第二話 宿り
2.滴り
小僧は傘を振り回しつつ、小走りに駆けだした。 いくらもいかないうちに、ぬかるみに足を取られ、前のめりに転んだ。 手をついてようよう立ち上がっ
たが、足元がふらつき、今度は道の端に尻もちをついた。
ペタン
尻もちをついた場所に、木の切り株があり、小僧はそこに腰を下ろす格好になった。
「と、とにかく、傘の柄から手を離さないと」
左手で傘の柄を掴みかけて手を止める。 左手まで離れなくなっては大変と思い直し、傘の柄を右肩に担いだ。
ツ……ッ ツーッ……
傘から、相変わらず滑る滴が腕や肩に落ちてくる。 一定どうなっているのかと、上を見上げた。
ツーッ……ペチャッ
「わっ?」
見上げた顔で滴を受け止めてしまった。 滴が目に入り、思わず目を閉じる。
「……!?」
目を閉じれば、何も見えないはずだ。 ところが、小僧は不思議なものを見てしまった。
”……手?”
目を閉じているのに、傘の柄を持っている自分の右手が見える。 そして、右手が掴んでいるのはの柄ではなかった。 白く細い、まるで女の手のような
ものを掴んでいるではないか。 いや、小僧が女の手を掴んでいるのではなく、女の手が小僧の手を掴んでいたのだ。 そして、彼が肩に担いでいるのは
二の腕だった。
”じゃ、じゃあ……”
おそるおそる、視線を上にあげ二の腕の先、傘の下の方を見上げる……そこには何もなかった。 女の腕は闇の中から伸びていて、二の腕の先は闇の
中に消えている。
”そ、そんな……”
小僧は息をのみ、顔を擦って目を開けようとした。 しかし瞼は開かず、女の腕も消えない。
”これは夢か幻だ……きっと、自分は転んで気絶しているんだ……”
自分に言い聞かせ、右手の先を見据えた。 女の手は依然としてそこにある。 右手が掴んでいるのは、傘の柄のはずだった。 しかし、今自分の
右手が感じるのは、しっとりとした女の手の感触だった。
ポッ……ツーッ……
”ひやっ!?”
首筋に、滴が落ちた……はずだった。 しかし……
ポタッ……ツーッ…… ポタッ……ツーッ……
”な、なに!?”
滴が落ちた、流れていったはずの場所に、柔らかいものが触れたような感触があった。
ポタッ……ツーッ…… ポタッ……ツーッ……
”い、いったい!?”
落ちる滴が増えてきた。 肩に、頭に、背中に、首筋に……滴が落ち、くすぐったいような感触を残していく。 そして胸元に……
ポタッ……ツーッ……
”……ええ?”
視線を下げると自分の胸が、裸の胸が見える。 来ていたはずの衣がない。 胸だけではない、腕も足もむき出し、彼は裸で切り株に座っている。
”いや、目を閉じているはずだから、これも幻……ええっ!?”
胸元に滴が落ちた…と思ったら、白い指が……女の指が胸元を撫でていった。
”……”
闇の中に、女の手首から先だけが見え、伸ばした指が、胸元を、腹を、爪で掻く様に触っている。 手は一つではない。 あちこちから手だけが現れ、
彼の体に触れ、爪の先で撫で、また闇に消えていく。
”な……なんだよ……これは……ひやっ!?”
滴が下腹に落ちた。 爪が下腹の上に線を引き、足の間で消えていった。
ピクン……
足の間で、小僧の男の証が動いた。
”こ、こら……やめて……”
それが何を意味するか、小僧はよく知らなかった。 しかし、それが『淫猥』なる言葉でくくられる禁忌であることは判っていた。
”だ、駄目だ……逃げないと……”
ポタッ……ツーッ…… ポタッ……ツーッ……
滴は、後から後から落ちて来て、女の指が小僧の体をくすぐっていき、それに呼応するように、小僧の足の間のモノが勢いを増していく。
ギリッ
”う……”
膨れ上がったモノの皺が内から押し上げられ、桜色の小さな口が顔を見せる、恥ずかし気に。 それを狙ったかのように、滴が落ちてくる。
ポタリッ…… ニュルリ
”ひっ!?”
爪ではなかった。 赤いものが、モノの先に触れた。 あれは……
”し、舌!? 舐めた!? なんてことを……”
あまりの事に、小僧の顔が真っ赤になった。
”や、やめないか!”
ポトリ……ポトッ……ポトッ……
滴が、モノめがけて落ちてくる。 滑る滴が、爪に代わってモノを引っ掻き、舌に代わってモノを舐める。
”や、やめ……やめて……”
モノがそそり立ち、ギリギリと音を立てる。 痛みと、そして未知の感覚に小僧は混乱する。
ポト……トロー……
”ひっ!?”
滴が連続し、一筋の流れとなってそそり立つモノを包み込んだ。 そこに赤い舌、いや唇が現れモノを咥えた。
”……”
唖然とする小僧の前で、赤い唇が彼を咥えその中で舌が弄ぶ。
”あっ……ああっ……あっ……”
得体のしれない感触に、モノが翻弄され、その下にぶら下がるモノが縮み上がり、そこから『何か』がこみ上げてくるのが判る。
”だ……だめぇ……”
絶望の呻きを上げる小僧。その彼のモノが、少年の精を吐き出す。
”!!”
ド……クリ…ビュ、ビュル、ビュル、ビュル……
滴に負けない粘っこい何かが、モノから噴き出していく。 同時に、小僧の体を走り抜ける熱い感覚。
”……”
反射的に天を見上げ、小僧は絶頂に達した。
迸りが収まり、体を満たす熱い感覚がゆっくり引いていく。
”……あ”
唇から洩れた吐息には、混乱と、悔恨と、罪悪感とが混じっていた。 何をされたのか、自分に何が起こったのか、小僧は理解していなかった。 『何か』を
放ってしまった小僧は、自分の中から何かが抜け落ちてしまったような虚脱感の中にいた。
タラーリ……
顔に滴の糸がたれてきた。 それが、唇に流れてくる。
ふわり……
濃厚な甘い香りが鼻孔をくすぐり、唇に柔らかい感触が重なる。 閉ざされているはずの視界の中に、白い幻が広がった。 それが女の顔であると気が
付いたとき、小僧は唇を奪われていた。
ヌルリ……
柔らかい舌が、小僧の唇を割って中に入ってきた。 女の唾液が小僧の口に流れ込む。
”甘い……”
それが蜜の味と感じ間もなく、小僧の喉を女の唾液が流れ落ちていった。
”あ?……はぁ……”
空虚になっていた小僧、その中を甘い蜜が満たしていった。 不意に、頭の中に言葉が浮かんだ。
”宿り……、『宿り女』……この傘は……『宿り女』の傘……”
’そう……『宿り女』……坊やに……宿るの……’
女の声がした。 小僧の頭の中に。
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