第二十三話 うばがみ

3.ご神託


 フワリ、フワリ……

 男の男性自身が、恐れ多くも『乳母神』の谷間であやされる。 慈愛に満ちた温もりに、猛り狂うモノが蕩けてしまいそうだ。

 ゾクリ……

 「う?……こ、これは……ま、まずい……」

 背中を走ったのは、紛れもなく極みの前兆。 普段であればそのまま果ててしまったに違いない。 しかし……

 (お、おれは何を……いけねぇ。 こ、この女が本物の神様だったら……バチがあてられちまうかも)

 異常な状況が、かえって男に正気を戻させる。 なんとか『乳母神』から体を引きはがそうとするが、体が自由にならない。

 「これ、坊よ。 むずかるでない」

 「う、『乳母神』ああ……いけません……も、もらして……」

 「ほほ、恥じ入ることはない。 漏らすのも、子のつとめ。 たんと漏らすが良いぞ。 それ、しぃしい」

 そう言いながら『乳母神』は男のモノを胸の谷間で弄った。 男は漏らしてはならじと、必死で耐える。

 「そ、そうは申されましても。 判っていて漏らすものではありません。 そ、それに恥ずかしゅうございます」

 (と、とにかく逃げよう。 このままじゃ、何されるか判らん!)

 男は得体のしれない『乳母神』から逃げ出そうと、言い訳を口にしながらモノを引き抜こうと試みる。 しかし、『乳母神』の乳房の柔らかさ、心地よさは

尋常ではなく、下手に動けばたちまち果ててしまいそうだった。

 「これこれ、むずかる坊よのう。 どれ、もっとしっかと抱えてしんぜよう」

 そう言いながら『乳母神』は乳房をブルンと振り、男の腰に手を回して自分の方に引き寄せる。 

 ムクリ……

 「い!?」

 男は目を向いた。 何と『乳母神』の乳房がむくむくとふくれあがり、男の腰を左右から挟み込んできた。

 「わぁ!?」

 男は大きく膨れ上がった『乳母神』の乳房に下半身を挟まれ、沼にはまったような格好になってしまった。 後ろに下がることができなくなったため、上に

抜けようと乳房に手を突く。

 ズブリ……

 「ひっ」

 柔らかな乳房は、男の手を肘の辺りまで呑み込んでしまった。 痛がるかと『乳母神』の表情を伺うが、気にした様子もない。

 「ほんにやんちゃな坊よ。 さ、ゆるりとかわいがってしんぜようぞ」

 タプタプタブ……

 「うにゃぁ!?」

 乳房が波打ち、男の下半身を妖しく弄ぶ。 しっとりと汗をかいた女の肌が、優しく足に纏わりつき、舐める様に滑っていく。

 「あ、あぁぁ……」

 もう、漏らすとかどころの話ではない。 腰から下が蕩けてしまいそうな、心地よさに体から力が抜け、陶然ととなってしまう。

 「ほう、大人しゅうなったの? 坊や?」

 「あ、は、はい……ぁぁ」

 『乳母神』の声を夢うつつに聞きながら、男は下半身から生暖かな快感が湧き上がってくるのを感じた。

 「いい……ぁぁ……いきそう……」

 「ほれ。 遠慮せずに、たんと気をやるがよいぞ……」

 「はぃ……あぁぁ……」

 男性自身がヒクヒクと悶え、背筋を心地よいものが駆け上がっていく。 頭の中にせり上がってきた快感が体に溢れだした。

 「蕩けそう……」

 トクリ……トクトクトクトク……

 フニフニと男を挟んで揺れる乳房の間に、男は精を漏らしてしまった。 が、あまりの心地よさに、そんなことにも気が使になった。

 「おお、元気のよい坊じゃ。 それ、たんと漏らすがよい」

 「は、はぁい……」

 男は『乳母神』の乳房に挟まれ、忘我の表情で立ち尽くす。

 
 「……あ?」

 「おお、戻ったかの。 坊や」

 男は瞬きし、辺りを見回す。

 「わ」

 彼は、なんと『乳母神』の膝枕で寝ていた。 慌てて飛び起き、地面に這いつくばる。

 「う『乳母神』様……そ、その無礼を働き、申し訳ありません」

 (い、いけねぇ。 こいつは本物の神様か、物の怪だ。 速いとこ逃げよう)

 何とか逃げ出そうと、頭をめぐらす。

 「なんの。 やや子が粗相をするは当たり前ではないか」

 「は、ご容赦いただき、有難うございます」

 (何言いやがる。 粗相をさせたはお前のせいじゃねぇか)

 腹の中で毒づきつつも、どう言い訳すれば解放してもらえるかと考える。

 「えー、鈴を鳴らしたのは、手前の誤りでして。 真に申し訳ありませぬ」

 「ほぅ、誤りとな」

 『乳母神』が笑みを浮かべた。 怒ってはいないようだ。

 「ははっ。 手前は……堂の掃除に参ったのですがが、掃除の後うたたねをしてしまい、気が付いたら夜になっておりました。 灯りを用意してこなかった

ので、山を下りることが出来ず……という次第でして」

 言い訳を口にしながら平蜘蛛の様に平伏する。

 「……誰しも過ちはある……それを責めはせぬ」 『乳母神』は柔らかい声で応えた。

 「はは、ありがたき幸せ」

 男は田舎芝居の侍の台詞を拝借し、一層頭を下げた。

 「しかし、嘘はいかぬ」 と『乳母神』は抑揚のない声で言った。

 「は?」

 「堂に一夜の宿を求めたのであれば、そう申して詫びるべき。 そうは思わぬか?」

 「は……」

 「心のこもらぬ詫びの言葉に、誠はあるまいぞ……」

 『乳母神』の言葉が突き刺さる。 男は地面を見つめたまま、だらだと冷や汗をかいた。

 「どうした? 暑いのかえ? こちらを見よ」

 口調は柔らかいが、その中になにやら恐ろしいものを感じる。 男はそろそろと顔を上げた。

 「!」

 『乳母神』が月を背にして立っていた。 その顔には慈愛の笑みが張り付いていたが、両目が金色に光っている。 男は、説明のつかない恐怖を感じ、

再び這いつくばる。

 「も、申し訳ございませぬ! 恐ろしゅうなり、つい嘘を」

 「恐ろしいと言うのは本音じゃな。 が、恐ろしいだけよの」

 「……え」

 「坊の心には、悔いる心が感じられぬ……困ったものよ……」

 ザッ……

 足音がし、『乳母神』が一歩前に出たようだ。

 ザッ……ザッ……サラリ……

 足音と衣擦れの音がした。 男は、地面を見たままがたがたと震えている。

 「う、『乳母神』様……い、命ばかりは……」

 そろりと顔を上げる……目の前に『乳母神』が、いやその乳房が揺れていた。

 「え」

 いぶかしむ間もなく、その赤い乳首から白い乳が迸る。

 プシャァァァ

 「わわっ」

 顔に乳が降り注ぎ、鼻や口から入ってくる。 甘い香りと味、そう感じたとたん、体から力が抜ける。

 「わっ……」

 男はその場にひっくり返った。 起きあがろうとするが、手も足も動かない。

 「こ、これは?」

 「やや子は一人では起きられぬ、そうであろう?」

 『乳母神』男を抱きかかえた。

 「悪い坊よの、おしおきがいるのぅ」

 ニタリと笑う『乳母神』。 その表情に狂ったものを感じ、男の背筋を恐怖が走った。

 「い、命ばかりは……」

 「安堵せい。 我は『乳母神』。 生あるものを滅しはせぬ」

 「さ、さようで」

 ほっとする男。 しかし、それは早すぎたようだった。

 「坊は、ちと悪しき性根に育ちすぎたの。 よきものに育つよう、巻き戻してしんぜよう」

 「へ?」

 「小さき人に戻し、それでも足りねば胎内まで戻し、世に出しなおしてやろうぞ」

 「…ひぇぇぇぇ!」

 「案ずるな。 苦痛は無きゆえ……たんと心地よき時を過ごすがよい」
 
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