第二十四話 ゆうわく

1.いつもの女


 卯花色のロウソクが灯る。

 ロウソクの明かりに照らし出されたのは、派手目の服装をした水商売風の女だった。 年齢は30ほど、肉付きはやや良すぎ、栗色に染めた髪の下の

顔立ちは、平均より少し上といったところか。

 (化粧も濃いな。 あっちで音響やってる黒髪の姉ちゃんには及ばないな……ん)

 女が滝と志度の向かいに座り、にっこりと笑った。 愛嬌のある親しみやすい笑顔だ。

 (ふむ。 黒髪の姉ちゃんはかなりの美人だけど、とっつきにくい感じがするよな。 こっちの方が気軽に付き合えそうだ……といけね)

 滝は仕事を思い出し、女に話しかけた。

 「お話のネタになるような、いわく付きの品はありますか?」

 「はい」

 女はロウソクの前に名刺ほどのカードを置いた。 『バー・シュルテン』と書いてある。

 「いわくつきという訳ではないのですが。 ここから話を始めたいと思いますが、よろしいでしょうか?」

 「かまいませんよ。 お願いします」

 「では、ある男の話を……」

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 俺は、酒場への道を歩いていた。

 (また、あそこにいくのか……あの女に会いに)

 自分でもどうかしていると思う。 あんな女に会いに行くなんて。 だが……ほかにいないのも事実だ。

 堂々巡りする、自分の心を持て余し始めたころ、ようやく目当ての場所についた。

 『バー・シュルテン』

 汚れた看板をちらりと見てもドアを開ける。 10に足りない数の椅子が並んだカウンターが目に入る。 そして、あの女は一番奥の椅子に座って、チェリーを

浮かべたカクテルを飲んでいた。 彼女は目ざとく俺を見つける。

 「あら……また誘ってくれるの?」

 親し気な笑みはほんのりと赤く、心なしか色っぽさが増したようだ。

 「……ああ。 が、先に一杯やってからだ。 ギムレット」

 椅子に座りながら、バーテンにカクテルを注文する。 バーテンは、無表情にジンとライムジュースをシェークし始めた。

 ……

 店内には聞き覚えのない、ゆったりした曲が流れている。

 「知らない曲だな……なんて曲かな」

 思いが口に出たようだ。 バーテンが答えた。

 「マジステール」

 カクテルグラスが目の前に置かれる。

 
 「今日も家じゃないんだ」

 「男の一人暮らし。 女を連れ込めるような部屋じゃなくてね」

 そう答えながら、ラブホテルの部屋を選んでスマホで支払うと、部屋番号とキー・コードが印字された紙が出てきた。

 「行こうか」

 そう言うと、女はおれの腕に絡みついてき、頭を寄せてきた。

 「うん」

 (見てくれは、普通の女なんだがな……)

 心の中で呟き、人気のないロビーの端のエレベータに乗る。

 
 「シャワー、先に使う?」

 「うん」

 安いホテルなので、一緒に入る広さのバスはついていない。 まぁ、ベッドがあればこと足りるわけだし、設備が豪華だからと言って、アレが豪華になる

わけでもないが。 先にシャワーを使いってバスルームから出ると、入れ替わりに彼女がバスルームに入った。

 シャー

 シャワーの音を聞きながら、ベッドに腰を下ろす。

 (……逃げるなら今の内だな……)

 ふと浮かんだ考えに苦笑する。 逃げるも何も、誘ったは俺だ。

 「おまたせ」

 上気した体をバスタオルで包んだ彼女が、バスルームから出てくる。 服を着ているときより、格段に色っぽい。

 「着やせ……じゃないな、着太りするのか」

 「何よ、それ」

 彼女は笑いながら、ベッドの俺の隣に腰かける。

 「今日はどうする、前から?後ろから?」

 「普通に前から」

 口にしてから、今一事務的だったかと思った。

 
 「はっ、はあっ! ああっ!」

 俺の下で、彼女が激しく乱れる。 腰を突き入れるたびに、体が大きく反り返り、柔らかな乳房が俺の胸に吸いてくる。

 「くうっ!」

 俺はベッドのスプリングを利用し、リズミカルな動きで彼女の奥へと自分自身を突き入れると、恐ろしくやわらかな腰に俺の腰がめり込み、彼女の奥をの

槍が叩く。

 ヌルリ、ザラリ……

 「ううっ、ううっ……」

 絶妙なぬめりとザラリとした感触が、おれ自身を包み込む。 何度彼女を抱いても慣れない。 そのたびに新鮮な刺激が俺を魅了する。

 「いきそうだ……」

 「来て……遠慮しないでいいから……」

 言われるのと、腰の辺りが熱く痺れて来るのが同時だった。

 ヒクヒクヒクヒク……ドクリ、ドクリ、ドクリ……

 俺は快感に打ち震えながら、その証として熱く粘っこいモノを彼女の奥に放つ。 それを受け止めた彼女も、激しく痙攣しながら俺を抱きしめる。

 「ああっ!」

 柔らかな彼女の体に、半ばめり込むような形で抱きしめられた。 俺たちは、あたかも一つになろうかというように、互いを強く抱きしめあった。

 
 俺たちはベッドの上で、激しい絶頂の後の、けだるい心地よさに浸る。 彼女と交わると言った回目

 「よかったわ……」

 「ふぅ……君は、一回目はいつも激しいな」

 「だって興奮しないと……ね?」

 「ああ」

 彼女が俺を求めてきているのが判る。 おれもそれを望んでいるから、彼女を誘ったのだ。

 「一つに……なろう?」

 ぺろりと舌を出すと、彼女は俺に抱きついてきた。

 「俺が上になるから、下にいてくれ」

 「ええ」

 彼女が頷くと、おれは再び彼女の中に自分自身を突き入れた。

 ヌチャリ……

 さっきまでの感触と違う。 粘り気のあるクリームの中に突き入れたかのような感触が、俺自身を包み込んだ。

 「ああ……感じる……」

 「うう……蕩ける……」

 口から呻きが漏れた。 俺自身を包み込む感触が、蕩けるような快感に……いや、蕩けていく快感に変わっていく。

 「た、たまらん……」

 彼女の肩を掴む手に力が入る。 と、その指の間から彼女の体が溢れ出し、俺の手が彼女の体に潜り込んでいく。

 「そっちより……胸から……」

 彼女は反対側の俺の手を、自分の胸へと導いた。 柔らかい感触に、指が自然にそこに食い込む。 と、肩同様に彼女の胸に俺の手が潜り込んでいく。

 「ああ……入ってくる……」

 「うぁ……あ……」

 彼女の中に潜り込んだ手の先から、ありえない快感が伝わってきた。 それは、手が性器の一部と化したかのようだった。

 「た、いい……」

 彼女の体にじわじわと引き込まれながら、俺は妖しい快感の虜になっていく。

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