第二十一話 骨喰の宿
14.赤鉄の宿 その拾
一番目の勝負を終えた河童の『かーちゃん』と、弟『とーちゃん』は西と東に分かれて仕切り直しを始めた。 行司役のうわばみ女将は土俵から出て、湯女
達の差し出した湯飲みの水を飲む。 と、湯女の一人首をかしげた。
「女将さん、なんか『かーちゃん』……女っぽくなってません?」
「おっぱいだけじゃなくて、なんかこう……」
「その気になってきたってことよ」
うわばみ女将はぐいっと湯のみをあおる。
「聞いた話だけどね。 『かーちゃん』の一族は男が女を押し倒し、女はそれを拒むんだってさ」
「へぇ……乱暴ねぇ」
「うん。 でも女の方が体が大きく、力も強いから。 男が3人がかりでもかなわないらしいの、普段なら」
「普段なら?」
うわばみ女将は頷いて立ち上がった。
「でも、こうやって取っ組み合っているうちに、女の体の方が男の方を受け入れる……と言うより、女として燃えてくるらしいのよ。 ほら」
うわばみ女将が『かーちゃん』を指し示し、湯女達がそちらを見る。 『かーちゃん』宿の下働きを一人でこなしており、その体は女にしてはたくましいのだが、
色気を感じさせるものではなかった。 それが、おっぱいが出ただけでなく、腰や尻にメリハリがついてきている。
「あらほんと」
フーッ……フゥーッ……
「なんか、息が荒くなってきていません?」
「ええ、手ごわい相手になるほど燃えてくるらしいわ」
「それで相撲でお付き合い……」
感心半ば、呆れ半ばの湯女達を残し、うわばみ女将が再び土俵の中央に立つ。
「では、取り組み二回目。 両者見合って見合って……のこった!!」
「ぬおっ!」
「ふうっ!!」
激しい気合と共に、二人の体がぶつかり合う。 が、一回目とは様相が変わった。
むにょん
一回目で弟『とーちゃん』を弾き飛ばした『かーちゃん』のおっぱいは、恐ろしいほどの柔らかさで彼の勢いを殺し、その体をがっちりと受け止めた。
「うひゃぁ」
裸の胸に、滑るおっぱいの感触がべっとりと張り付き、思わず動きを止める弟『とーちゃん』。 その隙に『かーちゃん』の腕が彼のまわしをガッチリと掴み、
押し込んでくる。
「こ、このぅ」
不利な体勢になった弟『とーちゃん』だが、何とか踏ん張ると、『かーちゃん』に胸を合わせ、力任せに押し返す。
「ぐうううっ……」
「ふ……ぅぅぅぅぅぅ……」
激しい力の押し合いに、二人の体に汗浮き出て、流れていく。
「すごい力……」
「みてよ弟の法も息が荒くなってきた……」
弟『とーちゃん』は『かーちゃん』のまわしを掴み、その体をぐいと引き寄せた。 河童の汗は人のものと違ってやたらに滑り、『かーちゃん』の体が腕の間
からすり抜けそうになる。 彼女のまわしを掴み返し、顎を彼女の方に乗せて肩と胸を密着させて堪える。
(ううう……な、なんか変だ……)
『かーちゃん』の汗は妙に艶めかしい匂いで、頭がくらくらしてくる。
「はーっ、はーっ……」
「ふーっ、ふーっ……」
二人の息が上がってきて、ほぼ同時に互いを投げ飛ばそうと腕に力が入った。
ブチッ!!
あまりの力に即席まわしが耐えきれず、二人のまわしが切れてしまった。
「そこまで! 勝負無し!!」
うわばみ女将が団扇を返し、二人はまわしの残骸を持ったまま東西に分かれた。
「あらら、まわしが」
「予備は用意していないわよ。 作り直す?」
顔を見合わせた湯女達が『かーちゃん』と『とーちゃん』へ視線を戻すと、二人とも荒い息を吐いて興奮状態。 まわしの作り直しを待てる様子ではない。
「女将さん。 お客様も随分な様子ですけど?」
「『かーちゃん』の滑りのせいよ。 あれには交尾の相手をその気にさせる効能があるの」
「あら……」
「じゃこのまま続けさせましょう」
うわばみ女将が土俵に戻ると、すぐに二人が中央に戻り……そのまま突進してくる。
「どうどう、慌てないで……見合って見合って……のこった!」
団扇が返るより早く、二人が突進してがっつりと組み合った……と思ったら、弟『とーちゃん』が『かーちゃん』あっさりと投げ飛ばされた。 仰向けに倒れた
『とーちゃん』イチモツが、帆柱の様に天を向く。
「上手投……あれ?」
そのまま『かーちゃん』は仰向けに倒れた弟『とーちゃん』に伸し掛かった。 そして『とーちゃん』のイチモツに腰を叩きつける。 ズン!!
地面が震えるほどの勢いで、二人の腰がぶつかった。
「ふんぬ!」
弟『とーちゃん』が吠えた。 『かーちゃん』の滑りの淫気にあてられ、イチモツがそそり立っていたところにいきなり不意打ちを食らい、頭の中から理性が
吹っ飛んだ。
「ぬぉぉぉぉぉ!」
弟『とーちゃん』はあらん限りの力で『かーちゃん』を突き上げた。 赤い河童の女体が跳ねあがり、おっぱいがぶるんぶるんと揺れまくる。
「くひぃぃぃ!」
ぶっといすりこぎのようなモノは、『かーちゃん』の奥底を突き上げ、熱い快感となって『かーちゃん』を酔わせた。 もののけの鳴き声をあげる『かーちゃん』
の体から、光る滑りが流れ落ち、下に組み敷いた弟『とーちゃん』の体を濡らしていく。
「ぐおう……ぐぅぅぅぅ!」
弟『とーちゃん』は獣のような声をあげ、『かーちゃん』の体を突く、突く、突く。 その激しさはまさしく『男と女の相撲』だった。
「くひっ、くひっ、くひぃぃぃぃぃ!!」
大きく鳴いて『かーちゃん』がいった。 その瞬間、『かーちゃん』の秘所から滑る愛液がしたたり落ち、弟『とーちゃん』のモノを包み込む。
「うおっ……ぅぅぅぅぅぅ……」
愛液に包まれた宝玉が桃の様に膨れ上がり、次の瞬間弟『とーちゃん』は『かーちゃん』の中ではじけた。
ドクン、ドクン、ドクン……
熱い迸りが果てしなく『かーちゃん』の胎内へと注がれていく。 あれほど激しく互いを責めていた二人は、ぴたりと動きを止めて精の奔流に身を任せた。
ドクン……ドク……
呆れるほどの時が過ぎ、二人はその場に横たわり、互いの顔を見つめ合う。
「……もう一戦やるべか」
「うん」
「えーかげんになさい!」
うわばみ女将が団扇で『かーちゃん』の頭をはたいた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「……こうして、赤鉄の湯の辺りでは赤河童はがみられるようになっただ。 どっとはらい」
弟はそう言ってロウソクに手を伸ばす。
「なんか、最後は普通の昔話みたいになったぞ……」
滝が言うと、志度がぽんと手を叩いた。
「わかったぞ! あんた、最初にずっと薄ら笑いを浮かべていてたろう。 あれは……」
「あ……そうか、河童と嫁が良くて……」
「うへへへへへ……」
薄ら笑いを浮かべた弟は、手で仰いでロウソクを消し、その姿が闇に溶けるように消えた。
「この話の最後の一人はあんただな」
「へぇ」
薄桜色のロウソクの男が居住まいを正し、前の二人と同じ札を見せた。
「あっしは、さるお大名の下屋敷で働いていた奴ですがね」
「……お侍さんかい?」
「そんなご身分じゃありやせん。 ま、二本差しのだんなに喰わせてもらっていたんですがね……その旦那たちが左前になりやしてね……」
男はためていたものを吐き出すように語り始めた。
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