第二十五話 ART

 8.オブジェ


 ううっ……

 喘ぎを漏らしてノブオが果てた。 何度達したか判らない。 意識が途切れがちになっている。

 「ねぇ……もっと……」

 ミヤビが体を摺り寄せてくる。 すっかり性欲の虜になっているらしい。 しかしノブオは消耗してしまい。 精も根も尽き果てていた。

 「ミヤビ、もう無理だよ……」

 そう言ったノブオは、レイに懇願するようなまなざしを向けた。

 (これ以上は……無理です)

 そう伝えたつもりだった。 が、それを見たミヤビは別の意味にとった。

 「ノブオは……あの人の方がいいんだ……」

 「え? ち、違うよ。 レイさんにこれ以上は無理だって……」

 「何故? 何故あの人に? どうしてミヤビを見てくれないの?」

 ノブオの言葉はミヤビに通じていないようだった。 ミヤビはノブオのモノを掴んだが、それは力なく垂れ下がるだけだった。

 「ミヤビさん、もう彼氏は限界みたいよ」

 レイが言うと、ミヤビはレイを睨みつけた。

 「嘘! ミヤビがいいんだったら、立つはずよ、何度でも」

 ミヤビの物言いにノブオは恐怖を覚え、ミヤビから離れようとする。

 「どこに行くのノブオ!」

 ミヤビが立ち上がり、手を広げた。 コンパクトな少女の体は、熟れた女体に変わり、ノブオを誘う。 しかし、ノブオの男は人の限界に達しており、むしろ

縮こまってしまう。

 「レイさん……もっと、私を女にして。 ノブオが離れられなくなるような」

 「ミヤビ、無理を言っちゃだめだよ。 君の気持ちは十分に分かったから、今日はここまでにしよう」

 レイはミヤビとノブオを交互に見比べ、ミヤビの人形に手を伸ばした。

 「レイさん。 ぼくはもう今日は無理ですよ。 ミヤビがどんなに求めてきても」

 「そうなの?……なら……試してみましょうよ」

 レイはミヤビの人形に息を吐きかけた。 熱い息を吐きかけながら、舌先でミヤビ人形の秘所を舐める。

 ……心のままに……欲するままに……

 「あうっ……」

 ミヤビが自分の胸を抱き、のけ反った。 さっきまでノブオを愛していた秘所が、ノブオの眼前にさらけ出される。

 「ミヤビ……え?」

 ググっと陰核がせり上がる。 それに引きずられるように秘所が下腹の中ほどまで延び、くわっと口を開けた。

 「うあっ?」

 倍ほどになったミヤビの秘所が赤い口を開いてノブオ誘う、彼にはそう見えた。

 ……きて……

 秘所がノブオを、いや彼のモノを呼んでいる。 そう思った瞬間、ノブオのモノがググっと持ち上がった。

 「いっ!?……」

 ミヤビの秘所に応えるようにそそり立ったノブオのモノ、それが脈打ちながら太く、固くなっていく。

 ……心のままに……欲するままに……

 はっとしてレイを見ると、彼女はノブオ人形を手に取り、その股間を舐めあげている。

 「や、やめ……あっ……」

 ぐぐっと膨れたモノに血が集まり、ノブオは意識を失いそうになった。 体が勝手にミヤビを求め、その秘所に竿をつきこむ。

 ズブブブッ!!

 「ああん……」

 「うぁぁ……」

 膨れ上がったモノとそれを咥えこむ秘所。 倍以上になったそれが、それに見合う、いやそれ以上の快感に震える。

 「あはぁ、あはっ、あはははっ……」

 「くうっ……うっうっうっ……」

 人が感じられる限界を超えた快感に、ミヤビとノブオは性の獣と化し、互いを貪るように動く、動く、動く。 頭の中で快感の大波が荒れ狂い、他の一切を

奪い去る。

 「あっ……あっ、あーっ……」

 「うっ……うーっ……」

 深々と交わった個所から、熱い精を漏らしながら、二人の成獣は果てた。 いや、果てたように見えた。 しかし、すぐにまた動き出し、互いを求める。

 ……欲するままに……

 呪文のようにレイが唱える言葉のままに、二人は姿を変えていった。

 
 パフッバフッ

 グムッグムッ

 床の上で、二抱え程のヴァギナとペニスが蠢いている。 欲するままに変わっていったミヤビとノブオの成れの果てであった。 男と女を象徴する肉の

オブジェと化した二人は、いつ果てるともなく互いを求め続けている。 レイはそれを見てぼそりと呟いた。

 「『男と女』……うーん陳腐よねぇ……」

 
 「どっちかはタカシと行けばよかったんじゃないか?」

 ヒロシは、背後についてくる双子の女の子、ミキと先に言った。

 「あら、そしたらミキと」

 「そしたらサキと」

 『別々になっちゃうじゃないの』

 ヒロシはため息をつく。 双子のミキとサキは仲が良い。

 (良すぎるんだよな)

 仲が良い上に、男の好みまで似ているらしく。 ヒロシは二人から同時に交際を申し込まれた。 二人同時に付き合う訳にはいかないから、どちらかを

選ばないといけないのだが、性格の顔も一緒の二人では、片方を選ぶ理由が見つからない。 では、ミキとサキがヒロシを争って喧嘩するかと言うとそれも

ない。 あくまでヒロシに選択を迫ってくるのだ。

 (からかわれているとしか思えないよな)

 ヒロシはタカシを巻き込み、ニ対ニのお付き合いを目指したが、双子がどちらもヒロシから離れないためこうなってしまった。

 「それで」

 「ヒロシ」

 『どこへ行くの?』

 ヒロシはため息をついて振り返った。

 「この先に、絵を描いている人がいるらしいから、それを見学させてもらうつもりだよ」

 「あらそう」

 「絵描きさんがいるの」

 『面白そうだわ』

 (ぜーったい、示し合わせているぞ)

 2Fには『会議室』と札のついている部屋があった。 会議、宴会などに使う広めの部屋らしく、ドアは開け放されていた。 ヒロシは失礼しますと言い

ながら中に入った。

 「どなた?」

 中にいたのは、金髪に青い目の白人女性だった。

 「あら」

 「あらあら」

 『日本の絵描きさんじゃないのね』

 中の女性はルーシーと名乗った。 パレットにを持ち、なにやら風景画を描いている。

 「私、日本の絵の具を入手するため来ました。 この辺りで、岩絵具のもとになる石があると聞いて、ここの集まりに参加しています」

 「そうなんですか。 その絵はこの辺りの風景ですか?」

 「いえ、前に故郷の風景をスケッチしていたので、それに色を乗せて試しているところです」

 「絵具ってそんなに違います?」

 「はい、違いますね」

 それだけ答えると、ルーシーはスケッチに色を乗せていく。 彼女の周りには、幾つかのイーゼルが立てられてキャンバスが置かれている。 キャンバスに

はいろいろな女性の上半身が描かれていた。 それらを眺めていたヒロシは、ルーシーの自画像であることに気がついた。

 「自画像ですか?」

 「はい。 同じ表情の自分の顔に色を乗せて、どう変わるか試しました」

 ミキとサキが、ヒロシの背後からルーシーの自画像を覗き込み、熱心に感想を述べている。

 「あらこれと」

 「あらそれは」

 『同じ表情なのに印象が違うわ』

 「はい、面白いでしょう。 どうです、なにか描いてみます?」

 ルーシーが言ったが、ヒロシは笑って絵は下手だと断った。

 「では、ボディペインティングのつもりで、顔にアクセントをつけてみては? この絵具は肌に乗せても害はありませんよ」

 ルーシーの提案に、双子が顔を見合わせた。

 「どうする」

 「どうしよう」

 『やってみようか』

 ルーシーがパレットを用意して二人に渡す。 双子は互いの顔に、化粧をするように色を乗せていく。
    
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