第二十五話 ART

4.肉粘土


 タカシの体は、火であぶられたロウソクのようにトロトロと溶け崩れていく。 しかしタカシは自分の体に何が起こっているのか気がつかなかった。

 (なんて気持ちいいんだ……)

 キョウコに弄られる部分から沸きあがる蜜のように甘い快感が全てだった。 タカシは身もだえしながら、形を失いベッドから滴り落ちて行った。

 ハアッ、ハアッ、ハアッ!

 詰め込まれた快感が弾け、溶けかけたタカシの体が硬直し、一気に形を失う。 ベッドの上に残った『タカシ』の残骸が一気に溶け崩れ、ベージュ色の

粘体となってベッドから滴り落ちた。

 フウッ……

 キョウコは息を吐きだし、ベッドに突っ伏す。 タカシの残り香を楽しむかのように。

 
 「ふふっ……さて」

 キョウコはベッドから床に降り立ち、ベッドの下から大きなタライを引きずり出した。 さっきまでタカシだったものが、ベージュ色の粘体になってタライを

満たしていた。

 「よさそうね……」

 キョウコは『タカシ』に手を突っ込み、大きくかき混ぜた。

 ウァァァァ……

 『タカシ』が、獣のような唸りとも喘ぎともつかない声を上げた。

 「どんな感じかしら?」

 キョウコの声に、『タカシ』が唸り声をあげる。

 「自分がどうなったか判らないの? ほら……」

 キョウコはタライに両手を入れてすくい上げ、壁に取り付けられた鏡に映すようにした。

 ナンダァ……(なんだ、どうしたんだ、オレ)

 「私の愛撫、気持ちよかったでしょう? あんまり気持ちよくて、体が溶けちゃったのよ」

 ソンナァァ……(そんな馬鹿な……これは夢だ、そうな違いない……)

 『タカシ』の意識は、その溶けた体同様に混濁していた。 さらに、視界はぼやけ、音はひどく遠くから聞こえてくるようで、現実感に乏しい。

 「ククッ……もう少し、遊びましょう」

 キョウコはタライに入り『タカシ』をすくい上げ、自分の体に塗り付けた。

 ヒッ……アアアア……(なんだ……女に抱かれたみたいだ……)

 『タカシ』が波打ち、タプタプと波打つ。 キョウコは行水のように『タカシ』を体に浴びる。

 「さぁ……私を抱いて……」

 『タカシ』はキョウコの体を這い上り、包み込むように蠢く。

 オオオ……(女の肌……)


 タカシは霧の中をさ迷う。 歩いているようでもあり、立ち止まっているようでもある。 不意に霧の中から女が、キョウコが現れて彼を誘う。 誘われる

ままに、彼女の体にむしゃぶりついた。 女の体がタカシを包み込み、ありとあらゆるところが女を感じる。。 あり得ない。 でも感じる。 完全な抱擁の中で、

自分を包む女の体を愛撫する。 深い満足感とともに、快楽の疼きに満たされていく。

 
 「あん……ああん……」

 キョウコは『タカシ』に包み込まれ、甘い喘ぎを漏らしていた。 ベージュ色の粘体は、女の肌がある処が判る様に、這いずり、包み込んでくる。

 「はぁ……そろそろ……中に来て」

 キョウコは『タカシ』中に沈んでいる自分の秘所を押し広げ、中に『タカシ』を招いた。

 
 女の感触が変わる。 熱く濡れた肉襞の感触。 タカシは自分の抱いているものが、肉襞で覆われた淫らな肉になったことを知った。 肉欲の命じる

ままに、肉襞を撫で、吸い、舐める。 求められるままに深みを目指し、愛撫する。 体が快感に痺れ、絶頂の感覚が満ちてくる。 タカシは自分が性器

そのものであることを感じた。

 
 「ああ……深いわ……」

 秘所の中に、『タカシ』が潜り込む。 奥の奥まで『タカシ』が入り込み、み、彼女を満たしす。 ヒクヒクと震える『タカシ』が、次第に熱くなって来るのを感じた。 

キョウコは体をうねらせ、『タカシ』を大きくかき回した。

 ウッウッウッー!!

 「あーっ!」

 唸り声を上げ、『タカシ』が達し、同時にキョウコも果てた。 キョウコはタライの中に横たわり『タカシ』を愛しそうに撫でた。

 
 アウッ……

 『タカシ』が波立ち、キョウコが目を開ける。

 「ふふっ……気がついた?」

 ウウッ?(夢?……じゃないのか?)

 キョウコはタライの中で身を起こし、『タカシ』をゆっくりとかき回した。

 アアッ?(やっぱり? 一体どうなったんだ、おい教えてくれ!?)

 『タカシ』の呻きがの意味が判るのか、キョウコは妖しく笑った。

 「まだ夢だと思っているの? ふふっ……」

 キョウコはタライの外に手を伸ばし、床に転がっていたペットボトルを拾い上げ、『タカシ』に見せつけるようにする。

 「ご覧なさい」

 キョウコがペットボトルを振った。 中身は無色透明に見えたが、その中に歪んだ形が現れ、溶けるように消えた。

 ウッ?(なんだ?……なかに何かいるのか?)

 「もう一度やって見せるわね」

 キョウコはさっきより大きくペットボトルを振った。 さっきよりもはっきり『何か』が見えた。

 オッ?(女?……まさか水の精とか?)

 ボトルの中に見えたのは、透き通った女の形だった。 だが、それだけでは何のことか判らない。

 「これが何なのか、私達にも判らないは。 ただ、この水を飲むと、とーっても気分が良くなるの」

 ノッ?(飲むだって!? そんな得体のしれないモノを飲んだのか!?)

 『タカシ』の声が聞こえているのか、キョウコは『タカシ』に顔を近づける。

 「いい気分よ。 アソコは凄く感じやすくなったし、インスピレーションが次々に湧いてくる。 そして面白いことに、人によって効果が違うの……あなた

みたいに、体か変わっちゃう人もいるし」

 ゲッ!(俺に飲ませたのか!? あのお茶かっ!?)

 「んふー……」

 キョウコはボトルを開け、口をつけると中身を一気飲みにした。

 ナッ!!

 『タカシ』は、ボトルの中に女の形を、それがキョウコの口の中に入っていくのを見た。

 「おいしい……ああん……」

 キョウコは甘い声を上げて身もだえし、ゆっくりと目を開けた。

 グッ!

 キョウコの表情に、妖しい影が重なって見えた。

 「クフフフッ……私はこれを飲むたび、ココロが変わっていくみたいな気がするの……キモチイイ……」

 キョウコは『タカシ』に手を突っ込み、再びかき回す。 女の手に体を撫でられる感覚に『タカシ』は背筋がぞくぞくするのを感じた。

 「さて、貴方はさしずめ『肉粘土』とと言うところかしら。 これから、私好みの形にしてみようかしら」

 ヒッ!(よ、よせよ)

 タプタプと波打つ『タカシ』に、キョウコはボトルの中身を注ぎ込んだ。 異質なモノが体に染み込んで来て、肌が粟立つ感覚があった。

 「ククッ……スグキモチ良くなる……ほーら固くなってきた」

 アッアッ……

 体の一部が突っ張っていく様な感覚に『タカシ』は震えた。 それが全身に広がり、体が突っ張っていく様感じになって来た。

 ボコリ……

 『タカシ』の中から、のっぺりとした人の形がせり上がって来た。 キョウコは、楽しそうに『タカシ』に手をかけ、その形を変えていった。
    
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