最終話 ロウソク

7.ミリィの


 一夜の後、ミリィはリューノに負われてミストレスの元を訪れた。 決心した、というより後がなくなったからだ。

 「よくないですね。 ボンバもブロンディも明日まで持つかどうか」

 リューノがそう言い、ミリィが後を受ける。

 「二人は……まだ決心がつかなくて……」

 ミストレスは頷き、ミリィの顔に触れる。 ミリィはビクリと体を震わせた。

 「無理もありませんね。 神の救いを拒むような選択ですから」

 「神様……」

 ミリィが唇をかむ。

 「……」

 何かつぶやいたが、リューノには聞き取れなかった。

 「ミストレス様……」

 ミリィはミストレスの瞳を真正面から覗く。 ミストレスは瞬きし、小さくうなずき、リューノを見る。

 「はい」

 リューノは、ベッドにミリィを横たえて薄い着物を丁寧に脱がした。 育ち切っていない少女の肢体が、微かに震える。

 「……」

 ミストレスは無言でミリィに寄り添い、壊れ物を扱う様に彼女を抱いた。

 
 あ……

 ミストレスの指が、蕾のような女体の神秘をなぞる。 ゆっくり前後する指先に、微かな湿り気を感じるミストレス。

 「くすぐったいですか?」

 「はい……」

 熱っぽい息を吐くミリィ。 が、その熱は体調の悪さから来ているのだろう。 ミリィの表情は固い。

 「リューノ」

 ミストレスに呼ばれたリューノは、絞ったタオルを手にベッドにあがる。

 「失礼」

 リューノはミリィの額をタオルで拭った。 氷のような冷たさに、額の汗が引く。

 「体調が悪い時には、こういうことをすべきではないのですけど……」

 ミストレスは微かに笑い、ミリィの体の反応を確かめながら、指の動きを微妙に変えていく。

 は……

 ミリィは息を吐きながら、奇妙な感覚を感じていた。 体の中がもやもやし、もどかしくなる。

 (なんだろう……)

 熱で意識が朦朧としてくる。 一方で、ミストレスの指の感触が次第にはっきりしてくる。

 はぁ……

 「初めてですね。 こういう反応は」 ミストレスが呟いた。

 「そうですか?」 リューノが応じた。

 「ええ。 男女を問わず、私の指が触れた時点で抵抗が失せ、悦楽の沼に沈んでいくのですが……この娘は違うようですね」

 リューノの表情が曇った。

 「思ったより具合が良くないという事ですか? では……」

 リューノの言葉に、ミストレスが首を横に振った。

 「以前、瀕死の重傷を負った男を愛したことがありました。 彼は血を吐き、苦痛にのたうち回っていましたが、私の愛撫で苦痛を忘れ、彼自身をわが

秘所に迎え入れると、喜んで魂を私に差し出しました。 しかし、この娘は……若すぎるからでしょうか」

 う……

 ミリィが呻いた。 苦痛の呻きだ。

 「ミストレス。 もう猶予がありません」 リューノの声が固い。

 「加減している余裕はありませんね」

 ミストレスの雰囲気が変わった。

 
 ゾワリ……

 目で見えるような淫猥な気配がミストレスから放たれる。 リューノは、自分の秘所から愛液がしたたり落ちるのを感じた。

 「あ……」

 リューノは、指で自分のモノを弄り、胸を揉みしだく。 頭の中に淫らなモノが溢れかえり、ミストレスとミリィに襲い掛かりそうになる。 しかし、紙一重で

自分を制し、自分自身を慰めるにとどめる。

 「流石は、リューノ・シン。 私の本気を受けて、自分をとどめられるとは」

 ミストレスの最大限の賛辞だったが、リューノに聞こえていたかどうか。 そしてミリィは……

 あ……ああ……

 少女の体がベッドの上で悶える。 幼い一本の筋は透明な液に濡れ、微かに震える。

 「さすがに感じて……でも……」

 ミストレスの顔が曇る。 どんな人間でも欲望に捕らえられ、ミストレスの体を求めずにはいられない、そうなるはずなのだ。

 (詮索は後回し)

 ミストレスは、悶えるミリィを強く抱いた。

 うん!

 ミリィがミストレスの唇を奪う。 ミストレスは指でミリィの秘所を弄った。

 ああっ!……

 ミストレスの指の下で、ミリィの秘所がみるみる花開いていく。 蕾が開き、肉の花弁がミストレスの指をからめとろうと蠢く。

 「この娘?」

 ミストレスが首をかしげた。 彼女の愛撫を受けた人間は、魔性の快感に体が硬直、さらに魂までが固まってしまう。 そして、固まった魂が、ミストレスの

手で体から抜き取られ、彼女のモノになってしまう、そうなるのが常だったのだが……

 「どうして動けるの?」

 ミストレスの愛撫に激しく反応し、悶えるミリィ。 足を絡め、自分の秘所をミストレスの秘所に食いこませてくる。

 ゾクリ!

 ミストレスの背中を、感じたことのない快感が走り抜けた。

 「あ!?」

 一瞬の驚きの後、ミストレスは今度こそ手加減抜でミリィの体を責める。

 ガッ!

 ヒィ!

 濡れた秘所がかみあい、涎をたらす顎と化す。 荒れ狂う肉食獣が争うような、激しい肉の交わりがベッドの上交わされた。 あまりの勢いに、リューノが

ベッドから床に逃れる程であった。

 「ミストレス!? ミリィ!?」

 驚愕するリューノの目の前で、激しく絡み合っていた2つの肉体がピタリと動きを止めた。

 キィィィィ!

 ヒァァァァァ!

 獣の咆哮を上げ、ミストレスとミリィの体が硬直した。

 
 ト……

 ドスッ

 二人の体が、ベッドの上に崩れ落ちた。 二人とも達したらしい。 いつもなら、ミストレスに逝かされた人間の魂は、彼女の胎内に吸い込まれているはずだ。

リューノは、かたずをのんで二人の様子を伺う。

 う……

 ミストレスが体を起こした。 リューノは、手を差し伸べて彼女を支えた。

 「ミストレス? どうなったのですか?」

 ミストレスは首を横に振った。

 「わかりません……こんなのは初めて。 私の方が魂を奪われるかと思った……え?」

 ミリィの体が霞んでいく。 薄いピンクの靄のようなモノが彼女の体を包み、それが宙に上っていく。

 「これは……いったい?」

 「なに?」

 ピンクの靄は、はっきりとした形になっていった。 そして……

 「まさか……」

 「Angelなの?……」

 それは、半透明のピンクのAngelだと二人は思った、最初は。

 「Angelとは……こういう姿なのですか?」

 リューノの問に答えはなかった。 ミリィの体から現れたそれは、ミリィの顔をした幼い女性の姿をし、背中に生えた二枚の翼を持っていた。 ただし、

右の翼は純白、左の翼は漆黒だった。

 ”……なに? どうしたの? あたし、どうなったの?”

 Angel、いや”ミリィ”が二人に尋ねたが、やはり答えはなかった。
 
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