第二十五話 ART

3.溶解


 タカシは一瞬迷ったが、彼女の手を掴みんで押し戻す。

 「悪い冗談ですよ」

 タカシが苦笑すると、女は肩をすくめて見せた。

 「ごめんなさい」

 
 女はかがみ込むと、再び粘土と格闘し始めた。 必要な作業なのだろが、単調な作業は見ていて飽きる。

 「退屈そうね」

 「ええ、まぁ。 しかし、随分と念入りにこねるんですね」

 「画材屋さんから購入すれば、そのまま使えるんだけど。 これは、地面から掘り出してきた粘土だから。 もっともそこが面白いんだけど。 ちょっと

練ってみる?」

 「んー……そうですね」

 (別に粘土をこねたいわけじゃないけど……そう言えば、粘土に触るのなんて久しぶりだな)

 暇つぶしのつもりで、灰色の塊を両手で掴んだ。 さっきまで女が練っていたので、人肌のぬくもりがある。

 「んー」

 両手で塊を掴み、力を込めて練ってみる。 手ごたえは予想以上に柔らかく、弾力すら感じられる。

 「変わってますねこれ」

 こねると言うより揉む感じで粘土を練るタカシ。

 「いい手つきじゃないの。 何か形を作ってみたら?」

 「そうですか?」

 女に勧められ、タカシは粘土をこねて『盃』を作ってみた。 さしたる苦労もなく、綺麗な形の盃が出来る。

 「うまいじゃないの」

 「や、どうも……随分扱いやすいんですね、これ」

 柔らかくて成形しやすく、それでいて型崩れもしない。 なるほど、わざわざ手間をかけて練り上げる訳だ。

 「少し教えてあげる」

 女はタカシの背後にまわり、彼の手に自分の手を重ねてきた。

 「え、ちょっとこれは」

 「いいから」

 女はタカシの手を押さえて、粘土を成形させる。 タカシの手の下で、粘土が薔薇の形に変わっていく。

 「へぇ……」

 目を丸くしていると、女がさらに身を乗り出してきた。 タカシの背中に柔らかいものがあたる。

 (わわっ。 この人、やっぱり下心があるのかな?)

 などと考えていたら、手の中の粘土がいつの間にか『おっぱい』の形に化けていた。

 「あら? なかなかいい形ね。 私の?」

 「わっ、こ、これは」

 女は焦ったタカシの手から粘土を取り、別の形を……男のアレを、それも隆々としたモノを作って見せた。

 「どう? 貴方のはこのぐらいかしら」

 「器用ですね」

 わずかな時間で精緻なアレを作りだす女の腕前に感嘆するタカシ。 女のその手が、またも彼の股間を撫でる。

 「んー、こっちの吠方が大きいかな」

 ズキッ

 背中に押し付けられる女のおっぱいが気になり、彼の股間は痛いぐらいに膨れている。

 「あ、あの」

 「いや?」

 肩越しに振り返ると、上気した女の顔が目に入る。 逡巡した後、タカシは首を縦に振った。

 
 部屋のユニットバスが使えたので、順番にシャワーを浴びた後、ベッドに倒れ込んだ。

 「けっこう、たくましいのね」

 「貴女こそ。 そう言えば、まだ名前を聞いていませんでしたね」

 「キョウコよ」

 キョウコはタカシを抱き寄せ、唇を重ねてくる。 タカシは、彼女の唇を受け止め、舌をからませた。

 ん……

 タカシの背に回されたキョウコの手が軽く爪を立て、背中に線を引く。

 ウッ……

 くすぐったいような感覚が心地よい。 タカシは股間のモノで、彼女の秘所を摺り上げるように動かした。

 ヌルリ……

 熱い蜜がタカシのモノに纏いつく。 もう準備は整っているようだった。

 「キョウコさん……」

 「いいわ、来て」

 甘い声が耳元で囁く。 タカシは屹立するモノを捕まえ、彼女の熱い秘所にあてがう。

 「行きます」

 律儀に告げ、ゆっくりと腰を押し込む。 固くなったモノが、柔らかに誘う秘所へと沈んでいく。

 「あん」

 タカシの下でキョウコが悶えた。 彼女の秘所が、タカシのモノをぎゅっと締め上げる。 タカシは唇をかみしめ、一気に腰を突き上げた。

 ズン

 「あん!」

 「ううっ!」

 タカシの先端がキョウコの奥を突き上げた。 ザラッとした感触が、タカシのモノの先を包み込み、熱い精をねだる。

 「くっ、くっ、くっ」

 「あん、ああん、ああっ……」

 勢いをつけて挿抜を繰り返すタカシ、その下で喘ぎ悶えるキョウコ。 二人の息はぴたりと合い、たちまちのうちに上り詰めていく。

 「も、もう」

 「一緒に!」

 股間が熱く痺れて精を放つその一瞬、タカシはモノを抜き放ち、快楽の証をキョウコの腹に放った。 同時にキョウコがひときわ高く喘ぎ、高みに達した。

 「く……」

 「あ……」

 二人はしばし硬直し、それからベッドの上に崩れ落ちた。

 
 余韻に浸っているタカシの背を、キョウコの手がゆっくりと擦っている。 滑らかに動く手は、時折爪を立てて線を引くように動く。

 「うまいですね……撫でられているだけで気持ちがいい」

 「そう? うれしいわ、喜んでもらえると。 これはどう?」

 キョウコの爪が、背中の上で円を描く。 微かな刺激は甘い疼きに代わり、体の中へと沁みとおってくる。

 「ああ……気持ちいい……」

 甘い疼きが体の芯に沁みとおり、心地よい波となって体の中を満たしていく。

 「蕩けそう……」

 「そう? ふふっ……ふふふっ……」

 キョウコが含み笑いを漏らす。

 「『そう』じゃなくて、蕩けていくのよ、貴方」

 キョウコの言葉に、タカシは首をかしげた。

 「どういう意味です?」

 キョウコは答える代わりに、タカシの背中に指を立てて、ゆっくりと力を加える。

 ズブリ……

 「いっ?」

 彼女の指が、背中に沈み込んだ感触があった。 へこんだのではない。 確かに指が背中に潜り込んだ。 しかし痛みはない。 それどころか……

 「ほうら……」

 タカシの背中の肉の中で、彼女の指が肉をこね回す。 その異様な感触が、蜜のように甘い疼きとなって染み込んでくる。

 「うあっ?……ああっ……あああっ……」

 彼女から離れようとしたタカシだったが、蜜のような快感にからめとられ、体が動かない。 その間にも甘い快感がトロトロと体の中へと染み込み、体が

蕩けていくようだ。

 「と、蕩ける……ああ……」

 「たまらないでしょう……ふふっ……この快感に浸っていなさい、貴方が骨の髄まで蕩け切ってしまうまで」

 キョウコの言葉通り、タカシの体が徐々に蕩けていく。 若い男の体が徐々に形を失い、肌色をした粘液となって、キョウコの体へと滴り落ちて行く。

 「うふふ……気持ちいいでしょう……さぁ……」

 「蕩ける……トロケル……ドロゲルゥゥゥゥ……」
    
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