第二十一話 骨喰の宿

4.蒼鉄の宿 その肆


 「飲ませすぎるなと言ったでしょう」

 「そうでしたっけ」

 「そうでしたでしょうか」

 巨大男根と化した若者を前に、うわばみ女将がうわばみ女中姉妹を叱っている。

 「ああ、こんなにしてしまって……」

 うわばみ女将は畳にうずくまり、畳の上をずりずりと這いずっている男根をさする。

 ピクッ

 男根は動きを止め、ぐぐっと反り返った。 見ようによっては、頭を上げて様子を伺っているようにも見えるが、うわばみ娘(一人熟女)たちは別の感想を

持ったようだ。

 「……あら」

 「……まぁ」

 「……まだ使えそうね」

 ふっと笑いを浮かべ、うわばみ女将は立ち上がり、するすると帯をほどき始めた。


 (俺はどうなったんだ?)

 若者はぼんやりと考えた。

 (酒を飲まされたまでは覚えて……なんだか、ぼーっとしてふわふわといい気分になったんだが……少し肌寒いなぁ……)

 自分がどうなったのかわからぬまま、ふらふらと徘徊していると、かぐわしい香りが漂ってきた。

 (なんだ……いい匂い……)

 そちらに視線を向けると、美しい花が一輪咲いており、そこから匂いが漂ってくるようであった。

 (赤い花?……)


 うわばみ女将は着物を脱ぎ落として畳の上にうずくまった。 すると、白桃の様な二つの足が一つになりずるりと伸び、蒼鉄色のうろこがそこを覆った。 

瞬きするほどの間に女将の姿は人から半人半蛇の女妖の姿に変わった。

 「お見事」

 「流石は母上様」

 感心するうわばみ娘たちに、うわばみ女将は顔を向けた。

 「このぐらいできなくてどうします。 人型とうわばみ型をきちんと操れないから……後で鏡で自分の姿を御覧なさい。 みっともない」

 「そうはいっても大変なんですよ。 気を抜くと、お姉さまみたいにお肌が全部うろこ肌になって」

 「なんですって! この蛇肌、人型の良さが判らないの!?」

 「喧嘩はよしなさいな。 さぁお客様……」

 うわばみ女将は、ぐいっと上体を持ち上げて蛇身となった下半身を若者に向けた。

 「こちらへ……」

 女将の下半身にあった縦長の溝がすうっと開き、赤く艶めかしい女の神秘がさらけ出された。 そして、そこから男を誘う女の匂いがゆるゆると溢れ出す……


 赤い花からは、かぐわしい香りがこんこんと湧き出して、若者に絡みついてくるかのよう。

 (ああ……)

 若者は、その匂いをもっと嗅ぎたくてたまらなくなってきた。 そして、ふらふらと花に近寄って行く。

 (いい香りだ……)

 若者は頭を花に突っ込み、思う存分香りを吸い込んだ。


 ずるずるずる……ずちゃ……

 畳の上を這いずってきた巨根は、誘われるままに女将の秘所へと亀頭をあてがうと、ぐりぐりと秘所へ亀頭を押し付けた。

 「ふふ……可愛い方……さぁ……いらっしゃい」

 くわっと広がる女将の秘所。 次の瞬間には巨根の半ばまでが、秘所の中に咥えこまれていた。

 「ああ……おおきい……」

 うっとりと呟く女将。 その下半身は、そこに口があるかのように巨根を咥えこみ、咀嚼するかのようにグニグニと蠢いていた。


 (うわ?)

 花に頭を突っ込んだ途端、花びらが大きく広がった。 次の瞬間、若者の上半身が花弁に包み込まれてしまう。

 (なんだろう……ああっ?)

 花の奥から甘い香りの蜜が泉のように湧き出て、若者の体を蜜まみれにし、続いて花弁がふわふわと蠢き、若者の上半身を愛撫し始めた。

 (なんて……いい……)

 まるで、体が大きなイチモツになった様な不思議な快感が体を満たす。 頭が亀頭で、顎がエラの様だ。 そう思った途端、腰の辺りに生暖かいモノが

満ちて来た。

 (うぁう……蕩けそう……うへへへ……)

 腰のあたりに満ちた快感が、背筋をじわーっと上ってきて頭の中に満ちてくる。 頭の中が蕩けていく様な心地よさに支配され、若者はビクビクと震え出した。

 (いきそう……うへへへ……き、気持ちいい……ぅへへ……)

 
 「ああ、ビクビクしてきました……いきそうなのですねぇ」

 女将の下半身が不自然に震え出した。 女将の胎内で巨根が震えているらしい。 女将の目元が潤み、人肌をとどめている上半身がうっすらと赤みを帯び

てくる。

 「お客様が……おくで……ああ……私も……」

 女将の腹がうねって巨根を締め上げ、それに応えるように巨根が激しく震え出した。 そして、外にはみ出した巨玉がぎゅぎゅぎゅっと音を立てて縮む。

 「ああーっ! 熱い……」


 (うひーっ!……)

 若者の体を熱い快感が満たした。 いつもは男根だけで感じる快感が体の中を駆け巡り、頭の中が空っぽになる。

 (ぎ、ぎぼぢいい……ひひっ、ひひひひひっ……)

 何か熱いものが出ていく。 体の中が蕩けて、流れ出していくかのようだ。 想像を絶する心地よさに、若者は白目を剥いて奇怪な叫びをあげた。

 (うひっ、うひっ、うひひひっ……)

 ビクビクビクククッ……

 快感に体が痙攣し、それが止まらない。 いつまでも、いつまでも……


 びく、びくっ、びくんくん……

 「あ……はぁ……」

 「あ、止まりました……」

 巨根の動きが止まると、さしものうわばみ女将もくたりと畳の上に伏してしまった。 巨根は女将の秘所に咥えこまれたままだが、はみでた巨玉は力を失っ

てだらーんと無様な姿をさらしている。

 「母上様、お加減は……」

 「え? ええ、さすがに若いだけあってなかなか……可愛い男……」

 そう言った後、女将は腹をぐるりとうねらせた。 刺激を受けて、巨根がビクリと震え、巨玉がゆっくりと縮み上がっていく。

 「あら、まだまだ元気」

 娘たちが感心したように言うのを聞いて、女将はふふっ含み笑いをした。

 「もちろんですとも。 あれだけのうわばみ酒を飲んでしまえば、命のすべてを精として吐き出すまで、おさまり尽きませんよ。 ねぇ……」

 女将が腹をうねらすと、それに応えるかのように巨根が再びビクビクと震えた。

 「さぁ……貴方のすべてを……くださいまし……」


 若者は、巨大な花に包まれたまま快感の余韻に浸っていた。 するとどこからともなく声が聞こえて来た。

 ”さぁ……貴方のすべてを……くださいまし……”

 声がすると同時に、花弁が若者の体をふにふにと愛撫し、えも言われぬ心地よさが体を包み込んでいく。

 (ああ……)

 恍惚として声を上げた若者は、再び花の愛撫に身を委ねていく。

 (ああ、蕩けそうだ……)

 ”ええ、ええ……蕩けさせてあげますとも……体の全て……骨一本残さず……魂までかけらも残さず……蕩けさせてあげますとも……”

 その恐ろしい囁き声は、若者には天女の囁き声にしか聞こえなかった……

 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 「てなわけで……もうこの世の物とも思えないもとなしを……うけて……へへ……へへへ……」

 だらしない笑みを浮かべながら、若者の体が溶け崩れていく。 伸ばした手の先から異臭を放つ液体が、蒼鉄色のロウソクへと滴り落ちた。

 ジュ……

 蒼鉄色のロウソクが消えるのを、滝と志戸は凍り付いたように見つめていた。

 「……次はおいらたちの話だな」「うへへへへ」

 何事もなかったかのように、二番目の語り手の兄弟たちが話を始めた。

【<<】【>>】


【第二十一話 骨喰いの宿:目次】

【小説の部屋:トップ】