第二十六話 山の女

5.無理難題


 「それ、それ!、それ!!」

 『山姫姉』が腰を揺するたびに、巨大な秘所が揺れ、溢れた蜜が吾作の腰を濡らす。

 「うはぅ!」

 外の猛りと裏腹に、『山姫姉』の中は暖かな極楽……固く膨れ上がった吾作のモノを、柔らかな肉襞が愛撫する。

 「ああ……」

 緩む吾作の表情が、全てを語っていた。 『山姫姉』の中の温もりは至上の悦楽、それを求めて吾作のモノは奥へ、奥へと突き進む。

 「ぐっ!」

 吾作がぶるっと身を震わせた。 限界が近い。

 「果てそうか? 許す、きやれ」

 『山姫姉』の許しを受け、吾作は太い木を引き切る勢いで、己の腰を全力で『山姫姉』の尻に打ち付ける。

 バン、バン、バン!!

 祭り太鼓のような激しい音が本堂の中に響き渡り、梁の上で鼠が逃げ惑う。

 「ぐ……ああっ!!」

 吾作が吠え、猛り狂ったモノから精が迸り、岩をも穿つ勢いで『山姫姉』の奥を叩いた。

 「あ……あはぁ……」

 『山姫姉』は、その巨体からは想像できない様な甘い喘ぎを上げる。 吾作の熱い男の精が、女の歓びを存分に彼女に足合わせていた。

 「ぐぉぉ……」

 「あぁぁぁぁ」

 二人の声が本堂の中を絡み合う。

 
 外で様子を伺っていた百姓、木挽き衆もこの声を聴いた……というか感じていた。 二人のよがり声は、本堂の壁を震わせるほどで、近くの者は耳を

塞ぐすさまじさだったからだ。

 「吾作どんは凄いのぅ……」

 「いやぁ、『山姫』様も……ありゃほんとに神さんかいな? 熊の物の怪とかじゃねぇのか?」

 「罰当たりを抜かすんでねぇ!」


 一同がわいわい騒いでいるうちに、本堂から聞こえてくる音がすとんという感じで止まった。

 「……終わったかのう」

 「……らしいな」

 寺の境内はしんと静まり返った。

 「……終わったかのう」

 「しつこい! 終わったにちげえねぇ!」

 終わったのは確からしいが、この後どうしたらいいか判らず、一同は互いに顔を見合わせる。

 ギィッ

 本堂の扉が軋み、中から押し開けられた。 皆そちらに視線を向ける。

 「馬鹿者! ひれ伏さんか!」

 村長がその場にひれ伏し、皆がそれに従う。 村長の背後にいた木挽きの顔役が、小声で尋ねた。

 「村長どん。 これはしきたりかぇ?」

 「知らん。 しかし、秘め事の後じゃ。 『山姫』様のあられもない姿を見て、祟りでもあったらどうする」

 「あれだけ派手にして、『秘め事』もなかんべよ」

 そう返しつつ、木挽きの顔役はみなと同じように額を地面に擦り付ける。

 ズシッ、ズシッ、ズシッ

 重々しい足音がして、『山姫姉』が出てきたようだ。 上目遣いに見ると、白い足がこちらに近づき、目の前で止まった。

 「この男、見事務めを果たした、介抱してやるがよい」

 『山姫姉』は、地面に毛皮を引き、そこに吾作を横たえた。 彼は失神していた。

 「ははぁ」

 ひれ伏したまま村長は応えた。

 (やれやれ。 どうにか収まったか。 吾作どんには礼をせんとな)

 が、安堵するのは早かったようだ。

 「薬を使ったとはいえ、これほどの男、なかなかおるものではない。 ぜひわが母にも見分していただこう」

 ひれ伏した一同の上を冷たい空気が横切る。

 「あの『山姫』様……」

 「なんじゃ」

 「お母上と申されましたか?」

 「いかにも」

 ……

 気を取り直した村長が尋ねる。

 「お母上は、どのようなお方で……」

 「どのようなとは?」

 「その……ご立派な……お体をしておられるのかと」

 「おお、そういう意味か。 我らをこの世に生み落として、はや百年。 まだまだかくしゃくたるものよ。 身の丈は……そこの小屋の屋根ほどかのう」

 村長がそろりと顔を上げる。 どうやら『小屋』と呼んだのは寺の本堂らしい。

 「身の丈が……寺の本堂ほどおありで……」

 「おう。 我らは年が行くほど身の丈が伸びるでな。 父上が健在であれば、母上も『日照り』に悩むこともなかったろうが」

 「お気の毒に……お父上様はすでにみまかられましたか……ですが、お父上様がおられたという事は、他にもお仲間の方がいらっしゃるのではない

でしょうか?」

 青い顔で『山姫姉』に翻意を促そうとしていた。 背後で木挽き衆と百姓が、小声で話し合っている。

 「村長様は、何を心配してるだか?」

 「馬鹿野郎! 身の丈が寺の屋根まであったら、あの『山姫』様の倍以上あるでねぇか! あそこもそれだけガバガバだろうが!」

 「おおっ、なるほど。 いくら吾作どんでも、お相手は無理よのう」

 「吾作どんどころか、この世にいるか、そんなぶっ太いモノの持ち主が」

 「人じゃいねぇだろう。 熊でも無理だなぁ」

 後ろの声が次第に大きく成ってきた。 木挽き衆の顔役と庄屋が後ろの連中を睨みつけて黙らせる。

 「モノは試しというぞ」

 「試してみるまでもないでしょうが」

 弱り果てる村長だが、『山姫姉』は押してくるだけで引いてくれない。

 不毛な話し合いは、落としどころが見えなくなってきた。


 「うーん……」

 声が聞こえたのか、失神していた吾作が目を覚ました。

 「おお、さすが。 もう回復したか」

 「吾作どん、大丈夫か?」

 吾作は頭を振って起き上がった。 木挽き仲間が、自分たちの上着をかけてやる。

 「……『山姫』様?……ご満足いただけましたか?」

 吾作の問に、『山姫姉』は首を縦に振る。

 「うむ。 この数十年で一番の男じゃぞ、主は」

 「それは、頑張ったかいがありました」

 胸を張って笑う吾作に、『山姫姉』言葉を続ける。

 「それでじゃ、主にもうひと働きしてもらいたい」

 「『山姫』様!」

 村長の静止を無視し、『山姫姉』は続ける。

 「わが母上のお相手を願いたい。 どうじゃ」

 「お母上様?」

 きょとんとする吾作。 そこで彼は、村長の慌てた様子に気がついた。

 「左様。 ぜひ願いたい」

 吾作は、仲間の木挽き衆や百姓衆たちに目をやった。 皆、首や手を横に振っている。 理由は判らないが、相手を務めるのは容易ではなさそうだ、

吾作はそう判断して、断ろうと『山姫姉』に向き直った。

 (お?)

 『山姫姉』は真剣な目で吾作を見ていた。 吾作は口をつぐみ、しばし考え込んだ後で口を開く。

 「やってみますだ」
   
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