第二十一話 骨喰の宿

3.蒼鉄の宿 その参


 ”右月、私が寝ている間につまみ食いするなんて!”

 ”誤解です、左月姉様。 お客様がお酒を過ごしまして、それで……”

 何やら争うような声に、若者が目を覚ました。

 「おや、お目覚めでございますか? お客様」

 「ああ、お客様。 私を放置してお休みになるなんて、あんまりです」
 見れば、二人のうわばみ女中が言い争っていた。 姉の左月は全身蒼鉄色の鱗となって、うわばみ率九割ぐらい。 かたや妹の右月は、背筋や体の

側面に鱗が生えているものの顔や腹側は人肌をとどめ、うわばみ率五割といったところか。

 「なんですか、その『うわばみ率』とは」 と姉・左月が文句をつけた。

 「なにやら悪意を感じますが」 と妹・右月も同意する。

 「いや待て、待ってくれ」

 若者は片手をあげて、迫りくるうわばみ女中を制しようとするが、二人ともお構いなしに間を詰めてくる。

 「おや、まぁ……さっきはあんなに元気でしたのに……可愛そうに、右月にすっかり搾り取られてしまったのですね」

 姉・左月が若者の股間に目をやりながら言った。 彼女の言う通り、若者の股間のモノはすっかり萎れて『役立たず』になっている。

 「仕方ありません。 ささ、うわばみ酒をもう一杯……」

 「だ、誰が、の、飲むかぁ」

 口だけは威勢がいいが、モノだけでなく、腰も抜けてしまったようで、手でいざって逃げようとする若者だった。

 「あらまあ。 では口移しで」

 姉・左月はそう言うと、うわばみ酒が満たされたお銚子を口元に持ってきて、中身を口に含もうとする。

 ング、ング、ング……プハーッ

 「姉様! 姉様が飲んでしまっては意味がないでしょう!」

 「あはははは。 いやいや、お酒をたんと差し上げようと思って……腹に仕込めば口よりいっぱい仕込めるかと……」

 そう言いながら、姉・左月は新たな銚子を手に取った。

 「おかしなさいな」

 妹・右月は姉の手から銚子を奪い取ると、それを口元に宛がい、中身を口に含んだ。 そして、逃げだそうと畳の上でじたばたしている若者のそばに、

畳の上を這いずっていく。

 「わわっ! やっぱりうわばみだぁ」

 いまさらな事を喚いてもがく若者に、妹・右月はしなやかな四肢を絡め、唇を奪った。

 ンム、ンム、ンムムム……

 ングゥ……

 柔らかな唇が若者の唇を奪い、舌がそこをこじ開けて、うわばみ酒を流し込む。

 ブハッ、ブハッ……

 強い酒を飲まされてむせる若者。 が、うわばみ酒の威力はてきめんで、モノがムクムクと突っ張ってきた。

 「おやおや、手慣れたものじゃないかへ、右月。 どこぞで修行していたんじゃないのかへ?」

 「そのようなこと……しておりません!」

 からかうような姉の言葉に、妹がぷっとふくれて横を向く。

 「さて今度はわたくしが」

 「姉様、お酒ほ差し上げたのはわたくしです」

 「お前は一度、精を搾り取ったのでしょう? 今度は私に譲るのが筋でしょう」

 口喧嘩を始めたうわばみ女中姉妹。 今のうちにと逃げにかかる若者だったが、さすがにそこまで甘くはなかった。

 ドテッ

 「いてぇ」

 いつの間にか、姉・左月のしっぽが若者の足に絡みついており、それに引っ張られて転んでいたのだ。

 「逃がしませんよ」

 「お帰りなっては困ります」

 仰向けに転がされ、ずるずるとしっぽに引っ張られた若者は、姉・左月の前まで引き戻された。

 「まぁ、ご立派……」

 「まぁ、なんと節操のない……」

 さすがはうわばみ酒、妹・右月の時以上の固さと勢いで、モノがそそり立っている。

 「く、くそぅ……うう……うううう……」

 若者の息が荒くなってきて、モノがぶるぶると震え出した。 若者自身が猛り狂い、意識がそこに持っていかれるようだ。

 「ふふ辛抱たまらなくなってきたのでしょう? ささ、遠慮はいりませんよ」

 姉・左月がするりと着物を脱ぎ落す。 ふくよかな女体を包む蒼鉄色の鱗が、行燈のわずかな明かりに光り、不気味さ妖しさがにおい立つようだ。 姉・

左月は、あえて自分から若者に挑もうとせず、体を壁に持たせかけるようにして、足を開いた。 鱗に覆われた下腹に、一筋の黒い溝が縦に走っている。 

そこが、彼女の秘所なのだろう。

 「さぁ……御覧なさい」

 姉・左月は、指で秘所を開帳した。 鮮やかな赤色に染まる秘所の奥が、若者の眼を引き付ける。

 「よせ……ううっ……ううう……」

 ビクビクと蠢く自分のモノがしゃべっているかのようだ。 ”アソコに入りたい”、”また、肉の牙に貫かれる感覚を味わいたい”と。

 「た、たまらん……」

 若者はがばと立ち上がると、よめろめく足取りで姉・左月に近づいて体を重ね、自分から彼女の胎内に自分自身をおさめてしまう。

 「うううっ」……

 鱗で覆われた彼女の肌は、谷川の水のように冷たく、微かな滑りはあるものの固い感触だった。 だがその胎内は、驚くほど柔らかく、ほとんど抵抗

なしに若者自身を受け入れた。 しかし、それを抜こうとすると……

 「くぅっ!」

 柔らかいと見えた肉襞が、若者自身を逃すまいとするかのように締め上げて、ベタベタと絡みついてくる。 その動きだけで達しまいそうになった若者は、

反射的に奥へと突き込んだ。

 「ああ、そう……もっと突いて、もっと奥へ……」

 ズブッ、ズブッ、ズブッ……

 肉の咢と化した秘所は、突けば突くほど深みを増し、若者を呑み込んでいくかの様だった。

 「の、呑み込まれる……」

 「ふふ……おいでなさいまし、さぁもっと……」

 姉・左月の秘所は、突かれれば突かれるほどに口を開けていき、若者の腰を咥えこもうとしていた。 そして、その肉襞が若者の肌を滑ると、そこがモノに

転じたかのような、妖しい快感が湧き上がってくる。

 「ああっ……ああっ……」

 「ふふふふ……どんどん気持ちよくなってくるでしょう?……遠慮なさらずに……おいでなさい……」

 若者は、彼女に誘われるままにただ腰を動かす。 快感の範囲が広がってくるにつれて、思考も感情も失せていき、ただ快感を感じるだけの道具になっ

ていく様な気がする。

 「それでいいではありませんか……さぁさぁさぁ……」

 姉・左月の秘所からは、大量の愛液が泉のように湧き出し、若者の腰から腹をべっとりと濡らした。 そしてヌルヌルになったモノから腰は、次第に左月の

秘所へ呑み込まれて行く。

 「ああっ……奥に、奥にきていますぅぅ」

 感に堪えぬ様子で左月が腰を震わせ、その動きでモノが一気に高みへと上り詰めた。

 「い……ぐぅ」

 頭の中まで快感が詰まっていた若者、その体が絶頂の感覚に硬直した。

 ドロ……ドクンドクンドクン……

 「ひぃ……」

 体の中が快感に蕩け、中身がすべて出てしまうような錯覚を覚える。 モノは快感に震え、止めどもなく粘っこく熱い液を吐き出し、体はその感覚にただ

酔いしれることしかできなかった。

 「ああ……あつぃ」

 一方で、左月も愛の直撃に身を震わせていた。 体の奥に若者の熱い愛が注がれ、雌の歓びに浸りきる。

 ドクンドクンドクン……

 二人は互いを固く抱きしめ、熱い愛の奔流に身を任せた。

 
 ドク……

 「ああ……終わってしまいました」

 姉・左月は残念そうに言ったが、若者は応えない。 また失神したかと、妹・右月が若者を解放しようとする。

 「姉様、お客様も終わっています」

 「知っています、もう出てきませんから」

 「いえ、そちらだけでなく、寿命が尽きたようです……息をしていません」

 「……えー!!」

 「母上様が、まだ味も見ていないのに……どうしましょう?」

 慌てた姉・左月は、近くにあった銚子をグイッと開け、今度こそ若者の口に流し込み。 それから彼の胸を叩いた。

 ゲ、ゲホッ!

 「あ、息を吹き返しました……けど、虫の息みたいです……」

 「お銚子を追加して、じゃんじゃん!!」

 「大丈夫でしょうか?」

 「とにかく、母上様が味を見る間だけでも生かしておかないと」

 姉・左月に命じられるままに、妹・右月は銚子をどんどん運んできて、二人してせっせと若者にうわばみ酒を飲ませた。

 
 −−半時後−−

 「姉様……元気にはなった様ですが……」

 「うーん、これは予想外だったわね」

 二人して若者の前で考え込んでいた。 確かにモノは元気になった。 なにしろ長さは三尺(約90cm)にもなり、太さはどんぶりほど、睾丸にいたっては

西瓜ほどにもなっているのだが……

 「お客様本人はどこにいったんでしょうか?」

 そう、そこにあったのは巨大な男根そのものなのだが、若者の体が影も形も見当たらない。 男根の後ろに回ってみると、ぶくっと膨らんだ皮膚で覆われ

ている。 どうも男根に体がすべて吸い取られてしまったらしい。

 「生きてます?」

 撫でてみると、ビクンと大きく跳ねた。

 「うん、立派に生きてる。 これなら大事なところは残っているし、男に関しては底なしのうわばみの母様にちょうどいいんじゃない?」

 「だれが『男に関してうわばみ』ですって?」

 背後からの声に、うわばみ女中姉妹は飛び上がって振り向いた。 二人の母、うわばみ女将が怖い顔をして立っていた。

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