???物語

解説


R.K:さて、この「???物語」シリーズですが、少し変わった形を取ります。

    各話は完結した話となり、滝と志戸、二人の漫才師がラジオ番組のゲストとして「百物語」の語り部の話を聞くと

    いう形で始まり、終わります。

    そして、ラジオ番組「百物語」の司会はあの「ミスティ」、音響が「エミ」、AD「ブロンディ」と「ボンバー」その他に

    もいろいろと…

    短い話の連続で、解説は補足と蛇足で構成される事になります。

    それで話の数ですが…百になるかどうか判りません(断言してもしょうがないですが。)

    また、順番どおりに書かれるかどうか…

    では、最後(いつになるやら…)までお楽しみいただければ幸いです。

<2006/05/21>

第一話 牙

    解説:元ネタは、青い肌に虎女が槍を持っている一枚のイラスト。(多分アメリカ)

       <ランデルハウス・クラチウス教授著:アジアの妖人考 『虎一族』より>

       中国の古い文献に、虎のような姿の人々の記述が散見される。
       女性の虎人間は『虎娘』(ふーにゃん)、男性は『虎男』と表記されている。
       私はこれらの記述は虚構ではなく、実在した虎人間に関する記録であると考える。
       この虎人間の一族を『虎一族』と呼称することを提案する。
 
       「耶簸の西に虎娘あり。捕吏怪しみてこれを捕らえ、老高に献上す。老高に驚き、喜びて大家に献上せん
       とすも、虎娘の鳴くほどに皆狂いて滅す」『珍唐書』十巻
       この記述は、「虎娘が地方の役人に捕らえられ、中央の役人が皇帝の献上品にしようとしたが、その泣き
       声を聞いた者は狂い死にした」と読める。
       「胡西に獵人ありて、虎娘捕えたり。獵人、狂いて娘と交わい、共に消えたり」『叫史』五巻
       この記述では、「猟師が虎娘を捕らえたものの、虎娘と交わった後共に行方不明となった」とある。
       
       この他にも『虎娘』を捕獲したと言う記述は幾つかあるが、幾つかの興味深い類似点がある。
       一つは捕獲者が「狂う」事、また捕獲者が死亡または行方不明になっている点である。
       これらの文献では『虎一族』は邪悪な者であるとされている。

       一方で、『虎一族』に命を救われた、恩を返されたとという記述も幾つかある。
       こちらでは、情深い一族とされている。
       ところで、「恩返し伝説」の場合の必ず現われる一夜の情けというパターンが、『虎一族』の伝説には皆無
       である。

       ここで大胆な仮説を試みる。
       『虎一族』が虎の性質、生活習慣を持っているとすると、子供を作る時以外は殆ど一人で生活しているで 
       あろう。
       そうすると妊娠の機会が少なくなるため、性交時に受胎の確率を高めるシステムが必要になる。
       その為に強力なフェロモンを発するようになった可能性がある。

       仮に『虎一族』が人間と交雑可能であれば、そのフェロモンは人間に対しても有効であろう。
       つまり、捕獲者が「狂った」のは、不用意に『虎娘』を発情させてしまい、フェロモンを嗅いでしまったからと
       推測できる。
       また行方不明になったというのは、フェロモンの作用で離れられなくなったか、激しい性交の結果、落命し
       たとは考えられないだろうか。
       これで「恩返し」に一夜の情けが表れない理由も説明できる。

       ここでもう一つの伝説を紹介しよう。 それは『虎一族』は死骸を残さないというものだ。
       これは、仲間の遺体を持ち去って秘密の場所に埋葬する習慣がある為とも考えられる。
 
       さて捕獲者と『虎一族』が交わった後に捕獲者が死亡したとしよう。 そうすると捕獲者は仲間と見なされ、
       その遺体は埋葬の対象となる。
       結果、捕獲者が行方不明となるわけだ。

       しかし、それほど強力なフェロモンであれば、珍重され高価で取引されるであろう事はたやすく想像できる
       そして、それが『虎一族』にとってどういう結果をもたらすかも。
       今現在、『虎一族』の生存が確認できないのはそう言うわけかもしれない。

    蛇足1:「その子孫」

       ピチャン… 虎娘は綺麗好き。 今日も泉で水浴びの後、顔を映して汚れをがないか検めるに忙しい。

       ちょっと不満そうな顔になる。 眉の形が気に入らない。

       虎娘は『祖先の牙』の首飾りを外すと、『侍の牙』を指でつまんで眉をそりそり。

       きりっと引き締まった形になった眉に満足気。 『侍の牙』は今も虎の娘に愛用されている。

    蛇足2:「あの男」

       虎娘が去って四百と五十年の後、「鬼去里(きささ)村」に一人の拝み屋がやってきた。

       熊と見まごう立派な体格、その名は岩鉄。

       「うむ! かってこの地で一人の侍が獣のような鬼を退治した名を残したと言う。 わしもそれにあやかりた

       い」

       四百年も前の事だということなど気にもせず。 下駄履きで山に分け入っていく岩鉄。

       ピチャン… 微かな水音と女の声

       「むっ!」 岩鉄は足音を殺して忍び寄る。 茂みの向こうで大柄な人影が水浴びをしている様子。

       「さては鬼が生き残っておったかぁ!」叫びながら茂みを飛び出す岩鉄。

       泉で水浴びをしていた近在の農家の娘と目が合う。

       「いっやー!!熊男!!ケダモノー!!」 慌てて山奥に逃げる岩鉄。 娘の危機に村の男達が鉄砲や

       鎌を持って駆けつけてくる。

       「みなの衆、山狩りじゃあ!!」「おおう!!」「侍どんの名を辱めるなぁ!!」

       岩鉄の名は痴漢として長く記憶されることとなった

       <2006/08/15>


第二話 百合

解説:元になったのは「魔人形」と性転換麻薬の煙草の出てくるあるSF短編です。

    「百合」は『百合』だった人間の骸を苗床にして芽を出し、一株だけ咲きます。 

    この「百合」には『百合』だった人間の意識が宿っています。

    『百合』の意識は、『煙』の形で「百合」から離れて自在に行動できますが、時間と距離に制限があります。

    しかし、自分の一部であった枯れた花、葉に一時的に宿っている事が可能です。  

    『煙』を人間が吸い込んだ場合、強い酩酊感、幸福感、性感の上昇、女性化と言った作用を受けます。

    女性化が極限まで進むと、人間は『百合』に変わります。

    『百合』となった人間は「百合」を同胞とみなし、その世話、防衛を担当します。 

    代わりに「百合」からは蜜、快楽の報酬を受けます。

    『百合』化した人間の肉体は老化しなくなりますが、べつの要因により衰弱する為、寿命は最長でも50前後で

    す。

    しかしその「意識」は「百合」の中に保存される為、「意識」がこの世に残る時間は人間よりはるかに長くなりま

    す。

蛇足1:「その後」

    『百合』は今日もせっせと百合畑の手入れ中。 実に働き者だし、百合の花たちの評判もいい。

    しかし中には小姑のような百合もいる。

    「ちょと、水が足りないわよ」「油虫がいるわよ!」「農薬はやめてよね。私、自然食志向なんだから」

    『百合』は嘆息して辺りを見る。 ここいらはオレンジに黒い斑点のある百合ばかりだ。 彼女は呟く。

    「渡る世間は鬼百合ばかり…」

蛇足2:「その隣」

    行方不明事件が頻発し、拝み屋が調査にやってきた。

    「がっはっはっ!! この岩鉄が来たからには物の怪なぞ物の数ではないわ!! おおここだな」

    がっしりした体格の拝み屋は、店に入りカウンターに座るとビールを注文する。

    ふうっと甘い匂いの煙が流れてきた。(うむ。きおったな!)岩鉄は背後を振り向き、硬直する。

    ぴったりした皮に鋲を打ったジャケットを着たプロレスラーのような体格の男が立っている。

    「うふ。お兄さん…一人?」薔薇の香りの煙草を吸いながら男が媚を売る。

    喫茶『マジステール』の隣のバー『ブルーオイスター』に岩鉄の悲鳴が響き渡った。

<2006/05/21>


第三話 死人茸

解説:元になった話はありません。 マンドラゴラ、バンシー等の伝説にヒントを得て作りました。

    苦痛に満ちた死、孤独な死、醜い屍を残す恥、残り少ない命と引き換えにそういう心残りを取り除く、そういう妖怪として設定しました。

    『死人茸』は死にかけた人間に、胞子を植えつけます。 大体10人前後に植えつけると、枯れてしまいます。

    『死人茸』は取り付いた人間の弱った部分に菌糸を張り巡らし、麻酔作用のある酵素を分泌しながら成長します。

   結果的に、重病に係り余命いくばくもない患者から苦痛を取り除くことになります。

   『死人茸』は最後に脳に菌糸を進入させ、自覚のないまま宿主を殺し、その後急速に成長して人型を取ります。

   骨を消化できないため、体の中に宿主の骨を抱えたまま、次の宿主を探してうろつきます。

    結果として、枯れるときに宿主の骨を残すことになり、死霊の様に思われています。

    『死人茸』に憑かれた人間は、幻覚と現実の狭間で一時の快楽と夢を与えられ、死期は早まるものの、死への恐怖、苦痛からは解放されます。

   結果的に、重病に係り余命いくばくもない患者から苦痛を取り除くことになります。

   『死人茸』は最後に脳に菌糸を進入させ、自覚のないまま宿主を殺し、その後急速に成長して人型を取ります。

   骨を消化できないため、体の中に宿主の骨を抱えたまま、次の宿主を探してうろつきます。

    結果として、枯れるときに宿主の骨を残すことになり、死霊の様に思われています。

    『死人茸』自体は、脆弱な生き物で日光、熱が弱点です。

蛇足1:「その後:浅学寺」

    蒼海を貪りつくした『死人茸』は、浅学寺にやってきた。

    本堂に行くと、拝み屋岩鉄が蒼海の置手紙を読んでいた。

    「『岩鉄よ、わしは癌で長くない。 死人茸めに身を委ね、御仏の元に参るつもりじゃ。 達者でな』… おおおおおお!

    叔父貴!なんと愚かなことを!」

    床をどんどんと叩いて、岩鉄は号泣し、慰めようというのか『死人茸』がその背後に近づく。

    「行方不明では相続手続きが面倒になるではないかぁ!!」

    『死人茸』は、錫丈で岩鉄の頭を、思い切り度突いた。

蛇足2:「その努力」

  『死人茸』は今日も柳の下にで「立ちんぼう」、しかしなかなか獲物がかからない。

  通りかかった親切な同業者が声をかけた。

  「あなた新顔さん? もっと派手にしなきゃだめよ」

  そう言って、お古のビューティセットをくれた。

  目がない『死人茸』は化粧が難しい。

  手探りでなんとか付け睫、アイシャドウ、口紅と一通りを顔に塗った。

  「よう姉ちゃん、遊ばない?」

  声をかけた男に、『死人茸』が振り返る。

  おぅ……

  程なく、柳の下に口裂け女が出るとのうわさが広まった。  

<2009/10/31>


第四話 ウロボロス

解説:  この話は、セネカが蛇女でなくても成立しますが、ウロボロスの蛇と、男を利用する冷酷非常の女のイメージ

    から、蛇女としました。 (蛇女さんから抗議がくるかも知れませんが)

      元ネタは、スタートレック・ディープ・スペース・ナインに登場する、才能ある若者の才能を引き出して若死に

    させる女性型エイリアン。

     セネカは蛇女であり、男を快楽に誘って己の虜にし、その精を啜りつくし、変わりに自身の愛液を男の体に注

    ぎ込みます。 愛液を注がれた男は、それを『黒い快楽』と認識し、一時的にもてるすべての能力を発揮できる

    様になりますが使いすぎれば肉体も精神も激しく消耗します。

      セネカは時の旅行者と思われますが、目的は不明です。

蛇足1:「その後で」

     「なんとも不思議な話だよなあ」 呟く滝。 しかし相方の志戸は首を傾げる。

     「そうかぁ? 今の話を要約すればだなぁ、ママの言うことを聞いて、一生懸命勉強した優等生がだ、ママの

    もってきた見合いの相手と結婚し、その後は嫁さんの言うがままに馬車馬のように働いてだ、定年になったら

    嫁さんと息子に逃げられたと。 よくある話じゃないか」

     志戸がそう言ったとたん、空中から、件の老人の”おーいおいおい……”という泣き声が聞こえてきた。

     「おい志戸よぉ、身も蓋もない言い方をするから爺さんが泣き出しちまったぞ。 おい爺さん、そう異次元で

    イジケるもんじゃねぇ」

     ボテッ

     滝の駄洒落で止めを刺された、『異次元爺さん』が宙から転がり落ちてきた。

     司会のミスティと音響のエミも、頭を抱えてうずくまっている。

     「情け容赦ない心臓をえぐるような突っ込みに、フォローにも何にもならないボケ……あんたらが売れない

   理由が、よーくわかったわ……」

蛇足2:「ぜんぜん違う」

     蛇女がいるとの噂を聞きつけ、拝み屋がやってきた。

     「うむ!! 蛇女とな。 さては噂のウロボロスのセネカか! ごめん!」

     岩鉄は、店の扉をがらりと開けた。

     「らっしゃい、何にしやしょう」

     「ぬ、ここは小料理屋か? おい親父、ここに蛇女がいると聞いたが、セネカとか言う」

     「へ?……蛇?……ああ、あんたもうちのかかあに挑みにきなさったか。 おい、おっかぁ!」

     店の奥から、がっしりとした体格の女将さんが出てきた。

     「あんたかい、この『うわばみのお熊』に飲み比べを挑もうってのは」

     「な、なんじゃあ? ちょっと待たんかぁ!」

     酔いつぶされた岩鉄は、それからひどい二日酔いに悩まされた。

<2008/11/15>


第五話 いそぎんちゃく

    解説:<18世紀 水路探査にあたった英海軍の帆船ベーグル号の船医ドクトル・モネアの航海日誌より>

       5月10日 晴天 女性の遺体を収容、白人女性、年齢は外見より20代と推定。

                現在位置は船長の公式記録を参照の事。

       5月11日 曇天 収容遺体を解剖。 驚くべきことに、外見は人間だが、これは別の生物だった。

                器官から腔腸動物の近縁種と推定される。

       5月12日 濃霧 収容遺体の一部が消失。 機能を分化した腔腸動物が、個体を形成していたらしい。

                消失部位は、死滅した部位を生存部位が分解、利用したか、生存部位が個体より離脱、

                逃走したものと思われる。

       5月13日 荒天 島を発見、天候回復次第上陸調査の予定。 一部乗員がマーメイドの幻覚症状を誘発。

                栄養状態を調査する。

       <ベーグル号は、後に大西洋を無人で漂流している所を発見され、上記の日誌は、その際、回収された>

       元になったのはTVアニメ「海のトリトン」のエピソードです。(いそぎんちゃくの島が出てくる話)

       『いそぎんちゃく』は、無数の固体が結合して『群体』を形作り、浮遊生活を送っています。

       概ね、珊瑚と水母を合わせたような生態と考えられます。

       厳密には、『人外』の定義から外れています。

       『いそぎんちゃく』は、獲物の形を真似ておびき寄せ、神経毒で相手を狂わせて捕食する、腔腸動物に属する

       捕食動物です。

       よって、『いそぎんちゃく』は会話も思考も出来ず、『いそぎんちゃく』の言葉は捕食対象となった人間の幻聴です。

       また、神経毒の影響で捕食される人間は妖しい幻覚に囚われ、運良くその魔手から逃れた者も、幻覚の為に

       
正確な証言を残していません。

       一見すると無敵に思える『いそぎんちゃく』群体ですが、群体そのものは運動能力が無いため、獲物が接近しない

       限り捕食行動が取れません。

       近年、獲物と接触する機会が激減するのと比例して個体数が減り、怪談の中にその痕跡を残すのみとなりつつあります。

    蛇足1:「その直後」

       『いそぎんちゃく』の金髪が、次の獲物を求めて滝と志戸に迫る。 お笑い芸人たるもの、いかなるハプニングにも

       適切なネタで受けなければ食っていけない。

       「志戸! ネタ23番、芸能人運動会向け連続後転!」

       「おう!」

       二人は背後に転がって金髪を避ける。 コンクリートの上でゴロゴロと転がって逃げた二人は、いつの間にか

       先回りしていた黒人アフロのボンバーに掴まる。

       「ドコニイク、シゴト ノ トチュウダ」 

       ボンバーに引きられ、連れ戻されると。 金髪の塊となった『いそぎんちゃく』が、司会のミスティと音響のエミに

       モップでどつかれ、追い払われようとしていた。

       「おい! 本物の化け物が出てくるなんて聞いてないぞ!」

       エミが振り向き、きっぱりとした口調で応える

       「ただの演出です」

       「演出……でも、あれ」

       滝が指さして方では、金髪のブロンディが「クイチラカシヤガッテ」等といいつつ、異臭を放つ白い粘液をモップで拭っている。

       『演出です』 エミ、ミスティ、ボンバー、ブロンディが声と顔を揃えて断言した。

    蛇足2:「その後」

       拝み屋『岩鉄』は『いそぎんちゃく』が日本に現れたとの情報を得た。

       「うむ! 海の魔物『いそぎんちゃく』。 こちらも準備を整えねば! 毒の触手……ウエットスーツで防げるな。 

       御仏の慈悲も、神のご加護も通じんが普通の武器で傷つく……薪割りに使っていた鉈と、台所の包丁でよいか。

       海辺の戦い……浮き輪を用意と。 おお、水中眼鏡を忘れるところであった」

       魔物退治というよりは、潮干狩りのような格好で出かけた拝み屋『岩鉄』。 『いそぎんちゃく』が現れたらしい漁村に

       やって来た。

       「ここらの岩場が怪しいが……おお、そこの子供。 ここらで怪しいものを見かれけんだか?」

       拝み屋『岩鉄』に呼び止められた子供は、いたって常識的な反応を示した。

       「うえーん!! 怖いよう!!」


       サイレン音と赤ランプ。


       「誤解するな! わしは『いそぎんちゃく』を退治にだなぁ!」

       『わかった。 誰も君を傷つけないから、刃物を置きたまえ。 話し合おうじゃないか』

       『警察が説得を続けていますが、不審者は漁協の倉庫から出てくる様子を見せません。 キャスター鶴見が現場から

       生中継しました』


    蛇足3:「その後の一週間後」

       拝み屋『岩鉄』は釈放され、再び漁村にやって来た。

       「けしからんやつらだ! わしが『いそぎんちゃく』を退治せねば大変なことになると言うのに」

       岩場を巡り崖を回ったところで、彼はついに『いそぎんちゃく』と出会った。

       ホロホロホロホロホロ……

       「出たない『いそぎんちゃく』め!! この『岩鉄』の正義の包丁と鉈で料理してくれるわ!!」

       
       スプラッタ、スプラッタ、スプラッタ……


       「あわわわわ……」

       腰を抜かし、這いずって逃げだす『岩鉄』。 その背後から、10数人に増えた『幼いそぎんちゃく』が鳴き声をあげる。

       オジチャン、セキニントッテ……オジチャン、セキニントッテ……

       エミ「腔腸動物は、種類によっては強力な再生能力を持ち、バラバラにしても、それぞれの断片が再生して別個の

          個体になることがあります。 駆除する場合は十分注意しましょう」

<2011/2/19>

第六話 童

解説:  この話は、特に元ネタはありません。

      人とはメンタリティが違う生き物が、人と関わるケースとして考えました。

      『雪童』は所謂『雪女』とは異なります。

      彼女達は、冬の間だけ地上に降りて肉体を得て成長し、春になると体を捨てて天に帰ります。

      『雪童』は人間と取引し、悦楽の代償に、人間の精を食します。 しかし、彼女達はクールであり、人に過度に入れ込みません。

    せいぜいペットか抱き枕程度にしか考えず、肌を重ねた相手が死んでも涙も見せません。

    この態度から、『童』は邪悪なものとされる事があります。

      一方、気に入った相手を何度も誘う事から、情の深い女妖とされる事もあります。

    いずれにしても、人間側からの一方的な評価で、『雪童』は、気の向くままに生きているに過ぎません。

蛇足1:「季節はめぐりて」

     「冬だ!雪山だ!『雪童』だ…うひひひひひひひ」

     まじめな登山家から石を投げられそうな劣情を胸に、若者は甍岳にやって来た。

    「さーてこっちかな、あっちかな、お兄さんはここにいるよー」

    ”きやれ…こっちぞ

    「おお、あっちですかー。 あれ、今のは大人の声だったようなもう育っちゃったかなげ!

    若者が見たものは雪原を這い回る赤ん坊の群れと、それを世話する雪女ならぬ雪乳母達だった。

    ”おお、男が来た” ”こら、お前も手伝え”

    捕まって、雪赤子の世話を手伝わされる若者だった。

    「しまった、来るのが早すぎた」

蛇足2:「一字違い」

     残酷な妖怪『雪童』。 それが住まう山に、拝み屋岩鉄が挑戦する。

     「わーしは岩鉄、弾より速い♪ むむっ」

     雪の斜面に、なにやら看板が立てられている。

     「字が擦れておるな。 『雪…注意』? うむ!ここに雪童がでるか!それとも雪女か! いずれにせよ我が敵ではない!」

     ガハハハハハハハ と岩鉄は大声で笑った。 すると、斜面の上から重々しい音が聞こえてきた。

     「むむっ? ……な、なななななななななななななな!」

     ダレダレダレダレダレダレダレダレダレダレダレダレ 白煙を上げて、雪の壁が迫ってくる。

     「うわー!? な、雪崩(なだれ)じゃぁぁぁぁ!!」

     弾より速く斜面を駆け下る岩鉄。 それを見送る雪童達。

     「漢字は、熟語によって読み方が違います。 きおつけましょー」

     「ましょましょ」

<2009/6/13>

第七話 珠

解説:   この話は、『第一話 牙』と同様、HPの解説当初に考えた話を元にしています。

       『蛤女』の殻を碁石にした職人が、嵐の夜にさらわれ、その息子が語ると言う話でした。

       <生態>

       『貝姫』は『海の物の怪』に分類され、人型と、背面から外套膜様の器官をせり出した半人型の形態を持ちます。

       幼生期は、大き目の二枚貝と変わらぬ姿ですが、ある態度成長すると貝殻から体を分離できるようになり、

       同時に人型に変異できるようになります。

       その体からは数種類の分泌物を出し、人間に対しては幻覚、麻痺などの作用が確認されています。

       貝姫には、間を誘惑して魂を抜き取ったという伝説が残されています。

       一方、遭難した商人が貝姫に命を救われたという伝説もあり

       よって貝姫の伝説が残る国では、その内容によって『貝姫』の評価が分かれています。

       <貝姫の生活>

       『貝姫』は互いを個体名で呼び合い、血縁関係のない個体が小規模な共同生活を送る事もあり、社会性を

       持っています。

       また、スポンジ、鮫皮などを使用し、人間の生活に詳しい事から、人間社会に紛れて生活している固体も居る

       と思われます。

       ある意味、人間に近い存在なのかも知れません。

蛇足1:「碁石の用途」

       お浜が『碁石』を祭壇に並べ、亡き子供たちに祈りを捧げていると、お蝶がやってきた。 なにやら和綴じの

       本を見ている。

       「お浜、その『碁石』なるものは人間の遊戯に使うとの事です。 遊戯に使ってあげれば、子供も喜ぶのでは

       ありませぬか?」

       「お蝶様、それは良い考えかも。 して、どのように?」

       お蝶とお浜は、お蝶が持ってきた本と黒石と碁盤を使い『五目並べ』を始めた。 最初はどっちつかずの勝負

       だったが、次第にお蝶が勝ちを重ねるようになる。  

       「四三と……また私の勝ち」

       勝ち誇るお蝶をお浜がじろりと睨む。

       「……お蝶様、よくごらん遊ばせ。 三三です」

       お浜が指差すと、確かに黒石は三三になっている。 はてと首をかしげるお蝶の視線の先で、白石がカタリと

       動いた。

       「……お浜」 お蝶がお浜を睨む。

       「あれま、母親孝行な子供たちで」 とぼけるお浜。

       ジャラリと音を立てお蝶が黒石を一掴み。 ザザッとお浜の前の白石が立ち上がる。

        ……

        「綾音様ー」『綾音様ー』

        「シジミ衆、いかがしました?」

        「お蝶様とお浜さんがー」「お蝶様とお浜さんがー」『五目並べで戦っておりまするー』 

        シジミ衆に手を引かれ、綾音が奥の間にやってくると、お浜の子供たちの霊が宿る『白石』が宙を舞い、

        負けじとばかりに、お蝶が念を込めた『黒石』で対抗し、さながら『白黒円盤大戦争』様相を呈していた。

        翌日、奥の間に『危険遊戯につき五目並べ禁止』との張り紙が張られる事となった。

蛇足2:「その後」

       拝み屋『岩鉄』は『貝姫』退治にやってきた。

       船を出して、沖を探すこと数時間。 ついに貝姫達が隠れ住む島を見つけ出す。

       「たのもう!」

       すると六尺棒を構えた岩女が出てきた。 頭一つ岩鉄より大きく、強そうだ。

       「道場破りに用はない。 とっとと帰りゃ」

       「あー、いや道場破りでありません……そう、珠磨きの出張サービスです」

       岩女は(怪しげな奴……)と思いつつ、出てきたお浜に相談する。 お浜曰く「磨けば光るやも」と、勝手口から

       中に通し、岩鉄を湯殿に放り込む。

       「シジミ衆、ここな汚い男を磨いてみよ」

       『あーいー』

       揃った声で返事をし、手に手に灰色の布のような物をもったシジミ衆が駆け込んできた。

       「それはなんじゃ」 と岩鉄。

       「フカの皮に、ございますー」

       「フカの皮……鮫皮!? まてまてまて! 鮫皮は『わさびおろし』に使うくらいで、やすりと大差ないと……

       あんぎゃぁぁー!!」

       シジミ衆に全身を鮫皮で剥かれ、あわれ岩鉄は赤向けになってしまう。 それでも穢れが落ちぬと、シジミ衆は

       デッキブラシを持ち出し、ギャアギャア泣き喚く岩鉄の背中を擦りまくる。

       「ちっとも穢れが」「穢れが」『落ちませぬー』

       「徒労であったか。 これ岩女、これを放り出せ」

       岩女は気絶した岩鉄を抱え上げ、近くの崖から海に放り込んだ。

       「あんぎゃあー!!」

<2011/6/12>

第八話 変

解説:   
『ずぶり』再び、でした。

       欲望のままに変わり行く破滅する男たち……のつもりだったのですが、『ずぶり』はあまり攻めないので、今ひとつ

       盛り上がりにかける話となりました、反省。

       <補足>

       今回の『ずぶり』は前回と行動原理が多少変わり、大した罪を犯していない若者達(+少年)を『ずぶり』空間に引きずり

       込みました。

       また『お約束地蔵』の行動も見守るだけになっています。

       裏設定では、彼らの行動は増えすぎた者達の『間引き』に変わっている事になっています。 しかし、『ずぶり』のやり方は

       非効率ですから、どうがんばっても追いつきません。

       いずれは『お約束地蔵』の呟いたとおり、『ずぶり』が……

    蛇足1:「その直後、楽屋裏」

       ガロガロガロ……

       コンクリートの地面で、台車のキャスターを騒々しく鳴らす。 台車を引いているボンバーの横で、ブロンディがスモークマシンで

       靄を作っていた。

        「自力デ歩ケ」 無表情にボンバーが言うと。

        「馬鹿者! 地蔵が歩くか! 非常識なやつらじゃ」

        「しゃべる地蔵はどうなのかしらね」 とエミが呟いた。

    蛇足2:「その後1」

       拝み屋『岩鉄』は『ずぶり』退治にやってきた。

       『死亡』という幟を立て、崖から飛び降りると、そこはもう『イメクラ カーラ』だった。

       「いらっしゃいまし」

       美しい女将と仲井達が現れ、有無を言わさず岩鉄に抱きつき、身動き取れなくなった岩鉄に乳を強引に飲ませる。

       「さぁ、望みの姿に……?」

       岩鉄は凄い勢いで走り出し、なんと厠に飛び込むと、あろうことか……自主規制。

       「むはは、わしは牛乳を飲むと腹を下す人なのだ! 恐れいったか……?」

       女将以下全員が、こぶしを握り締めぶるぶると震えている。 魔性の乳は『ずぶり』の一部、温厚な『ずぶり』でもこれは許せない。

       「でてけー!! この痴れ者!!」

       岩鉄はたたき出された。

    蛇足3:「その後2」

       拝み屋『岩鉄』は『お約束地蔵』退治にやってきた。

       「おおいたな! 『ずぶり』が如き物の怪が、世に跋扈するを許しておるやくざな地蔵めが!」

       『岩鉄』は錫杖を上段に振りかざした。 が、『お約束地蔵』の錫杖の方が数段はやい。 足をはらわれ地に転がる。

       「乱暴な奴じゃ。 おとといこい」

       岩鉄は、だだだっと走って距離をとり、悔し紛れに遠くから悪口を言う。

       「やーいペチャパイ、幼児体型、チビ、ここまでおいで!」

       『お約束地蔵』は憤怒の表情で岩鉄を見据えると、地面に錫杖を突き立てる。 次の瞬間、錫杖がずんと伸び、地蔵を高々と

       宙に運んだ。

       「くらえ仏罰! 『地蔵落とし』!」

       落ちてきた地蔵が、岩鉄の眼前にちょっとしたクレータを作り、岩鉄は慌てふためいて転がるように逃げ出した。

       「待たんか!痴れ者が!」

       ズーン! ズーン!

       山の間にこだまする『地蔵落とし』の響きに、野良仕事をしていた百姓が手を休める。

       「ありゃ、またどっかの馬鹿者が鬼去里山のお地蔵様に怒りを買っただ」

       「そのようだんべ。 大体、地蔵様の前には鬼すら顔色変えて逃げ出すで『鬼去里山』と呼ばれるだに……」

<2011/12/24>

第九話 つるの恩返し

    解説:<惑星ターの歴史書より>
       『グリン・ピース・システム』

       対象となる生命体を捕獲、分解し、生命情報を

       (生命情報:遺伝子だけでなく細胞内のすべての情報分子を指す言葉らしいので意訳)を

       カプセル化する。 カプセルは宇宙に射出され、他の生存可能な場所に辿り着いたカプセルは、生命を再生する。

       捕獲対象自身の生命が失われる点が問題視された。

       最終的に、再生された生命がオリジナルの再生でなく、『グリン・ピース』の因子を注入された生命として再生され

       制御不能となる為、システムは破棄された。 なお、開発者は行方不明。

      (星全体を食いつぶすともとれる)

       『つる』の恩返し、『鶴』ではなく『蔓』でした。

       第一話『牙』と同時期に構想された話で、昔話のダジャレシリーズです。

       種の保存を目的として、惑星ター独特の倫理観に基づいて作られました。 『宇宙船』の一種でもあるわけです。

       なお、被害にあったゴンベェの星は、ターとは別の惑星です。

       地球ではないので、カラスでなくカー公、スズメでなくコスズとかで、固有名詞は地球のものと違います、はい。

    蛇足1:「その直後、楽屋裏」

       ゴー!!!

       ギャー!!!

       滝と志度の意識が戻った時、ほっかむりの宇宙人女も宇宙豆もいなくなっていた。

       「……おい、あいつらどうした?」

       「帰ったわよ。 あの程度の演出で気絶するなんて、ずいぶん気が小さいのね」

       滝は、少し離れたところにある黒い人型の焦げ跡と、黒髪の女がバルブを回しているレギュレータを外した

       ガスボンベを、交互に見た。

        「演出……いやずいぶんリアル……」

        『演出!!』

        「はい、演出です」

        ※ スポンサーの意向により、最後のシーンは演出と言うことになりました。

        決して、宇宙人が現れたということも、ガスボンベの火炎放射で退治されたということもありません。

    蛇足2:「その後」

       拝み屋『岩鉄』は『グリン・ピース』退治にやってきた。

       「うむ、ついに宇宙妖怪が現れたか!」

       怪しげな造語を口にし、岩鉄はいつもにもまして怪しい恰好で街に出た。

       「SF妖怪となれば、この特殊放射線銃にパラボラ型メーサー砲じゃ! いたな妖怪!」

       水鉄砲のような武器を振り回し、無関係な行商のお種婆さんに飛びかかる。

       「あにすんだ! このアホンダラが!!」

       が、怪しい行者風情が、数十キロの荷物を60年担いできたお種婆さんの敵ではなかった。

       反対に放り投げられ、婆さんの売っていたピーナツを投げつけられる。

       「鬼は外ぉー! 鬼は外ぉー!」

<2012/04/01>

第十話 酔っ払い

    解説:魂の宿った酒について

       「古き物には魂が宿るという。 ならば古き酒に魂が宿っても不思議はない。 酒は人生の友、魂の

       こもった酒ならば、生涯の友となろう。

        されど心せよ、酒は百薬の長なれど過ごせば身を滅ぼすものとなろう。 魂のやどりし酒、それを生か

       すも殺すも、己次第ということを」

       『酒場の壁に残されていた酔っ払いの戯言』より



       『レディーナ(赤ワイン女)』 設定 

       赤ワインそっくりの味と香りのする水妖で、酒に化けて人体に経口侵入した後

       侵入した人間の精神を支配下に置き、皮膚以外の肉体を消化、吸収してしまうとされる。

       その後の生態は不明で、そのまま人に化けて人間世界で生活するという意見と、分裂して酒瓶に戻って

       次の獲物を待つという意見があるが確認されていない。

       刃物は通じないが、可燃性の水妖であり炎で退治できるとされる。 しかし、火や光を見ると狂喜して踊り

       だす為、火で退治しようとした人間が炎に巻かれて焼死した例がある。

       また、酒だけにスピリット(霊)の一種ではないかとの説もある。

       はっきりした元ネタはありませんが、手塚治虫氏の漫画で液体生命が飲まれるケースが幾つかあり

       それがヒントになっています。

       相手を罠にかけて追い込み、自分のものにする事に喜びを覚えます。 ただ、精神が『壊れて』おり

       自分自身の命にすら執着しません。 最後の『炎の舞踏』はそれを象徴したつもりです。

    蛇足1:「その一族」

       『魂の宿った酒』の女達は世界中いたるところにいる。

       スコットランドの『スコッチ・ウィスキー女』。

       メキシコの『テキーラ女』。

       韓国の『マッコリ女』。

       日本の『どぶろく女』……は酒税法によって取り締まられ絶滅寸前になった。

       よって『どぶろく女』に出会ったときは『税務署、税務署』と唱えると、難を逃れられるという。

    蛇足2:「その後」

       拝み屋『岩鉄』は『赤ワイン女』退治にやってきた。

      「ふっふっふっ、『浅学寺のうわばみ』と呼ばれたこの『岩鉄』、酒ごとき敵ではないわ!」

       赤ワインならば、輸入物の酒の倉庫にいるだろうと辺りをつけて忍び込む。

      「うーむ、数が多くてどれに潜んでいるのやらわからんなぁ。 飲んでみるしかあるまいて。 これも世の

       為、人の為」

      勝手をほざいて一番古そうな瓶を取り出し、栓を抜いて中を飲む。

      「ぶわぁぅ!?」

      目の覚める酸っぱさに、口の酒を吹きだす岩鉄。 よくよく瓶を確かめると、『梅酒』とある上、賞味期限

      切れ。

      「これはしたり、倉庫を間違えたか。 ややや!?」

      なんと瓶の中から赤い液体が迸り、人の形をとるではないか。

      「むむっ。 酒の種類は違ごうたが、同種の妖怪であったか。 まぁ、舶来品よりも、国産の方が確かで

      あろう。 いざ尋常に……?」

      どうやら時間がたちすぎていたようだ。 現れたのは、『梅酒女』ならぬ『梅酢婆』であった。

      「これ、そこの若いの。 我を毎日飲めば、長寿健康間違いなしじゃぞ。 ふぇふぇふぇ」

      「すー、すっぱっー!! これはたまらん」

      熟成すること五百年、骨をも溶かす『完熟梅酢婆』の酸味を前に、岩鉄は裸足で逃げだした。

<2012/05/26>

第十一話 シェア

    解説:シェア

       「遠見の圀に童子あり。 数えで十にならんとき『我、前世にて女姓ならん』と申す。

        村人、大いに怪しみて童子を寺に預けん。  童子、稚児となり住持の相手を務めん。

        三月後、稚児、寺を出奔す。 稚児、『我は住持なり』とつぶやき、何処ともなく失せた。

        その夜、寺に雷あり。 寺(以下 原本破損の為、判読不能)

       『輪廻秘抄絵巻 第十一の巻』前段より

       『シェア』 設定 

       外見、行動は人と変わらない。 ただ、人間の異性と交尾すると、双方の記憶、性格が入れ替わる。

       一見すると、魂が入れ替わったようにも見えるが、未確認である。

       その後、交尾を重ねるごとに記憶、性格が入れ替わる。

       しかし回数が増えるにつれ、双方の性格、記憶が共有されていき、最終的には両方の記憶と性格を受け継いだ

       二人の『シェア』になる。

       この行為自体が『シェア』としての繁殖行動であり、『シェア』の正体は人間の体を乗っ取る『寄生魂』であるとする

       研究者もいる。

       一方で、『シェア』は人間の変種にすぎないという説もあり、意見が分かれている。


        『シェア』の元ネタは、星新一氏のショートショートの一つに出てきた、情報を共有化できる新人類です。

       入れ替わりを続けるうちに、記憶が共有され、最後どちらが自分の記憶だったか分からなくなる。

       『シェア』自身も元の自分を知らない、不思議な生き物です。

    蛇足1:「どこかの寄席で」

       『シェア』は団体で行動する。 今日は皆で寄席にやってきた。  珍しく満席になる寄席。

       「えー、毎度ばかばかしいお話を

       滅多にない満員の観客を前に、噺家が張り切って話を始めた。

        「与太郎が」 一斉に笑う『シェア』達
        「うなぎやー…」 一斉に受ける『シェア』達
        「ナンマイダーァ…」 一斉に爆笑する『シェア』達

        「誰だ! サクラを雇った奴は」

        『シェア』達は、寄席と相性が良くないようだ。

    蛇足2:「この二人も」

        「おい滝。 この間の寄席仕事で、観客が一斉に同じ反応をしていたろう」

        「おう、そうだったよな…申し合わせたように黙りこくったり、ため息ついたり…」

        「あいつらもきっと『シェア』
だったんだ!!」

        「どんなネタをやったの?」黒髪の女が二人に尋ねる。

        「おぅ、こうだ『隣の空き地に垣根が出来たぜ』」

        「『へー!かこいー!』」

        闇の向こうで話の順番待ちの面々が黙りこくり、続いて盛大にため息をもらす。

        「お、お前らも『シェア』かぁ!!」

        『違うって』

        『シェア』でなくても、ネタの古い芸人と観客は相性が良くないようだ。


    蛇足3:「その後」

       拝み屋『岩鉄』が『シェア』退治にやってきた。

      「がっはっは、若造揃いの『シェア』ども、この『岩鉄』が蹴散らしてくれるわ!」

       いつもの山伏もどきの格好で、どこぞの中学に乗り込もうとし、校門で止められた。

      「うぬー、不審者とはなんだ! 不審者とは」

       岩鉄の場合、『不審者』と言うより『危ない人』だろう。

      「ならば、下校途中で待ち伏せてくれるわ!」

       ほとんどストーカーである。 が、当人は大真面目で集団下校する『シェア』の一団と対峙した。

      『あ、でた』

      シェアは口数が少ない。

      「貴様らに用がある。 わしは拝み屋岩鉄だ!」

      名と職業を名乗っても、要件を伝えたことにはならないが、世間にはそれが判っていない人もいる。

      『おじさん、何の用ですか』

      「お、おじさん

      大勢の中学生から「おじさん」と認定され、岩鉄は精神的ショックを受けた。

      「わ、わしはまだ20代だ!!

      『だから、おじさん、何の用ですか』

      絶句する岩鉄。 『シェア』最大の武器、それは数の力だった。

<2012/08/11>

第十二話 羽衣

    解説:羽衣

       「山に隠れし湖に、女怪在り在り。 時折現れては、人を隠し。 のちに天に昇る。 称して『天昇女』と言うなり。 

       『天昇女』昇りし後には禍が湧き、人獣悉く贄となるなり。

       禍を避くるには、その地を早々に離れ、『天昇女』を奉るへく候。 努々疑うことなかれ」

       天昇神社収蔵『天昇女縁起』より


       「ある所に湖がありました。 そこに天女が下りてきて、羽衣を枝にかけて水浴びをしていました。

        近くの村に住む若者が、天女を見初めて、羽衣を取り上げて嫁に迎えました。

        天女は天の国が忘れられず、若者にそれを打ち明けました。 若者は天女とともに天に昇ることにしました。

        二人は淡い光に包まれ、天に昇り、そこで幸せに暮らしましたとさ」

       『ブン蚊社 地方の民話集:湖の天女より』


       『羽衣クラゲ』

       今回登場した『羽衣クラゲ』は、世にも珍しい陸生クラゲで、熱水のなかでポリープから生体にまで成長します。

       その後、体の中に水素を蓄えて、生体ガス気球となって新たな繁殖地を求めて飛翔します。

       現在、『羽衣クラゲ』が繁殖可能な場所が、地上に殆ど存在しないことから、『羽衣クラゲ』は火山活動が活発で

       あった時代に現れた生物で、その後生存可能な環境が激減したことにより、殆どいなくなったものと考えられます。

       クラゲ類は強力な毒を獲物に注入して麻痺させ、捕食しますが、『羽衣クラゲ』はガスの形で神経毒を放出事も可能で

       離れた場所の獲物を捕獲できます。 但し、ガスの形で使用する場合は多量の毒を必要とするので、毒ガスを使用

       するのは

       一生の間に一、ニ回程度と考えられています。


       『天昇女』

       『羽衣クラゲ』の中に出現する女怪。 クラゲ自身の意識という説と、クラゲに捕食された女性の幽霊であるという説が

       ある。

       また、クラゲの毒による幻覚説もあり、正体がはっきりしない。


       今回のお話には、はっきりした元ネタはありません。 『天昇女』は魂のみで肉体を持たず、『羽衣クラゲ』を纏って

       いるという設定です。 クラゲから出ることは出来ませんが、クラゲの行動を制御して移動することができます。

       また、『羽衣クラゲ』と『天昇女』は運命共同体で、クラゲが死ねば『天昇女』も消失しますが、『天昇女』は別のクラゲ

       に乗り換える事で、存在を保ち続けられます。


    蛇足1:「羽衣アラレ

       ブルボン製菓の人気商品ですが、なぜか発売している地域に偏りがあります。

       東京、神奈川ではほとんど見かけたことがありません。

       R・Kが知っているのは、以下の場所。(2013/12/14時点)


       ・東京駅の3番ホーム、京浜東北線の6号車が停車する位置にあるブルボンの自販機の19番。

        (黒こしょう味の場合あり)

        (なお、同社の自販機は他の駅にもあり、『中野駅』にあったとの情報もあるが確認できていない)


       富山県、九州ではコンビニで普通に売っている。 大阪では売っているらしいが、R.Kは未確認。


       類似商品として『色紙あられ』というのがあります。

       こちらは、さらに入手箇所が限られ、

       ・熊本県「おかき処慶屋」 通販可能

       ・宮崎県ボンベルタ橘 地下一階 東館下の和菓子コーナー 特用袋にて販売


       ちなみに、どちらもR・Kの好物です。

    蛇足2:「その後(1)」

       拝み屋『岩鉄』が『天昇女』退治に『天昇神社』にやってきた。 本殿奥の洞窟前には、真新しい看板が立っている。 


      『危険!! 有毒ガス発生、立ち入り禁止!!』


      「ふっふっふっ、ガスを使うとは卑怯な妖怪女め!人類の英知を見せてくれるわ!」

      『岩鉄』はガスマスクを取り出して、吸収缶を固定して顔に被る。

      『いざ!』

      洞窟に入った『岩鉄』は、入り口で昏倒した。 倒れた『岩鉄』を『ぶつぶつじぃ』がひっぱり出す。

      「……まったく、ばかもんが、考えなしで……」

      『ぶつぶつじぃ』は、看板に何やら書き足した。


      『危険!! 有毒ガス発生、立ち入り禁止!!』

      『危険!! 酸欠の場合あり、立ち入り禁止!!』

  
    蛇足3:「その後(2)」

       拝み屋『岩鉄』が再び『天昇神社』にやってきた。 洞窟の入り口で準備を始める。

      「ふっふっふっ、酸素が無いとは考えなかったわ! 今度は準備万端!」

      『岩鉄』は酸素ボンベを背負い、マウスピースを咥え、さらに何か取り出した。

      「ふごふご(これだけでは不安じゃからな! 酸欠確認にはこれが一番!)」

      手燭にロウソクを乗せて、ライターで点火する。      

      ドッカーン!! 火柱が立ち上った。      


      「……まったく、ド素人が、考えなしで……」

      『ぶつぶつじぃ』は、再び看板に何やら書き足した。


      『危険!! 有毒ガス発生、立ち入り禁止!!』

      『危険!! 酸欠の場合あり、立ち入り禁止!!』

      『危険!! 可燃性ガスの場合あり、火気厳禁!!』

  
    蛇足4:「その後(3)」
       拝み屋『岩鉄』が性懲りもなく『天昇神社』にやってきた。 

      「ふっふっふっ、今度は……」

      鈍い音がして、『岩鉄』が昏倒した。 背後に立った『ぶつぶつじぃ』が苦い顔で、木刀を下した。


      「……まったく、懲りん奴が……」

      『ぶつぶつじぃ』は、しばらく考えた後、看板を引っこ抜いて、別の看板を立てた。


      『入洞料 大人 10,000円 子供 5,000円 (税別)』

<2013/12/14>

第十三話 ナイトメア

    解説:赤いアメーバ

       目的  :航宙船の生態環境維持

       使用機材:『ジャム』アメーバの変種体。

       予想効果:環境内の生物への延命効果、無用の生存競争を抑制することにより、環境維持のコスト低減。

       結果:寄生生物に『ジャム』アメーバが共生し、寄生生物が延命され、結果として寄生主が死滅。 

           その結果寄生生物も死滅した。

       考察:生物単体に『ジャム』アメーバを共生させ、延命を図っても、周囲の環境との調和が崩れると、結果として

           生存環境が維持できない。 

           『ジャム』アメーバ単体でなく、別種の生物(検討中の『ティッツ・マッシュルーム』)との混成利用を提案する。

      <惑星ター:恒星航行計画、生命維持実験レポートより抜粋>
 


       『赤いアメーバ』

       惑星ターで、生物延命用に作られた寄生生物。 対象となる生物に寄生し、特定の化学物質で宿主の行動を制御し、

       適度な栄養摂取、適度な運動によって、寄生主の生命を最大限維持することを期待された。

       実験段階で、捕食者と捕食対象など相反する生物同士に共生させた場合、生存のための闘争が激化するなど、

       様々な弊害が発生した。 またター人に強制させた場合、欲望を抑えるために寄生主に『夢』を見せ、結果として

       寄生主が『夢』に閉じ込められることが判明したため、『赤いアメーバ』は破棄された。 

       のちに改良され、『ジャム』と呼ばれる生体管理用寄生生物の母体となった。

    蛇足1:「その後(1)」

       拝み屋『岩鉄』が『赤いアメーバ』退治にやってきた。 かのサンプルが採取された湖の畔で大見得を切る。

      「がっはっはっ、アメーバごときがちょこざいな! わしが退治してくれる」

      懐から、プール用の消毒剤を取り出すと、めったやたらに湖に投げ込んだ。

      「おい君、勝手に薬剤をまいてはいかん」

      養殖していたアユが大量死し、弁償させられる羽目になった。

    蛇足1:「その後(2)」

       拝み屋『岩鉄』がしょうこりもなく『赤いアメーバ』退治にやってきた。

      「うむ、ならばそちらの土俵で勝負してやるわ!」

      湖に飛び込んで一時間、たっぷりと泳ぐと、テントを張って夜を待つ。

      「さぁ、悪夢と対決じゃぁ!!」

      その夜、『赤いアメーバ』が、岩鉄の脳で途方に暮れていた。

      ”皺がない……”

      寝ている岩鉄の耳から、小さな『赤い女』がゾロゾロと風呂敷をしょって外に出てくる。

      耳とに看板を立て、湖に帰っていた。

      『不良物件』『管理するまでもなく健康』『バカは風邪ひかない』

      岩鉄、初勝利の瞬間だった。(相手にされなかっただけである)

<2014/09/28>


第十四話 褥

    解説:褥の怪

    旅僧あり。 諸国を歩きて仏の教えを広むものなり。 山中にて道迷い、妖しの女性に惑わされ、一たび

    逃るるも、ついには捕まりて還ることなし。 ごく、ありきたりの事なり。

     <某寺に伝わる記録>

    『褥』の怪、それは美しい女子の姿をして、旅人を惑わす妖怪である。

    最初のうちこそ食事、風呂を親切に提供してくれるものの、旅人が寝入ると本性を表して、寝所に忍び入り

    旅人の魂を喰らう。 犠牲者は、何事もなかったかのように帰ってくるものの、やがて『褥』の怪に呼ばれて

    姿をけし、二度と戻ってこない。 くれぐれも、妖しい宿屋や廃寺に宿を求めないこと。

    <大学館刊行:妖怪図鑑20XX版 監修:僧 臨海>

    『褥』の怪は、3mほどの白い塊で、饅頭かオッパイに似ていると言われる。 自分で動くことは出来ないが、

    人を惑わす霧を吐いたり、自分の体の一部を変異させ、道具の形をした小妖を作り、使い魔の様に使役する。

    気に入った男性と巡り合うと、幻の姿で言いより一夜を共にする。 このとき犠牲者は、実は褥の怪の胎内に

    取り込まれて、幻を見せられている。

    ただし、『褥』の怪の犠牲者に対する影響力は弱く、大概の人間ならば幻を振り切って逃げることが可能。 

    『褥』の怪自身はそれをよく知っており、犠牲者を一度解放しておいてから、犠牲者が自分から戻ってくる

    ように仕向ける。

    蛇足1:「その直後」

     「はて?俺たちは誰と話していたんだろう」

     「うーむ」

     考え込む二人の目の前で、『行燈』が突然動き出した。

     ”とらんすふぉーむ!!”

     キチキチキチと音を立て、組木細工の様に形を変えて足を生やし、トコトコと意外に素早い足取りでどこか

    へ行ってしまう。

     「なるほど」

     「語り手はあいつか? まてまて。 じゃあ話のネタの品物はどうなる?」

     「あの『兄ちゃん』の方ががそうだったんじゃないか?」

     というわけで、今回は語りが『行燈』で『兄ちゃん』をネタに語っていたことに変更になりました。

    蛇足2:「その後」

    拝み屋『岩鉄』が『褥』退治にやってきた。

      「がっはっはっ、動かぬ妖怪など造作もない! わしが退治してくれる」

    怪しい寺の門を、断りもなしにくぐる。

    「ごめん!たのもう!!……い?」

    ごつい僧侶が何人も出てきて、岩鉄を取り囲む。

    「あーらお兄さん、入山希望かしら」

    「歓迎するわよ♪」

    「どわわわわ!!」

    乱れた寺は妖怪より怖かった。(もはや寺ではないが)

    蛇足3:「その後」

    拝み屋『岩鉄』がこりずに『褥』退治にやってきた。

      「こんどは大丈夫じゃな……がっはっはっ、動かぬ妖怪など造作もない! わしが退治してくれる」

    寺の門を、断りもなしにくぐり僧房の扉をたたく。

    「ごめん、一夜の宿を所望する……ん?」

    『満室』

    「おーい、開けてくれんか。 頼む!」

    宿を求める場合は、空き室の有無を事前に確認しましょう。

<2015/06/14>

第十五話 病

    解説:赤い羽根の娘スティッキー

    坊や、墓場に一人で残ってはいけないのよ。

    どうして?

    お墓の中の人がさびしがって、連れて行ってしまうからよ。

    ふーん。 でも今はお姉さんと一緒だね。

    いいえ……生きている人は坊や一人よ……お姉さん……さびしいの……

    <とある地方に残る昔話>

     『赤い羽根の娘スィッキー』 快活で友好的な少女で、人の姿と、赤い羽根を背に生やした姿の2通りの

     形態がある。

     正体は、悪魔、死神、病魔、天使、病気による幻覚、作り話と諸説あるがはっきりしたこと判っていない。

     一人でいる子供に近づいて友達になり『悪い遊び』を教え、その子供は、ほどなく熱病にかかって死にいたる

     続いて子供の家族、同居人が『赤い羽根の娘』を目撃するようになり、彼女を目撃した者は次第に正気を

     失い、手、足、顔等が赤みをおびて、淫乱になる。 犠牲者たちは狂乱の宴の果てに高熱を出して死に至る。

     この惨劇は、その家の住人は死に絶えるまで続く。 まれに近隣の住居に災厄が広がることがあり、その

     場合、近隣の住人が死に絶えるまで『赤い羽根の娘』の跳梁が続く。

     このため『赤い羽根の娘』の目撃はタブー視され、彼女を目撃した住人は、ほかの住民によって住居ごと

     『処分』される例があったとされる。

     一方、『赤い羽根の娘』が実在するならば、その目撃者は生存できず、目撃者を『処分』した住民たちも口を

     つぐむであろうから話がそのものが残らない、というのが作り話説を主張する者たちの論拠である。


     『赤い羽根の娘スィッキー』は、次のような怪談に基づきます。

    恋人を失った若い男が、葬儀の後も墓場に残り、悲しみに暮れていると、美しい女性が現れる。

    彼女と語らっているうちに好意を持ち
、つい口付けをしてしまう。 その瞬間、彼女は腐り果てた死体に変わり

    朽ち果てる。 そして男はひどい病気にかかって無残な最期を遂げる。

    元々ステッィキーとジャックだけで話が終わるところを、ほかの子供たちも巻き込んだ為に悲惨な話になって

    しまいました。

    『ステッィキー』は、実在と幻覚、生と死の間を踊り続ける赤い死の天使といった存在で、『無邪気な悪意』の

    具象化した存在です。

    蛇足1:「その直後」

      「おい……あの影から出た手。 まさか俺らも」

      「だ、大丈夫だろう?」

      Hahaha……kushoooon!!

      「……」

      「あした予防接種行こうか……」

      「金、あるのか?」

      「……ない」

      墓場より 病魔来りて爪を研ぐ それにつけても 金の欲しさよ (おそまつ)

    蛇足2:「その後」

      拝み屋『岩鉄』が『ステッィキー』退治にやってきた。

      「がっはっはっ、赤い羽根のこわっぱなぞ赤子の手をひねるがごときだ!」

      ……ひっどーい、最低……

      「むっ?でたな、どこだ!?」

      ……ここ……

      「ど、どこだっ!?」

      ……ここ……

      「ぬぬ、どこだっ!?」

      ……ここ……だってばぁ!!

      「どわぁぁぁ!」

      目の前にあらわれた、腐り崩れた顔の少女に驚き、岩鉄は振り返りもせずに逃げ出した。  

      拝み屋『岩鉄』、見かけと裏腹に憶病な男だった。

<2016/01/24>

第十六話 窓辺

    解説:窓辺のクラリス

    
隣の空き家。 その二階に美女が見えたなら……貴方はそこから引っ越さねばならない。

    
彼女に魅入られたものは、数日のうちにあの世へ連れ去られてしまうから。

       <欧州の怪談集より>

      『窓辺のクラリス』 謎めいた美女。 一見清楚でお嬢様風だが、淫らで冷酷な妖魔。

      『窓辺』で獲物を待ち、獲物が現れると『糸』を放つ。 この『糸』に絡めとられると、心に快感を感じる。

      ただ、一本一本の快感は大したものではなく、特に意志が強くなくてもの抗うことはできる。 しかし、クラリスは獲物

      に次々と『糸』を放って心を絡めてっていき、最後には獲物は自らの命を経ってしまう。 この時、獲物から抜け出た魂が

      クラリスの餌食となる。

       この話は元になったコミックがあります。 作者、タイトル不明で、隣の家の女の人に魅入られて自殺するという話は

      そのままで、最後に女の人が大きな蜘蛛の姿で描かれていましたが、蜘蛛の魔物だったかは不明です。 

      なお、女性の名前は『クラリモンド』だったと記憶しています。

       そのコミックのシナリオをもとに、じっと罠を這って獲物を待つ蜘蛛のイメージで話を作りました。

    蛇足1:「その直後」

     「おい……どうするこれ……」

    
 「あー……」

     溶けて崩れた青年の座っていた場所には……異臭を放つ濡れた服一式が残っていた。

     「仕方ねぇなぁ」

     二人は、ゴム手袋、マスク姿で青年の残したものをポリ袋に入れ、清掃業者に引き取ってもらった。

       ゴミはきちんと持ち帰りましょう(○○県清掃局)

      蛇足2:「その後1」

      拝み屋『岩鉄』が『窓辺のクラリス』退治にやってきた。

      「がっはっはっぁ! 罠を張る様な姑息な魔物、わしにかかれば一撃よ!」

      屋根裏部屋に上がり込むと(借り賃を取られたが)カギ付きの縄を取り出す。

      「窓から獲物を捕まえるなら、捕まる前にこちらから攻め込めむまでよ!」

      カギ付き縄を勢いよく振り回す、岩鉄。 狭い屋根裏部屋の中のこと、カギは背後の壁に引っかかり、そのあおりで
      
      岩鉄は後ろ向きに倒れ、梯子段から階下に落っこちた。

      「あにするだ!! この馬鹿者がぁ!!」

      頭から落ちて目を回した岩鉄は、家主の老婆に箒でさんざんにしばかれた。

      蛇足3:「その後2」

      拝み屋『岩鉄』が『窓辺のクラリス』退治に再びやってきた。

      「がっはっはっぁ! 今度は文明の利器をもってきたぞ!」

      屋根裏部屋に上がり込むと(また借り賃を取られたが)どこで調達したのか、フック付きのロープを打ち出すロケット・

      ランチャーを取り出した。

      「照準よし!発射ぁ!!」

      ロケットは後方に大量の排気ガスを噴出し、その反動で飛んでいく。 岩鉄が発射したロケットの排気ガスは、狭い

      屋根裏部屋の中に充満し、窓からすさまじい勢いで外に噴出した。 当然、岩鉄自身も窓から外に飛びだし、地面に

      頭から突っ込んだ。
      『あにすんだ!このあほんだら!!』

      岩鉄は、家主の老婆と、ロケットを撃ち込まれた隣家の老爺の二人にさんざんにしばかれた。

       教訓:ロケット、無反動砲を発射する場合は屋外で行い、十分な後方安全区域を確保しましよう。

      蛇足4:「その後3」

      拝み屋『岩鉄』が『窓辺のクラリス』退治に三度やってきた。

      「がっはっはっ。む よく考えたら、先にロープを這っておけばよかったんじゃ」

      先に隣家の二階に上がり(借り賃とられた)柱にロープを結んで窓からだす。 そのロープを屋根裏部屋の窓から引っ

      張り込み(また借り賃取られた)ピンと張って柱に結ぶ。

      「ふっふっふっ、これで良し」

      隣家の二階の窓と屋根裏部屋の窓の間にロープを張って『道』を作った岩鉄は、ロープの上に腹ばいになり、片脚の

      甲をロープにかけ、もう片方をだらりと下げてバランスをとる。

      「いざいかん、レンジャー!」

      腕を交互に動かして、ずりずりとロープの上を進んでいくと、向かいの窓辺にクラリスが現れた。

      「ぬっはは。 心を操られてなければどうということはないわ!」

      勝ち誇る岩鉄に、クラリスはにっこり微笑んで見せると、どこからかでっかい剪定ばさみを取り出した。

      「あ、こ、こら!ずるいぞ!!正々堂々勝負……」

      ロープを切られ、岩鉄は通りの真ん中に落下した。

       教訓:罠をしかける者が、いつも受け身とは限らない。

<2016/08/29>

第十七話 わらし

    解説:『わらし』様

      こん村には社があってよ。 そん社には『わらし』様っぅ、めんこい神様が住んどるんよ。

      『わらし』様は、お米や、野菜の実りを増やしてくれるえれえ神様でな、たんとお神酒あげて頼んどけば、はぁ豊作間違いなしだんべぇ。

      んだどもな、他の事頼んじゃなんめぇ。 特に『楽したい』だの願うど、おっかねぇばちさあたっど。

      決して、怠け心おこすんでねぇど。

       <ある村に伝わる説話より>

      『わらし』様は豊穣の神様の眷属で、その神通力は草木や動物にしか働きません。 よって『富』とか『幸福』のようなものをもたらすことはできま

      せん。 この村の人たちは、時間をかけて『わらし』との正しい付き合い方を学んできたのでしょう。

      『わらし』様は、『座敷童』をモデルにした氏神様です。 『座敷童』は住むでいる家に福をもたらすとされますが、『わらし』様は、秋の豊かな実りと

      いう形で、村全体に福をもたらしてくれます。

      ただし本編にあった様に、願う内容を間違うと悲惨な結果となります。

      蛇足1:「その後」

      
 「ふーむ……なぁ滝」

       「なんだ?」

       「お神酒を用意しておけばよかったかなぁ」

       「おいおい、何を頼むんだ? 生き物にしか力が働かないらしいぞ。 秋の実りなんた頼んでも仕方あるまい」

       「それならそれで……例えば客を大笑いさせてもらうとか」

       ”やめとくがいいだよ、おらが笑わかすと、死ぬまで笑いが止まんなくなるだよ”

       「そ、それは困る」

       「地道にやるのが一番か……」

      蛇足2:「その後」

       拝み屋『岩鉄』が『わらし』様の処にやってきた。

       「がっはっはっぁ! 神といえど人を害するとは言語道断。 ひとつ説教してくれん!」

       村の中心までやってきたが、『わらし』様の社のあった場所は住宅地になり、影も形もない。

       「ぬぬぬ、どこかへ引っ越しおったか?」

       「おっちゃん、なにしてるだ?」

       「おお、ここいらの子供か? おぬし『わらし』様の社がどこへ行ったか知っておるか?」

       「……らし』様ならあそこの神社だ」

        子供の示した方には立派な神社が立っていた。 岩鉄がそこに行くと、社の中に立派な膳が祭られている。

       「おお、これよこれ」

       罰当たりにも、岩鉄は膳を持ち出して。町はずれまでやってきた。 丁度そこに朽ちかけて廃屋があったので、中に入って膳を床に置く。

       「さてお神酒を……お? 膳に何か書いてある」

       『金を置け』

       「……はてご利益が変わったかな? まぁいい、米をおけぱ秋の実り、金置けば金が増えるに違いない。 『ご利益』転じて『ご利息』というわけ

       じゃ」

       上機嫌で財布を開き、ありったけの金を膳に置く。 すると、どこからともなく厳かな声が響いてきた。

       ”まいるぞ……頭が高い!”

       思わずへへーっと平服する岩鉄。 すると、人の気配がしてなにやらごそごそと動いている。 気になって頭を上げようとすると。 

       ”頭が高い!”

       慌てて平伏する。 しばらくすると音が聞こえなくなった。 そろそろいいかと頭を上げると……膳の上には何もない。

       「やややや!」

       慌ててあたりを見回すと、自分の荷物もない。 血相を変えて表に出ると、さっきの子供が岩鉄の荷物を背負って向こうに逃げていく。

       「これはしたり、『わらし』様ではなくて『荒らし』様であったか! こらまて!!」


       警察から皆さんへ:詐欺には十分に注意しましょう。 そうそううまい話はありません。

<2016/11/27>

第十八話 おんねん

    解説:化け猫

       猫は恩知らずというだがよ、なかなかどうして、けっこう情が深い生き物でな。 世話になっているうちいろいろと恩返しをしてくれるだよ。 

       ただ、はぁ猫は猫だでな『恩』のつもりで『怨』をかえすこともあるが、まぁ許してやってくんしょ。

       <お江戸猫飼い草子より>

        化け猫が主人の怨みを晴らすために祟るお話は有名ですが、怨みを丸投げされた猫にしてみればいい迷惑。 そう思って作ったお話です。

        恨む相手がきちんと伝わっていなかったら? もう死んでいたら? どうやって恨みを晴らせばいいか、猫ならずと迷惑な話です。

     蛇足1:「その一年後」

        恨みを晴らしに行った化け猫娘、一年たっても戻ってきません。 化け猫の元締め、気になって鍋敷家にやってまいりました。

        「ほーれほれ……猫千代は良い子にゃ」

        「にゃ♪……」

        「おいこら」

        「これは元締め、お久しぶりにゃ」

        「何を子守なぞしておる。 恨みは晴らしたのか?」

        「それはもう、一年も前に殿様は大往生したにゃ」

        「ほう、どうやった?」

        「腹上死」

        「お前なぁ……それでいいのか? 第一その子はなんだ?」

        「はい、我が授かった、殿様の落としだねだにゃ」

        「おい……それで恨みをはらしたことになるのか?」

        「はい、それはもう、こうやって……」

        化け猫娘、わが子をあやしながら歌います。

        ”なーなーだい、たーたーりて、ゆーるーすまじ……”

        赤ん坊は、きゃっきやっと言って喜んでおります。

        「この子守唄を代々伝えていけば、ちゃんと祟りは受け継がれますニャ」

        「……まぁ、いいか」

      蛇足2:「その後」
        拝み屋『岩鉄』が化け猫退治にやってきた。

        「がっはっはっぁ! たかが猫、わしの敵ではないわ! ごめん」

        噺家に化けた化け猫娘の家へやってくると、無遠慮に上がり込む。

        「貴様が化け猫の子孫かぁ、成敗してくれるわ、正体を現せい!!」

        「むむむ、ばーれーたーかー」

        噺家娘、宙で一回転すると化け猫の姿に変わります。 さすがは代々続いた化け猫だけあって、体長八尺あまり、目は自動車のライトの如く

        光り、口端から覗く牙はサバイバルナイフの如き。 

        フーッ!!!!

        「……あー、わしは拝み屋であって、ハンターではなかったな」

        岩鉄、踵を返すと脱兎のごとく逃げ去りました。

        ご注意:獣の化け物は、正体を暴いた後の方が危険なことがあります。 十分に注意しましょう。

<2017/2/12>

第十九話 ランプのせい

    解説:ジーニー(ワーヒド&イスナーニ)

       『わたしがいなくなるのはランプのせいです』

       『逃げたのではありません。 みなランプのせいです』

       『私の髪があかくなったのは、ランプのせいです』

       <世界ふしぎ話:失踪者の置手紙集より>

      謎多き、赤いスライム状の魔物。 古ぼけたランプの中から現れ、ランプを手に入れた人を『ご主人様』と呼んで、夜のご奉仕を行う。 

      しかし奉仕された人間は、ジーニー達に徐々に姿を変えられ、最後はジーニーと一体となり、蛇のように蠢く赤い髪の魔物に変えられてしまう。

      最終形態の元ネタは、C.L.ムーア作品に登場するシャンブロウ。

      裏設定では『乳の方程式』に登場したジャムの同族で失敗作。 主人に仕え、身の回りの世話、精神のケアを行う目的で作られたが、主人と

      融合し、快感で主人の精神を支配してしまう寄生生物になってしまった。

     蛇足1:「その直後」

        ランプを手に立ち上がる女。 その頭からでっかい麻袋がかぶせられる。

        「むぼっ!?」

        頭どころか、全身がすっぽり入る麻袋に女は放り込まれた。 いつのまにか、大道具係りの長身アフロの黒人女と同じく長身金髪の白人女が、

        ランプの女の背後にきていたのだ。

        「語りが終わったら、帰っていただきますか……それとあの二人は我々の……」

        アフロの黒人女はそう言うと、モゴモゴと動く麻袋をかついでいってしまった。

        後には、呆然している滝と志度がだけが残された。

        「なんかここ、やばくないか?」

        「同意……」

        顔を見合わせる二人の処に、黒髪のアシスタントがやってきて、封筒を差し出す。

        「今回の給金よ」

        中身を確かめる二人。

        「ま、次の仕事があるわけでもないし」

        「同意……」


     蛇足2:「その後」

        拝み屋『岩鉄』がランプの女退治にやってきた。

        「がっはっはっぁ! たかが古道具のランプ、叩き壊せばそれまでよ!」

        怪しい露天商を探し回り、っいに目的の黒フードの露天商を見つけた。

        「おい!ランプはあるか! おお、これか!……となに?」

        粗末な板の上に置かれたランプ、その横に何やら細かい字がかかれた紙がおいてある。

        「なになに? 『本製品は、次の用途には使用しないでください。 例:水差し、吸い飲み、急須、ヤカン……油さし、シビン……』」

        岩鉄は顔を上げ、黒フードの露天商を痛ましそうに見る。

        「いろいろと、人知れぬ苦労があるようだの……」

        コックリと頷く黒フードの露天商。 岩鉄はうんうんと頷きながらその場を後にした。

     蛇足3:「その後2」

        ぶつぶつ爺が黒フードの露天商の処にやってきた。

        「ガラクタばかりじゃ……」

        粗末な板の上に置かれたランプ、その横に何やら細かい字がかかれた紙がおいてある。

        「……『本製品は、次の液体を入れられません 例:水、茶、ジュース、コーヒー……油』」

        ぶつぶつ爺は『油』の字を指さして一言。

        「欠陥品じゃ」

        固まってしまた黒フードの露天商をその場に残し、ぶつぶつ爺はぶつぶつ言いながらその場を後にした。

<2017/10/22>

第二十話 新しいママ

    解説:新しいママ

       ある村に一人の男が息子と住んでいた。

       彼の妻は息子を出産したときに亡くなり、彼は息子を男で一つで育ててきた。

       ある日、美しい女が男の家にを訪れ、そのまま彼の後妻となった。

       女は良く働き、男と息子は幸せになった……かと思えたが、ほどなく男と妻は同じ日に亡くなり、息子は

       行方知れずとなった。

       不審に思った村の若者が男の家を訪れると、後妻となった女によく似た美しい女がその家で暮らしていた。

       若者は女を自分の家に連れ帰り妻とし……やがて彼女は亡くなり、若者は行方知れずとなった。

       そうして一人、また一人と村人は姿を消していき、最後に一人の女が残った。

       残った女も村を去り、村は絶えた。

       姿を消した村人たちの行方は今も判っていない。

       <未解決の失踪事事件簿:消えた村と謎の女より>

      『新しいママ』の実体は、人間に取りついて変異させるゲル状の物体と、取り枯れて変異した人間です。

      ゲル状の物体そのものは生物ではなく、意思もありません。

      ゲル状の物体を摂取した人間は、男性であれば女性化します。 その後、女性の肉体に角、羽、尻尾が生え、悪魔の

      ような姿となって『新しいママ』への変異が完成します。

      変異後の人間は、乳房からは男性を女性化したり、催淫効果のある乳状の液体を分泌するようになります。

      変異後の人間は、身近な人間を誘惑し、最終的には自分を変異させたのと同じゲル状の物体を乳房から分泌して、誘惑し

      た人間を自分と同じように変異させてしまいます。

      新しく変異した人間は、自分-変異させた人間を殺してしまいます。

      この変異した人間が移り変わる様に見えることから、ゲル状の物体が『寄生虫』で、変異した人間が『宿主』の様に

      見えます。

      しかし、ゲル状の物体は増殖することはなく、自分で動くこともありません。

      このため『宿主』が次の『宿主』を捕まえる前に死亡すると、この連鎖が途切れてしまいます。

      ただし、死んだ『宿主』からゲル状物質が取り出され、別の人間が摂取すると、変異の連鎖が再開します。


      『新しいママ』の元ネタになったのは、古い恐怖少女漫画です。

      その話は、隕石に付着したアメーバのような生物が人間に取りつき、吸血鬼化するというものでした。

      主人公の周りの人が吸血鬼化し他の人を襲います。 吸血鬼になった人たちは、やがて退治され、人々は安堵します。

      しかし、吸血鬼本体のアメーバの存在に誰も気が付かず、別の人が吸血鬼となって恐怖が続く、というお話でした。

      最後には、主人公自身が吸血鬼となり、そして新たな隕石とアメーバがやってくる、と言うところで終わっていました
      

    蛇足1:「その直後」

     「ちょっと待ってくれるか」

     闇の中に消えようとした『新しいママ』を志戸が呼び止めた。

     「あんた……おふくろさんも、親父さんもなくなったんだよなぁ……」

     振り返った『新しいママ』が首をかしげ、何が言いたいのかという顔をする。

     「家族がいなくなり、子供もいない。 『ママ』と呼ぶ根拠がないじゃないか?」

     「……そこに突っ込むの?」

     音響機器を片付けていた黒髪の女が呆れたように言ったが、『新しいママ』は戻って来て、真剣な顔で滝と志戸と相談している。

     「よし、どっかの飲み屋で雇われ『ママ』をやればいい! それなら『新しいママ』でも不思議はない」

     「なるほど!……ありゃ?」

     話がまとまって辺りを見回すと、他のスタッフは全員引き上げて誰もいない。

     「……帰るか」

     とぼとぼと引き上げる三人だった。

    蛇足2:「その後」

     拝み屋『岩鉄』が『新しいママ』の退治にやってきた。

     「がっはっはっぁ! 『新しいママ』じゃと? 『ママ』の一人や二人、なにするものぞ!」

     『新しいママ』が務め出したスナックを探し出し、勢いよく扉を開ける。

     「『新しいママ』はどこじゃぁ!!」

     「いらっさぁーい。 ご指名なの?うれしいわぁ」

     青青しいヒゲの剃り跡に、ごつい体つき。 またしてもゲイ・バーに来てしまった岩鉄の悲鳴が響き渡った。

<2019/2/3>

第二十二話 骨喰いの宿

    解説:骨喰いの宿

       さる里の山裾に古寺あり。 ある時、旅の僧が寄りて『骨喰いの宿』なる話を語る。

       小僧ども大いに怪しみ、おののきたり。

       されど住持曰く「かの話真なれば、語る人おらず。 ゆえにかの話は偽なり」

       翌日、旅の僧おらず、荷は残りたり。

       小僧ども探せども、旅の僧見つからず。

       小僧ども怪しみて、住持に伝えんとすれども、住持もまた見えず。

       以来、かの古寺に人いつかづ。 まこと、不思議なり。

       <日本ふしぎ語り:第二十一話 古寺の怪より>

      『骨喰いの宿』はうわばみの一族によって起こされ、やがて湯女、河童、桜の精等、複数の妖怪によって成り立っています。

      山間に不思議な住居がありもてなしを受けると言う話で『迷い家』を下敷きにしていますが、複数の建物があるので『隠れ里』の方が近いでしょう。 

      うわばみ、河童、桜の精は日本の妖怪に同じものがありますが、湯女とそのバリエーションの水飴お姉さん。わたあめお姉さんは、元ネタと呼べる

      話はありません(たぶん)。 『骨喰いの宿』自体は『隠れ里』を偶然見つけたうわばみの一族が、そこを根城にし、安定した生活を営んでいるうちに、

      他の妖怪が出入りするようになったという設定で、第一の話から第四の話まで、数百年の開きがあります。 


    蛇足1:「その後1」

      拝み屋『岩鉄』が蒼鉄の宿にやってきた。

      「がっはっはっぁ! わしがうわばみを退治してくれる!」

      「はい、お泊りですか? 一名様ご案内」

      部屋に通され、食事と酒を前にして上機嫌の岩鉄。 なみなみと注がれた杯をグイっとあおり……

      ……

      「どうします?姉様」

      「まさか、お猪口いっぱいでつぶれるとはねぇ」

      「スカな客だねぇ。 身ぐるみはいで、表に放り出しときなさい」
 
    蛇足2:「その後2」

      拝み屋『岩鉄』が赤鉄の宿にやってきた。

      「がっはっはっぁ! わしが風呂に巣くう水妖を退治してくれる!」

      「はい、お泊りですか? 一名様ご案内」

      部屋に通され、風呂に向かった岩鉄。 風呂に飛び込もうとして、与太に止められる。

      「まんず、体を洗ってくんせぇ」

      「面倒じゃのう。 まぁ、風呂も久しぶり……というか、最後に入ったのは何年前だったかのう?」

      岩鉄がそう言った途端、温泉の湯が飛び上がって逃げだした。 あっけにとられていると、与太が風呂掃除用のデッキブラシを持ってきて、岩鉄を

      ごしごし擦り始めた。

      「あいたたた、こら、わしは客……あいた!」

      「いくら客でも、風呂に入る最低の礼儀ってもんがあるでがんしょ!!」

      岩鉄は全身をデッキブラシで擦られ、赤向けにされて表に放り出されてしまった。
 
    蛇足3:「その後3」

      拝み屋『岩鉄』が薄桜の宿にやってきた。

      「がっはっはっぁ! わしが桜の精とやらを退治してくれん!」

      「すみませんねぇ。 ただいま満室でして」

      「そ、そうか……空きが出るのはいつ頃だ?」

      「さて……うちのお客様は長逗留な人ばかりで、10年後になるか100年後になるか……」
 
    蛇足4:「その後4」

      薄桜の宿に泊まれなかった岩鉄。 動作たものかと考えながら宿を出てその辺りを歩いていた。 すると、何やら大勢が敷物を敷いて花見をして

      いるのに出くわした。

      「おう、あんたも花見をしていかんかね」

      誘われるままに腰を下ろす岩鉄。 一行は薄桜の宿の桜の樹で花見をしているらしかったが、肝心の桜には花がついていない。

      「桜がまだのようだが?」

      「もうじきよ。 ほら、始まった」

      はぁ……あぁ…… ポン

      悩ましげな声がして、桜が一輪さく。 続いて二つ、三つと枝に桜がついていく。

      はぁ…… ポン

      はぁはぁ…… ポン、ポン

      はぁぁぁぁぁ…… シポポポポポポポ、ポン

      はぁぁぁぁ!!……… ザザーッ!

      ひときわ大きな声が響いたと思ったら、満開になった桜がザーッと散ってしまう。

      「……なんじゃこら」

      「ここの桜はこういうもんでな……おや、また咲きだした」

      「今年は頑張るのう」

      ポンポンポンと花を咲かせては散る桜に、一同はやんやの喝さいを送っている。 岩鉄は、静かに立ち上がるとその場を去っていった。

      「なんだかのぅ……」

<2018/11/11>

第二十二話 こたつ

    解説:こたつ女(こたつめ)

       こんげ、さみぃー日は、こたつであったまるがいちばんじゃ。

       けんどもよぉ、こたつは、はぁ、はいったらでられんでよぉ。

       じゃけん、こたつは、はいらんにこしたこたねぇど。

       しっとっか、やまんなかにゃ、こたつめっつぅおなごがおっとよ。

       やまんなかで、こたつだして、おとこさくるのを、じーっとまっとっとよ。

       そこんはいったら、もうにげられん。 おそろしか、おなごよ。

       は? つくりごとじゃって?

       はいったら、にげられんのに、なんでしっとっとかって?

       そやなぁ。 なんで、しっとっとっかなぁ?

       <日本語り集:山の中の物の怪(22)より>

       『こたつ女』(こたつめ)と呼ばれる女の物の怪。 山小屋や『かまくら』の中に『こたつ』を設えて、男を誘う。 上半身は美しい女の姿をし、薄い青から
 
      白い着物をまとっている。 下半身は、チューブワームの様な胴体がついており、上半身と下半身継ぎ目にあたる部分に、大きな開口部がある。 

       『こたつ女』は、下半身を床下、または地中に隠して、開口部を上に向け、其の上に『こたつ』を置いて、獲物(男)を待ち受ける。 この姿勢で待ち受け

       ると、開口部が掘りごたつの穴の位置に来ており、何も知らない獲物は暖を取るつもりで、足を『こたつ女』の開口部に突っ込むことになる。 

       『こたつ女』は獲物がかかると、開口部内に獲物の感覚を鋭敏にする粘液を分泌し、触手で獲物をからめとって粘液を獲物の体に塗布する。 

       粘液を塗布された獲物は無抵抗になり、やがて自分から開口部内に身を沈めてしまう。 獲物を捕獲した『こたつ女』は姿を消し、春にはその辺りに

       幼生とおぼしき個体が出現する。 このため、捕獲した獲物との交尾を行うとの説もあるが定かではない。 凍死寸前の者を温めて極楽に導くので、

       神仏の使いともされる。

       『こたつ女』には、はっきりした元ネタはありません。 こたつを用意して男を待ち受ける物の怪で、昆虫で言えばアリジゴク、食虫植物で言えば

       ネペンテス(ウツボカズラ)に類似しています。 

    蛇足1:「その直後」

      「おい滝。 消えたぞ」

      「志度、奴はいったいどこに消えたんだろう」

      『こたつ』があった場所を踏んだり叩いたりする二人。 その背後で、『こたつ』がぬっと持ち上がり、こそこそと退場していった……

    蛇足2:「その後」

      拝み屋『岩鉄』が『こたつ女』退治にやってきた。

      「がっはっはっぁ! 『こたつ』に入っているような軟弱な妖怪!この岩鉄が引きずり出してくれる!」

      いつもの怪しげな格好で登山道までやってくると、足がくるぶしまで埋まるほどの雪が彼を待ち受けていた。

      「……」

      見上げると、黒い雲にかすむ雪山がそびえたっている。

      「……運のいい奴よ。 わしは拝み屋で、登山家ではないからの」

      岩鉄はくしゃみを一つすると、踵を返し去っていった。

<2019/5/12>

第二十三話 うばがみ

    解説:乳母神(うばがみ,オモカミ)

        さる山に、女性(ニョショウ)の神在り。 身ごもりて十月十日ののちに

       赤子授かるも、声上げず。 神、たいそう哀しみて、山さすらう。

       人、哀れに思い、社にて神をまつり、子を預けん。

        古き話なりけり。

       <寺社縁起データベース:乳母神縁起より>

        『乳母神』(うばがみ)の名で祭られていた山の神。 古くは『オモカミ』

        と呼ばれていた。 元は山神であったが、自身の子を失ったことで悲嘆にく

        れ、ついには狂気にとらわれた。 その後は、赤子の健康と幸運をつかさど

        る慈愛の神と、男を胎内に回帰させる祟り神の二面性を併せ持つ神となった。

         正しく祭れば霊験あらたかな神であるが、祭りを違えると大変危険な神と

         なるため、今では祭るもの者おらず、ただ言い伝えのみが残されている。

       <消えた神様:ウ行より>

      『狂える母』『暴走する母性』をテーマとしたお話です。

      はっきりした元ネタはありません。

      『うばがみ』は、正しい手順で祭られている限り危険な存在ではありません。

      しかし本篇の様に、誤った手順で接すると危険な存在となります。

      また、『うばがみ』の胎内に回帰させられた人間がも以後どうなるかも判っていません。

      一方、祭られることのなくなった『うばがみ』が、力を失い消え失せるのか、あるいは

      『母性』を暴走させて魔となるのか。 ある意味、妖怪よりも恐ろしい存在です。

    蛇足1:「その直後」

      「神様と交わるとはな」

      「うむ、罰当たりな奴だったな」

      滝と志度がそう言うと、『うばがみ』がつかつかと歩み寄ってきた。

      「おのれら! わが子に理不尽な言いがかりをつける気かえ!」

      いきなり激高する『うばがみ』に驚きつつ、二人は何とか『うばがみ』をなだめ、お引き取りを願った。

      「なんだってんだ? 急に」

      いぶかしむ滝の隣で、志度がポンと手を打った。

      「そうか! あれがモンスター・ペアレントって奴だ」

      それを聞いた黒髪のアシスタントが呟く。

      「このセンスだから売れないのよねぇ……」

    蛇足2:「その後1」

      拝み屋『岩鉄』が『うばがみ』退治にやってきた。

      「がっはっはっぁ! 『ばばがみ』とやらはここかぁ!」

      ゴロゴロゴロゴロゴロ……ドッガーン!!

      天地を裂く雷鳴一閃、拝み屋『岩鉄』の目の前に稲妻が突き刺さった。

      ……『うばがみ』であるぞよ、不埒者めが

      氏名は正しく覚えましょう。

    蛇足3:「その後2」

      拝み屋『岩鉄』は『うばがみ』の社にたどり着いた。

      「うう、死ぬかと思った。 しかぁし、この岩鉄、稲妻ごときを恐れるものかぁ!」

      社の格子戸をガラガラと引き開け、ズカズカと中に入る。

      「さて、鈴……鈴はどこだ?」

      社の中を探すが、『うばがみ』を呼び出すための鈴が見当たらない。 途方に暮れる岩鉄。

      何気なく外を見ると、社の入り口に下げられた鈴と、そこから伸びる鈴緒が目に入った。

      「これでよいか……まてよ」

      社から出ようとした岩鉄。 思い直して鈴緒を持って社の中に戻る。

      「ふっふっふっ。 これを引くときっと鈴が落ちてくるに違いない」

      得意げに言うと、社の中から鈴緒を思い切り引っ張った。

      ブチッ ガン ガラーン

      予想通り鈴が落下し、さい銭箱に当たって大きな音を立てる。

      「ぬっはっはっ! みよ、予想通り!……ありゃ」

      ウーン……ヴヴヴヴヴ……

      不気味な唸りとともに、鈴の中から蜂が飛び出してきた。 どうやら鈴の中に巣を作っていたらしい。

      「どわぁぁぁぁぁ!」

      慌てて社の戸を閉める岩鉄。 しかし戸は格子戸、蜂を遮ることはできなかった。

      ハチィィィィィ……

      社の中から岩鉄の悲鳴が響き渡った。

<2019/9/22>

 


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