第二十四話 ゆうわく

2.いつもの情事


 「ねぇ……下も……動いて」

 彼女がせがむ。 おれは微かに頷いて、腰を動かす。

 ズブリ……

 俺自身が深々と彼女の奥に潜り込んだ。 彼女の中は底なし沼。 奥に行くほど粘り気が増すが、突き当たる感じがない。

 「うう……」

 突き入れるほどに、俺自身に彼女が絡みついてくる。 蕩けそうなほど心地よい……いや。

 「蕩け……る」

 「ああ……判る……貴方が……私に……」

 ズニュ……ズニュ……ズブ……

 泥をかき分けるような音が、腰の辺りでしている。 ちらりと視線を向けると、女の白い肉におれの腰が沈んでいくのが見えた。 腰だけじゃない。 彼女の

胸にめり込んだ手は、肘の辺りまでが彼女の中に沈んでいる。 普通なら、恐慌をきたしてもよい光景だッ。 しかし……

 「ああ……いい……」

 彼女の中に沈んだ腕、そして腰から、柔らかく深い快感の波が伝わっってくる。 あり得ないほどの快感の波が、おれの意識を白く塗りつぶしていく。

 「気持ち……いい……」

 「私も……ああ……貴方が欲しい……」

 彼女が身をよじってよがっている。 その動きで、おれの体はに引き寄せられ、腹と胸が密着した。 女の肌がおれの腹をくすぐった。

 「うふぅ……」

 腹の辺りが彼女の中に沈みだし、快楽の波がおれの体に溢れ出す。 もう身動きもままならない。

 「も、もう動けない……」

 「いいわ……一つになりましょう……」

 彼女は女がそう言うと、おれの背中に腕を回した。 その彼女の腕が背中に溶け込んで来る。

 「あ……」

 押し寄せる快感の波に意識が真っ白になった。 その快感の中で、彼女とおれの体が溶け合っていく。

 「……」

 「溶けちゃう……」

 おれは自分が彼女の中に溶けていくのを感じた。体の力を抜き、抗うことなく彼女に全てを委ねる。

 
 ”……”

 ”…………”

 ”…………うん”

 『私』は身じろぎし、目を開けた。 天井がさっきより近く感じる。

 ”ん……”

 手に力を入れ、体を起こす。 強烈な快感の余韻で、体がだるい。

 ”ふぅ……”

 体を起こすと、鏡にベッドの上の『私』が映っていた。 長い黒髪の裸の女が、グラマラスなボディをベッドの上に横たえている。。 エロティックな構図

なのだが、妙にバランスが悪い

 ”ふ……”

 こみ上げてくる笑いの衝動。 ダブルベッドが小さくみえるせいだ。

 ”子供用のベッドね……”

 思いが言葉になった。 ベッドが小さく見えるのは、『私』が大きくなったためだ。 二人分の体が一つになった今、『私』の身長は2mを超えているだろう。 

うかつに立ち上がれば、天井に頭がぶつかるだろう。 体だけではない。 『私』はさっきまで、「私」と「おれ」だったことを意識している。 二人の意識と記憶

が一つになっている

 ”……”

 くるっと部屋を見回すと、調度品も全て小さく見える。

 ”いつものことだけど、不思議な感じ……”

 さっきまで情事を反芻する。 彼に誘われたことも、彼女を誘ったことも、同じように自分の記憶として感じられる。

 ”……さて……この体じゃ服は着れないし……後を楽しみましょうか……”

 ベッドが小さいので頭をぶつけない様に注意して横たわる。 足を開いて、『私』の秘所に手を伸ばす。 そこは熱く潤っていた。 ”ん……はっ……”

 女の真珠に触れると、熱く痺れる快感が体を走った。

 ”激しかったから……ふぁっ……”

 手が勝手に動き、『私』は女の快感に酔いしれる。 『私』の半分はさっきまで「男」だった。 その「男」がこの快感を新鮮なもの感じている。

 ”あ……ああっ……”

 『私』の「女」が自分を慰め「男」の部分が未知の快感に悶える。 この感覚が最高に好き。

 ”はあっ……ああっ……”

 足をつっぱり、腰をもちあげて悶える。 指が『私』を弄る感触は、他の誰かにされているかのよう。

 ”いい……いいのっ……”

 感じている『私』は「女」か「男」か……けど、すぐにそんなことは頭から消え去り、体を満たす快感が『私』を異次元の絶頂へと押し上げた。

 ”くぅー!!”

 頭の中で白いものが弾け『私』は意識を失った。

 
 「く……」

 目をあけると、天井が遠くなっていた。 隣を見ると、彼女が荒い息を整えているところだ。 さっきまで、彼女とおれは一人の大女にになっていたはずだが

……あの体でいくと、二人に戻るらしい。 全く不可解だ

 「ふぅ……」

 「よかったわ……」

 彼女が俺に抱き着いてくる。 ひんやりした肌が心地よい。

 「ああ……よかった」

 口調がぶっきらぼうになった。 少し改める。

 「よかったよ……」

 「私もよ……」

 彼女はおれに体を摺り寄せる。 こうしていると、彼女はどこから見ても普通の人間だ。

 「なぁ……」

 「なに?」

 「……前にも聞いたが、君は一体何者だ? 妖怪か? 宇宙人か?」

 彼女はあいまいに笑った。

 「さぁ? 知らないわ」

 「とぼけているのか?」

 「別に……そう言う貴方は何者なの?」

 「おれは、人間だよ。 普通の」

 「そう? 自分が人間だとどうしてわかるの? どうやって確かめたの?」

 彼女はからかうように言った。 このやり取りは、最初に会った時から繰り返し、挨拶みたいになっていた。 最初のころは誤魔化しているのかと思った。 

だが、何度も同じ会話しているうちに、自分が本当に人間なのか自信が持てなくなってきていた。

 「確かめちゃいないさ。 でも、おれが人じゃなけりゃ、健康診断や献血の時に判るだろうさ」

 答えはしたが、それで確かめたことになるだろうかうかと自分に問う。

 「私も献血に行くわよ、ときどき」

 「……それで」

 「血液型はOだって言われた」

 おれは頭を振ってベッドに転がり、天井を見上げた。 彼女が俺に寄り添う。

 「体はともかく、中身は普通じゃないかもね」 彼女がくすりと笑う。

 「なんで」

 「私と何度も『交わる』から……」

 そう言いながら、彼女は手で俺の胸を優しく撫でている。

 「それは……」

 彼女の手に自分の手を重ね、答えを呑み込んだ。

 (お前の体……お前とのアレが……)

 おれは彼女と最初に関係を持った時のことを、彼女と初めて『交わった』時のことを思い出す。
   
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