第二十一話 骨喰の宿

11.赤鉄の宿 その漆


  「ああっ……ああっ……」

 湯の中で三人の湯女は兄貴を取り囲み、豊かな乳房で彼の顔や肩を優しく擦っている。 はたから見れば、極楽で天女のもてなしを受けているように

見えたであろう。 しかし湯の下では……

 ヌルリ、ヌルリ、ヌルリ……

 湯女達の腰から下は湯の中で一つになり、三人の中央に巨大な秘所が口を開け、兄貴はその中に腰まではまり込んでいた。 その様は、恐ろしい妖怪の

顎に咥えこまれた哀れな獲物にしか見えなかった。 しかしその顔には法悦の表情が浮かんでいた。

  「ああっ……ああっ……」

 兄貴は愉悦の呻きを上げ、湯女達の秘所の中で身を震わせる。

 「ああ……」

 「たまりません……」

 三人の湯女達は口々に呟きながら、兄貴を愛し気に抱きしめる。

 「いく……蕩ける……」

 兄貴が秘所の中で腰を回すと、赤い陰唇は兄貴の腹から胸へと吸いつき、中へ中へと彼を誘う。

 「ふぁ……」

 ヌルヌルした陰唇に舐めあげられたところは、じんわりと暖かくなり、そしてたまらぬ心地よさに包まれてしまう。

 「からだが……気持ちよくて……」

 「ふふ……お気に召しまして……」

 「女の中に入るのは……心地よいでしょう……」

 「もう……もどりたくないでしょう……」

 女達の囁きが耳に入っているのかいないのか、兄貴は陶然とした表情のまま秘所の縁を手で揉み上げ、口で吸い上げた。

 「あわ、ふぁ……ふぇぇ……」

 口の周りや手がでジワリと温かく、心地よくなってきた。 そして、体の中がトロリトロリと蕩けていく様な快感に意識が朦朧としてくる。

 「蕩ける……」

 「ふふ……」

 「さぁ……」

 「おいでなさいませ……」

 秘所がパクリと口を開け、それから兄貴を頭から包み込むように閉じた。 ヌメヌメとした肉襞が顔を舐めあげると、あの心地よい温もりが顔を覆い、頭の

芯が蕩けていくような快感が兄貴を包み込む。 兄貴はうっとりと呟いた。

 「いく……」

 『きて……』

 尊人の声が重なると同時に、兄貴の体はトロリとした不思議な快感で満たされた。 体が気持ちよくなって、心地よい湯の中をゆらゆらと漂い、どこまでも

広がっていく様な感覚だ。

 ”いらっしゃい……”

 ”もう……”

 ”離しません……”

 周りを包む湯から声が染み込んできた。

 ’ああ……溶けていく……’

 湯女達の心が兄貴の直接伝わってくる。 兄貴の体を、そして魂を蕩かし、一つになれることを心から喜んでいた。

 ’気持ちいい……’

 兄貴は薄れてゆく意識の中で、自分が湯女達と一つになるのを感じ、呟いた。

 ’ここは、極楽だぁ……’

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 「あそこは極楽だぁ……」

 呟きながら兄貴の体が溶け、赤い塊となって広がっていった。 そして赤鉄色のロウソクを……

 「こら待て!」 滝が声を出した。

 「弟どうした、弟!」

 その言葉が聞こえたのか、赤い塊はジュルジュルと下がっていき、闇の中へと消えた。

 「おらの話も聞きてだか?」

 「そのために来たんだろうが、全く」

 「いや、そだけんども……それでいいんか?」

 弟は、ちらりと兄貴であったものが消えた闇の方に目をやり、ロウソクの向かい側へと位置を変える。

 「それでいいんかって……君は……いや」 滝は言いよどんだ。

 (今の口調……ひょっとして、薄ら笑いを浮かべて頭が弱いふりをしていたのは演技か?)

 滝は相方に視線を投げ、頷いた志戸が後を引き継ぐ。

 「兄さんの話は終わった。 次は君のを聞かせたくれないか」

 志戸は、司会として型通りの言葉を口にし、弟は頷いてしゃべり出した。

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 「はれ、湯女の姉さん方。 お客様は満足してくれたかね」

 そう言ったのは、戸板を外して持ってきた河童の『かーちゃん』だった。 湯殿の外で、湯女達が兄貴を蕩かしつくしたのを見計らっていたらしい。

 「ええ……」

 「まだまだ……ああ……」

 「楽しんで……うふ……」

 湯女達が体を震わせながら応え、『かーちゃん』が頷く。

 「お客様はもう一人いるだか、どーするね? 女将さんに相手してもらうだか?」

 「それもいいけど……」

 「『かーちゃん』、試してみない?」

 湯女達の言葉に『かーちゃん』が目をぱちくりさせる。

 「おらが?」

 「ええ……」

 「河童も、人を襲うことあるんでしょ……」

 「あの弟……なかなかたくましかったわよ……」

 湯女達の言葉に『かーちゃん』は考え込んだ。

 「うーん……確かに体つきはよかったども……ちとおつむが弱そうだったような……」

 「お客様相手に……」

 「失礼ねぇ……」

 「とりあえず……脅かすところだけでもやってみない?……」

 「そだな……っと、そのお客様がやってきたみたいだ」

 「おっと……」

 湯女達と河童の『かーちゃん』は、素早く湯に飛び込み身を隠した。

 ’湯が熱いだな……’

 ”それは、温泉だもの……”

 ”河童って、熱い湯は苦手?……”

 ’人ほどには強くないだ……’

 ”と……来たは……”

 ペタペタと音がして、弟がぬーっ入って来た。

 「……あんちゃん? いないだか?」

 湯殿は静まり返り、弟の言葉に応えるものはいない。 弟は首を傾げつつ、湯に近づく。

 ”今よ!……”

 ’んだば!……’

 河童と湯女が湯から飛び出す寸前、弟はくるりと湯に背を向けた。

 「いけね。 体をあらってなかっただ」

 見事に間合いを外され、河童と湯女は激しい水しぶき……いや湯しぶきを上げて湯の中に落ちた。

 ドッポーン!!

 「ん?……」

 弟が振り返ると湯面に大きな波紋が広がっているが、他に変わった様子はない。

 「なんか、いるだか?」

 首をひねった弟だったが、それ以上気にする様子もなく、木製の椅子に腰かけてぬか袋で体を洗い始めた。

 ”兄貴より手ごわいかも……”

 呟く湯女達の横で、『かーちゃん』は湯の熱さに身もだえしていた。

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