第二十一話 骨喰の宿

19.格安の宿 その弐


 謎の夜店『人魚すくい』。 エミはその前で大声でまくし立てていた。

 「こんな小さな網で、人間大の人魚がすくえるかぁ!……」

 エミはなおも文句を言い続けているが、その後ろでミスティ、麻美、スーチャンは顔を見合わせて立ち尽くしていた。 連れが感情的になると、残りの者は

落ち着いてしまう典型例だった。 そして店主はと言うと、ほっかむりの奥に顔を隠したまま、エミの罵詈雑言を馬耳東風と聞き流している。 ひとしきり文句を

言ったエミは、息があがったのか言葉を切り、肩で息をしている。

 「まぁまぁ。 お客さん落ち着いて……そこの緑色のお嬢ちゃん」

 店主は、スーチャンを手招きした。

 「すーちゃんニゴヨウ?」

 とてとてとスーチャンが歩み寄ると、店主は金魚すくいの網を渡した。

 「一回やってみないかね? どうもお客さんが来ないんで、サービスだよ」

 「ンー……」

 スーチャンは背後のミスティたちを振り返り、やっていいのかと目で問うた。

 「……サービス?」 とエミが疑いの眼差しを店主に向ける。

 「そ、1回だけただでやらせてあげる」

 エミは店主の意図を図りかね、首をかしげる。 が、ミスティがスーチャンをけしかける。

 「やっちゃえ、スーチャン!! 人魚をゲットだぜぇ」

 「ンー……」

 スーチャンは店主の差し出している網と、ニコニコと笑っている人魚を何度か見比べた。

 「努力シマース」

 スーチャンは網を構え、人魚が横たわっている水槽の前にしゃがんだ。

 「ンー……」

 網の大きさは人魚の手の平より小さい。 それにすくうにしても、水槽には人魚の体が詰まっていて、網を差し入れる余地はほとんどない。 困った

スーチャンは、わずかに見える水面に、そーっと網を近づける。

 「えい♪」

 人魚が、水槽からはみ出た尻尾を振り、スーチャンの足を払った。 よろけたスーチャンを、人魚は豊かなバストで受け止める。

 モフッ

 柔らかいクッションの様に、人魚の乳房がスーチャンの頭を受けためた。

 「ワッ……ヤワラカ……」

 パタパタと手を振って起き上がろうとするスーチャンを、人魚は胸に優しく抱き留める。

 「あん♪ああん♪」

 嬉しそうな声を上げる人魚に、エミははたと手を打った。

 「なるほど、そういう遊びなのね」

 「はえ?」

 キョトンとするミスティに、エミは小声で囁く。

 「つまり、『人魚すくい』をやろうとしたお客さんが、よろけて人魚の胸に倒れ込んで、おっぱいを楽しむのよ」

 「おおう、なるほど」 

 エミの説明でミスティが『人魚すくい』を理解した頃、スーチャンも『人魚すくい』のやり方を悟っていた。

 「エイエイエイ……」

 人魚のおっぱいの谷間に頭を突っ込み、甘えるようにぐりぐりと動かす。 大人がやるとセクハラだが、子供のスーチャンがやるとただ甘えているだけの

様に見え、ほほえましい光景だ。

 「ヌルヌル〜」

 スーチャンは肌の表面を液状化させ、人魚の谷間をヌルヌルにして感触を楽しむんでいる。

 「ああん……この子、お上手……」

 人魚は喜びの声を上げながら、スーチャンを抱き上げるようにし、自分の上にのせてしまう。

 「チュウチュウ……」

 スーチャンは頭をいったん谷間から抜き出し、人魚の乳首に吸い付き、音を立てて吸っている。

 「あらあらあら」

 人魚は、スーチャンの体に手を回し、頭を撫でてスーチャンをあやすように可愛がっている。

 「がんばれスーチャン、それそこだ」

 「なにをどう頑張るの?」

 麻美が呟いたが、周りの男たちもスーチャンを応援し始めた。

 「がんばれ、お嬢ちゃん!」

 「ほれ、おっぱいが隙だらけだ」

 「レロレロレロ……」

 スーチャンは乳首を転がすように舐めている。 粘り気のある舌が気持ちいいのか、人魚の顔が微かに赤みを帯びてきた。 しかし彼女はプロだった。

 プス……

 「はい残念、網が破けちゃったわね」

 スーチャンが右手に持っていた網を、人魚が指で穴を開けてしまっていた。

 「ウーン、残念」

 スーチャンは、人魚の体から滑り下りると、人魚に向かってペコンと頭を下げた。

 「お楽しみいただけましたか?」

 「ハイ、タンノーサセテ頂キマシタ」

 ニコッと笑ったスーチャンは、ミスティの元に戻ってきた。

 「オッパイー! イッパイー!」

 「はい、はーい。 よかったわねスーチャン」

 そう言ってエミが目を上げる。

 「うげっ!」

 『人魚すくい』の前に長い行列ができていた。

 「はい、一人ずつ。 おひとり様10枚までだよー」

 「よし、ではさっそく」

 「えい♪」

 「うわおぅ♪」

 早速、一人目が人魚のおっぱいに顔を埋め、じたばたともがいている。

 「やり方がわかったとたんにこれかい……」

 「ふーん」

 エミたちは、わずかの間『人魚すくい』を眺めていたが、すぐにその場を離れた。

 
 「あら?」

 「へぇ」

 『人魚すくい』の夜店を少し離れると、夜店の辺りに霞が掛かった様になり、人魚の姿が見えなくなった。 ここから見ている分には、普通の夜店と大差ない。

 「こうやって偽装しているのかしら」

 「するとほかの夜店も……」

 辺りを見回すと、まばらに配置された夜店も同様に霞が掛かっているように見える。

 「これは、覗いてみないとね」

 「だ、大丈夫かな」

 「だいじょーぶ♪」

 「ごーごー」

 「さて、次はどこに……」

 4人は、夜店を物色しながら歩いていく。

 「お、水飴とわたあめだって」

 「わたあめっなーに?」

 「コットン・キャンディよ。 溶かしたザラメの糸で綿の様な飴を作るの」

 「ミズアメー」

 夜店に近づくと、幟の字がはっきりしてくる。

 「えと……赤鉄の湯、出張販売所?」

 「どっかで聞いたことのあるような……」

 「確か、赤い湯女と河童のいる所じゃなかったっけ?」

 一同は顔を見合わせた。

 「ということは……」

 「まさか、湯女に砂糖を混ぜて……」

 「『水飴女』に?」

 4人は、そっと夜店に近づいて行く。
 
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