第二十五話 ART

 10.闇


 キィッ……

 軋み音がしてドアが開く。 顔を上げると、羽の生えた女のシルエットが見えた。

 「……サキ?」

 「次は私、そうでしょう、ミキ」

 悪魔のコスプレをしたサキが部屋の中に入ってくる。

 「待って……」

 ミキが手を上げてサキを制したが、サキはその手を交わす。

 「比べてもらわないと、公平じゃないでしょう?」

 真っ赤な唇が冷笑を浮かべている。 ミキはサキとヒロシを交互に見たあと、あきらめたように首を振った。

 「貴方の言う通りね」

 ミキはベッドから降りて薄い衣を身にまとい、サキの脇を通り抜ける。

 「いても構わないわよ」

 からかう様にサキが言ったが、ミキは部屋を出てドアを閉めた。

 
 「サキ、少し待ってくれ。 シャワーを浴びないと」

 ヒロシの体にはミキの香りが残っている。 が、サキは気にしていない様子で、するりと服を脱ぎ、ベッドの上のヒロシに体を重ねてきた。

 「準備できているんでしょう?」

 そう言ってサキはヒロシのモノに触れた。 さっきまでミキの中にあったそれは、二人の愛の証に濡れて、力を失っている。

 「ずいぶんとお楽しみだったようね」

 「少し間を置かないと無理……う?」

 サキの手が、ヒロシのモノを揉みしだく。 巧みな手の動きに、モノが膨らみ張りを取り戻していく。

 「サキ……」

 「ふふ、すぐに私が欲しくなる……そうさせてあげる」

 サキはヒロシを座らせると、固くなった彼自身をいきなり咥えた。 ネットリと舌が絡みつく。

 「うおっ……」

 サキの舌が、モノを丹念に這いまわる。 舐められた跡が異様なほどに熱くなり、女体への渇望が股間に満ちてくる、だが。

 「サキ……なんか変だ……さっきいったばかりなのに」

 「いった? 違うわ、ミキは貴方の心を満足させたんでしょう? でも、あなたの体はそうじゃない」

 サキはヒロシから口を離し、ベッドの上に座り込んで足を開いた。 サキの女性の神秘が露になる。

 「御覧」

 ミキと同じ形のソレが、熱い蜜を垂れ流し、淫らに開いてヒロシを誘う。 それは男を誘う魔性の花だった。

 「……」

 ヒロシはサキのソレに顔を埋め、花の奥へと舌を差し込む。 熱い蜜を舌で舐めとり、柔らかな奥を舌先でかき回す。

 「うふふ……舐めてるだけ?」

 サキがそう言うと、ヒロシ腰のモノが跳ねた。

 「うあっ!」

 ヒロシは自分自身のモノに引きずられるようにして、サキと交わった。

 「ひっ……」

 ネットリと絡みつく肉襞が、張り詰めたヒロシのモノを抱きしめる。 吹き出した女の蜜がヒロシのモノから下半身をべっとりと濡らした。 腰が自然に動き出し

ヒロシのモノがサキの女の中を貪るように動き回る。

 「ああん……いい……いい……もっと……動いてぇ……」

 「サキ……サキィ!……」

 熱い快感がヒロシの股間に満ち、そこから体の中へと沁みとおってくる。 ミキに感じたモノが魂の快感なら、サキのこれは肉の快楽。 激しく、甘く、妖しく

男を狂わせる魔性の快楽だった。

 「はあっ、はあっ、あああっ……」

 「サキィ!!」

 体を包み込む快感がはじけ、ヒロシ自身が肉欲の証をサキに注ぎ込み、熱い精の奔流を受け止めたサキが身を震わせる。

 「キヒィィィ!!」

 悪魔の姿のにふさわしい金切り声を上げ、サキは身を反らせてよがった。 ヒロシを抱きしめる手足は、鉄の枷の様で、ソノ中は、彼自身を搾り取ろうかと

いうように締め上げてくる。

 「うぁぁ…」

 「出して!全部!あなたのすべてを頂戴!!」

 激しい絶頂に、二人は獣のように吠えた。

 
 ……コトリ

 ヒロシがサキの上に崩れ落ちる。 サキは一度では満足せず、繰り返しヒロシを求めた。 ヒロシは、いや彼の肉体はそれに抗うことができず、彼女に

求められるままに女体を貪り、精を放ち続けた。 サキがヒロシを解放したときには、彼は精も根も尽き果てるという言葉の意味を、身をもってかみしめていた。

 「フゥ……」

 流石にサキも疲れはてていた。 ヒロシを軽く抱いて、甘えるように体を摺り寄せ、情事の余韻を楽しんでいる。

 「サキがこんなに激しいとは、知らなかったよ」

 ヒロシはサキの背中に手を回す。 背中に着けた被膜上の翼は、あの激しい動きでも外れていなかった。

 「しっかりついてるな。 接着剤でも使ったんじゃないだろうな」

 そう言いながら、サキ翼の付け根を探る。 サキはくすぐったそうに身を震わせ、そのはずみで翼が少し開いた。

 「?」

 ヒロシは違和感を感じた。 翼とサキの背中は自然にくっついていて、張りつけたような感じがない。 それに翼に触るとサキがくすぐったがっている。

 「サキ? この翼どうやって外すんだ? 剥離剤か何か使うのかな」

 「外す? これを? ふふッ……」

 サキは含み笑いをして身を起こした。 そして翼を大きく開いた。

 「こんなきれいな翼、外すなんてもったいないじゃない」

 「サキ?」

 ヒロシはサキの頬に触れた。 浅黒く染められた肌にふれ、それを指でこする。 色が落ちる様子はない。

 「落ちないぜ、この色」

 「落ちるわけがないは、今はこれが私の自然な肌の色なんだもの」

 「サキ? 何を言っている?」

 ヒロシの問にサキは答えず、ベッドから床に降り立つと、翼を大きく広げた。 黒い翼が背後の壁を覆い隠し、彼女の腰のあたりで尻尾がクネクネと動い

ている。

 「これが今の私よ?」

 「何を言ってる、その肌の色は絵具で染めて、羽や尻尾は作り物で」

 「借りたとは言ったけどネ。 作り物なのかな、これ。 つけたら感じるようになったケド」

 サキはそう言い、自分の翼を手で触る。

 「感じるし、体温もある。 ミキだってそうだろ」

 はっと振り向くと、いつの間にかミキが背後に立っていた。 白くまぶしい裸身の背後に純白の羽が開き、ゆっくり動いている。

 「ええ、私も感じますわ。 あ、羽は抜かないでください」

 「痛い?」

 「毛を抜かれる様な感じがします」

 双子の会話をヒロシは唖然として聞いていた。 そして我に返る。

 「まて! 君らは本当の天使と悪魔になったとちでもいうつもりか!?」

 「さぁ、羽根つきの人間にはちがいないでしょうけど」

 「悪魔なのかなあ。 別に魔法が使えるようになったわけじゃないし。 魂が欲しいって感覚もないし」

 「そうですわ、欲しいのはヒロシさん、貴方ですわよ」

 「おっとそうだった。 さぁ、どっちを選ぶ?」

 ヒロシは信じられないモノを見るように、天使と悪魔(の姿)になった双子を見比べる。 そして弾かれるように立ち上がり、バスタオルを巻いて部屋を飛び

出した。

 「はしたないですわよ、そんな恰好で」

 「格好はともかく、モノは他の女に見せるなよな。 ミキかボクのどっちかのモノなんだから」

 背後から双子の声がしたが、ヒロシは聞いていなかった。
    
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