第二十一話 骨喰の宿

16.薄桜の宿 その弐


 あ……あぁ……

 桜花の漏らす吐息が、夜の空気に溶けていく。 男は桜花の動きに合わせ、緩やかに彼女の中を出入りした。

 ふわり……ふわり……

 最初の内は桜花の中はやわらかく、捉えどころがなかった。 しかしその中を前後していると、モノがふわふわと心地よくなってくる。

 「なんだか……いいですぜ……あんた……」

 男は呟いて、ゆっくりと桜花を味わった。 彼が知っている女達は、もっと激しく男を求め、その交合は互いを貪る様な猛々しさがあった。 しかし、この

桜花との交わりは……

 「日向ぼっこをしているようだ……」

 ふふ……それで……いいではありませんか……

 桜花はからかうように応え、男の体に手足を絡め、ゆっくりと擦りあげた。

 「あ……」

 桜花は、体に触れるか触れないかの際で、ゆるやかに男を愛撫する。 男は、体のすべてが桜花に包まれていく様な、不思議な感触を覚えた。

 ふふ……

 ふふふ……

 桜花の含み笑いが聞こえてくる、四方から。 桜花は彼に組み敷かれているはずなのに、である。

 「……お前?」

 問いかける男に、桜花はただ笑って首を左右に振った。

 このまま……

 参りましょう……

 辺りから再び声がすると、桜花は男を自分に引き寄せた。 夜具の上で男が上、桜花が下になる。

 「さぁ……」

 目の前の桜花の唇から誘いの呟きが聞こえた。 おとこは頷くと、桜花を深く突き上げた。

 「はぁ……」

 桜花の吐息の香りが強くなる。 男は深く、また深く、桜花を突き上げる。

 「はぁ……」

 ぁぁ……

 深い……

 四方から聞こえてくる囁きに、男は桜花の中にいるような錯覚を覚える。 そして、体をさわさわと撫でる桜花の手の感触が、体のあちこちへと散らばって

いく。 背中に、わき腹に、尻に、太腿に……体のすべてが一度に愛撫される様な不思議な感触だった。

 「これは……なんとも不思議な……あぁ……」

 ふわふわ……さわさわ……

 体を包む愛撫に酔いしれながら、男は一層深く桜花を突き上げた。

 もっと……

 桜花が喘ぐと、男の体を包む愛撫がぼんやりとした快感に変わっていく。 体を包み込む快感が体の中に沁み込んでいき、男は夢心地で桜花をとの

交合を楽しむ。

 「い……いきやすぜ……」

 「さぁ……きて……」

 男は桜花に向けて自分を解き放った。

 「あ………?」

 心地よい痺れにふぐりがきゅっと縮み上がる……がそれでは収まらなかった。 その痺れがふぐりから体の中へと広がっていく。

 「こ、これは……?」

 初めての感覚に戸惑い、男は体に力が入れて、その痺れに抗った。

 遠慮せずに……

 存分に気を放って……

 「……」

 囁く声に促され、男は抗うことを止めた。 心地よい痺れが体に溢れ、甘い快楽の波が男を包み込んだ。

 「あ……あぁ……」

 ヒクリ……ヒクヒクヒクヒク……

 桜花と繋がった部分が脈打ち、男の精を桜花の奥へと捧げていく。 精を放つ喜びで頭がいっぱいになり、男はそれに浸りきり、身を震わせた。

 「ああ……ぁぁぁぁぁ……」

 熱い……

 もっと……もっと放って……

 「ああ……うれしや……」

 桜花の歓びの声が、男の快感をさらに高めた。 男はすべてを忘れ、桜花に己のすべてを捧げ続ける。


 トクリ……

 どのくらいの時が過ぎたのか、ようやく精が止まった。

 「ふぅ……」

 男は薄桃色の乳房を枕にし、桜花のうえで深くて荒い息を整える。

 「いかがでしたか……」

 「は……こんなのは……初めて……でやした……」

 「ふふ……お気にめいていただけて、うれしゅうございます……では次を……」

 「や、さ、さすがにあれをもう一度はいけやせんぜ」

 「そのようなことはありませんでしょう……ほら……」

 桜花が男のモノを撫でてあげる。 不思議なことに、あれほど長々と精を放ったのに、モノは隆々と反り返り、今にもはじけそうだ。

 「こ、こんなに……」

 「ふふふ……では今度は、私が上になりましょう……」

 そう言うと桜花は、男を夜具に寝かせ、その下半身に跨った。 熱い女の秘所が、そそり立った男のモノを覆い隠す。

 「ううっ……」

 桜花の中は相変わらず柔らかく、ふわふわしている。 それが自分のモノにやさしく纏わりつき、心地よい痺れを伝えてくる。 男は自分の腹のうえで

ゆっくりと体を揺らす桜花の女体に見惚れながら口を開いた。

 「不思議でやす……さっきあれほど出したのに……こんなにアレが元気なのは、何か術でも使いやしたか?」

 「ふふ……」

 桜花は口元を隠して笑った。

 「術には違いありませぬが……お客様の考えているものとは……たぶんちがいます……」

 「といいやすと?」

 「私は桜の精……私が交合するのは、一年に一度……」

 「……そうでやすね……花見は年に一度、春だけでやす……」

 「そうです……お客様が私と交合している間に、一年が過ぎているのですよ……」

 「……ええっ!? 一年!?」

 流石に男が驚きの声を上げ、その様子を見た桜花がおかしそうに笑う。

 「年に一度、春先に深く交合してお客様の精を授かり……そして次の春を待つのです……たたまりにたまったお客様の精を授かるために……」

 桜花がゆっくりと腰を揺らした。 深く甘い蜜の様な快感が男を包み込み、桜花の中で男のモノが弾ける……かと思ったが、ずっしりと重い快感に、モノが

痺れてしまい、ただふるふると震えるのみ。

 「うお……」

 「お客様の体にとっては、一年ぶりの女、桜花の中。 たまらない心地よさでございましょう?」

 男は、半分意識を失いながら桜花の声に頷くことしかできなかった。 ふぐりが縮み上がって、蜜の様な快感が体の中に溢れ、頭が働かない。

 「さぁお客様……桜花のモノで、包んで差し上げましょう……」

 桜花の周りに薄桃色したもの現れ、それがひらひらと降り注ぐ。 それは無数の桜の花びらだった。 それが、桜花の下になった男の体に降り注いでくる。

 ヒラリ……

 一枚の花弁が胸をかする。 すると男は、体に桜花が触れたように感じた。

 「……さっきの愛撫の正体は……これか……ああ……」

 あとからあとから、桜花の花びらが現れては降り注ぐ。 男は、自分の体を無数の指先が愛撫しているように感じ、身震いする。

 「ああ、たまらない……」

 「さぁお客様……たっぷりとご奉仕させていただきます」

 桜花はそう呟くと、花弁にまみれた男の胸に自分の乳房を密着させる。 桜の花びらが降り注ぐ座敷が、男と女の喘ぎに満たされた。

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