には、それがひどく邪悪に笑いに感じられた。

”『ティッツ・マッシュルーム』をマハティーラに植えつけたのもお前達の仕業だろうが!”

「そうだよ。彼女も最後は喜んでたじゃない」 悪びれた様子もなく『ジャム』が応える。

”貴様ら…” 船長の声が怒りに震える。

「うふふ…折角ここまで来たんだし。船長達とも『トモダチ』になりたいな」

ジャムがそう言った途端、周りから一斉に声が聞こえてきた。

『トモダチ、トモダチ』『今度はボクの…』『服なんか脱がしちゃえ』

ぎょっとして一同は辺りを見回し、その顔が恐怖に引きつった。

壁面の水耕栽培用のラックに、かなりの数の『ティッツ・マッシュルーム』が張り付き、そこから『ジャム』たちが顔を覗かせてこっちを見て

いる。

無邪気で、それでいて邪悪な笑みを浮かべて。

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