最終話 ロウソク

8.ブロンディとボンバ


 これまでにミストレスが抜き取った魂は、ビリヤードの玉のような形で、男は青、女は赤い色をしていた。 大きさに個人差はあったが、全て『珠』であり、

例外はなかった。 しかし、”ミリィ”の魂は人の形、それも背中に翼を持っていた。

 「ミストレス……これは?」

 リューノの問に、ミストレスが首を横に振る。

 「私も初めてです。 このような魂……なのでしょうね」

 ミストレスは”ミリィ”の魂に話しかけた。

 「貴女は、Angelだったのですか?」

 ”Angel?……”

 首をかしげる”ミリィ”に、リューノが化粧用の手鏡を見せた。 鏡にはピンク色の美少女Angelが映っていた……
 
 −−−放送中断−−−−−−
 
 「ちょ、ちょっと待ってくれ」

 滝がミスティの話を止めた。 話の腰をおられ、ミスティが頬を膨らませて不満を表明する。

 「おい志戸、『美〇女』ってのはまずくないか、表現が」

 「うーむ、声だけだし……でも、なんかの弾みで実物の画像がでて、クレーム炎上すると……」

 ミキサーを操作していた、黒髪の女性が加わる。

 「切る場所の解釈を変えたらどうかしら」

 『?』

 「『美・〇女』じゃなくて『美〇・女』と解釈するの」

 『なるほど』

 話がまとまり、放送が再開される。 ミスティの笑顔が引きつっていたことは、リスナーには判らなかった。

 
 −−−放送再開−−−−−−

 
 ”……未来で、不当な扱いを受けたような気がする”

 『?』 意味がつかめず、首をかしげるリューノとミストレス。

 ”Angelって何? 私はなんなの?”

 困った様子のミリィ。 一方でミストレスも困惑していた。 抜き取った魂は、例外なくミストレスの胎内に納められてきた。 しかし”ミリィ”『珠』ではなく

『Angel』、それも人と変わらぬ大きさがあった。

 「どうしたものか……」

 コン……

 扉を叩く音にリューノが反応する。

 「誰です?」

 ”リアです”

 肉人形のメイドの一人が、平板な声で応えた。

 ”ゲストの二人が、声に反応しません”

 リューノ以外のメイドは、魂を抜かれた娘達だ。 簡単な命令は実行できても、判断や、想定外の事態には対応できない。

 「それは、いけません」

 リューノは服装を整え、部屋を出て行く。 ”ミリィ”も続こうとしたが、動き方側が判らないようだ。

 「ミリィ、二人はリューノに任せなさい。 それより、貴女は? 気分が悪いとか、熱はありませんか?」

 魂に『気分』や『熱』があるか判らないが、”ミリィ”は体を触る仕草をして、自分の状態を確認した。

 ”よく判らないけど……おかしな感じはないみたい……”

 そうこうしているうちに、リューノとメイドが、ボンバとブロンディを運んできた。 二人とも息はしているが、意識はないようだ。

 ”ボンバ!、ブロンディ!”

 ”ミリィ”の呼びかけにも二人は反応しない。

 「ミストレス、二人はもうもちません」

 「二人とも同意はとれていないけど……いいわ、どうせ私は『悪魔』だもの……」

 自嘲気味に呟くと、ミストレスはリューノに指示を出す。 リューノとメイド達は、部屋の床にマットレスを置き、シーツを掛けた。 その上にボンバと

ブロンディを横たえ、服を脱がせる。

 「……」

 リューノの表情が強張った。 肌がまだらに変色し、壊死している。

 「ミストレス……」

 ”あの……”

 「まかせなさい」

 ミストレスの気配が変わる。 男女を問わずに虜になる、淫蕩な悪魔の『気』が体から漂い出て、ボンバとブロンディを包んでいく。 この『気』に絡め

とられれば、ミストレスの淫技から逃れる術はなかった、これまでは。

 (さすがに瀕死の病人を相手にするのは初めてね……二人とも持ちこたえるかしら……)

 
 ミストレスの両手が、横たわる二人の秘所を弄る。 ミストレスの技は確かなもので、ほころびかけた蕾からトロリと蜜が流れ出し、開花し始めた。

 ”……”

 ”ミリィ”が二人を見つめ、拳を握っている。 はたから見るとおかしな図だし、淫らな行為を行っているはずなのだが、”ミリィ、ミストレス、リューノの

表情はこれ以上ないほどに真剣だった。

 ん……

 ブロンディが微かに身じろぎし、足をわずかに開いた。 すかさずミストレスが彼女の宝玉に口づけし、舌で舐めあげる。

 う……

 (反応が鈍い……)

 ミストレスが焦る。 健康な若い娘なら、今の一舐めで逝ってしまうはずなのだ。 時間をかけたいが、彼女たちの体力が持つか判らない。

 (仕方ない……)

 ミストレスは動きを変えた。 ブロンディと足をからませ、『松葉崩し』の態勢で、自分の秘所と彼女の秘所を密着させる。

 あうっ!

 さすがにこれは効いたらしく、ブロンディが大きくのけ反った。

 くっ、くっ……

 あっ、あっ……

 マットレスの上で、二人の女体がリズミカルに動く。 一方で、ボンバの秘所に張り付いたミストレスの手が別の生き物のように動き、彼女を嬲り続けて

いるはさすがだった。

 「ミストレス、助太刀します」

 リューノが加わろうとする。

 「無用。 貴方は悪魔ではないわ」

 無念そうに控えるリューノ。 その間に、ミストレスとブロンディの動きが早くなっていき……

 あー!!

 ブロンディが逝った。 意識が戻らないままに。

 ゴボリ……

 ミストレスの下腹部が蠢いた。 何かが、おそらくはブロンディの魂が、彼女の胎内に吸い込まれたのだ。

 ……とす

 ブロンディの体が力を失い、マットレスの上に崩れ落ちた。

 ”ブロンディ!”

 リューノが彼女の脈を取り、首を横に振った。 健康な娘であれば、魂を失っても体の方はしばらく生きているが、ブロンディの体は耐えられなかったようだ。

 ”そんな……”

 「まだボンバが残ってます。 リア、手を貸しなさい」

 リューノはそう言って、力を失ったブロンディの体を背負った。

 「裏庭の泉で清めて、地下の冷温室に安置します」

 リューノの言葉に頷いたミストレスは、再び『松葉崩し』でボンバを責める。

 ぐ……

 黒い体がビクビクと震えるが、まだ意識が戻る様子はない。 失神したままの娘を絶頂に導いていくミストレスの性技は、もはや神業だった。

 (悪魔の技で、人助け(?)とは……)

 複雑な思いを頭の片隅に押し込み、知る限りの技で死にかけた娘の性感を引き出していく。

 う、ああっ……

 ボンバの両足が反り返り、腕がミストレスの足を抱え、そこを舐める。 しかし、依然として目は閉じている。 息がないまま、体だけがミストレスに

反応しているのだ。

 あっあっああああ……

 絶頂とは思えぬ叫びをあげ、ボンバが吠えた。

 ゴボッ……

 ……クタリ

 ボンバの魂も、ミストレスの胎内に呑まれたようだ。

 ”ボンバ……ブロンディ……ねぇ……二人の魂は? どうなったの……”

 ミストレスはぐったりとマットレスに体を横たえ、己が下腹をさすった。

 「む……」

 ミストレスの表情が曇った。
 
【<<】【>>】


【最終話 ロウソク:目次】

【小説の部屋:トップ】