第二十一話 骨喰の宿

8.赤鉄の宿 その肆


 兄貴は、湯女達の赤い手が絡みついてくるのを払いのけた。 その時、周りの湯が普通と違うことに気が付いた。

 「くそぅ! このお湯ぬるくなってきたし、妙に粘るぞ!」

 妙な文句をつけると、湯女達がいっせいに含み笑いをする。

 「あら……」

 「お気づきかと……」

 「思いましたのに……」

 「なに?」

 怪訝な顔になる兄貴?

 「そこは……」

 「私たちの……」

 「秘めたる場所……」

 「……え?」

  彼は自分がいる場所を見回した。 人ひとりが入るぐらいの、狭いツボのようなところに湯がたたえられ、その周りを湯女達の本体らしい赤い湯が取り

巻いている。 そして湯女達は、赤い湯の淵から上体をのぞかせ、へその辺りから下が赤い湯と一体になっていた。

 「へそから下がそこで……湯がたまっているところが……女のぉ?」

 湯女達が一斉に頷く。

 「じゃあ、俺が浸かっているのは」

 「はい……」

 「私たちの……」

 「愛の……」

 兄貴は凍り付いた。 彼はすでに、湯女達に半分呑み込まれたも同然だと気が付いたからだ。

 「では……」

 正面の湯女が呟くと、周りの赤い湯が迫ってきた。 周りが狭くなった分、滑る湯女の愛液が溢れかえり、兄貴の胸のあたりまでをべったりと濡らす。

 「ふひぇ!?」

 奇妙な叫びをあげる兄貴。 下半身を包み込んだ赤い湯は、『湯』ではなかった。 湯女達の体と同じ、こんにゃくのような肌触りで、それが腰から下を

包み込んできた。

 「こ、こらやめろ……ひぇっ?」

 再び奇妙な叫びをあげる兄貴。 『赤い湯』に包まれた下半身、その中の男の中の男の部分に、柔らかいものが纏わりついてきたのだ。 すでに固く反り

返っていたそこに、こんにゃくとも、豆腐とも、はたまた蛇ともつかない妙なものが絡みつき、うねうねと蠢いているのを感じる。

 「あ、ぁぁ……」

 「いかがです……」

 「さきほどより……」

 「いい感じでしょう……」

 湯女達は優しく囁きながら、戯れるように兄貴の上体に触れてくる。 そして兄貴の下半身は、湯女の巨大な秘所にずっぼりとはまりこみ、妖しい快感に

打ち震えていた。

 「ややめろ……ぁぁぁぁぁ」

 がちがちに固まった男根は、湯女の秘所の壁にめり込み、縮み上がった宝玉は赤い襞にくるみこまれて弄ばれ、そして下半身全体は……湯女の秘所に

擦りあげられる。 その妖しい愛撫に耐えかね、兄貴はがくがくと身を震わせている。

 「た、助けてく……うう」

 「あら……」

 「良すぎて……」

 「いけませんか……」

 ふふっと笑った湯女たちは、兄貴に身を摺り寄せ、きゅっと彼を抱きしめた。 同時に秘所の動きが緩まり、男根への愛撫がせわしなくなった。 彼自身の

中が、熱い猛りで溢れかえる。

 「ひっ!」

 我慢することもできず、兄貴は湯女の中に熱い男の精を放つ。

 ドクドクドク……

 散々抑えられてきた熱い迸りが湯女の秘所を直撃した。

 「ああ……」

 「熱い……」

 「素敵……」

 うっとりと身もだえしながら、湯女達は兄貴に抱き着いた。 恍惚とした表情は、その精を堪能しているかのようであった。

 
 くふぅ……

 少しして、兄貴はため息を漏らした。 全ての力を吸い取られたかのように体が重く、纏わりつく湯女達を振りほどくどころか、口を開く元気も残っていない。

 「いかがでしたか……」

 「私共との交合は……」

 「く、……この物の怪めらが。 これで俺らの望みもおわりかよ……」

 悔し気に漏らした言葉に、湯女達が不思議そうな顔になる。

 「はて……」

 「お望みとは……?」

 「ふ、ふんぬ いまさら言ってもしゃあねえがな! この骨喰いの宿に、アレによく聞く酒があると聞いてな。 それを手に入れて売りさばくつもりだったのよ!

 それがこんなところで……」

 兄貴の言葉にきょとんとした湯女達は、くすくすと笑いだした。

 「おかいしか、おかしきゃ笑え!」

 「ええ、ええ……」

 「だって……」

 「お酒を売って……そのお金で何をなさるおつもりだったのです?」

 笑い続ける湯女達に、兄貴はさらに怒りを募らせる。

 「何をだと! きまってら、でかい家を建てて、うまいものを食って、女を侍らしてだなぁ……」

 「侍らして……」

 「女を……」

 「抱くのでしょう?……」

 「あったりまえだ! 女を侍らして、絵でも描くってのか? 金さえあれば、どんないい女だって……」

 「でも……」

 「人間の……」

 「女なのでしょう……」

 湯女がたちずすうっと顔を近づけてきた。

 「あ、あたりまえじゃねぇか……」

 「私たちは妖(あやかし)ですが……」

 「私たちとの交合いわ……」

 「人間のどんな女よりも……ふふ……よろしいですよ……」

 「なに?」

 怪訝な顔になった兄貴は、さっきまでの湯女達の体を思い出す。 確かに彼女たちの言う通り、人間の女ではとてもあのような思いはできないだろう。 

しかし……

 「……だ、だからと言って、喰われちゃ何にもなるまいが!ええ!? 生きていれば、この先俺たちは……」

 「俺たちは……なんですか?」

 「お金で家を手に入れ、女を手に入れ……」

 「子をなして……老いて、朽ち果てるだけ……」

 湯女達が、かわるがわる兄貴の耳元でささやく。 兄貴は目に見えて動揺し始めた。

 「し、しあわせな暮らしを手に入れて……」

 「幸せに?……」

 「それは確かなのですか?……」

 「約束されているのですか?……」

 兄貴の目が泳ぎ、額に脂汗が浮く。

 「そして極楽往生を……」

 「極楽に、言ったことがあると?……」

 「そこで?天女と体を重ねるおつもりですか?……」

 「ふふ、御覧なさい……」

 湯女の一人が全身を現し、赤い女体を湯の上に横たえると、はしたなくも足を開いて秘所を兄貴に見せつけた。

 「お、お前……」

 「私たちは妖……」

 「……くく……淫らな魔性の物……」

 「わかりますか……あなたの手の届くところに……一生かけても手に入らない……」

 『悦楽の極みがあるのですよ……』

 「あ、ぁ……」

 「一歩踏み出すだけで……」

 「この世のものではない……」

 「快楽を味わえる……」

 兄貴は、湯女の秘所を凝視したまま脂汗を流していた。 すでに湯女達の体を味わってしまった彼は、湯女達の誘惑に抗しきれなかった。

 「さ……おいでなさいまし……」

 「私の乳を…吸って……」

 湯女の一人が、腕を広げて彼を誘う。 兄貴は吸い込まれるように彼女の腕の中に入り、そのたわわな胸に口づけした。

 「うむ、むむ……」

 チュウ中と音を立てて乳首を吸う。 とその口に甘ったるい味が広がってくる。

 「む?……むぅ?」

 さっきまで、倒れそうだるかった体に力が戻り、だらんと下がっていた男根が、隆々とそそり立ってくる。

 「ふふ……その気になってきましたね……」

 湯女達が妖しく笑う。 それは淫靡な魔性の微笑みだった。

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