第二十一話 骨喰の宿

7.赤鉄の宿 その参


 ドボン!!

 兄貴は勢いよく湯女の秘所に飛び込んだ。

 「熱い!」

 一声叫び、夢から覚めた様に目をぱちくりさせる。

 「あら、申し訳ありません。 少しお熱くなっていましたか」

 頭の上の方から声がし、兄貴は顔を上げた。 湯女と視線が合う。

 「えーと……」

 視線を下げると見事な双丘が−色は赤いが−が目に入り、さらに下を見ればへそのくぼみが見えた。 ここまでは女体の形をなしている(色を除けばだが)。

しかしそこから下では、湯女の体は湯面に沿って広がり彼を取り囲んでいて、彼の周りのわずかな空間だけに普通の湯がたたえられている。

 「あら、お湯の熱さで……」

 「夢心地から……」

 「さめてしまわれたようですね……」

 後ろから湯女の声がし、兄貴はぎょっとして振り返る。 かれの背後に、さらに二人の湯女の上体が、赤い湯の上に現れている。

 「あーそうだ、体を洗わないと……」

 『先ほど念入りに洗いました』

 「ちょっとのぼせたきたなぁ……」

 『今入ったばかりです。 温まらないと風邪をひきますよ』

 「……」

 兄貴は押し黙り、次の言い訳を考える。 が、その暇はなかった。

 「さぁ……」

 「貴方様が蕩けてしまうまで……」

 「ご奉仕いたします……」

 前後から、湯女たちが彼に抱きついてきた。

 
 「むふぅぅ……」

 正面の湯女が両手を広げて彼の頭を胸に抱いた。 彼の顔が赤い胸の谷間に抱え込まれ、口がふさがれる。 

 「むぅっ、むぅぅぅっ」

 湯女の抱擁から逃れようと頭を動かすが、湯女の腕を振りほどけずにヌメヌメとした谷間に顔を擦り付けることしかできない。 その動きに感じるのか、

湯女が身を震わせる。

 「ああ……」

 感極まったような喘ぎを漏らし、彼の頭に頬ずりする。

 「ああ……」

 「お客様……」

 背後から抱き着いてきた湯女達が、豊満な乳房をかれの背中に押し付けてきた。 その弾力と粘り気は、兄貴にとって未知の感覚だった。

 (なんだか……こんにゃくみてぇな感触だ……)

 異様な感触にとまどいながら、なんとか湯女達から逃れようと身もだえするが、三人がかりの抱擁に体の自由が利かなくなってくる。 そのうちに、兄貴は

変なことに気が付いた。

 (えらく……触り心地がいいな……ああ……)

 湯女達に触れているところ、あるいは触られているところが、じんわりと心地よくなってくるのだ。

 (そういや、洗われているときも……)

 戸板の上で洗われているときも、そんな感じがしていたことを思い出した。 ただそのときは、彼の男性自身への奉仕の感触の方が強烈だったのだが。

 (ああ……なんか溶けていくように気持ちいい……い!?)

 兄貴は、自分がいつの間にか抵抗を止め、湯女達にされるがままになっていることに気が付き愕然とする。

 「う、うぁぁぁぁ!?」

 突然大声を上げ、兄貴は手を振り回して暴れ始めた。 渾身の力を込めて、右手の拳を正面の湯女の胸に突き入れた。

 ズブリ

 右手が胸の谷間にめり込んだ、と思ったら右手が彼女の背中に突き抜けていた。 しかし信じられないことに、湯女はうっとりとした喘ぎをもらす。

 「ああ……情熱的なお方……もっと……」

 湯女は、両手で兄貴の右手を掴むと、さらに自分の中へと招いた。 湯女の体が右腕に絡みつくような異様な感触があり、腕の毛が逆立つ。

 「わたくしにも……」

 背後の湯女の一人が、空いている兄貴の左手を自分の乳房へと導いた。 手の平に乳首の感触が粘りつく。

 「ひっ!」

 思わず力を籠め、兄貴は左手で湯女の乳房を握りしめる。

 ニュルルル……

 湯女の乳の肉が指の間から溢れ出し、兄貴の左手は湯女の乳房の中に埋もれてしまう。 泡を食った兄貴は、左手を引っ張ったり手を握りしめたりするが、

湯女の喘ぎが大きくなるばかりだ。

 「ち、畜生……離せ!」

 鳴けど喚けど、湯女達から腕を抜くことが出来ない。 しかし、喰われてしまえばそこで終わりだ。 兄貴は渾身の力で腕を抜こうともがいた。

 「ああ……」

 「激しい……」

 しかし、湯女達はうっとりと兄貴の腕を迎え入れ続け、そうこうしているちに兄貴の方が疲れてきた。 さらに、湯女達の体にめり込んた腕から、えも言われ

ぬ心地よさが伝わってくるに至り、兄貴はがっくりと項垂れて動きを止めた。

 「ば、馬鹿にしやがってぇ! く、喰われてたまるかぁ!」

 兄貴が叫ぶと、湯女達は不思議そうな表情になった。

 「はて?……」

 「喰うとは?……」

 「なんのことでしょう?……」

 湯女達の態度に兄貴は怒りを募らせる。

 「お、お前たちが言ったんだろうが! おれが『蕩けてしまうまで奉仕する』と!」

 その言葉を聞いて、湯女達が微笑んだ。

 「ああそれは……」

 「『食べてしまう』という意味でありませぬ……」

 そう言うと、正面の湯女が彼に顔を近づける。

 「ほら……感じませんか?……」

 彼女は、兄貴の右手を体の中に迎え入れたまま、ゆっくりと体を揺らしている。

 「感じるかだと?……さ、さっきから妙に気色がいいが……そうやって俺をたらしこんでから、頭から喰う気だろう!?」

 「いえいえ……その心地よさ……いかがです?」

 兄貴はわずかに気を静め、湯女の言葉の意味を考える。

 (何を言ってやがる……そりゃ、蕩けそうに気色がいい……まて、まさか……)

 兄貴は目を見開いた。

 「溶けてしまうまでと言うのは、例えでも、喰われた後の事でもなく……」

 「はい、言葉通り……」

 「こうやって私たちに浸っていれば……」

 「お客様のお体は、私たちの中に……」

 『蕩けていくのですよ……』

 兄貴は凍りつき、続いて猛然と暴れ出した。

 「頭からかじらないだけで、喰うのと変わらないじゃねぇか!」

 暴れる兄貴の腕にかき回されながら、湯女達は平然としてしている。

 「そんなことはありませんわ、かじられたら痛いでしょう?……」

 「私たちと溶け合うのは、気持ちいいですよ……」

 「私たちに浸っていれば、貴方の気も変わりますよ……」

 そう言って妖しく微笑んだ湯女達は一斉に兄貴に纏わりつき、彼の体に自分たちの体を擦り付ける。

 「私たちと……」

 「一つに……」

 「溶け合いましょう……」

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