第一話 四葩

3.胎内巡り


 ドタ、ドタ、ドスン 小僧と二人の男は、固い床の上に鏡餅のように重なった。

 「あいた」「いてて……」「いたつ」

 三人は、痛むところを押さえ、床の上にへたり込んだ。

 「なんだよ?こここは」

 「仏像の中か? それても抜け穴か」

 「ばか、寺に抜け穴があるか」

 辺りを見回したが、互いの輪郭が判る程度の微かな明るさしかない。

 「暗いですね……それに空気が湿気ています」

 小僧は、床を撫でてみた。 床は冷たく、微かに湿っている。 感触からすると、磨いた石のようだ。

 「……」

 「おい、誰か来たぞ」

 男の声に、小僧ともう一人が顔を上げた。 意外なほど近くに、手燭を持った人影が立っている。 

 「ようこそ……」

 さっきの女の声だった。 男たちと小僧は顔を見合わせた。

 「あんたは? さっきの尼さんじゃないな」

 「彼女は外回り、私たちが内回りの尼です。 さ、こちらへ」

 尼はくるりと向きを変え、先に立って歩きだした。 三人は再び顔を見合わせ、肩をすくめて立ち上がり尼の後に続く。


 ひたひたと足音が響いている。 建物の中にしては違和感があった。

 (ここは……洞窟?)

 前を行く尼に声をかける。

 「なぁ、俺たちは『御開帳』の寺を探していて、迷っちまったんだが……ここはどこなんだ?」

 尼僧は振り返り、微笑んで見せた。

 「迷ったのではありませんよ。 あなた方がお探しでしたので、迎え入れて差し上げたのです」

 「は?」

 尼の言葉の意味が判らず、首をかしげる。 と、微かな声が聞こえてきた。

 ああ…… うう……

 「……なんだ?」「おい?」「変ですよ……」

 三人が、足を止めた。 と、あたりの雰囲気が変わった。 ほんのりと甘い香りが漂っている。

 「え?」

 闇が薄れ、辺りが見えてくる。

 「ええっ!?」

 
 そこは、さっきの寺の本堂ほどの広間だった。 床は磨かれた石で、人の背丈ほどの白い衝立で、いくつもの小部屋に仕切られていた。 呻き声は、衝立の

向こうから聞こえてくる。


 「ご覧なさいませ」

 尼が、衝立を少しずらす。


 「おお」「ああ……」

 小部屋の中では、男と女が睦合っていた。 女は剃髪した尼の様で、男は髷を結っている。

 「な」「おぅ」「ひ」

 白い尼の女体は、くねくねとしなやかに蠢き、男の四肢に絡みつく。 男は己を、尼の中に深く、めり込むかと思うほどに突き入れる。

 ヌッ……チャ、ヌッ……チャ、

 男と女の体が擦れ合う粘っこい音に、二人の睦み声が混ざっていた。

 あまりの事に、三人はただ立ち尽くしていた。

 
 「さ、どうぞ」

 声を掛けられた三人は振り向き、目を剥いた。 彼らを案内してきた尼を含めた数人の尼が立っていた、全裸で。

 「な、なんだ」

 「『御開帳』の儀式でございますよ」

 そういうと、尼はわずかに身をくねらせ、わずかに足を開く。 下腹の黒い陰りのが視線を誘う。

 「ほら……」

 尼は、こちらを見たまま後ろに下がる。 その背後には、夜具らしき白い布がみえる。 尼は器用な動きで、こちらを見たまま夜具の上に腰を下ろした。

 「『御開帳』……」

 尼は指で秘所を広げた。 薄紅色の尼僧の神秘が開き、艶めかしい奥底を見せる。

 「……」

 ヒクヒク蠢く薄紅色の淫幕。 キラキラ輝く、愛液の糸。 そして、フルフルと震える神秘の宝玉……三つの淫秘が、彼らを呼ぶ。 ”さあ……もっとよく

ご覧なさい……”

 フラリ……

 三人の足が前に出る。 その時だった。

 「う……ぁぁぁぁぁ……」

 ひときわ大きな男の喘ぎが響き渡り、三人の視線がそちらに引き付けられる。

 「!?」「え?」「あ、あれ?」

 絡み合う男と尼の体が、弱々しい灯りにキラキラと煌めく……二人の体が、不自然なほどに濡れていたからだ。


 「ああ……もっと」

 ニュル、ニュル……ブチュ、ブチュ……

 尼の腕が、男の背中を捉え、ヌルヌルと蠢く……いや、吸い付いている。

 「あうぅぅ……」

 腕だけではなかった。 尼の足、腹、胸、全てが男の体に吸い付き、這いずる様に愛撫している。

 「……」

 尼が男の耳を咥え、舌先で耳をくすぐる…… その舌先は細くとがり、耳の中に入っていく。 

 「かっ」

 男が一声上げてのけ反った。 表情は愉悦にゆるきっている。


 「なんだあれ……あの舌、まるでナメクジじゃねぇか……」

 「うふふ……その通りでございますよ……」

 はっとして振り返る三人。 足を広げていた尼がこちらを見て笑っている。 淫靡に、そして妖しく。 その体は、テラテラと光、妖しく濡れていた。

 「私どもは……そう『ナメクジ』の怪異……」

 「ぬあに!」

 一人が目を剥き、もう一人が叫び、小僧は……腰を抜かした。

 「ほほ……こうして、男の方を誘い、まぐわう。 これぞ、我らの『御開帳』の宴……」

 呆然とする三人の耳に、再び男の声が聞こえた。 おそるおそる振り向けば……

 「げっ!」


 尼の肢体が男に絡みついていた。 骨が抜けたかのように、しなやかに蠢き、男のからだを這いずる女体。

 「ああ……蕩ける」

 「私も……蕩けそうです」

 それは例えではなかった。 尼と男の体は、接したところから溶け、混じり合い始めていた。

 
 「ああ、く、喰われてる!」

 「まさか」

 尼の言葉には、意外そうな響きがあった。

 「そのような事の為に、この様な事は致しませぬ。 あれは子孫を残す為の交合に違いありませぬ」

 「なんだと……あれがか」

 「はい……御覧なさい。 かの方のお顔を」


 尼と『交わる』男の顔は、愉悦にゆるみ切っていた。

 
 「我らと交わるは、人の身で味わうはかなわぬ極上の快楽……」

 クククッと尼が喉を鳴らす。

 「その果てに、互いに溶け、新たなる怪異の卵へと変化する。 これこそが『御開帳』の儀」

 尼は腰を揺らし、濡れた秘所を彼らにさらす。

 「さぁ……おいでなさいましな……私どもと交わり……一つになりましょう」

【<<】【>>】


【第一話 四葩:目次】

【小説の部屋:トップ】