第二十二話 こたつ

8.そして誰も出られなかった


 ヌッチャ、ヌッチャ、ヌッチャ……

 『黄』は夢中で体を上下させる。 脇腹に女の陰唇が吸い付き、肋骨の上を波打ちながら滑っているのが判る。

 「ああ……たまりません……中を……もっと中を……」

 女の声は、耳ではなく体を通して聞こえてくる。 『黄』は足先で女の中を探った。 と、プルンとした滑らかな塊がつま先に触れた。

 「ひいっ!!……」

 「ここか……ここがいいんだな……」

 『黄』はそう言って、つま先でその塊を引っかいた。 『黄』がつま先を動かす都度、女が身を震わせて歓喜の声を上げる。

 「うう……」

 女が熱くなってくるにつれ、『黄』を咥えこんでいる陰唇の動きも激しくなってきた。 『黄』の脇腹や背中に、ヌメヌメと張り付き、彼を中に招き入れようと

している。

 「くはっ……」

 『黄』たまらず息を吐きだして力を抜いた。 力が抜けた『黄』の上半身に女が抱き着き、激しく唇を求めてくる。

 グッチャ、グッチャ、グチャ……

 互いの舌が、口腔の中をでかいナメクジのように這いまわる。 女の舌は、他の処より一層滑っており、『黄』の口腔を余すことなく舐めまわった。

 「もが……」(なんていやらしい口づけだ……)

 「もむぅ……」(くふふ……ほら感じてきたでしょう……)

 女の唾液の作用なのか、『黄』は口の中が異様に心地よくってきたのを感じた。 口を犯されているような気妙な気分だ。

 「ぷはっ……うふふ……お口が性器になった感触は如何です?」

 「口が……性器に?……ぼはっ……」

 女が再び彼の唇を奪い、大胆に舌を突き入れてきた。 脳天を直撃するような快感が口の中に沸き起こり、意識が白く飛んでしまう。る。

 「うぁっ……」

 「さぁ……もっと……感じて」

 女は『黄』を抱きしめ、全身を擦りつける。 ヌメヌメした感触に体を覆われると、皮膚の感覚が鋭くなり一つに溶け合っていく様な気がする。

 「良い気持ちでしょう……これで貴方の体はすべてが性器。 そして私も……ああ……もう離しません」

 「……ああ」

 女の言葉には肉の快楽とは別の力があった。 他の望みは何もなく、ただ一心に自分を求めてくる魔性の女、これを拒める男はいないだろう。

 「い、いくぞ」

 『黄』はそう言うと女を抱きしめ、自分から体をこすりつけた。

 「ひいっ」

 二人の間で、粘液がグジュグジュと音を立てて泡立つ。 その泡にまみれた体を、『黄』は少しずつ女の胎内へと沈めていく。

 「うぁ、うあ、うあっ……」

 陰唇がからみつく位置が、わき腹から脇に、そして胸へと移っていった。

 「気持ちいい……」

 女の胎内では、ヌメヌメと蠢く襞と蛇の様な触手の群れが彼の全身を愛撫してくる。 その快感は、彼の体の芯が蕩かしていく。

 「蕩けそうだ……」

 「ええ、そうです……じきに貴方の体はトロトロに蕩けてしまいます……そして、貴方は毛の一筋も残さず、私のものになるの……」

 恐ろしいはずの女の言葉。 しかし、『黄』は抑えきれない歓びを感じていた。

 「ああ……やる……全部……やる……」

 ズブッ

 鈍い音を立てて、『黄』の頭が女の胎内へと消えた。

 「……ああっ……あああっ…」

 中で『黄』は女を愛し続ける。 纏いつく肉襞をさすり、触手に舌を這わす。 それはおぞましい、人と異形の女の睦みごと……いや、ひょっとすると『黄』も

異形の者に化身していたのかもしれない。

 「ああっ中に……お願い」

 「いく……やる……」

 女の胎内、膣とおぼしき『こたつ』の穴のその奥にプックリと膨れ上が肉の塊があり、その頂には小さな穴が開いている。 『黄』はためらうことなくその穴に

自分自身を宛がい、ズブリと突きこんだ。

 ビクン……

 『ぁぁぁぁぁ……』

 外から女の喘ぎが響いてくる。しかし、『黄』にはそれを聞いている余裕はなかった。

 「ああぁぁ……蕩けるぅぅ……」

 体が生暖かい快感で満たされた、そして蕩け切った体を『黄』の男性自身が吐き出していく。

 ドプリ、ドプリ、ドプリ……

 蕩けた体の中身が男性自身粘っこい液体としては吐き出されていく。 今や『黄』の男性自身が『黄』であり、その体は巨大な陰嚢であった。

 ドプリ、ドプリ、ドプリ……

 ゆっくりとしぼみながら女の奥底に、己自身をささげていく『黄』。 それは雄として無上の歓びだった。

 あああああ……

 鳥さえ通わぬ雪深い山の奥にひっそりと建つ山小屋と『かまくら』、そこに女に身をささげた哀れな男たちの声がこだまする。

 いつまでも、いつまでも……

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 「これで、この『こたつ』にまつわる話は終わりです」

 黄色の登山服を着た男は静かに口を閉じた。 気まずい沈黙がその場に流れる。

 「その話は……あなた自身が体験したお話ですか?」

 登山服の男は、にまっと笑った。

 「だったら、ここにいるはずがないですよね」

 「そうですよね」

 「ははっははは……」

 ひきつった笑いを浮かべる志度をちらりと見て、男は再び笑った。

 「では、これで」

 そう言うと、男はこたつの中に潜り込んでしまった。

 「あ、あの?」

 ”こたつはいいですよ、暖かいし、気持ちいいし……”

 「もしもし、その『こたつ』を片づけないといけないんですが……」

 ”出られないんです……ここから……”

 志度と滝は顔を見合わせた。

 「どうする、滝」

 「どうするって……取っ払うしかないだろう」

 「取っ払って……もし……『穴』があったら……」

 ゴクリ

 つばを呑み込んだ滝は、志度を促して二人で『こたつ』の四つの足を、こたつ布団の上から掴む。 そのまま一気に『こたつ』を取り払った。

 「ない……」

 「いない……」

 『こたつ』の中には『穴』などなかった。 そして、登山服の男も消えていた。

 フッ

 『こたつ』の上にたてられていたロウソクが勢いよく飛んでいき、闇の中に消えた。

<第二十ニ話 こたつ 終>

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