第三話 キーパー

4.死と生と


 「リズ……」

 「うん」

 ベッドに横になった健の父、その顔色はロウのように白い。 リズは健の手を取り、父親の手に重ねさせた。 氷のように冷たい。

 「父さん……」
 

 リズが、健の父と褥を共にするようになって、一年余りが過ぎていた。 父は予告していた通り、唐突に息を引き取ってしまった。

 「リズ……」

 健は、リズに抱き着き、リズは彼を抱きしめた。

 「驚いたの?」 リズが尋ねた。

 健は黙って首を横に振った。 『この時』が来ることは、繰り返し聞かされていた。 今更驚くことはなかった。 ただ……

 「悲しいの?」 リズが再び尋ねた。

 「わからない……」

 健は心の中に空洞ができたように感じていた。 『悲しい』と言うより『寂しい』と感じていた。

 「健……」

 リズは健の頤に指を添え、上を向かせる。 健の視線の先に、リズの瞳が見える。

 「リズ……」

 リズの瞳が、淡い金色の光を放つ。 心を落ち着かせるリズの魔法だ。 しかし、健の寂しさは癒されなかった。

 「そっか……」

 強く溢れるような感情、『怒り』や『恐怖』ならば、心が落ち着けば感じなくなるだろう。 しかし、健が感じている『寂しさ』は空虚で、虚ろなものだった。

 「じゃあ……満たしてあげる」

 リズは、健に顔を近づけ、唇を重ねる。 健は、そっと目を閉じてリズの口づけを受け入れた。

 ん……

 ついばむように唇を合わせる。 柔らかく、微かに冷たい女の唇が少年の唇に重なり、その輪郭をなぞるように動く。

 チュ……

 尖った舌先が、少年の唇の間をなぞる。 右から左、また右へ、入り口を探すかのように、何度も往復する。

 あ……

 リズの舌の意図を悟り、おずおずと唇を開いていく健。 微かな隙間に、ザらりとした舌が滑り込み、唇の間でのたうつように蠢いた。

 は……

 舌に促されるままに、健は唇を開いていく。 開いた唇の間から濡れた女の舌が少年の口の中に入り込み、縮こまった少年の舌へ絡みついた。

 (わぁ……)

 健は。リズに犯されているような錯覚を覚えた。 いや、錯覚ではないだろう。 リズは口で健を犯していた。 ヌルヌルとした舌の舌が自分の中を舐めまわし
ている……その感触にからめとられ、体から力が抜け、リズに奪われていくような気になる。

 はぁ……

 漏らした溜息が、リズに吸い込まれる。 そのお返しとばかりに、リズの口から、甘い吐息が送り込まれた。

 う……あ……

 それは本当に『吐息』だたのだろうか。 蜜のように甘く、水よりねっとりとした息が、健の口の中に注がれ、喉へと流れ落ちていった。 そして甘い『吐息』が

、健の肺を満たした。

 あ……あぁ……

 甘い、甘い『吐息』が、肺から血の中に溶け込み、健の体を巡り……そしてぽっかりと開いた心の中へと流れ込む。

 「あ、ああ……ああん……」

 まるで女の子のように喘ぐ健。 心の中がリズで満たされていく。 父を失った悲しさ、一人になった寂しさが、リズの吐息で綺麗に埋められてしまう。

 あ……ああ……

 リズが健を解放する。 健はその場に蹲り、うっとりとした顔でリズを見上げる。

 「リズ……」

 健の心の大半が、リズで埋められている。 リズを見ているだけで、心が満たされる。

 「健……もう大丈夫ね?」

 「うん……」

 健は、リズの足に抱き着き、頬ずりした。

 「健、お父様を送り出さないといけないわ。 貴方は、お父様が居なくなったことを、残念に思っている振りをしていてね。 他の事は、私がするから」

 「うん……」

 
 その後、リズは救急車を呼び、リズと健は父親を病院に運んだ。 それからしばらくの間、知らない人が次々にやって来てリズと健は忙しい日々を送る

ことになった。 その間、健は頭がぼんやりとして目を開けたまま夢を見ているような状態だった。 家に来た人たちは、父親を失ったショックで放心状態に

なっていると思ったようだが。 そしてニ週間が経過した。


 健は机に向かい学校の勉強をしていた。 リズの口づけの効果か、少し頭がぼんやりしている気がする。 宿題を終わらせ、寝巻に着替える。

 コンコン…… ノックの音がした。

 「リズ?」

 ”ええ……入っていいかしら?”

 「うん」

 リズが入って来た、シースルーのネグリジェ姿で。

 ドクン…… 健の心臓が脈打つ。

 「リズ……?」

 リズは微かにほほ笑み、健に歩み寄り……健の脇を通り抜けてベッドに腰を下ろした。 健は肩透かしを食らったような気になった。

 「何か用?」

 「ええ……健を誘いに来たの」

 ドクン……再び健の心臓が跳ねあがる。

 「誘うって……父さんの代わりってこと?」

 健はことさら乱暴な口調でリズに尋ねた言った。

 「代わりじゃないわ。 健は健、そうでしょう?」

 「……」

 はぐらかされたような気がし、健は口を尖らせる。 そんな健を見て、リズはくすくすと笑った。

 「健は……もう男になったんでしょ?」

 「え?……あ!……あ……」

 リズがの質問の意味に気が付き、健は真っ赤になった。

 「そ、そんなこと……」

 「健の下着、誰が洗濯していると思うの?」

 「!……むぅ」

 からかわれていることに気が付き、健は下唇をかむ。

 
 シュル……

 リズがネグリジェを脱いだ。 白い裸身が健の前に露わになる。

 ……

 健は唾を呑み込みかけ、立ち尽くしている。 自分の心臓の音がやかましく、リズに聞こえないかと心配になった。 リズは足を開き、秘所を健にさらす。 

薄い金髪の恥毛の下に、黒々とした筋が見える。

 「見て」

 リズは指で筋を開いた。 薄桃色の花びらの奥に、鮮紅色の洞窟が見える。

 「……」

 健は、目を真ん丸にしてそこを見つめている。

 「見るのは初めて?」

 「え? あ! い、いや、初めてじゃないよ!」

 「生で?」

 「……生は……初めて」

 クスクスとリズは笑い、くいくいと健を手招きした。 健は、一歩前に足を踏み出し……寝巻の裾を踏んづけて見事に転んんだ。

 「ててて……」

 「せっかちね……」

 転んだ拍子に、リズの股間に顔をつっ込みかけていた。 目の前にリズの『女性の神秘』が息づいている。

 「ご、ごめんリズ」

 「慌てなくてもいいのよ、じっくり教えてあげるから」

 リズが、少しだけ腰を前にずらした。 彼女の『女性の神秘』が健の顔に迫り、女の匂いが吹き付けてきた。

 「あ……あの」

 「じゃあ、お勉強を始めましょうね。 ここがヴァギナ、ここがクリトリス……」

 リズは、自分の女性器を教材に健に手ほどきを始めた。

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