最終話 ロウソク

5.メイドの名はリュウノシン


 リュウノシンはよろめきながら立ち上がり、自分の体を改める。 若い娘の体は骨が浮き出ていて、痣や傷があちこちにある。

 ズキン

 思わずお腹を押さえた。 下腹部を刺し貫かれたような痛みは、この娘が受けた屈辱の証であった。 それが心が壊れた理由なのだろう。

 「くくく……」

 ミストレスがリュウノシンを見て笑った。

 「男としてどうだ? その体は……」

 彼女は舐める様にリュウノシンを見ている。 リュウノシンは彼女の視線に気づき、それを受け止めて彼女を見返す。

 「……」

 ミストレスは笑みを消した。 リュウノシンは感情の読めない表情で彼女を見ている。 その視線には怒りも、焦りも感じられない。 ミストレスはついと

視線を逸らし、自分の下腹を撫でた。 そこは、さっきまでリュウノシンの魂が捉えられていた場所だった。

 「お前を解き放ってやろう」

 ミストレスはリュウノシンに告げた。

 「好きな服を持っていくが良い。 ここから去るが良い」

 手を軽く振ると、ミストレスは長椅子に深々と体を預けて目を閉じた。 リュウノシンは、ミストレスをしばらく見ていたが、踵を返し、痛む体を庇いながら

その場を後にした。 リュウノシンが出て行くと、ミストレスは少し目を開けて呟いた。

 「行ったか……」

 
 「く……」

 痛む足を引きずる様にして、リュウノシンは館の中を見て回る。 メイド達の部屋を見つけ、そこに入ると何人かのメイドがこちらを見る。 人形のように

無表情で、リュウノシンを見ても驚く様子はない。 彼女たちはミストレスに魂を抜かれた、肉人形なのだ。

 「……」

 リュウノシンは、メイド用の衣装棚から水浴に使う清拭用の布を取り出し、それを腕に抱えて館の裏に出た。 井戸から水をくみ上げて頭からかぶる。

 「つっ!」

 冷たい水が傷にしみたが、続けざまに冷水を被り、体を拭う。 痣は残ったが、汚れは落ち傷も目立たなくなった。

 「……」

 リュウノシンはメイド部屋に戻った。

 
 「……」

 ミストレスは浅い眠りから目覚め、メイドを呼ぶために紐を引いた。 少し間をおいて、扉が開きメイドが入って来た。

 「ご用は?」

 「なに?」

 ミストレスは体を起こした。 館のメイド達は魂を持たず、自分から口を開くことはない。 では?

 「お前は……リュウノシンか?」

 他のメイド達とお揃いの服を身に着けたリュウノシンがそこにいた。 大きめのメイド服に身を包んだ少女は、背筋をピンと伸ばしてミストレスの言いつけを

待っている。

 「何のつもり……は!」

 ミストレスは、複雑な表情を見せた。 驚きに失望と嘲り、そして笑いが含まれている。

 「結局、主も墜ちていたということか……」

 「ご用は?」

 繰り返したリュウノシンに、ミストレスは侮蔑の一瞥を投げつけた。

 「ちこうよれ」

 リュウノシンは、ミストレスの傍に歩み寄る。

 「奉仕せよ」

 ミストレスはほとんど裸身で過ごしている。 いまも、薄いベールのような布を体に羽織っているだけだ。 彼女が足を開くと、薄い布が別れ、彼女の秘所が

露になる。

 「ご無礼を、お許しを」

 律儀に言ったリュウノシンは、彼女の前に膝まづき、太腿に手をかけて秘所に唇を寄せる。 そして、神聖なものに触れるように口づけする。

 「ん……」

 リュウノシンの薄紅色の唇が、陰唇のカーテンを上下なぞる。 ミストレスは身じろぎ、足を動かした。

 「リュウノシン……」

 秘所が少し開き、赤い奥底を垣間見せる。 生々しいその奥は、人を狂わせ、魂を吸い込む悪魔のモノ、あるいは人を堕落させる魔性の洞窟だ。

 「……」

 リュウノシンはそこに舌を入れていく。 慎重に、優しく、ミストレスの胎内へと舌を入れていく。

 「あ?」

 ミストレスの顔に微かな驚きが見えた。 わずかに開いた唇から声が漏れ、それが喘ぎに変わっていく。

 「あ……あ……」

 リュウノシンは、丹念にミストレスの中を舐めた。 彼女の反応を確かめ、もっとも感じる所を探し当て、最愛の人を愛するように、ミストレスを愛していく。

 「あ……ぁぁ……」

 リュウノシンは彼女の宝玉を咥え、優しく吸った。 ミストレスの体がピクリと動き、背筋がゆっくりと反り返る。

 「あ……」

 ヒクヒクとミストレスが震え、秘所から女の蜜が溢れ出しリュウノシンの唇を濡らした。 リュウノシンは動きを緩め、ミストレスの秘所を優しく慰めた。

 
 「……リュウノシン」

 「は」

 「我の上に来い。 お前のモノを我にさらせ」

 「……承知」

 微かな衣擦れの音を立て、リュウノシンはメイド服を脱いでその場にたたみ、ミストレスの上に覆いかぶさる。 ミストレスの顔を跨ぎ、自分はミストレスの

秘所に顔を近づける。

 「やはり痛々しいのぅ……」

 娘の魂を体から抜いたとき、ミストレスはその秘所を目にしていた。 今もそこは傷つき、微かに血を流していた。 ミストレスは、リュウノシンのものと

なった秘所に、慎重に唇を宛がった。

 ビクン

 リュウノシンの背が震えた。 感じたというより、痛かったのだろう。 ミストレスは唇を離し、そっと息を吐きかける。 くすぐったいような感触にリュウノシンは

震えた。

 「……」

 今度はリュウノシンがミストレスの秘所を咥えた。 さっきとは逆方向から、ミストレスの秘所を優しく、壊れ物を扱う様に舐めていく。

 「くふう……」

 ミストレスは息を漏らし、リュウノシンの愛撫を楽しみながら、彼女(?)の秘所に息を当てる。

 びちゃびちゃ

 フゥ……ハァ……

 静かに、密やかに、二人の女の『秘め事』は進み……

 あ……

 んふぅ……

 静かに終わった。 ミストレスとリュウノシンは向きを変え、長椅子の上で互いを抱き合う。

 
 「リュウノシン……」

 ミストレスは目の前の少女に、その中の魂に話しかける。

 「我の胎内が忘れられなかったか……」

 彼女の言葉に苦みが混じる。

 「望めば、もどしてやろう……」

 リュウノシンは、ミストレスの目を真っすぐに見つめた。

 「ミストレス。 私は、貴女にこのまま仕えることを望みます」

 ミストレスは首を傾げ、リュウノシンの言葉を反芻する。

 「仕える? メイドとして? 娘の姿で?」

 「は」

 ミストレスは首をかしげた。

 「何故? 私は貴方の魂を奪った。 貴方の体を奪った。 貴方に恋した女の魂と体を奪った……私はお前に仇を成したのですよ?」

 リュウノシンは瞑目し、口を開く。

 「何故か……それは……私がそうしたいからです」

 リュウノシンは、きっぱりとした口調で答えた。
 
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